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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第3章 憧憬と真贋

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遷移化滅

「そうか……これも何かの導きに違いない。話さねばならぬか……。この私が何故、全裸マントという出で立ちをしているか、を――」

「聞かねぇよ」

 掃除用の小型自動人形があちこち駆けまわり、新式魔法手帳の切れ端を片づけている中――。

 魔法で拘束する6人を見下ろすオレに、アトラクタ男爵がさも重要といった感じで全裸を語ろうとしやがった。とりあえず拒否して黙らせる。

 男爵は残念そうに唸るが無視。

 男にしては妙につるっつるなアトラクタ男爵の肌が気になるが、それをいうと喜々として話だしそうなので言わない。


「あのー……俺たちの縄を解いて欲しいんだけど」

 ボトスが恐る恐る要求をしてきた。しかしながら、コイツらがただの開拓者だとしても、おいそれと解放するわけにはいかない。


「うるせぇな。オマエラらはオマエらで何かやらかしそうだし、そもそも害意が無いとも限らん。大方、墓地区画が解放されたから、小遣い稼ぎに忍び込んで墓荒らしでもしようとしたんだろ?」

 推測が正しければ、ボトスたちは違法な遺跡侵入者だ。遺跡は厳重に管理されているのだから、コイツらは開拓者として違反を犯している。

 冒険者に侵入者を捕まえる義務はないが、遺跡内に限り捕縛の権利は持っている。探索の邪魔になる可能性があるから、その場合は排除の意味を兼ねて――なのだが、捕縛すると確実に探索の邪魔になるので行われることはない。


「う……」

 オレに怒鳴られ、ボトスは言葉を失った。


「やっぱ図星か」

 となると、やはり解放するわけにはいかない。このまま遺跡開発局に引き渡しだ。探索してるわけじゃないので、邪魔になることはない。

 むしろ邪魔というか面倒なのは全裸だ。


「で、ボトスたちは、このマント野郎共の秘密に触れてトッ捕まったってところか?」

「素晴らしいな、ザルガラくん。わずかな情報から、ほぼ正解を言い当てるとは」

 全裸男爵が上から目線の評価をオレに下す。


「人として社会性の欠落した恰好のヤツに褒められても嬉しくない。それにアンタたちも違法に遺跡へ侵入したんじゃねぇのか?」

「ワシは遺跡開発局の長だ」

「っ! そうか! 管理側かっ!」

 オレは迂闊だったと額を叩く。

 ブトアから聞いた話では、見たこともない集団と言った。ブトアに限らず、『霧と黒の城』の冒険者街では長らく解放が停滞していたため、冒険者たちは顔なじみになっていた。そのブトアが見ない集団ならば、冒険者ではない。冒険者ではないなら、違法に遺跡は入りこんだモノと、てっきり思い込んでいた。

 遺跡開発局という管理側なら、ブトアも知らず、そして許可を得て正規の立ち入りをしていたことになる。

 もしも彼らが古来種の遺跡を調べるため……


「まあ我々も許可は取ってないのだが」

「結局は違法侵入かよ! アンタ言ったよね、法という服を着てるって。そのアンタが違法な事やったら、その法まで脱げてマジで全裸だろ? いや、明らかに全裸だけどさ!」

「いやいや、厳しいツッコミだ。ザルガラくん。耳が痛い」

「ところでっ! オレの名前を何で知ってるかが分からねぇ。そりゃオレの名は有名人だが、顔が売れているってわけでもないぜ」

「それについては、なぜワシがこのようなお肌の手入れまでして裸にマントという姿をしているかを、説明せねばならん」

「どんだけ全裸に至る行程の告白したいんだよ、おっさん」

「それもあるが、国の趨勢に関わる一大事なのだ」

「全裸が……国の……」

 衝撃――。あまりの発言に、ツッコミを忘れてしまった。 

 全裸が国の行く先に関わるとか……大丈夫か、この国?


「あ、その前に彼らの耳を塞ぐなり、別室に移動させるなりしてもらえる?」

「結構ぉ冷静だねぇ」

 さすがの男爵も、全裸に関わる国の趨勢――じゃなかった。国の趨勢に関わる全裸――いやこれも違うか?

 ええい、どっちでもいい。

 そういう話を単なる開拓者に話すわけにはいかないのだろう。


『じゃあ、アタイが見張っておくね』

 指示するまでもなく、タルピーが自発的にボトスたちを一人づつ引きずり、隣りの部屋に移動していった。火の塊に引きずられても、ボトスたちは特に抵抗しない。暴れるとケツを焼かれるからだ。タルピーもなかなか乱暴だなぁ……。


「火の精霊を――」

「命令せずに意志で操っているのか?」

 マントの男たちは視界を封じられているにも関わらず、いや視界を塞がれているからこそ状況を勘違いしていた。

 しかしタルピーを単なる火の精霊と勘違いするのは仕方ない。実体化してても、精霊を見慣れない中央諸国の人間では、簡単に上位や中位などの区別などつかない。

 上位種と知らず、意志と知能――タルピーの知能? いや、計算が苦手なだけか。意志と知能のある存在と思わないから、言葉として命令を受けず行動する火の精霊を見て、オレが意志の力で操っている。と、勘違いされた。

 投影防止のため目隠しをされていなければ、よく観察して普通の火の精霊と違うと気が付いただろう。

 アレは上位種のイフリータだぞ。と、厄介な方向に訂正する必要もないので、そのまま黙っておくことにした。


「まず話すにあたって、これだけは断っておこう。ザルガラ・ポリヘドラ。お前だから話すのだ」

「え?」

 全裸について、オレだから話すってなに?

 やっぱ聞きたくないって言ったらダメかな?


「い、いや、オレが訊きたいのは、カタコンベで何をしてたとか、ここはどういう場所なのかっていう――」

「宮中に詳しくないものでも、ディータ姫の扱いを知っているだろう?」

 全裸ともカタコンベの話とも、全く関係ない話を切り出してきた。安心するような、はぐらかされそうで納得できないような。

 しかしディータ姫については、何か関係があるのではないかと思っていた。なので素直にアトラクタ男爵の話に耳を傾ける。


「ディータ殿下が全く人前に出ぬようになってから、すでに5年。ちまたではすでに亡くなられておられるとか、陛下の勘気に触れて消されているとか言われているが、それはそれは大変可哀想なお方なのだ」

 同情を誘う手に来たのかと、オレは身構え……じゃない心を構える。

 目隠しされ顔を伺えない男爵は、黙って耳を澄ませてオレの反応を待っていた。やはり、そういう手だったか。

 アテが外れたアトラクタは、話しを続ける。


「始まりは……殿下の肌に現れた聖痕スティグマだった」

 聖痕?

 アレか……。たしかヴァリエにもあった古来種の奴隷の印だな。中位種チュードナーの成りそこないというか、なんというか――。的確な表現が浮かばないが、そんなところだ。

 そういえば何度かヴァリエに、聖痕込めたパンチでぶっ飛ばされたな。思い出したら腹立ってきた。2回目のヴァリエはオレを殴ってないので、仕返しが出来ないのがもどかしい。


「なぁるほどねぇ……。確かに王家の人間に聖痕が出てきたら、そりゃ問題だな」

「いや、それは小さな問題だ。今になってしまえば……だが」

「ほう、そりゃ大変だ」

「そうだ。陛下も、我々臣下も、頭が割れるほど痛い大きな問題となった」

 アトラクタ男爵は回りくどく、それでありながら興味を引く話し方をしてきた。さすが頭を使うしかなく、書類処理と口先に長けた法服貴族だ。こういうヤツらは、階段を降りるにも頭を使うんだろうな。逆立ちで、頭を打ち付けながら――な。


「最初のうちこそ聖痕は服で隠せた。いや、服で隠せる範囲にばかり現れていた。だが、そのせいでディータ殿下は服も着れないお姿になってしまったのだ」

「えーと、それはなに? オマエと同類ってことか? おい、コラ。ふざけんなよ」

 急に落差があったので、ツッコミの反応が遅れてしまった。

 ヴァリエのソレもそうだったが、聖痕は露出させることによって効果が高くなり、服などで覆うと効果が激減してしまう。

「茶化すなっ!!」

 彼の表情はやるせない顔。そんな顔と怒気に圧倒され、オレは言葉を返せなかった。

 てっきり、聖痕を露出させまくりたい姫様を想像して言ったら、アトラクタ男爵は烈火の如く怒らせてしまったようだ。


「……年頃の娘が着飾れぬ。それがどういうことか考えて見るがいい」

 そうか。

 やむえぬ事情があるのか。全く想像がつかないが。しかしオレは性分から反論、いや逆らいたくなる。


「知らねーよ。勿体ぶって説明省いてアンタが言ってるから、どうしたって妙な話にしか聞こえねぇんだよ。それから、同情を誘おうとしたってダメだ。世の中には、ボロしか着れず着飾れないヤツがいるんだぜ。薄汚れた裸で、うろついてるガキだっている。下を見ればいくらでもな」

 姫さんの苦悩は少しは推測できるが、はいそうですかと言うのはオレらしくない。

 貧しさや戦乱、環境のせいで服をろくにきれない子供というのは存外多い。一度目の人生で何度か目撃してきた。


「ふ……」

 そんなオレの浅はかな虚勢を見抜いたのか、アトラクタ男爵は鼻で笑って見せた。


「何も分からぬのだな。そのような子であろうと、いつかは綺麗な服を着れると想像するくらいできるだろう? 事実、そのような子も奉公にでるなり、不幸にも身売りされるとしても立派な服を着せられる可能性はある。それにな、貧しいなりに心と知恵が豊かな者は、煮沸した泥で染めたり直しの箇所をシャレて飾るなどする。これはこれで悲しいことだがな――。しかし、それすら叶わぬ者の気が知れるか? 周囲は飾り立てられた宮中の者たち。そして本来ならば享受されるべき存在でありながら、得られぬもどかしさが!」

「……だから事情が分からねぇって言ってるだろ。回りくどい話し方しやがって」

 これだから役人は――。いや、アトラクタ男爵がそういう性格なのか。


「で、どうして服が着れないわけ? で、アンタのその姿となにが関係あるわけ?」

「……殿下には服を着るべき身体が……ないのだ」

 あまりオレは、その事に驚かなかった。オレ自身が、部分的に経験しているからだ。


「はじめは聖痕の刻まれた箇所だけ、ぽっかりと黒く失われた。やがてそれは広がり、黒いモヤすらなくなり、空間だけとなる。今の殿下はお顔とお髪と手首から先、それと腿から下しかないのだ。肩が残っているころならば、吊り下げるように身体を模ったワイヤー入りの服をお召しになることができたが、今では首すらなく……」

 ふと『極彩色の織姫』ならばと思ったが、アレは身体の部分部分からでる魔力を辿って服を着せているので、欠損した場所はどうにもならない。まあ着せてもずり落ちるか、それを防いでも身体の形を成さず洗濯物のように風で吹き流しってなるな。


「そんなディータ姫の姿を、ワシの娘が憐れんでな。姫に合わせて服を着ずに付き合うとしたのだ。だが、娘だけをそのような事をさせてはいかぬと、私も脱ぐことにしたのだ」

「そんな理由で脱ぐようになったのか。つか、もしかして今の宮中で姫様の周りは全裸なの?」

「いやさすがに私を入れて3人だがな」

 ショックを受けると同時に、自分がどうして脱ぐかまでの話が長かったな。

 あれ? 

 途中の話が本題か。ん?

 なんでオレはコイツが全裸になる行程とか、宮中全裸模様を気にしてたんだ。


「つかさぁ、側近とか近習とかならわかるけどよ。アンタは上級とはいえただの官僚だろ? 付き合う必要ねぇじゃん」

「愚問だな」

 オレの疑問を愚問と下し、アトラクタ男爵は鼻で笑う。


「それはワシが王家のためにならば、法を着て服は捨てた男だからだ!」

 ロウの元、アトラクタ男爵は言った。


「最悪、法は捨ててもいいが服は脱ぎ捨てるな!」

 オレは一度目の人生で法の外側(アウトロー)だったが、服はアウトしない!


「そんな時だ! 姫様がお前を見たのは!」

 どんな流れだよ。どんな時だよ。どんな話だよ!


「古来種騒動の時、王都上空で暴れる貴様を姫様が見たのだ」

「……オレのあの姿を見たのか」

 あの時、オレは古来種の力を一部得て、両手両足が分離した状態だった。腹も一部なかった。


「そうか。それでお仲間だと思ったのか」

「うむ。貴様のところに届いたラバースーツがあっただろう。あの光景を見た殿下がお送りしたものだ」

「あれは姫さんが送ってきたのか。意味がわからん? なんでそんなものを届ける?」

「一時、殿下はあのラバースーツで、聖痕による肉体消失を抑えていたのだ。貴様に送ったのは男性用の物だが……。せっかく同じ境遇であると思った姫が、お送りしたのに貴様は捨ておってからに……」

「説明書でも入れて置いてくれよ」

 そうは言われても、そんなモノと思わなかったし。

 いや分かってても着なかったが。


「しかも送り主の名前まで、ド・ロンシャン伯とかにしやがって。イタズラとしか思えねぇよ」

「ド……ロンシャン?」

 事情が呑み込めない様子で、アトラクタ男爵が聞いてきた。

 もしかして違うのか?


「送り主がド・ロンシャンってなってたぞ」

「そんなはずでは……。ワシの名になっていたはずだぞ? そちらから連絡をよこすだろうから、そこで説明しようと思っていたのだ」

 こちらから連絡させるように手を尽くしたのはわかる。王家関わる内容だから、手紙に残すわけにはいかない。オレが問い合わせてから口頭で伝える。確かにこれなら秘密が漏えいしにくい。

 だが、送り主の名が変わっているというのはどういうことだ?


「よもや――書き替えられたか?」

 アトラクタ男爵が一つの推測を上げる。


「……まだ関わってるヤツがいるということか」

 オレも一先ず同意した。


「まあいい。この件はまた別に調べよう。それからオマエらの忠誠は、まあ一応なんとなくだが理解したさ。お話としても面白かった。拝聴させてもらったよ。だがな。オレはここでオマエラが何をしていたのか気になるんだよ」

「……そこに祭壇があるだろう。上が棺のように開く。開けて見るがいい」

 顎で指し示す方向に、石を骨で装飾した祭壇があった。よく見れば上部が動くように仕掛けがされている。

 罠である可能性もあったが、好奇心が勝った。


『巨人の田牛』

 オレは遠距離から魔法を放った。暴風に吹き飛ばされるように、骨と石で出来た祭壇上部が吹き飛ぶ。

 柱や天井に激突し、装飾を破壊しながら蓋が落下する。


「おい、壊すなっ!」

 アトラクタ男爵が遺跡開発局局長として怒った。


「す、すまん……て、う、うるせーな。静かに開けろって言ってねぇだろ」

 冒険者として思わず謝ってしまった。見た目に反して、意外と軽かったので棺の蓋が高く飛んでしまった。


 覗きこむと、そこには巨大な地下空間があった。そこに整然と並ぶ白い何か見える……。

 白いが骨ではない。

 整然と数多の裸の遺体……いや肉体が、透明な樹脂に包まれ重なり並んでいた。

 見えない数百という多段ベッドに、大勢の人々が眠っているかのような光景だ。


「なんだ……ここは?」

「古来種の墓場……いや、高次元に去った古来種が身体を残していった、肉体のゴミ捨て場か……」

 アトラクタの説明を受け、オレは久方ぶりの恐怖を感じた。

 古来種は高次元に行くため、肉体を捨て去ったということか?


「古来種は精神だけで高次元に……?」

「そういう事らしいな。そして、問題は……ザルガラくん。もっとも浅い層の――、ちょっと北を見てみろ」


 言われて視線を向けると、そこだけ妙な肉体があった。

 小さく白い――。

 頭部と手首から先、そして腿から下のない少女の真っ白な身体が収まっていた。


「まさかアレが?」

 振り向きアトラクタ男爵に尋ねる。きっとこの時、オレの顔は蒼白になっていただろう。


「それが失われた姫様の御身だ」

 つまり――。


「ゆっくりとだが……ディータ姫殿下は、古来種と同じように高次元へ去りつつある」


田牛→たのうし→たのもう

江戸時代の人のセンスって……好き!


タイトルまでファンタジーにあるまじき仏教用語です。


5/20 誤字修正

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