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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第3章 憧憬と真贋

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ヴァリエの話をしよう。 (挿絵アリ)

ヴァリエの話をしよう。

 ヴァリエの話をしよう。

 

 魔法学園の生徒で、アザナを知る者たちは口を揃えて言う。

 アザナの取り巻き女子の中で、もっとも変人なのは『ヴァリエ・ラ・カヴァリエール』だと。

 もちろん、アザナもなかなかの変わり者だが、ヴァリエも負けてはいない。


 見た目は三つ編みで優等生。印象は地味だが存在感のある女の子。

 しかし、ひとたび動くと苛烈の一言。特に戦いにおいては、取り巻きの中でとりわけ抜き出ている。

 取り巻きの中で魔法の実力者と言えば、ユスティティアとアリアンマリだが、こと戦闘となればヴァリエには敵わない。

 純粋な強さとしてのアザナに次ぐ。もしアザナが近接戦闘だけで試合を挑めば、もしもの遅れを取る可能性がある相手。それがヴァリエだ。

 

 そのヴァリエは、王都内に残された原っぱの中で静かに集中し、両手両足に刻まれた魔法陣を発動させた。

 

 彼女の身体には、聖痕スティグマという魔法陣が生まれた時から刻まれていた。


 かつて古来種カルテジアンたちは力で人類を隷属させ、一部を中位管理者に改造チューニングした。その際、改造対象者の身体に魔法陣を刻んだ。

 特に優秀な者や古来種に気に入られたものは、上位種へと調整された。

 刻まれた魔法陣は、改造の証である。

 良く言えば勲章、悪く言えば「お気に入り奴隷の印」だ。


 当時こそ中位種は中間管理者として活躍したが、古来種がいなくなると状況が変わる。

 古来種というバックボーンが無くなり、権威と権力を保障してくれる者がいなくなった。中位種としての力だけが残り、下位種たちは積極的に従う必要が無くなった。

 反旗を示す下位種と、継続して支配しようとする中位種で争いもあったという。

 現在残る貴族の大部分は、このような人間を改造した中位種を祖としている。

 

 ヴァリエは先祖返りともいえる存在だ。

 中位種に改造された人間は、管理者の家系となるべく、刻まれた魔法陣が子々孫々へと受け継がれるように調整されていた。しかしながら古来種が去り、調整が無くなったため年々と継承される事が少なくなっていった。

 一万年経った現在では、【精霊のダイアレンズ】など極一部の能力を除き、聖痕を持って生まれる子は皆無である。

 

 そんな中、ヴァリエは聖痕を持って生まれた。

 彼女の聖痕を家族は気にしなかったが、大きくなるにつれてヴァリエは人の視線を恐れるようになった。

 タイツとゴーントレット(防具ではなくレース装飾としての)で肌を隠し、極力人目に晒さぬよう生活してきた。

 彼女がアザナと出会ったのは、そうした生活が板についた頃だった。

 アザナは興味本位という顔でヴァリエに接触してきた。稀にいる研究者気質の人間のソレだ。

 しかし、アザナのような幼い者が研究者顔で接触してくるのは珍しかった。


 研究者に偏見がないとは言わない。しかし、研究者は好奇心を満たすために偏見があってもそれを乗り越えて、その先を見て知識を深めたいという欲求がある。つまり後天的な理由で、ヴァリエを避けない。

 だがアザナは違った。もっと原初的な好奇心――。憧憬の目でヴァリエに言った。


「おおっ! かっけぇっ!」

 ちょっとした油断で肌を見られたヴァリエは、肌を隠す事も忘れてアザナの反応に戸惑った。

 古来種の残した聖別の証として、聖痕を崇めようとした人はいたが、ごく単純にカッコいいと言い出したのはアザナが初めてだった。


 ――でも、どうせ他人事だ。

 他人の身体に刻まれたものだから、気楽に言える。ヴァリエはそう思った。

 

 しかしアザナは自らの身体に聖痕スティグマを刻もうとした。

 自分に刻もうとしたことは、忌避感を全く持っていないということだ。

 幼さゆえの浅はかな行為かもしれない。だが、なによりまず前提として、アザナは自分の身体に聖痕ソレが刻まれ残る事に、全くこれっぽっちも忌避感を持っていないという事である。


 ヴァリエはアザナの行為を止めた。

 アザナという女の子?の綺麗な身体に、自分と同じものが刻まれるのは許せなかったからだ。


「えー、なんで? お揃いになれるのに」

「ダメよ。私のマネなんてさせない」

 投影魔法陣を自らの柔肌に押し付けようとしたアザナを抑え、ヴァリエは微笑んで約束した。


「もし刻むなら、私が出来るようになってから、私がしてあげます」

「そっか! なるほど! 自分で刻むと、結局は自分の力で聖痕を使うことになるけど、ヴァリエにしてもらえばヴァリエも制御できるし、魔力の共有もできますね!」

 まるで自分の身体も、実験対象と思っているような研究者の発言だ。しかし、この言葉にはもう一つの意味がある。

 ヴァリエに聖痕を支配されても構わない。

 という、諸手をあげたような信頼だ。


 恋に落ちた時を思い出しながら、今となっては恥ずかしくない聖痕を使って戦いに挑む。

 聖痕を最大限利用するため、戦いに於いてヴァリエは出来るだけ肌を晒す。

 今のヴァリエは、ほとんど下着姿のような恰好である。

 安心してください。もちろん下着ではない。

 上は伸び縮みする素材の半袖。ヘソや腰付近にある聖痕を利用するため、身体を伸ばせば露出するように裾丈は短く、たぼたぼで固定していない。下は下着に重ねて、もう一枚黒い履物を着けている。

 大人しい顔の彼女には似使わない姿である。


 一応断っておくが、イシャンとその愉快な仲間たちである【素衣原初魔法研究会】の目的とは違う。これは重要である。脱げばいいというモノではない。

 さらに言えば、脱ぎたくて脱いだり、肌を見せたいから脱いでるわけではない。

 

 かつてこの姿を見たアザナが、はっとした様子で言った事がある。


「ソレ、なんだか……なんていったかな……。えっとそうそう、アレだ。昔あった【ブルマーの体操服】みたいだね」

「……? 時々、アザナくんは妙な事をいいますよね?」

 ヴァリエの好きなアザナは、時々わけのわからないを言う。呆れることもあるが、愛らしく思える時もある。いろいろだ。そのいろいろな感情が楽しくて堪らない。


 妄想しすぎたと、ヴァリエは居住まいを正した。

 地面を足で掴むように立ち、重心を落として大地と一体化する。

 

 その彼女を目指し、草原を掻き分け三つの影が高速で迫る。


 服を着たケモノ……。

 呪いによって人を止めざるを得なかった人狼ワーウルフたちだ。

 古来種は人類に好ましくない遺産をいくつか残している。

 その一つがこの手の【呪い】だ。

 人も魔物も道具としか思わない古来種たちは、環境や仕事に合わせて片手間で生物を改造する。やがて、いちいち改造するのが面倒になったのか、古来種は一体を改造し、周囲の同種も同じ改造が施されるようにした。

 それはまるで風邪のように感染し、一定期間を以て周囲の人間が改造される。

 ゾンビ化や人狼化は、その改造手段の一つだ。

 

 これは現代では【呪い】と呼ばれ、時折何らかの形で発動して災いをもたらす。

 【呪い】は設定された一定数に感染すると、それ以上は広がらない。 

 この一定数というのが問題なのだ。

 古来種がある種を100体用意しようとして設定し、たまたま80体の改造で終了してしまっていると、一万年の時間を跨いだ今でも「後20体」に感染しようとする。

 幸い【呪い】の解除は簡単なのでよいのだが、【呪い】に気が付かなかった場合は不幸である。


 今、ヴァリエに襲いかかろうとしている人狼たちは、こうした被害者だ。改造が完了してしまえば、もう救うことはできない。


 ヴァリエは心を水面のごとく静かに保つ。動かない彼女を獲物と見たのか、よだれをまき散らして、旋回する人狼。速度を落とし、周りこむ人狼に歩調を合わせる正面の人狼。


 格闘は人間を相手にすることを想定している。四足歩行で迫る人狼には分が悪い。

 

 ヴァリエの脚線美に刻まれている聖痕が光る。そして一歩前の地面を踏みつけた。

 途端、爆発したように彼女の足元が輝き、衝撃を放って人狼たちの顎を跳ね上げた。下手な犬のちんちんのような体勢で、三体の人狼は動きを止めた。


 ヴァリエは左の人狼に手を伸ばす。彼女の目に刻まれた聖痕が光る。

 人狼とは、人間に狼の特性を無理矢理付与したものだ。骨格の一部に無理がある。それを瞬時に判断し、身を起こした人狼の手を引いた。つま先立ちと引かれた手のつり合いが崩れ、人狼のヒザに負荷がかかった。

 手を引かれた人狼は、全ての間接が固まったように硬直した。重心を制御できず膝に体重がかかり、一瞬だがいかなる方向にも身体を動かすことが叶わなくなった。

 これを見逃さず、ヴァリエは固まった人狼の脇の下に滑り込む。そして掴んだままの手を引き下ろし、腰で人狼の太ももを払った。

 それだけで人狼の身体は跳ね上がり、半回転して正面にいた人狼に向かって衝突した。

 

 ヴァリエの左手に刻まれた聖痕が光る。

 ここでトドメの一撃が、折り重なった人狼二体に向けて放たれた。アザナの魔力弾に匹敵する衝撃が、二体の人狼を突き抜けて意識を断った。


 残りは一体。

 すでに体勢を戻した三体目の人狼だったが、仲間がやられる姿を見て思わず怯んでしまった。これを逃すヴァリエではない。

 

 丹田に刻まれた聖痕が光る。ヴァリエは前に倒れるようにして、四足を付く人狼にも負けぬほど低い体勢となった。遅れて衝撃が人狼の背を襲う。

 人狼は一歩離れているのに、倒れるように手を付いたヴァリエに押しつぶされたかのような光景だった。


 戦いは終わってしまった。

 傷一つ負うことなく、戦いに勝利したヴァリエはゆらりと立ち上がると――。


「うふふ……。そろそろ不意打ちでなら、アザナ様を押し倒せるかもしれませんわね」

 普段の優等生姿からは想像できぬ、いやらしい笑みを浮かべながら両手をわきわきとさせた。


「あいててて……。そういうのはやめてくださいよ、ヴァリエお嬢様ぁ」

 押しつぶされた人狼が身を起こして言った。


「思っていても口に出さないでください。女の子なんですから」

「それから、いくらわたくし共が頑丈で不死身とはいえ、本気で殴らないでください。ヴァリエ様」

 絡まって殴られた人狼たちが、頭を押さえながら立ち上がる。


挿絵(By みてみん)


 さて説明しよう。

 たった今、ヴァリエによって痛い目に遭わされたのは、シンフォニー三兄弟という人狼家族である。

 彼らは人狼だが、悪漢でも理性のないケモノでもない。れっきとしたカヴァリエール家の家人である。それどころか陪臣ながら騎士位も持っている。

 三人を蝕む人狼化の呪いは、確かに古来種の残した負の遺産である。

 だが、人狼化しても人としての意識がなくなるわけでもないので、身体の変化に精神が負けなければ生来の気質を保つことができた。


 ヴァリエが一種の先祖返りであるためか、カヴァリエール家は【呪い】で改造されてしまった種族に対して偏見がない。有能で品性方正であれば、彼らのように家人として取りたてられることもあるのだ。

 フランシス・ラ・カヴァリエールが大隊長務めるとはいえ、さすがに王国騎士団には入れないが、男爵家で騎士位を戴き、こうしてヴァリエのサンドバッ……^h^h^h^h^h^h^h、鍛錬相手を務めている。

 

 ヴァリエは日頃から鍛錬を怠らない。シンフォニー兄弟だけではなく、騎士団の手ほどきも受けて、最近はめきめきと実力を付けている。

 カヴァリエール家は男爵家ながら古くから王都に屋敷を持ち、手入れの行き届かない裏庭は広い原っぱとなって、ヴァリエのちょうどいい鍛錬場となっていた。なお屋敷の周囲は、ヴァリエの自主鍛錬で踏み固められ草の一本すら生えない。


「おや? フランシス様が戻られたようですよ」

 耳を立て、シンフォニー長兄がヴァリエに報告した。さすが人狼。広い裏庭にいながら、聴覚は誰よりも優れている。


「珍しいわね~。最近、お仕事で戻られるのが遅かったのに」

 おっとりした女の子に戻ったヴァリエは、アザナが称したブルマ姿のまま屋敷へと戻った。その脚力は驚いたもので、人狼三兄弟の足にも後れを取らない。もちろん両足の聖痕を使っているのだが、彼女は素でも成人男性並みの速力を持つ。

 息も切らさず屋敷の玄関前までたどり着き、父の馬車を出向かた。


「お父様ぁ、お帰りなさい」

「……ああ、ヴァリエか。またそんな恰好で」

 馬車から降りたフランシスは、娘のはしたない恰好を咎めたが――


「そういうお父様こそ、また『老け』てますわ~」

 父の姿も決して褒められたものではなかった。

 頭を掻いて乱れたぼさぼさ頭に、弛んで皺のでる目元と頬。王国内のあちらこちらで、浮名を流すフランシスには到底見られなかった。

 

「ああ、ちょっと失敗してしまってねぇ」

 普段は20代と思われる彼だが、疲れて自宅に帰ると年相応と化す。気が抜けると、萎んでしまう風船のような色男。いや、今はくたびれた中年男だ。

 フランシスは魔法を使わず、気合のオンオフで外見年齢が大きく変わる。女性の前で若作りをするため、数年かけて編み出した特技だ。


「一体、何があったのですか?」

 特にひどい老けようだったので、ヴァリエは父の外套を受け取りながら訊ねた。


「……ヴァリエ。オマエの友人のアザナくん……。彼はザルガラくんと懇意にしてるかな?」

「え? あ、まあ喧嘩アレが仲良しの印ならそうかと」

「じゃあ、ザルガラくんの行く先、聞いてないか? 王都から離れてもらうように頼んだのに、つい行先を聞きそびれて――」

 有能な騎士団大隊長らしからぬ失敗だ。フランシスは時々、こうした抜けたところを見せる。ヴァリエの母は、そんなフランシスの少し抜けたところが可愛いと言っていた(過去形)。


「私は知りませんわー。ポリヘドラ家の使用人に聞かれては?」

「いまさらそれもねぇ――」

 父親の威厳もないフランシスは、淑女たちの前では見せぬようなマヌケ顔で、ぼりぼりと頭を掻いた。ヴァリエに取って父は尊敬すべき武人だが、娘視線から男性としての立派さを見たことはない。自宅では放っておくと無精ひげを生やして、ソファでごろごろする父なのだ。


「アザナ様は街にいるかと思いますが、探すとなると――。シンフォニーの三人がいればなんとか」

「なんとか頼めるかい?」

「それは構いませんが、ほんとうにどうされたのですか?」

 抜けた父の姿に慣れているヴァリエでも、少し心配になってきた。


「いやぁ……ね。監視対象が一斉に王都を出て行ってしまってね。ザルガラくんを追いかけたのかなぁ、やっぱり?」

「……お父様」

 本当に父が心配だ。

 情けない……と、ヴァリエは顔を覆った。



ヴァリエの話でした。


これを口にしたら‥‥戦争‥‥戦争だろうが!かもしれませんが

今回前面に出したのに、私は体操服とブルマの良さがいまいちわからないです。

こんな作品書いてるのに、フェチを理解できないなんてダメですね私。

とか言いつつ、ヴァリエ嬢の挿絵(下絵ながら)を入れる。

間に合わず未完成なので聖痕スティグマ無しです。

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― 新着の感想 ―
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