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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第3章 憧憬と真贋

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遺跡開発

 

 冒険者と、学者と、開拓者。


 エウクレイデス王国で、これらの人々が一同に会する場所がある。

 遺跡開発局管理所がそれだ。


 この冒険者街にも、遺跡開発局の【霧と黒の城】管理事務所がある。


「相変わらず、管理所だけは立派な箱を作るぜ」

 オレはレンガ造り三階建ての管理事務所を見上げ、偉そうにも皮肉を言ってみた。


「ザルガラ様。他の管理事務所をご覧になったことが?」

 ――あ、やべ。

 今のオレは遺跡に行ったこともなかったんだった。ポリヘドラ領の遺跡は開発終わってるしな。


「いや、王都に管理事務所跡がいくつも残ってるだろ?」

「確かに……でも、大部分が他の施設に入れ替わってるので、それと分かるようなものは……」

「あー、学園の授業であったんだよー。王都の街の歴史を遡って調べるのが」

「あったっけ?」

 間髪入れずペランドーが疑問を挟む。

 なんでこんな時に、的確な超反応を示すんだよ、オマエは!


「いやいやあっただろ? 王都図書館の資料閲覧と纏めの実習で」

 本当は王国の歴史を集め、自分たちなりに纏める実習だったが。


「あったかなぁ? 王国の歴史を調べたような……」

 そういえばそうだったかなとか言ってくれよ、ペランドー。

 ティエの視線が突き刺さる感じがするんで、そっち見れなくなってきたぞ。


「じゃ、じゃあアレだ。グループごとに与えられた課目が違ったんだな。オレのグループは街の歴史だったんだよ」

「なるほど、そうかぁ」

 やっと納得してくれた。


「あれ? ぼくはザルガラくんと同じグループ……」

「おおっと、玄関前にいたら出入りの邪魔だ! 入ろうぜ!」

 オレは慌てて誤魔化すことにした。実際、さっきからオレたちを邪魔そうに見て、出入りしている人がいる。

 なんか、ティエが無言なので怖い。


「わあ、人がいっぱいいるね」

 ペランドーはうきうきした様子で、事務所内を見渡し言った。

 閑散としていた冒険者街に比べ、事務所内部はあらゆる人でごった返していた。


 夕刻近くということもあり、遺跡から帰ってきた冒険者がいるのだろう。古来種の遺産を鑑定して貰う人たちで、長蛇の列になっていた。

 【ダイアレンズ】持ちの技術職員が、大忙しである。ちなみに彼らがいることを想定して、タルピーは懐の中にいる。オレにしがみ付いて、マントの隙間から周辺を見回していた。

 タルピーとペランドーは、こうして人が並んでいる様子が珍しいようだ。


「ずいぶん賑わってるねぇ」

「そりゃ、ここは王領で見つかった遺跡だからな。優良なんで人も集まるだろうぜ」

「え? 他の場所で見つかった遺跡と、どう違うの」

「考えても見ろ。貧乏な領主の場所で見つかった遺跡じゃ、いろいろと買い取りが安くなるだろ? 買うのはその金のない領主なんだから。場合によっちゃ貧乏で買い取れないからってんで、どっかの金持ちの領主が貧乏な領主に投資して、結果的に遺跡が飛び地的な場所になる場合もあるんだぜ」

 中には持ちだして他領で売るという冒険者もいるが、それはそれで買いたたかれるリスクがある。商売が得意な珍しい冒険者か、売るアテのある者でないと持ち出さないだろう。


「へぇ。なるほど、そうするとお金持ちの貴族や、王様が後ろにいる場合なら、買い取り金額も期待できるんだね」

「そういうこった」

 ま、実際はそんときの景気にもよるけどな。

 

 オレたちは冒険者の申請をしてから、管理事務所の片隅で登録待ちをした。暇なので、オレはペランドーに冒険者街について説明をすることにした。


「冒険者街では、役人と商人を除けば、冒険者と学者と開拓者。この三種類が主役だ」

「うん、そりゃ冒険者は主役だよね」

 まず冒険者。

 これは流石に、ペランドーに説明するほどでもない。

 危険を排除し、遺跡の奥に分け入り情報を持ち帰る冒険者もいれば、遺物を集めて持ち帰ることを目的としている冒険者もいる。そのどちらも目的という冒険者ももちろんいる。


 次に各分野の学者。


「学者ってどういう人たちなの?」

 ペランドーに問われて、説明役を買って出たオレでも腕をこまねく。


「これはぁ、ホント、いろいろいてな。市井の学者もいれば、機関や貴族とか国のひも付きの学者もいるんだよ。しかも分野部門も山ほどある」

 個人で行動する学者もいれば、冒険者に同行する学者もいる。彼らは探索の役に立つので、冒険者が仲間に誘うこともあれば、学者が護衛として冒険者を雇う場合もある。


「まあ、もしかしたらオレたちもそんな感じになるかもな。古来種の魔法を調べるってことだと、目的が近くなる」

「なるほどね。換金できる財宝目当てじゃなくて、古来種の知識が目的って事になるから学者みたいだ」

「そうだな。中には古来種の娯楽とか調べてる学者もいるらしい」

 そこまで言って、オレはヨーヨーを思い出した。あれも一種の学者だな。変態研究の。


 最後に開拓者。

 冒険者によって危険が排除された区画エリアに、新たな拠点を作る。資材は持ち込みだが、安全を確保して拠点を作り、一定期間維持できれば、その土地を得て商売などをする権利や、居住する権利が与えられる。

 この法律により、農地を継げない農家の次男坊三男坊に、遺跡開拓は大人気だ。

 しかし開拓には区画解放エルレーゼンまでという時間制限があるので、間に合わないと居住は出来ても所有が認められない。 


「区画解放?」

「ま、遺跡の安全確保と分捕りだな。古来種の遺跡は、大小さまざまな区画エリアに分けられていると思ってくれ。区画エリアは古来種が魔法で区切った土地で、要するに昔誰かが魔法を使って『ここからここはオレのもん』とか『ここからここまでは軍事施設』とか、縄張り作ったんだよ。塀や柵で囲うだけじゃなくて、魔法陣でさらに囲ってると思えばいい」

「古来種の都市の作り方が、そういうものなの?」


「そうだな。そんな理由から形や広さに法則性は特にない。なんで、広さが民家程度の区画もあれば、街に匹敵する区画もある。そんで、区画ごとに超立方体が描かれたコアがある。魔法陣に魔力供給してる動力源だ。そのコアを探し出し停止させることで、その区画の警備魔法が解除されて、晴れて解放。オレたち現代人が自由に歩ける場所となるってわけ」

 魔物が自動的に生成リポップされる区画も、コア停止によって魔力供給が無くなり安全となる。

 コア停止により利用できなくなる転移門やエレベーターなどの仕掛けもあるが、魔力を入れれば使えるのでさほど深刻ではない。


「停止させるには、コアを壊せばいいの?」

「古来種の作った超立方体陣を、簡単に壊せるならそれでいいな。でも、まあ普通はできねぇけど」

 オレとアザナならできるだろうが、骨が折れるだろう。


「じゃあどうするの?」

「コアの停止方法は、単に台座から取り外すというのもあるし、複雑なパズルを解くとか、魔法陣を書き替えるとか、分かりやすくコアを守る魔物を倒すとか、どこかにある鍵を差し込む、なんてさまざまだ。コアを停止させれば、大儲けになるぜ」

 大昔の法律では、コアを手に入れれるとその区画は、解放者の物となった。土地持ちとなったわけだが、今ではその方式は取られておらず、基本的にはコア、つまり区画を管理者側が買い取ることになっている。

 

 その額は区画の大きさや重要度による。民家程度の小さい区画でも、一般的労働者の年収くらいで売却できる。城や要塞などの区画では、一生遊んで暮らせるだろう。

 魔法的に重要な施設や、機能が生きている施設のコアを手に入れたならば、遺跡開発局を通して領主や王国から「爵位とか土地とかやる」と言われるだろう。

 こうして解放された区画を、開発して拠点とし、次の区画を解放していく。

 

 これが一般的な遺跡の探索と開発方法だ。

 

「ザルガラ様。登録が終わって受付の方が呼んでます」

 受付の様子を見ていたティエが、解説に熱中するオレの意識を引き戻した。


「そうか。結構早いんだな」

 受付の人は少ないのに、登録やら相談やらと人が多いので時間がかかるのかと思ったが――。


「私がすでに登録されてますからね。ザルガラ様たちは、いくつかの審査を飛ばせます」

「そういうことか」

 納得して、オレたちは受付の前に立った。


「はいよ、このカードを無くすんじゃないよ。それから地図とか初心者用の情報を買うかい? おまけしておくよ」

 受付のおばさんが登録番号証をオレに渡しながら、役人らしからぬ商売人っぽい事を言ってきた。


「ん? ああ、じゃあ買っておくか」

「え? 地図買うの?」

 冒険を堪能するため、自分で地図を描くつもりだったのか、ペランドー?

 そりゃ、それも醍醐味だろうが冒険をそこまで満喫するのか?


「あ、ま、まあティエはともかく、オレたちは初心者だからな。まずは大まかな地図買おうぜ」

 ターラインの娘に与える薬草のこともある。先に情報を得たい。

 地図と大まかな情報が書かれた手帳を買い、パラパラとめくってみて、オレは愕然とした。


「門前の区画しか解放されてない……だと?」

 絶句するオレを見て、受付のおばさんが笑い出した。 


「そうなのよぉ、一年もかかってやっと。門前の解放で手こずってね、エントランスに入れたのもついこの間なんだよ。やたら難しいパズルでねぇ……。あのパズルが得意で若い素敵な男の人がこなかったら、まだ門前の魔物と戦うことになってただろうって言われてるわよ。これがまた、あたしがもう少し若ければアプローチしたいような……」

 受付のおばさんの世間話が始まった。仕事しろ、おばさん。


 とりあえず、遺跡の中が危険というのは共通認識だ。しかし遺跡の外にも危険が溢れているというのは、あまり一般に知られていない。

 仮に古来種の作った地下迷宮があったとしよう。

 内部に侵入を感知する魔法が仕掛けたれたり、捕まえる罠があったり、警備のため魔物が放たれたりしている。それは誰でも想像できるだろう。

 だが、中に入らなければ安全か?

 そういうモノではない。

 外にだって警備を配置したり、警報を設置するだろう。そういうことだ。

 

 受付のおばさんの話を聞いているペランドーは一先ず置いておき、オレとティエとタルピーは地図を確認した。


 分かっている範囲は、3区画。遺跡の10分の1程度だ。 

 東門から入ってすぐの市民生活区。

 そこから北にある墓地区画。

 そして反対側の公園区画……。

 あぶねぇ~、ぎりぎり公園内に薬草園が食い込んでる。さすがのオレでもペランドーを連れて、地図のない区画に行きたくはない。


「ん? 夜は危険なので侵入禁止? って書いてあるが、どういうわけだ?」

 オレは小さい注意事項を見つけ、ティエに確認を取ってみた。


「霧と黒の城と呼ばれている理由をご存知ですか?」

「いや、知らん」

「夜になるとどこからともなく魔力を含んだ霧が現れ、遺跡を覆ってしまうからですよ。説明を読むと、以前は昼も霧が出ていたようですね」

「ほう……。なるほど、夜侵入するのも中で夜を明かすのは危険だからおすすめできないってわけか。出来る限り日中に戻って来いと――」

 これは面倒だな。

 市民生活区を早いところ解放させないと、日帰りでは探索が滞る。この遺跡の開発は、恐らく遅れるな。


「冒険者街の南の外れにある食堂がおいしいんだってさぁ」

 受付のおばさんに解放されたペランドーと合流。微妙な情報もゲットした。


「よし、ペランドー。明日はまず薬草園を狙おうぜ」

「え? 墓地のほうが良くない?」

 ペランドーが意外な事をいった。

 なぜ墓地が良いんだ?


「……反対するためじゃなく、好奇心で聞くんだが、墓地の何がいいんだ?」

「だって、不死の魔物とか、そんなのがいそうじゃない? 冒険っぽいよ!」

「ああ、そういう理由か。てっきり墓地の中に興味があるのかと」

 墓地区画というのは、墓荒らしに人気がある。

 古来種時代の副葬品は価値が高い。日用品ばかりの市民生活区と違って、装飾品などが手に入るからだ。


 もっとも古来種もそれが分かっているようで、スケルトンやマミーなどの魔物を配置して、盗掘対策をしているのだ。ペランドーはそれそのものに興味があるらしい。

 これは渡りに船だ。

 言い訳を用意しなくても、必然的に薬草園に行く理由が出来た。


「まあ、それらならなおさら薬草園を先に狙った方がいい。不死系の魔物は呪いや毒を持っているからな。薬草園で得た薬草で、薬を準備してから後日、墓地区画に言ってみようぜ」


「ぼくたちで作るの? 買うんじゃないの?」

「オマエなぁ~。オレたちは魔法学園で、薬草学を何のために習ってるんだよ」

「あ、そっか。ぼくたちは作って使って売れる側なんだ」

 ペランドーがやっと気が付いたのか手を叩く。


「そりゃ学園卒業して、薬草作りを専業にするヤツはいないけど、小遣い稼ぎにはなるんだ。実地訓練にもいいだろう」

「そうだね! じゃあ薬草園を狙おう!」

 ペランドーが快諾してくれて良かった。

 ふと視線をティエに向けると、渋い顔をしていた。


「私は薬草の知識が全くないので、お役に立てませんね」

「採取中の警戒に専念できるじゃないか」

「いえ、そういうことではなく……」

「すまない、ちょっといいかな」

 ティエが何か申し出ようとしたとき、3人の青年がオレたちに声をかけてきた。


「君たちは魔法学園の学生さんかい?」

 見たところ冒険者……って感じではない。

 くたびれた作業服姿で、冴えない顔をした男たちである。


「僕たちここの開拓者なんだけど、いきなりでごめん。ちょっと話をさせて貰えないかな」

 ティエはオレに任せるという無言。ペランドーはどうしようとオレをみてくる。

 どうしたものか。

 どうせ夜間は入れない。急げば霧が出る前に入れるだろうが、ペランドーがいるしオレだって不慣れだ。


「薬を作ると聞いて……ね。できれば少し譲ってほしいんだけど」

「そういう話か」

 これまた更なる渡りに船だ。

 コイツらをダシにして、アン用の薬を作る理由が出来た。

 喜々として承知しては怪しまれる。だが、決して逃せない要求だ。


「ザルガラ様。これはチャンスという顔をしないでください」

「え? 顔に出てた?」

 ティエにバレた。

 開拓者の青年たちも気まずそうにしている。


『うん、出てたよ。すごい悪そうな顔で』

 タルピー、オマエは一言余計だ。


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