ジャングルゾムの決闘
試験休み最後の日。
オレはペランドーと一緒に、古来道具屋巡りをしていた。
遺跡で手に入れた発掘品は開発局や冒険者街で売ってもいいが、物によっては王都で売った方が良い。値段的にも、行きつけの店を王都で見つけるためにも。
「4枚、4枚まとめて売ります!」
「2枚で充分ですよ~」
そのペランドーだが、古来道具屋との交渉が白熱している。アイツも鍛冶屋の店番してるだけあって、単純な売り買いで済ませる性分ではないようだ。
オレは売買をペランドーに任せて、商品が棚に溢れる埃っぽい店からふらりと外に出た。
「あー、だりぃ」
2度目人生だが、今のオレの身体は子供だ。
回復力は高いが、体力の上限は低い。魔力に余裕があるからと、肉体を酷使すると身体に疲労が残る。
以前の人生でもやった失敗だ。
アザナと最後の戦いを挑む前に、オレの肉体はボロボロになっていた。魔力があり過ぎるため、それに頼って少々肉体へ無理をさせ過ぎてしまった。
同じ失敗はしないように、これからは身体の事も考えよう。
そんな冒険やら吸血鬼との戦いやらで、疲労した重い身体に影がかかる。見上げると、そこには本格運行され始めた低空飛行艇があった。
「おー、あれが低空飛行艇かぁ」
その名の通り、王都の建物より数倍の高さを飛んでいる。その高さは、王城『ラブルパイル城』より低い。
きゃっきゃっと騒いで、低空飛行機を追う子供たちがいた。
「って、おいこらタルピー」
オレは飛行艇を追いかけ、一緒に走って行くタルピーを高次元から飛ばした右手で捕まえた。
『お? あー、つられちゃった』
「つられちゃったじゃねぇよ。子供かよ」
ふわふわと浮かぶ手で引き戻すと、タルピーはオレの頭の上にのぼって腰を下ろした。最近、すっかり頭と肩の上がタルピーの椅子兼踊り場だ。
重さが無いのでいいが、気になって仕方ない。
「そういやなんで低空なのに古来種語でミドルなんだろうか?」
『昔は浮遊基廊っていう、地面ぎりぎりに飛ぶ乗り物があったの。それと高いところ飛べる飛行艇があって、その間だからミドルだよ』
「……ああ、オレたちが勝手に低空って付けちゃったのか」
そのフラッターとやらを知らない後年の人たちは、高空飛行艇との対比で、あの飛行艇を低空と命名してしまった。のちに古来種語ではミドルクライマーと分かったが、もう訂正できなかったのだろう。
「古来種と言えば――」
夢で見たティエとそっくりな古来種らしき人物。あれは本当に、ティエの先祖様なのだろうか?
所詮は夢だから事実ではないかもしれない。だが気になって仕方ない。
「古来種と人間の間に子供ってできるのか?」
『ん? 古来種の身体は人間だよ』
「そういやそんな説もあったな。優れた人間の一部が古来種として君臨……」
『そうじゃなくて、古来種は身体がないの』
……は?
どういうことだ?
じゃあ一昨日見た夢は、やっぱりオレの夢に過ぎないってわけか?
『古来種は他の次元からきて、この世界の人間の身体を乗っ取っただけだよー。精神体ってやつ』
――あ、そうか。そういえば一周目と二週目のアザナが言ってたな。近い将来、古来種の一部が戻ってきて、人間たちの身体を乗っ取ると。
大昔もそうして人間たちの身体を奪って、この大陸に一大勢力を作り上げたのだろう。
「その場合、古来種同士に子供ができたらどうなるんだ?」
『身体は人間だし、普通の人間だよ。古来種には子供とか子孫とかそういうのいないの』
「精神体だもんな。その精神体同士で子供もできないのか?」
『聞いたことないなぁ』
タルピーはオレの頭上でうんうんと唸る。
そうなると身体を乗っ取った古来種から生まれた子供は、全て人間ということだ。あの夢に出てきた男が、ティエのご先祖さまってこともあり得そうである。
もしかしてオレはあの時、自分の先祖様の中にでも入っていたのだろうか?
時間が巻き戻って、オレはいまここにいる。精神だけが、ご先祖様のところに行った……という可能性だって考えられる。
「身体を捨てて精神だけで高次元に行ったと思っていたが、もともと身体は他人の物だから置いて行ったのか。それならちゃんと身体を本人に返せばいいのに、なんで遺跡の地下に保存してんだ?」
【霧と黒の城】の墓地区画で見つけた古来種たちの身体置き場を思い出し、頭上のタルピーに向けて疑問を口にした。
『遺跡の地下にあった身体は、この世界から去る時にお気に入りの身体を保存していっただけじゃないかな? もしこっちの世界に戻って来た時は、あの身体を使うつもりだと思うよ』
「乗っ取られたら最後、身体は解放してもらえないのか。いやまてよ……そうなると不味いな」
あの遺跡の身体は、吸血鬼のせいで土砂に埋まってしまった。もしかしたら、大量の土砂で押しつぶされているかもしれん。
もしも古来種たちが帰還した際、保存しておいたお気に入りの身体が失われていればどうする?
新しい身体を探して、手に入れようとするだろう。
近い将来、古来種たちが人間の身体を奪うってのは、もしかしてあの【霧と黒の城】に保存してあった身体が失われた事が原因じゃないのか?
そうなると――やってくれたぜ、あの吸血鬼のヤツ……。
吸血鬼がどういうつもりだったかは知らないが、とんでもない問題を残してくれやがった。
いや、よく考えろ。
古来種は自分に最適な身体を、あの遺跡に保存してたわけだよな?
それが失われ、現代の人間で代替するって事は、それほど最適の身体じゃないって事か。もしそうだとすると、帰還した古来種は弱体化してる可能性がある。
希望的観測だが、悪い事ばかりじゃない。
とはいえ身近な誰かの身体が、どこのダレとも分からん古来種に奪われるってのはゾッとしない。
「待たせてごめん、ザルガラくん」
商人との交渉を終えたペランドーが店内から出てきた。ちょうどいいので、古来種の問題は先送りにした。
「これ、ザルガラくんの分」
「お、ありがとな。交渉を全部任せてわりぃな」
「いいよ、いいよ。冒険じゃぼくのほうが力不足だったし」
「充分活躍してたけどな。まあ、これも分担ってヤツだな」
売り買いを分担するなら、ティエのヤツに任せたほうがいい。しかし、それだと冒険の余韻が途切れてしまう。獲得物の売り払いで、商人と交渉するのも冒険のうちだ。
「でも、あの魔石……貰ってよかったの?」
ペランドーはいくつか石ころを取り出し見せた。オレが吸血鬼と戦った際に出来た魔石だ。
ある程度の大きさ、ある程度の希少性のある石。
これらは余剰魔力で生まれる物だ。古来種が魔法を使った際、周辺一帯で適正のある石が魔石となる。
王都は元を正すと遺跡であり、その遺跡ってモノは大体が石で出来ている。そこには昔、古来種が住んでいた。つまり遺跡がまるまる魔石が眠っている。
もちろん全てが魔石化するわけではないので、部分的に取り出さないといけない。時には取り出さず、そのまま家の魔力源にする場合もあった。
便利だがありふれた物だ。まとまるとまあまあの金になるが、ペランドーに譲ったくらいじゃ小遣い程度である。
「気にするなって。デカイ宝石が魔石化したってならともかく、希石でもない石ころが魔石化したなら新式魔法の補助くらいにしかならん。オレどころかオマエの魔力からしたって、ゴミみたいなもんだぞ」
森の中で拾える程度の珍しい石が、オレの余剰魔力で魔石化したものだ。それでも一般人からすれば、少ない魔力の補助になる。
一方、ペランドーは仮にも魔法学園の生徒。こんな石ころ魔石では、ペランドーの100分の1も容量がない。
「うん、ありがとう。遺跡で見つけた他の物と一緒に、お父さんとお母さんのお土産にするよ」
「そうしろ、そうしろ」
一般人ならたまに使う魔法の足しになる。何かの魔導具の起動剤にもなるだろう。
オレたちはそんな会話をしながら、街を散策する。そろそろ腹が減り始めたころ――。
「わっ!?」
「おわぁっ!?」
後ろから駆けってきた誰かと、ぶつかりそうなった。
「ご、ごめんなさい!」
「気をつけ……おっ?」
ぶつかりそうになり、オレの背中に縋り付くヤツを見るとそいつはアザナだった……いや、違う。
髪は長いし、スカートを履いている。ってことはだ――。
「なんだ。マルチじゃねーか。今日はスカートが長いんだな」
元傭兵団長の娘、マルチ・プルート。今日は仕事がないからミニスカートではないのか。オレは巡り合わせに驚きつつ、軽く手を上げて挨拶をした。
「あ、こんにちは。マルチさん」
ペランドーも気が付き、マルチに微笑み挨拶する。
ところがマルチはキョトンという顔を見せた。
「え?」
マルチは不思議そうに首を傾げた。その仕草に見覚えがある。アザナの癖だ。しかし姿はマルチ。長い髪とスカート……長いけどスカート姿の町娘。
「オマエ、マルチだよな?」
不審に思って問いただす。それを受け、マルチらしき少女はハッとした顔を見せた。
「ああ、そうそう、ボ……私はマルチ!」
「……マルチじゃねえな」
一瞬だが邪悪な笑みが見えた。あんな顔を見せるヤツはアザナしかいない。
「マルチ、マルチだよ、わたし!」
「フルネームで行ってみろ。マルチのダレなんだ?」
「え、あ、あー……」
髪の長いアザナは気まずそうに目線を逸らす。
「マルチ……マルチ・ポリヘドラです」
「オレの家名じゃねぇか!」
結婚したのかよ!
ツッコミを入れると、マルチっぽいアザナは、残念そうに頭を掻いた。
「あー、バレちゃったぁ」
「バレちゃったじゃねーよ。どういうつもりだ?」
問い詰めるオレの横で、ペランドーが「アザナくんなの?」とかヌけた事をいっている。ペランドーの目は誤魔化せても、このオレは誤魔化されない。
アザナに関しちゃ、相当の観察眼を持っているからな、オレ。
「さっきこの恰好してたら、運よくザルガラ先輩を見かけて……。それで前から計画してた【女装して『誰だ? このアザナにそっくりな可愛い女の子は? それに、この気持ちは……恋?』作戦】で、ザルガラ先輩をドキドキさせようと思ったのに、まさかボクにそっくりな女の子がいて、その子と知り合いだったなんて……」
あーあ、残念。といった様子で、アザナはカツラを取った。見慣れたアシンメトリーな髪型のアザナが現れる。
憎らしい。
イタズラが不発になったのに、それでも嬉しそうに微笑むのが可愛……じゃなくて憎らしい。
「こ、この野郎……」
まったく、アザナはなんてヤツだ。
マルチと出会ってなければ、アザナとそっくりな女の子だと勘違いして、惚れ……いや惚れない!
あーなんだ。アザナにそっくりな女の子がいたと安心して、気を惹かれ……いや、惹かれない!
とにかく、なんてヤツだ。
こんな下らないイタズラのために、女装までするとは……。
「で、アザナ。どういうつもりだ」
女装の理由はマジでイタズラだろう。だが、それだけじゃないはずだ。どうせオレにぶつかってきたのもワザとに違いねぇ。
「実はザルガラさんに決闘の申し込み……」
「なんだってっ!」
アザナがオレに決闘だって!
ついにこの時が来たか!
苦節、10年から巻き戻って今この時!
ついについに、アザナから決闘を挑んできた!
「いいぞっ! そ、その決闘! 受けてやりゅぅうぅっ!」
――嬉しすぎて噛んだ。
今なら、タルピーの封じられた剣を持っていた鍛冶屋の気持ちが分かる。待ち望んだ言葉の前に、口から感情が飛び出してしまう。言葉が言葉にならない。
と、兎に角、アザナから迫ってくれた……決闘を申し込んでくれたのは初めてだ。
どう戦ってやろうかと身構える。ところが、アザナは構えるどころか、警戒も気を張る様子もない。
決闘なんて関係ない。というリラックスモードだ。
「よかった。さっきクラメルさんたちから決闘の申し込みを伝えてくれって、頼まれてたんだけど、受けてくれるか心配だったんだ」
「え? オマエからじゃないの?」
「うん、頼まれただけ……って、ザルガラ先輩どうしたんですか? 石畳の上に膝をついて?」
ちくしょう……アイツラからかよ。
いや、それでも充分なんだけどさ――。
オレに再戦を自ら挑んでくるなんてのも、初めてだからさ――。
いやいや、まてよ……。
オレに再戦を挑むヤツラが増えれば、アザナが決闘に興味を持って「じゃあボクも」って言い出すかもしれない。
そうだな。そういう可能性だってある!
よし、クラメル兄妹のヤツラやるじゃねーか。どんどんかかって来い!
「ふ……。いいだろう。クラメル兄妹の決闘を受けてやろうじゃねぇか」
「そこの公園のジャングルジ……ゾムで待ってるはずです。案内しますね、ザルガラ先輩」
「今からかよ! 決闘ってのはそういうもんじゃないだろ? 決闘ってのはまず日時を決めて、身を清めて心構えを持ってだな……」
「それをザルガラくんが言うの?」
決闘について語っていたら、横からペランドーに突っ込まれた。
「そうですよね。ザルガラ先輩って、いつも無理矢理ボクに襲いかかってくるんだもん」
「無理矢理って言い方やめろ、おい。決闘な、決闘の事だから」
通行人の視線が痛い。その視線を横目で確認しつつ、オレは決闘という言葉を強調した。
「た、確かにオレはいきなり決闘に持ち込んでるが、無理矢理じゃないぞ」
「でも日時決めたりとかしてないよね」
「ま、まあそれはペランドーの言う通りだな。やはり急に決闘挑んじゃいけねぇな。よし、これから気を付ける」
言い訳しながらアザナについて行くと、このあたり一帯では一番大きな公園へとたどり着く。
広場では子供が遊んでいる。
おいおい、ここで決闘とかするのか?
「あっちのジャングルジム……ジャングルゾムで待ってるはずですよ」
ジャングルゾム。
ジャングルゾムとは鉄パイプや木材で、超立方体陣を疑似的に模して組み合わせられた遊具である。
登ってよし、ぶら下がってよし、秘密基地ごっこに使ってもよし。なおかつ古式の超立方体陣を視覚的にも、肉体的にも体験できるという、知的玩具を兼ねた公園の遊具である。
その応用性と存在感から、シーソーや滑り台にブランコなどと並んで、公園遊具の四天王と呼ばれている。
アザナはたまにジャングルゾムをジャングルジムと言い間違えるが、小さいころに聞き間違って憶えたのだろう。可愛いところがあ……いや可愛くない。可愛いじゃなくて、なかなか間抜けなところがアザナにもある。
「お兄様、来ましたわ!」
「来たか! ザルガラ!」
ジャングルゾムの上に、クラメル兄妹がいた。いい歳して、ジャングルゾムに登るなよ。恥ずかしい。
しかも2人は奇妙な扮装だった。
妹のローリンは、毛糸で鎖かたびらを模した服を着ている。兄のコリンは緑の服に羽帽子と、北の島国で見られる弓の射手姿だ。
コイツラ、また扮装に凝ってるのか?
「おにーちゃん。ジャングルゾムでぼくたちも遊ばせてよー」
「パパに言い付けるんだから!」
ジャングルゾムの周りでは、追い出されたのか子供たちが不満そうに声を上げていた。
「やあ、アザナ君。ザルガラ君を呼んできてくれてありがとう」
なぜかジャングルゾムの下では、カッコつけてよりかかるイシャンがいた。なお服は着ている。
「イシャン先輩さんよ。なんでここにいるんだ?」
「ふ……。ちょっとクラメル兄妹と共闘して、キミと戦ってみたくなってね。ああ、クラメル兄妹はともかく私は勝ち負けに拘らないよ。あくまで実践で魔法を磨きたくてね」
「と、なると3対1か」
負ける気はしないが、ここで待ち受けてるってことは、なにか仕込んであるだろう。大方、ジャングルゾムの超立方体を利用して、魔石と魔法陣を仕掛けてある。――そんなところだろう。
「お久しぶりです、ザルガラさん」
これまたなぜかヨーヨーがいた。
「なんで、オマエはここに?」
オレの疑問に、ジャングルゾムの上に陣取るコリンが答える。
「ヨーファイネ嬢……彼女はアザナくんと共に見届け人になってもらう」
「そういう事です。健康的な子供たちの運動を観察していたら、クラメル両氏から見届け人を頼まれました」
「ヨーヨー。決闘終わったら、オマエちょっと巡察官詰め所行きな」
アザナとヨーヨーは、ペランドーと群がる子供たちをジャングルゾムから遠ざけた。そしてアザナの投影する巨大な超立方体陣が、オレとクラメル兄妹たちの周囲を取り囲む。
なるほど、アザナが居れば決闘で子供を巻き込む心配はない。
ジャングルゾムの上を見れば、クラメル兄妹たちも立方体陣を投影し始めていた。
「よし、さっさと始めるか」
流石に3人相手で余裕は見せられない。超立方体陣を投影し、防御の用意をした。
「舞台は整ったな。覚悟するがいい、ザルガラ!」
「先日の私たちとは違いますわよ!」
「ふ、私が加わっている時点で違うのは当たり前だがね」
クラメル兄妹がジャングルゾムから飛び降り、イシャンの前に並んだ。
ん?
もしかして――。
「さあ、いきますわよ!」
ローリンが叫ぶと、ジャングルゾムが鈍く光った。やっぱり仕掛けをしてやがったか。
やけに凝った防御魔法が、彼女たちの前に投影された。それは鎖を編み込んだカーテンのようだ。試しに一発、魔力弾を撃ち込む。
魔力弾が唸りを上げ、鎖のカーテンにぶち当たる。光が四方に跳ねるが、魔力が弾かれるような音は鳴り響かなかった。
カーテンは魔力弾を弾く盾や壁ではない。鎖状になった魔法陣の捻じれが、魔力弾を包み込んで勢いを潰したようだ。
なるほど。あの毛糸の鎖かたびらは、この防御魔法のイメージ元か。しかもジャングルゾムの魔法陣を、すべてこの防御に回している。
新式とはいえ強固な防御魔法陣を、鎖のように編み込むとは恐れ入る。
これを打ち破るとなると、かなり威力のある魔法か、数十発の魔力弾を連続で撃ち込まないといけない。
オレが無駄な攻撃で鎖のカーテンを打ち破ろうとしている間に、コリンとイシャンが超立方体陣を投影しつつローリンの背後に一列となって並ぶ。
やっぱりこれは……。
「ふふ……厚い防御を前に手間取っているな、ザルガラ! それが貴様の敗因だ! 喰らえ! 『戦は川の流れのように!』」
勝ち誇るコリンが魔力弾を撃ちながら右に飛ぶ。ローリンは身長低さを活かして、身を屈めて斜め前に出た。
そして開けた視界には、輝く全裸のイシャン――。
攻撃と防御を維持したローリン。
厚い防御に守られ、視線誘導をするイシャン。
本命の攻撃を連続で放つコリン。
クラメル兄妹とイシャンは、そんな三位一体の攻撃を放ってきた。
「やっぱりな……」
オレはその手の攻撃を一度見た。想定していたので、対策は済んでいる。
「喰ら……なっ!?」
「っ! お兄さ、きゃぁっ!?」
「私は美しぃっ、ごうっ!」
勝ち誇る3人を、3つの黒い魔力弾が死角から襲った。
【闇に潜む暗黒の鎌】
先日見て、即盗んだ魔法。これが勝負を決めた。
【闇に潜む暗黒の鎌】は、アトラクタ男爵が使った大きくカーブする変形変則魔力弾だ。本来、まっすぐにしか進まない魔力弾。それをあえて速度を遅くし、回転運動と空気抵抗を利用して、飛ぶ軌道を曲げるという攻撃だ。
ゆっくりとした動きすぎて、普通に放てば当たらないだろう。
しかし、オレは鎖のカーテンに向け、魔力弾を派手に無駄撃ちしまくっていた。これは鎖のカーテンを、強引に打ち破ろうとした攻撃ではない。全て目くらましだ。
クラメル兄妹とイシャンは、オレの目くらましと自分たちの魔法発動に気を取られて、このゆっくりした黒い魔力弾……【闇に潜む暗黒の鎌】を見つけられなかった。
防御魔法を失い、黒い魔力弾から受けた痛みで膝をつく3人。子供たちの歓声。アザナとペランドーが、拍手してくれている。……ヨーヨーは、その無邪気な男の子から手を放せ。マジで巡回兵に通報するぞ。
「な、なぜだ……。なぜこんなにあっさりと……」
脇腹を抑え、納得できない様子のコリンがオレを睨む。
ふむ。
オレに再戦を挑んだ気概に免じて、教えてやるか。
「悪いな。そういう姑息な技を使ってくるヤツラと、一度戦ったことがあるんだ」
オレの魔力弾は一撃で、普通の魔法使いを戦闘不能にできる。魔法学園の優秀な生徒と言えど、勝負を決める一撃に値する。
オレの勝ちだ。
「く、だからといってこんな簡単に負けるなど……」
「れ、練習したのにぃ……」
悔しがるクラメル兄妹。
「まさか、私と同じアイデアを出す者がいたとは!」
イシャンの悔しがり方の方向性がおかしい。
いやでもまあ確かに、こんな戦い方を思い付くヤツが、この王国に2人もいるとか信じられんよな。




