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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第3章 憧憬と真贋

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二つの暗躍

 

 青年たちが話を聞いてもらう代わりに、夕食を奢ってくれると申し出たので、少し早いが言葉に甘えて頂くことにした。

 青年の代表はボスト。王都から南にいったところにある農村の5男坊だという。他の2人も似たようなものだ。

 自己紹介をしてオレの名前に余計な反応をされるかと思ったが、こちらにまでは噂は広がっていなかった。怪物としても、知られていない。この間まで、農家の5男じゃそんなもんだろう。


「物資不足なんだ。出来れば余った薬を譲ってもらいたいんだけど……」

 ボストの切り出した内容は、薬の買い取り申し出だった。


 冒険者は遺跡へ入る前に魔法陣の上を通過して、持ち物を検査される。

 遺跡を出る時に、また魔法陣の上を通過し、探索で得た差分が開発局に知れる。

 手に入れた物で、コアなど一部は遺跡開発局が必ず買い取ることになっている。

 遺跡内で手に入れた核や一部指定物を、管理事務所を飛ばして売買するなら違反だが、それ以外のならば問題とはされない。

 

「どんな薬でもいいってわけじゃないだろう? オレたちも、なんでもかんでも作れるってわけじゃないぞ」

「それが……どんな薬でもいい状態なんだ」

「薬そのものが手に入らないのか」

 冒険者で薬学や錬金術を修めている者は少ない。学者ならいるだろうが、研究が先で小遣い程度の薬作りはあまりしないだろう。

 だが開拓間もない地が物資不足にならないようにと、商人が(金儲けのため)せっせと売り込みにくるのに薬はないというのはおかしい。


「つまり需要があり過ぎるということか」

 交渉で優位に立つための一つに、相手のことをつるっとまるっとオミトオシってのを知らせるという手がある。それをやって見せると、ボストたちは仕方なさそうに互いの顔を見て頷き合う。


「そうなんです。今は墓地区画に冒険者が行くことが多くて、薬関係は買い占められてしまってる状態で……」

「そりゃ管理事務所もそっちを優先するだろうしな」

 腐敗毒やマミー(ミイラ男)の呪いを、冒険者街に持ち帰られても困る。ましてや、帰ってきた冒険者と最初に接触するのは管理事務所の職員だ。自分たちの安全のために、優先して冒険者に薬を流し、自らも備蓄しておくだろう。


「そっか、アイツが薬を手に入れにくかったのは、こういう理由か」

 オレは一人心地に呟いた。

 ありふれた薬で治るはずなのに、ターラインの娘がゾンビ化の呪いに倒れた。ゾンビ化の呪いは珍しいものなので、てっきり症状に気づかなかったか、別の治療薬を与えてしまったのか思っていたが、どうやら薬そのものが少なかったらしい。

 いよいよもって、薬を作る理由が出来てたな。


「ねえ、ザルガラくん。薬をつくってあげようよ」

 ペランドーが親切心を持ちだしてきた。


「ん~、そうだな。2人で作るから――。と、いっても道具はそんなにないから出来るものは限られるぞ」

 基本的なモノは、台所用品でできる。錬金術とはそういうものだ。戦地でも生産できるようにと、工程をすっ飛ばしても作れる薬なんてものもある。

 そうした手段を使えば、作れる薬が増える。


「それでもいいんです。少しでも安心できれば……」

「まあ、不死系の魔物関係に絞れば、ある程度数は用意できるか……。そうだ。オレたちは明日、薬草取りに行くつもりだから、その間にそっちで薬瓶やら薬包の紙、それから作業場は用意してくれよ」

 いちいち容器をこちらで用意していたら時間が取られる。


「わかりました」

「あと薬は適正価格で引き取ってもらう」

 ボストたちは苦虫を噛み潰した顔をした。自分たちで弱みを見せて頼み込んで、オレたちの善意に期待したのか?

 甘いというか、図々しいというか……。


「こちらで瓶を用意するのにか……」

「需要が多いってことは、価格その物が跳ね上がってるんだろ? ならその差額をそっちが負担する消耗品分で相殺ってことだ。うまくそっちが用意できる消耗品を節約できれば、適正価格の薬が手に入るんだぞ」

 つまりボストたちは、頑張れば差額分を得できる。都合よくいくとは限らないが、ビンを誰かと交渉して安く手にいれるか、必死にゴミを漁って薬の入れ物を準備できれば、労力を払って安く手に入れられるわけだ。

 重ねていえば、価格が跳ね上がってる今なら、オレたちの作った薬を売り払えば差額分が儲かる。


「……う、わかった」

 ボストは渋々、というのを強調する同意を見せた。

 少しイラっとした。さっきは「わかりました」なのに、「わかった」になりやがった。さっき儲かる手順をそれとなく言ったのに、それがわからないのか、それとも最初から横流しで儲けるつもりだったのか。

 どちらにせよ、コイツらに優しくしてやる必要はない。


 ティエにそれとなく視線を向けると、「それでよろしいかと」という頷きを見せた。

 あとはペランドーなのだが――、なにか考え込んでる様子だ。


「……簡単なモノなら自作できるように教えたらどうなの?」

「っ! いいんですか!」

 ペランドーの爆弾発言で、ボストたちの顔が明るくなった。


「お、おいおい。安くしてあげよう、とか言い出すかと思ったらさらにその上の意見を言い出したな、ペランドー」

「わ、悪かった?」

 ペランドーはソフィにこき使われた件で、懲りてないようだ。まだ技術料とか知識料とか分かってないのか。


「いや良い事さ。甘いモノがいつも上から降ってくる、なんて考えてるような甘っちょろいヤツらの世間的にはな」

 皮肉たっぷりにいうと、さすがにボストたちも分かったようだ。露骨に不愉快そうにオレを睨む。


「な、なんでそこまで言われないといけない! 僕たちは一生懸命働いてるんだぞ!」

 ボストはテーブルを叩く。他の二人も同調しているようだが、少し怯えが見えた。

 せっかくの飯がマズく感じてきた。


「他領の人間に優しくできるほど、聖人聖者じゃねーよ、オレは。いや、オマエらは開拓者だったか。農村にまだ籍があるかもしれんが、今のところ宙ぶらりん。一歩間違えれば流民か?」

 この言い方で、さすがのボストもオレがどういう立場の人間か分かってくれたようだ。震える拳を隠して、わびを入れてきた。 


「……分をわきまえず、都合のよい要求をして申し訳ありません」

 反骨精神も度胸も、図々しさを隠して通す狡猾さもない。開拓者がみなこうだとは思わんが、ここの開拓は心配だな。

 細かい買い取り額の設定は、こちらで決めることになり、ボストたちは食堂から立ち去った。最後まで付き合わないところをみると、わだかまりがあるようだ。

 この行動が当てこすりなのか、気が付いてないのかわからん。まさかあれで、開拓団の青年団長ですとかいいださないだろうな。


 食事を終えたオレたちは、ターラインの宿へと戻った。

 素泊まりの店なので、傭兵たちも食事に出かけてしまったようだ。


「ヤマン、早いお帰りだな。うちは見てのとおり凝った食事は出せないぜ」

 ターラインが夕食の心配をしてくれたようだ。


「大丈夫だ。早いけど食ってきた」

「そうか。よかったよ。さっき入った傭兵が数人、体調不良で出かけられなくてな。軽いモノをレターフしてやるんで、数が用意できないんだ」

「なるほど、そういうことか」

 なるほど、そういうことか。アンは食事を部屋に持っていくのだろう。それで接触が増えて、呪いが移りやすくなったわけだ。

 

「うつったら困るな。なんの病気かわからんが、薬を作る予定があるんで、いくつか譲ってやろうか?」

 オレはさも心配だという態度で、薬を自然に譲り渡す理由を作り出す。これにターラインは肩を竦めてみせた。


「はは、それは宿代との釣り合いがリスポンスだな。こっちはサーフだ。気持ちだけ受け取っておくよ」

 ターラインはボストほど図々しくはないらしい。タダより高いものはないからな。


「ははは、宿が気に入ったら安く譲ってやるよ」

「そりゃ困った。こりゃぁファンビリみたいに対応してやらないとな」

 ま、そんなにサービスされなくても安く譲るけどな。

 傭兵の方は仕事があるから、薬を適正価格で買ってくれるだろう。買わないようなら、深夜にでも気絶させて飲ませる。絶対に飲んでもらう。

 ターラインとそんな約束をして部屋に戻ると、ちょっとした問題が起こった。

 バッグの上に踊っていたタルピーが、急に止まってオレに聞いてくる。


『ねえねえ、ザルガラ様。アタイここにいていいの?』

 何を今更――と、言おうとしたが、ペランドーを見て気が付く。

 気が付かれぬよう、荷物を整理する振りをしつつタルピーに小声で言う。


「タルピーはティエの部屋にいてくれ。さすがにここにずっといると、ペランドーでもオマエに気が付くかもしれない」

 精霊は自然環境により長期間眠りにつくことはあるが、人間のように時間で夜は寝るという生活サイクルではない。タルピーは深夜に一人遊びしていることがある。

 荷物で積木でもされたら、朝にペランドーが幽霊が出たと言い出しかねない。


『わかったー』

 タルピーは快諾して、窓から出ていき隣りの部屋にいった。

 これで一安心だ。


 あとは明日に備えて、ゆっくりすることにした。


   *   *   *


 【霧と黒の城】冒険者街の片隅で、開拓者が集まる一角があった。

 粗末テントと資材だけが並ぶ場所で、若い男たちが炊き出しで夜の暖を取っていた。


「どうだった?」

 開拓者の一人が、食事を取るボストに尋ねた。


「ああ、メシを奢った分が痛いよ」

「そうか……あまり芳しくないか?」

「まったく、子供の癖に生意気なヤツラだったよ」

 ボストは暖かい料理が冷めないうちと、話を切り上げて掻き込む。

 

「こうなると、転売でしばらくの資金を稼ぐ手は失敗か」

 開拓者は深いため息をついた。


 遺跡の解放エルレーゼンが遅れる。


 それは早期開拓者の財布を圧迫する事になる。土地が無いわけだから、家を建てられないのだ。だからといって、遺跡の範囲外に家を建てて畑を作るわけにいかない。それでは所有権を認められない。

 しかも後からくる開拓者がいて、解放直後の場所取りが激しくなる。早めに来たことが裏目になるのだ。

 ボストたちの計画。魔法使いの子供を使って、当座の資金を作る手。これは上手くいきそうになかった。


「仕方ない。またしばらくは冒険者の手伝いで凌ぐか」

「ああ、なんとかなるだろう――ん?」

 食事を終えたボストは、妙な集団が遺跡に向かう姿を見咎めた。

 みなマント姿で、森の中を滑るように駆けていく。

 興味を引かれたボストは、自然と腰を浮かせる。


「関わらん方がいいだろう……」

「――そうだな」

 開拓者仲間に窘められ、ボストは腰を下ろした。


「じゃあ、空のビンでも冒険者から買い取ってきますか」

 ボストは念のため、マントの集団から離れるように冒険者街へと向かった。


   *   *   *


 翌日、早めに起きたオレたちは、準備万端にして霧と黒の城へと向かった。


 オレとペランドーは杖を装備。自分たちで魔法防御を施した皮鎧。ペランドーの新式魔法を刻んだ皮鎧は、古式魔法で強化したオレのと見比べたら見劣りする。だが、それでもこの冒険者街でも一、二を争う鎧となっているだろう。


「つか、おい。なんで見えるところに魔法陣を書きこんでるんだよ」

 ペランドーの肩やら脇やらに、防御や軽量化の魔法陣が見て取れた。アレでは、分かるやつにはどういう魔法かバレるし、最悪オレみたいなヤツに書き換えられる恐れだってある。

 だが、ペランドーの言い訳を聞いて、オレは反省することになる。


「え? だって、もっといい魔法を使えるようになったら、書き直さないといけないし――」

「あー、悪い。そういえばそうだな」

 いきなり世界最高クラスの魔法を付与できるオレとちがって、ペランドーは成長段階である。バラシて書き直すような場所に、魔法陣を仕込んだら後が面倒だ。

 今のところココの遺跡探索範囲で、敵が魔法使いということはまずない。だから、ペランドーのやり方は特に悪いわけでもないな。


 予備の武器に、オレは手槍。ペランドーは槍を背負っていた。最初は何故槍なのかと思ったが、いざというとき棒替わりに竿替わりにと、いろいろ使えると言われて納得した。なんか、ペランドーの方がしっかりしてるような気がしてきたぞ。

 負けるな、オレ。


 ティエは自前の装備だ。胴鎧は騎士らしい金属製で、後は補強した皮鎧などと軽装である。盾はオレが片手間に古式魔法で強化しておいた。

 立派な腰の長剣は、祖父のくれた業物である。


「どんどん増えてくるね」

 霧と黒の城へ向かう道、宿や野宿から冒険者が集まってくる。やがて、オレたちはその中に埋没していった。

 子供だからと邪魔にされるかと思ったが、そんなことはなかった。

 誰もが必死に前を見ている。

 もしくは警戒の目を向けてくる。

 邪魔をしなければ、彼らは前に進むだけでオレたちなど気にしないのだろう。

 持ち物検査の魔法陣を通過し、遺跡の門前までくると、どこにこれだけ人がいたのかという数の冒険者がいた。


「多いな――」

「うん……」

 冒険者の数に圧倒された。

 200人はいるだろうか。

 犇めき合い、怒号を上げながら場所取りをしたり、小競り合いが起きている。

 門が開いたら、一斉に雪崩れ込むつもりなのか?

 周囲の冒険者たちが、あまりにも必死なのでオレは距離を置く。ペランドーもオレに習って冒険者の群れから抜け出した。


「最初ですし、無理をなさることもないでしょう。少し様子を見てから入るのもよいかと」

 ティエはオレの判断を評価した。

 いや、前が見えなくて不安になっただけだ。なにしろ今は背が低いからな。大人に取り囲まれると息苦しい。


 こうして冒険者の群れから出ると、彼らの必死さがさらによく見てとれた。


「いくぞーっ!」

「「「おーっ!」」」

 群れの片隅で、戦士たちが円陣を組んで気合をいれていた。

 リーダーの声に合わせ、若い戦士たちが声を張り上げる。


「せいっ!」

「「「えいっ!」」」

「せいっ!」

「「「えいっ!」」」」

「せーいっ!」

「「やーっ!」」「やー…」

「コンノてめーっ!! 遅れてんぞ!! なんだその声っ!!」

「すんませうがっ!」

 タイミングがズレた若い戦士に、リーダーの男が殴りかかった。精神注入とか言ってるが、鉄の籠手で殴ったせいで、若い戦士の目の上が切れている。

 おいおい、冒険始まるまえに大怪我してるじゃねーか。

  

 反対側を見ると、口ケンカを始めて一触即発のチームまでいた。


「見て見て、ザルガラくん」

「ん?」

 ペランドーがオレの肩をつつき、冒険者の集まるところから離れた場所を指差した。

 そこには1人の鬼のような面当てをした異国の戦士がいた。

 石に腰かけ腕を組み、微動だにしない。自然と同化してしまいそうな雰囲気すら持っていた。

 彼の周囲だけが喧騒から離れ、結界でも張られたように静謐せいひつだ。

 そこからは練られた魔力まで感じられる。


「すごいね、古強者ベテランって感じだ」

「ああ、オレたちも見習って、ゆっくりと行くか」

 そうこうしているうちに、遺跡の門が解放された。この門は遺跡の本来の門ではない。

 遺跡開発局が管理するために後付した鉄の門だ。本来の門は仮設の門の手前で、開け放たれたままになっている。アレを閉めると、また開けるのに一苦労するからだ。


 一気に雪崩れ込む冒険者たち。各々三方に散らばり、霧の残る遺跡内へ消えて行く。

 見たところ、やはり右に――北へいくヤツらが多い。墓地の遺品狙いだろうか。まあ金持ちの墓地でも当てればデカイだろうしな。


「ぼくたちも行こう!」

「おう」

 ペランドーに言われ、オレも身を正した。


「では、私が先に」

 トップはティエだ。剣の腕はオレより高いしな。

 ……そういえば、あの異国の戦士はどうしてる?


 ふと視線を向けると、彼はまだ静かに座っていた。

 しかし、何かおかしい。

 鬼の面がゆっくりと――前後しているような――。


「ぐー……んがっ……」

「寝てるのかよ!」

 異国の戦士はイビキをかいていた。


「むっ! もう開いたのか! いかんいかん!」

 オレのツッコミで目を覚まし、異国の戦士は剣を引っ掴んで遺跡へと駆け出した。


「……ある意味、大物だね」

「そうだな」

 意外と達人かもしれないし、あの鬼の面は憶えておこう。

 どうしよう、無駄になったら――。


「……大丈夫なのかぁ? ここの遺跡開発」

 オレはそんな感想を洩らしつつ、記念すべき探検の門を潜った。



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