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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第3章 憧憬と真贋

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夢のどこか

 オレは別に、契約至上主義ってわけじゃないが――。

 約束していないのに、約束したと言い張る図々しさはない。

 かと言って、時間が巻き戻っているのに未来のオレが約束したと、強弁するゴネ得狙いみたいな客になる気もさらさらない。


 だから、約束の状況になるような事態を、頭からフッ飛ばせばいい!

 

 ……というのは、後から考えた言い訳だ。

 実のところは咄嗟にやってしまった。

 

「あ~あ、やぁっちまった……」

 確かついこの間も、コレ言ったよなオレ。本当に反省しないな、オレ。

 霧の中から実体化する吸血鬼女は、アホ面下げてオレを見つめている。美人なだけに、裸体と相まってなかなか笑える。


『ザ、ザルガラさまぁ~』

 ぼうっとするな、上位種イフリータ。少しは援護とか考えてくれ、タルピー。


「いやゃぁっ!!」

 アンの短い悲鳴がうるさい。

 ああ、それでも意外と可愛い悲鳴上げるな。普段と大分違う。


「……? ……っ!?」

 ターラインも、オレと全裸吸血鬼を交互に見やり、なかなか笑える顔を見せてくれている。

 そりゃ状況わからんよな。

 後ろから触られて、ゾンビ化される寸前だったということも、もう訪れる事のない未来でオレと友人になって、あんな約束をしたこも知らないんだから。


 だが、一番この中でバカなのはオレだ。渾身の力で全てをかけて、ま~たバカをやってしまったよ。


「……ザ、ザルガラ・ポリヘドラ……。き、きさま……しょ、正気か?」

 女としては可哀想なくらい貧相な吸血鬼が、人様の前で全裸を晒しておきながら、正気をオレに問うか?


「親愛の挨拶で、まず握手ってのが常識だろ?」

 オレはそう言って、吸血鬼と握りあった手を振った(ハンドシェイク)した。

 

 吸血鬼が霧の中から手を伸ばし、ターラインに首筋に触れて【吸血鬼の手形(ヴァンパイアタッチ)】しようとした瞬間――。

 オレは右手を高次元に突っ込んで、ターラインへ向け伸びる吸血鬼の手を握りしめた。


 今のオレは、手を飛ばし数歩離れた全裸の吸血鬼と、睨み合い仲が悪そうに握手している。

 古来種事件の時に得た、遠距離に手首から先を瞬間移動させる特技が役にたってしまった。


「ワァグアーヌ?」

 片膝たちのままターラインが不思議そうに、オレを見上げて訊ねてきた。

 どうしただと?

 気にするな、勝手に身体が動いた……手が飛んだだけだ。


「ザ、ザルくん、何をして……」

 アン、それは手が空間を超えて移動したことか?

 それともゾンビ化するのに、吸血鬼と握手したことか?

 あ~あ、ほんと何やってんだろうな、オレ。

 呆れて笑う。笑ってしまう。

 もちろん虚勢だ。

 ゾンビになるのはもちろん御免だが、その前に邪魔な吸血鬼には消えてもらう。


「まったく悪い全裸だよ、この吸血蝙蝠がっ! 少しはイシャンやアトラクタ男爵を見習いやがれっ!」

 オレは覚悟の籠った怒気を放ち、吸血鬼の上位種としてのプライドを吹き飛ばす。


「よろこべ、悪い全裸! アザナ以外で、このオレが本気を出すのはオマエが初めてだ!」

 いつも本気を出す時、オレは嬉しかった。アザナとケンカしている最中だったからな。

 1度目の最後の時、オレは嬉しかった。あの時は肉体・・が限界だったので、最期にアザナと本気で遊べて死ねると分かっていたから。まあ、アイツは迷惑だったろうが――。


 だが今回は違う。イライラする本気だ。

 久しぶりの本気で、久しく使わなかった多魔胞体陣を投影する。それは正8胞体陣の中に、正16胞体陣を描くアザナの技だ。

 本気出すけど、オレのオリジナルをぶつけるには、オマエは物足りない。


「死も生もどっちも選べない世界にご招待っ! オレもオマエも星の欠片だ! 『始まりの胞衣に還れ! 原始六合稠密邂逅ファーストスター・チルドレン!』」

 マヌケ面した吸血鬼の身体が魔法に呼応し、小さい光をいくつも放ちながら崩れていく。


 原子分解ディスティングレイト


 これを生き物……、いや吸血鬼は生き物じゃないか?

 とにかく、魂や意志のある存在に、この魔法を使ったのは始めてだ。 

 この魔法を受けて、吸血鬼はアホ面下げたまま霧となった。

 それだけでじゃ、オレの魔法は収まらない。

 オレの魔法は霧などより細かい塵。集まっても塵にすらならない、バラバラの存在へと吸血鬼を変えた。

 雲散霧消。

 

「吸血鬼ってのは霧になれる様だが、それより細かくされたらどうにもならないらしいな」

 ぶらりと宙に浮いたオレの手。血色悪いな。

 そろそろゾンビ化が始まるか?


 周囲の地面が、ところどころキラキラしている。

 オレやアザナのような大魔力の持ち主が、全力で魔法を使うとこうして周囲の石が余剰魔力を吸って【魔力石】化する。数十人の儀式魔法の行使でも、副産物として生成させる。

 大魔法といってもそれほどじゃないから、今回は大分少ないけどな。

 これらは古来種の残した道具の燃料にもなる。

 【魔力石】は、形見にみんなに分けてもらうか。


「ま、このオレを道連れしたのは、上出来だぜ。上位種様」

 なにしろ、オレを倒せるのはアザナだけ。相討ちだって、大層なもんだぜ、名前も知らない吸血鬼さんよ。


トドメは頼むぜ、タルピー」

『ザルガラさま!』

 タルピーの声を浴びながら、オレの意識はそこで途絶えた。


 




   *   *   *

 


 ここは?

 

 目を覚ますと、オレの足元に大きな街が広がっていた。


「王都か? いや、形が違う……というより、整っている――」

 オレの知る王都は、もっと偏った広がりを見せている。

 籠の中でひしめく歪なジャガイモの形をした王都とは違う。


 眼下に広がる街は、籠そのものの形だ。

 王都では飛び始めたばかりの【低空飛行艇ミドルクライマー】が、オレの足元で所狭しと街の上を飛んでいる。飛行艇はさまざまな光まで放ってる。魔力が漏れ出しているのか?

 いやアレは広告ってヤツか?

 音楽まで奏でてやがる。

 空を飛んでいる人の姿も多い――。

 まさか!


古来種カルテジアンの時代! 古代都市カルテシウスか!」

 飛行艇の合間を抜けて、街の大通りに降りるとオレは周囲を見回しつつ叫んだ。

 小さな家から大きな家まで、白亜の壁。街には投影された古来種の文字が溢れ、キラキラと瞬いて踊っている。 


 ――ああ、また夢か。

 どっかから、またアザナが出てきて、オレを惑わす気か?

 警戒し、アザナの姿を捜す。

 だが、出てきたのは土管だった。

 ふらふらと土管が近づいてきて、チカチカと古来種の文字をオレの前に投影する。


「復刻? め、めあろ…いえろ?」

 投影された文字を読み、オレは困惑した。

 古来種の……商品か?

 なんだこりゃ?

 土管に触ると、妙な柔らかさがあった。樹脂で出来てるのか?


「どうした? コールハース」

 コールハース?

 誰のことだ?

 振り返ると、黒髪の青年がオレに手を上げて挨拶していた。片手を上げる古来種の挨拶は、親しい者へ対する挨拶だ。

 男の癖に、左耳にはピアスが光っている。なんとも自信と優美さが溢れた魅力のある美男子だ。

 

「お、こりゃちょうど、喉が渇いてたんだ」

 黒髪の青年は、そう言って土管へ手の平を向けた。小さな立方陣がその手から飛び、土管の中へと吸い込まれていく。

 土管の一部が開いて起重機を小型化したような腕が伸び、黒髪の青年に筒状の何かが差し出される。

 それを受け取り、上部のストローを引き出し口を付ける黒髪の青年。

 オレはそれをぼーっと見つめた。

 土管はゴーレムか?

 しかし、コイツ……誰かに似ているような?


「なんだ? 初めてカルテシウスに来た人間みたいな面してるぜ」

 まあ、この時代の王都――カルテシウスは、実際に初めてだ。夢だとしても。

 

「……コールハース?」

 オレの名前なのか?

 黒髪の青年は、怪訝な顔でオレをその名で呼ぶ。青年の目が青く光り、同心円を描いた。

 【精霊の目(ダイアレンズ)】か――。青い目で【精霊の目(ダイアレンズ)】ってのは初めて見たな……。

 まてよ。

 この目と顔――っ!

 もしかしてっ、オマエは!


「誰だ!? お前はっ!!」

 オレが問う前に、黒髪がオレを誰だと言ってきた。

 いやオレからすると、オマエがダレダって感じなんだが。

 なのに問いたいが訊けない。オレの身体なのに、この身体はオレじゃない。

 

「コールハースを……あいつの精神をどこにやった!」

 だから、誰なんだよ、コールハースって?

 警戒と憎しみの目をオレに叩き付け、攻撃的な超々立方体陣を投影する黒髪の青年。

 おいおい、軽々と超々立方体陣を投影してるよ、コイツ。

 まさか、古来種か?


「食ったのか!」

 いや、なんのことだよ。

 オレは防御のため、超立方体陣を張ろうとするがうまくいかない。

 戸惑うオレに、黒髪が敵意の攻撃と言葉を叩き付けた。


「この怪物めっ!」


   *   *   *


『ザルガラさま! ザルガラさま!』

 呼ぶ声で目を覚ますと――。


 ガガガガガガガッ!


 タルピーがオレの頭を、親の仇かというくらいシェイクしていた。


「オマエ、人の頭を高速で振るの止めない? 脳に障害でるぞコレ」

 1秒間に16回シェイクを食らったオレは、無理矢理に夢から揺り起こされた。


『良かった、目が覚めて』

「ザルく……ザルガラ様……」

「心配したぜ、ボウズ」

 タルピーとアンとターラインが、心配そうにオレの顔を覗き込んでいる。


「おはよう……。助かったのか? オレ」

『うん、アタイが右手を焼き尽くして』

「ひどいことするなっ!」

 慌てて確認するが、右手はしっかりとあった。


『あ、言い間違えた。ゾンビ化の呪いを焼き尽くしたの。ザルガラ様の手が高次元で分離してたから、できたんだけどね』

 覚悟してたが、どうやら高次元を超えてゾンビ化の影響はなかったようだ。

 タルピーが居なければ、終わりだったな、オレ。 


「そうかありがとよ、タルピー。しかし、びっくりさせるなよ、うっ……」

 強い吐き気と頭痛がオレを襲う。

 よろめくオレを、アンがしっかりと支えてくれた。


『大丈夫? 気分悪いの?』

「オマエの名人芸染みた揺り起こしのせいでな」

 悪態をつきながら、アンに助けられつつ立ち上がる。


「ご無事でしたか……、ザルガラ様」

 心配そうにティエが木陰から姿を現した。オレの使った高速移動魔法のせいで、役立たずだったティエだ。


「この度は、なんどもお役に立てず、このティエ……申し訳ありません」

「気にするな。なんとかなったし、オマエがいるといろいろ安心する。それに……」

 オマエのご先祖様っぽいヤツの夢を見た。

 

 あの夢が事実なら、オマエの祖先は古来種なのか?

 ティエの赤い瞳に、オレの姿が写る。

 あの黒髪は青く輝いていた。だから違うよな?


 オマエはオレを、怪物とか――言わないよな?



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[一言] ザルガラ三角形ー!(変換まま) ...最後むちうちになってない?大丈夫?
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