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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第3章 憧憬と真贋

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端話は無し

「まずザルガラの奴の優位性と、我々の有利な点を考え比較しよう」

「はい、お兄様」

 ザルガラとペランドーたちが北の遺跡【霧と黒の城】で活躍している頃、クラメル兄妹はエンディアンネス魔法学園で補習を受けていた。

 補習と言っても、課題を与えられただけである。なにしろ試験評価で学園の教師たちは、加点減点あれよこれよと忙しい。優秀な3人(・・)の補習に、わざわざ手を掛ける必要はない、と判断して課題だけ与えて放置していた。

 試験を休んだとはいえ、優秀なクラメル兄妹は早々に課題を仕上げ、余った時間をザルガラ対策の相談に充てていた。

 いろいろ残念な面はあるが、兄妹は優秀であり向上心がある。

 ローリンは兄コリンの席に椅子を寄せ、ノートに作戦草案と書き記した。


「わたくしたちは、2人。ザルガラは1人。2人で1人前と詰られ、卑怯と言われようと、優位性に違いありませんわ」

「……そうだな。反してザルガラの優位性は、大魔力と超立方体陣の高速投影だ。大魔力はいかんともしがたいが、高速投影はこちらが前もって準備しておき、持ち合わせておく新式手帳で充分に対策できる」

 ローリンのザルガラ相手ならば名を捨てても構わないという姿勢。

 コリンの希望的だが優位性を探る姿勢。

 悪くない組み合わせであった。


「2人の新式手帳と、わたくしの超立方体陣で作った魔法を全て防御に回すという手もありますわね」

「なるほど。我の超立方体陣のみが攻撃に集中するというわけだな」

 新式手帳はすでに平面図で魔法陣が描かれており、呪文を唱えて魔力を注ぐだけで発動する。

 2人の実力は、三次元の立方体陣は投影が早いが、そこに魔法陣を書き込むと時間がかかる。ザルガラとの初回の戦いでは、この遅れが敗因となった。

 四次元の超立方体陣は、投影も魔法陣を内部に書く込むのにも、さらに時間がかかってしまう。格下相手ならばともかく、ザルガラ相手では実戦的でない。

 

 しかし、前もって投影して魔法陣を書き込んで置き、呪文を唱えればすぐ発動する状態にしておけばいい。 

 超立方体陣と魔法陣の維持に少々魔力を消費するが、その辺はエンディアンネス魔法学園の生徒である。

 2人の実力ならばそれほどの負担ではない。


「これで少しはザルガラに近づけたはずだ。攻撃を工夫さえすれば、一撃くらいは与えられるだろう。だが……」

「それだけでは勝ちではありませんわね。もう1手……いえ、3手は欲しいですわ」

「脱いでみてはどうかね?」

「……我々にある優位性は、服装にあると思う?」

「服装ですか、お兄様?」

「脱ぐのかね?」

「服飾、そのスタイル。我々はそれらに魅了されて、依存している面がある。だが、それが陶酔にも似た暗示を与えてくれる」

「……どういうことですの? お兄様」

「確かに。1枚脱ぐ度、陶酔するねぇ」

「吸血鬼の扮装をした時、我々は無謀にもザルガラに勝負を挑んだ。だが、そこには吸血鬼だから勝てるという思い込み……。愚かかもしれんが勇気があったのは確かだ」

「お兄様は、扮装をしてザルガラに戦いを挑まれるおつもりなのですか?」

 驚くローリン。自然と問う声が大きくなった。

 苛立たしくコリンはノートをこつこつとペンで叩く。


「どうだろう……。卑しく愚かしいとも思うが、気分気持ちも士気のうち。過去の英雄にあやかったり、攻撃専門の扮装をしてみるとか? ローリンならば形の上で鎧で身を固めてみるとか……な」

「……なるほど。魔力弾も体調や気力で、威力が大幅に変わりますものね」

「確かに全裸時の魔力弾はキレがいい」

「……」

 コリンの腕に力がこもり、ペン先が折れた。


「……ローリン。我が狙撃手や砲兵の扮装をしてみるが……」

「ではわたくしが、重歩兵の扮装ですわね?」

「そして私が全裸だな」

「うるさいなっ! さっきから君はっ!」

 コリンは耐えきれず、背後に立つイシャンにツッコミをいれた。

 着崩し胸を大きく肌蹴ているが、今のイシャンは全裸ではない。念のため表記する。

 

「イシャン! 君は学年主席確定だろう? なんで補習を受けている!」

「うむ。実技試験中に全裸になったら、補習を言いつけられた。あ、課題は終わっているよ」

 コリンの疑問に、イシャンはピシッとしたポーズで、肌蹴た胸を張って言い返す。

 この学園では加点に際限がない。反して減点は採点システム上、限られてしまっている。

 イシャンは実技で好成績を収めたため充分な加点があり、詳細な採点中の今でも学年主席が確定している。これにはクラメル兄妹が居なかった、という理由もある。2人がいれば暫定主席とはならなかっただろう。

 ここで問題があった。

 困った事に、全裸で試験を行う事に減点規定がない。

 イシャンが全裸になったとき、まだ全裸は禁止されていなかった。 そのため減点の対象とならなかった。 採点システムの不備である。いやシステムに不備というより、イシャンに布的な不備だが。

 教師たちは仕方なく、採点中にイシャンへ補習というバツを与えた。

 試験の補習というより、風紀を乱した罰である。


「あー、なにか試験会場の各所に全裸禁止とかいう、わけのわからない張り紙があったが……。あれは君のせいか」

「信じられませんわ……」

 頭を抑えつつ納得したという顔のコリンと、嫌悪を通り越して呆れ顔のローリン。


「とりあえず、我々は大事な作戦会議中だ。貴人が人の会話の邪魔など礼儀知らずだぞ」

「お兄様の言う通りですわ、大人しくしていてください」

「ふ、そういわれては仕方ない。邪魔をしてしまってすまなかったな」

 全裸が礼儀知らずだと思うが、あえて会話の邪魔を礼儀知らずとし、コリンとローリンはイシャンを遠ざけた。


「お兄様。作戦に合わせて扮装するというはどうでしょう」

 パン! キュィーン!

 ローリンの背後――教室の片隅が光る。


「な、なるほど。扮装でザルガラを混乱させるというのもありだと思うぞ」

 パン! キュィーン!


「さ、さすがですわ、お兄様」

 パン! キュィーン!


「そ、そうだな。我が囮になるよう目立つ扮装という手も……」

 パン! キュィーン!


「ええい、イシャン! 気が散る! そこで点滅してる全裸! 裸になったり、服を着たり繰り返すな!」

 ついに我慢できなくなり、コリンは全裸のイシャンを指差して怒鳴った。

 邪魔はしないと教室の反対側へ行ったイシャンは、そこで一瞬で服を着たり一瞬で脱衣したりと魔法を使っていた。


「ふっ……。自学自習の邪魔をしないでくれたまえ」

 イシャンの言い分は「邪魔をするな」と言われたので、1人で自習をしていたのだというものだ。

 意趣返しを受けたコリンは、歯ぎしりで抗議の意を表す。 


「ぬぅ……今のが自習なら、人は進化してるのか退化をしてるのかわからんな」

 どうやってイシャンを追い出そうかと考えていたコリンの裾を、兄の陰に隠れたローリンが小さく引いた。


「あの、お兄様」

「なんだ? ローリン」

「悔しいですが、彼の……イシャンさんの魔法は……我々に有益かと」

「なに? ……っ!」

 コリンは納得できない顔のまま、ハッと気が付かされた。

 一瞬にして着替える魔法。

 応用すれば、さまざまな扮装に一瞬で着替えられる。これは兄妹の作戦の幅が広がる事を意味していた。


「まて、しかし……いや、全裸の過程を飛ばすか……時間を短く……いや服を変化させて……」

 コリンは考える。

 なにしろ、自分だけでなくローリンもいるのだ。

 一瞬とはいえ、人前で全裸になるなど許されない。彼らは扮装に抵抗はないが、全裸に抵抗がある。


「だがそのまえに……」

 イシャンの使う被服を作り出す魔法を、詳しく知らなくてはいけない。

 改変はその後だ。

 ザルガラならば投影された立方体陣と魔法陣を読み解き、一瞬で理解し改変してしまうだろう。

 いくらコリンが学園で五指に入るとはいえ、ザルガラとの差は大きい。一瞬で魔法を解析などできない。


「よし……是非も……ない。これは、そう……1つの、選択! 手を……手段を……1手でも増やす。そのためだ……。イシャン……。君のその魔法……どういうものか教えてくれないか? 教えてくれれば、これからの補習で君が全裸でも目をつぶろう」

「その場合、本当に目をつぶっておきたいですわね、お兄様」

 頭を下げるコリン。イシャンに対する兄の提案を聞いて、ローリンも不承不承ながら納得しつつ軽口を叩く。

 これにイシャンは面を食らった。

 大貴族の子息同士とはいえ、コリンがイシャンに頭を下げて頼みごとをするなど今までなかった。

 クラメル兄妹は特に気位が高い、はずだった。

 少し前ならば、軍畑で宮内勢力の弱いアンズランブロクール侯爵家三男坊であるイシャンを、露骨ではないにしろ低く見て侮っていた。

 

「ふむ……」

 一先ずイシャンは腕を組んで様子を見た。 


「無理にとは言わん。しかしイシャン……。その魔法は見たところ古式ではないようだが、独式なのか? それだけでも教えてくれ」

 まだコリンの頼み方は硬い。

 それでも必死さが見えた。なにより向上心が感じられた。

 イシャンは考える。

 古式は古来種の時代からある魔法陣であり、未発見があったり習得は難しなど問題があるが、基本的に開示されている。

 新式は人間の魔法使いが、古来種の技である古式を模し簡素にした物で、これも広く開示されている。

 独式は古式と新式を組み合わせた複雑な改造魔法陣である。それは秘匿され、個人、もしくは集団の中で奥義や秘儀とされている。


 【極彩色の織姫】は新式を改造した魔法陣で、開示されている新式魔法陣の組み合わせだ。

 

「確かに独式だったら問題だろうが、これは新式だし、教えても問題ないだろう」

 ――それにザルガラ君も喜ぶだろうしな。と、イシャンは心中で答えを出した。


「しかし、代わりといってはなんだが――」

 イシャンは【極彩色の織姫】を教える条件を提示した。

 クラメル兄妹は熟考し、それを受け入れた。



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