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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第3章 憧憬と真贋

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隠し芸という隠し玉

 王宮に上がるまであと数日か。

 そんなオレらしくない物思いをしつつ学園に登校すると、門を潜ったところでアザナとばったり出くわした。


「……よう、アザナ。待ち伏せってか?」

「そういうつもりじゃなかったんだけど……、偶然?」

 睨みつけ指を鳴らすと、アザナは困ったように身を竦めた。


「おい! ザルガラとアザナだ!」

「また始まるのかよ!」

「みんな離れて!」

「早く、広場区画から出るんだ!」

 オレたちの様子に気が付き、生徒たちが逃げていく。

 学園は区画ごとに防護魔法がかかっているので、よほどの事が無い限り破壊的な魔法が広域に飛ぶことは無い。区画ごとの見えない壁に阻まれるからだ。

 オレとアザナだけを広場に残し、学園の生徒たちは退避した。

 それを確認してから、オレは小さく悪人のように笑った。


「くっくっくっ。しばらくオマエと遊ばなかったせいで、いろいろと欲求不満がたまってな。ちょっと遊ぼうぜ、アザナ」

「おととい、遊んだじゃないですか」

「いやあれはどっちかてーと、クラメル兄妹たちと遊んだ感じだけどな」

 アザナは女装してたし、結局はうやむやになってしまった。


「と、いうわけで、今日は付き合ってもらうぜ!」

「で、負けたらまたボクは女装させられるんですか?」

「え、ちょ、なに!? おとといのアレは、勝手にオマエが女装して来たんだろ!」

 それにオレがオマエに勝った事実は、ただの一度もねぇだろうが!


「やっぱり街で噂になってるアレって……」

「アザナくんを負かすと、無理矢理女装させて連れ歩いてるって噂、本当だったんだ」

「ザルガラ、ぱねぇ…」

 野次馬たちがアザナの発言を鵜呑みして、勘違いに拍車がかかっている。


「おい、まて。アレはオマエが勝手に……」

「仕方ありませんよね! ボクは負けちゃったし!」

 オレの耳打ちを掻き消すように、アザナは周囲に向かって叫ぶ。

 野次馬たちは、やっぱりとささやきあっている。

 おいおいおい、オレ死ぬわ。訂正がどんどん難しくなっていく。


「おい、アザナ! 昨日の事と言い、どうしてオマエはオレをからかうんだよ!」

「だってザルガラ先輩……。すぐケンカを売ってくるだもん!」

「なんでだよ! オレが悪いのかよ! いや、ケンカ売るオレが悪いんだけどさ!」

 自分で言ってて分けわかんなくなってきた。

 泣きたくなるぜ。


「大丈夫です。知ってますよ、先輩。結構、そのおかげで助かってます。この間の試験後、みんなはボクに挑戦してくるようになってきたんです。ふふふ……嬉しかったなぁ」

「……オマエ」

「分かってます。ザルガラ先輩が試験でボクと戦ったお陰で、みんなボクを恐れなくなりました。前は勉強の事を聞きにくるだけだったのに、実戦形式の試合も受けてくれるんですよ」

 嬉しそうにオレを見上げ、そんな告白をしてくるアザナ。

 生意気でイタズラ好きの後輩だが――。

 そうか……オマエも一緒だったんだな。

 オレより世渡り上手と思っていたが、どことなく世間との壁があったのか。

 結果的にそれを、オレが突っかかる事で取り払っている。

 

 今期の在校生たちは、これからもっと伸びるだろう。アザナを手本にするだけじゃなく、身をもってヤツの魔法を体験するんだ。どんどん魔法の才能が開花していくころだろう。

 オレがその証明だ。

 アザナとのケンカで、もともとあったオレの才能には磨きがかかっている。アザナと出会わなければ、腐って才能と力をぶん回すだけの魔法使いになったかもしれない。


「でも、こんなにちょくちょくケンカ売られると迷惑なんで、仕返しはします。主に精神的に」

「なんでだよ! 感謝してんだろ! オレが女装させてるって噂は、打ち消してくれよ!」

 本当は分かって仕返ししてるんじゃねぇか、アザナのヤツ!

 余裕の笑みを浮かべ、オレを見るコイツが憎い。


「ぐぬぬ……こんのぉ~調子に乗りやがって! 今日は少し痛い目に会ってもらうぞ!」

 今回もいくつか新しい魔法のアイデアがある。それを試させてもらう!

 オレとアザナが魔胞体陣を投影したその時、割って入る針のような人影があった。

 矢のように降って来たその人影は、広場中央へ突き刺さるように着地した。


「ええい! やめんか2人とも!」

 乱れる寂しい髪を整えつつ、針のような人物が叫んだ。 


「ベクター教頭!」

 アザナは針の人物を見て叫ぶ。

 5人いる教頭の1人、やせっぽちのベクター・アフィン、その人だ。

 5教頭の中で、もっとも口やかましく、もっとも目ざとく、もっとも神経質。

 魔法の技術はさすが魔法学園の教頭。オレと比べても遜色はない。

 魔力の差は大きいが、技巧ではまあまあだろう。もちろん、魔力はオレが上だ。


「ザルガラ君! 君は畏れ多くも陛下の呼び出しを受けておる身であろう! 陛下の御手前おんてまえ、しばらくは行動を慎みたまえ!」

「う、ぐぬぬ……」

 王の威光を使われては、さすがのオレも萎縮する。

 カラッとしたアザナに対し、オレはじめっとした汗をかく。

 野次馬たちの中には、オレが王宮に呼ばれていることを初めて知った者も混じっていた。俄かに騒ぎ出している。しかし、その騒ぎも少ない。大部分が知っている様子だ。


「ああ、分かったよ。アザナ! オレが王宮から帰ったら覚悟しておけよ!」

 普段ならともかく、今は事情が違う。今のオレが軽々な行動を取れば、王の顔に泥を塗るも同然だ。

 世間からそう噂される。

 いろいろ不遜だし、ひどい噂を流されるオレだが、オレのせいで王家に迷惑をかけるわけにはいかない。


「分かればよろしいのだ。さあ、アザナくん。早く行きたまえ」

 ベクター教頭はオレを邪魔するように壁となり、アザナを校内へ行くよう促す。


「ザルガラ先輩! またねーっ!」

「そうやって、仲良しアピールして行くな!」

 手をぶんぶん振りながら、校舎に駆けっていくアザナを怒鳴りつけるが、壁となっているベクターに睨まれ阻まれた。


「ちくしょ~。また見てたヤツラが、アザナとオレが仲良しと思うじゃねぇかっ」

 ふてくされつつ、オレは教室へと向かう。

 ベクターが厳しい目を叩き付けてくるが、無視だ無視。無視させてもらう。

 ドスドスと廊下を歩き、上級生たちも道を開ける。

 オレの歩みを阻む者はいない。 


「ザルガラくん! 王宮に呼ばれてるって本当?」

 教室に入ると、ペランドーが駆け寄って来た。コイツはオレの歩みを阻んだわけじゃない。


「ああ、もう噂になってるんだってな」

「うん。すっかり話題だよ、ザルガラくん。そっかー、もうすぐあそこに行くんだね」

 ペランドーがまぶしげに、窓の外を見た。

 そこには、今にも崩れそうな穴あきだらけの城があった。


 ラブルパイル城。

 その姿はまるで、穴あきチーズを積み上げたような城だ。

 丸やら立方形やらの穴が、城の各所を貫通して、向こうの青空が透けて見える。

 元々は古来種が立てた行政施設で、現在の形とは違っていたらしい。

 古来種の残した城は、一度ばらばらに崩れ落ちた。それらを寄せ集めて、城の体裁を整え組み上げたのが、現ラブルパイル城である。


 青空が透けて見える隙間……空間部分は高次元体に置き換わっており、見えないがちゃんと存在している。

 つまり高次元の部屋が各所にあり、そこに城の重要な機能を押し込んでいるのだ。

 例えば宝物庫や武器室に警備室などなど。

 中には古来種が残した魔力源の玄室などもあり、城機能の動力が各所の高次元部屋で賄われている。


 王宮も同様に高次元の部屋がある。そこに設けられた王族の寝所も高次元体の部屋で、許可されたもの以外は入るどころか覗くことすらできない。


「ザルガラ様、ディータ姫にお会いになるんですか?」

 自分の席に付くと、隣りのヨーヨーが興味津々とばかりに、デカイ胸を揺らして身を乗り出し訊いてきた。最近、馴れ馴れしいなコイツ。


「そうなるかなぁ……」

 気のない返事をしたつもりだが、ヨーヨーは食い下がる。


「思い出しますぅ。ディータ姫様のお姿……可愛かったなぁ~」

「――ん? なんだと? オマエ、姫にあったことあるのか!」

 相手は消失姫と揶揄され、王城どころか王宮でも姿を見る者がいないって有名なディータ姫だぞ!


「ええ、2年前に療養でランズマへいらした折に」

「そういうわけか……」

 アトラクタ男爵の話では、姫の身体の一部が高次元に置換されているという。当初は病気扱いとされたのか、そのせいで健康を損ねたのか、何にせよランズマで療養したのだろう。


「すごいなぁ、ヨーファイネさん。お姫様の姿を知ってるなんて自慢できますよ」

 ペランドーが素直に驚く。そらそうだ。

 姫様の顔を知ってるなんて、それだけで自慢できる。


「ふふ、すごいでしょぉー、ペランドーくん。あの美しいお姿を忘れないように、絵に描いていろいろネタにしてるんですよ、わたし」

「あ?」

 ヨーヨー、オマエ……。


「今なんて言った?」

「え? わたしが毎晩、姫様をオカズに……もぐっ?」

「そうじゃねえよ」

 妙な事を言い出したヨーヨーの口を塞ぐ。

 キョトンとするヨーヨーを目を見つめ、オレは考えを整理する。

 ……そうだよ。

 こいつの特技、アレじゃねぇか!


「おい、ヨーヨー。1つ、姫様の姿絵を描いてくれねぇか?」


「……はっ! まさかザルガラさまも、姫様をオカズに?」

「オマエじゃねぇんだよ。そんな事しねぇよ」


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