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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第3章 憧憬と真贋

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Wheel an come again. ウィーランカムァゲ

「少し匂うが、うちに泊まるなら許してくれ。葉っぱアロンサイ煙で魔除けだ」

 両手を広げ、ターラインが陽気に言ってきた。客に我慢を強要してくるとか、宿の主人のいう事じゃない。


 葉っぱと煙で魔除け――か、ターラインはいつもそういって、タバコを吸っていた。


 横目で見るに、今のターラインはそれほどタバコを吸わない。オレの知っているターラインは、常にタバコを吸っていた。それこそ、咥えてない時はないほど。

 

「あとこのサウンドも勘弁してくれよ。俺様はコイツがないと眠れねぇ。夜になると怖い音が聞こえてくる。このタバトブなサウンドが俺様の子守唄さ。なるべく客室には音が行かないようにするからな。ヤイヤミノ?」

 ターラインは南方特有の迷信を信じていた。おまけに怖がりだった。

 しかし南方出身でありながら、魔法の腕は相当なモノだった。

 新式魔法はいまいち、古式なんて無理。そういう使い手だったが、こと音に関しての独式魔法は上手かった。

 新式の沈黙魔法は、指定した空間の音を消す魔法だ。ところが、ターラインの独式魔法は特定の波長を持つ音だけを選んで消すなど、神業かかった魔法を編み出したりした。【耳を逆撫でる子守唄】は、元々ターラインの使っていた独式魔法である。オレがパクって使いやすくした。


 そんなターラインには娘がいた。

 酔っぱらった時に良く言っていたな。


『俺様は魔除けを吸っていたから助かったが、北からの客を対応をしたアンは……』

 いつも泣きながら後悔していた。

 この宿屋をたたんだ理由は、娘の不幸があったからだ。 


「ただいまぁー、お父さん」

 宿帳を書いていると、ちょうどその娘が帰ってきた。

 オレと同じ年くらいだが、身長は頭一つ大きい。編んだ髪を頭の上で括り上げている。父親に似ず、目が大きく可愛らしい。浅黒い肌、細く健康的で長身。南方特有の低重心な物腰。

 不思議な魅力を感じさせる。


「ヤマン。お客さんだ、アン。トバトプな2部屋に案内してくれ」

「はーい、じゃあお客さん。荷物持つね」

 三人分の荷物をひょいひょいを持ちあげて抱え上げる。大した膂力だ。

 

 そうかこの子が――。

 オレは短い距離を案内される間、儚い命のアンの背を眺めた。


『煙で身体を清めて置けば、ゾンビにならずに済む』

 ターラインはいつもそんな事を言って、咳き込みながらもタバコを吸い続けた。もしかしたら、気の長い自殺だったのかもしれない。


 あの大男はゾンビを恐れながら、複雑な思いで憎んでいた。

 ゾンビ。それは動く死者だ。

 古来種の魔法とは別系統で、長い歴史で失われた呪いの魔法だ。死者を不条理な方法で、理不尽に生き返らせ使役する。 

 エウクレイデス王国の北に、アポロニアギャスケット共和国という国がある。王国と国境を接するため、両国は何度か矛を交えている。

 そのアポロニアギャスケットの魔法使いが、ゾンビを作り出す呪いを研究していた。

 生者をゾンビにする恐ろしい実験が、事故でとある傭兵たちに降りかかり、その傭兵たちが巡り巡ってターラインの宿へとやってくる。

 どういう呪いかは分からなかったが、そのゾンビの呪いは感染するらしい。

 アンは不幸にも感染した。


 アンを失ったターラインは宿屋をたたみ、アポロニアギャスケットの研究者に復讐を誓う。

 その過程でオレとターラインは出会い、協力することとなった。


 これが前の人生で、ターラインに聞いた話だ。


『もしも俺様がゾンビになって迷いでたら――、ザルガラ(シズマイニズ)の手で焼き払ってくれ』

 復讐を果たした時、燃える研究所を眺めながらターラインはそんな事をいった。


 今のターラインは迷いでたわけではない。ターラインが生きている時代に、オレが来たわけだからな。どちらかと言えば、オレが死んで過去に迷い出ていると言ったカンジだ。


 この娘を――アンを助ければ、ターラインは宿を続ける。


 オレの友人になることはないが、ターラインもアンも不幸にならない。

 ちょっと寂しいが、それはとても良い事だ。


「よし、やるか」

 部屋に荷物を置いて、身支度を整えるとオレは気合を入れた。


「うん、行こう!」

 オレはアンを助けるため「やるか」といったのだが、ペランドーは冒険者登録へ行く話だと思ったようだ。

 まあ、確かに行くんだが。

 アンを助けるためには、『霧と黒の城』からヘレボルスという薬草を取ってくればいい。霧と黒の城の一部は薬草園だったらしく、薬草入手には困らない。

 重症状態や完全にゾンビ化していない患者に、この薬草を煎じて飲ませると驚くほど簡単に治る。

 アンにうつる前に、原因である傭兵たちを治してしまってもいいだろう。

 おまけだ、おまけ。


 別部屋のティエと合流し、ターラインの宿から出ると、ちょうど商隊が隣りの宿に到着したところだった。護衛は10人の傭兵。

 この手の護衛は傭兵の仕事であって、冒険者ではない。

 中には兼業もいるが、別の仕事だ。

 冒険者は探索と発掘の分野に片足を突っ込んでいる。知識がないとできない。

 傭兵は集団戦という軍のやり方に片足を突っ込んでいる。個人主義者じゃ出来ない。


 どちらも出来るのは、よほど有能か器用なヤツだろう。


 その傭兵たちの何人かは、ターラインの宿を利用するようだ。商人たちは隣りの大きな宿に収まるが、さすがに急ごしらえの宿屋では全員を受け入れられない。


 オレたちと入れ替わりに、5人ほどの傭兵たちがどやどやとターラインの宿に入って言った。

 2人ほどが咳をしている。

 なるほど、アイツらから呪いだか病気がうつるってわけか。

 いや、しかし北からの客とターラインは言っていたはずだ。ただの風邪じゃ勘違いってことになる。


「アイツらはどこから来たのかな? 王都からここまで、街道に護衛がいるほどなのか?」

「いえ、あの方たちは、北のアポロニアギャスケットからいらしたようですね。あの毛皮はここにはいない種類の熊です」

 積み荷を覗き見て、ティエは断言した。彼女は長い髪で視線を隠しているため、盗み見を咎められ難い。

 間違いないようだ。

 仮に彼らじゃなかったとしても、ヘレボルスを取ってきておいて間違いないだろう。適当な理由をつけて、煎じ魔法で保存加工した薬を預けておけばいい


『薬は……薬はあったんだ……。目の前の遺跡にいくらでも……。俺様の足が遅いばかりに、間に合わず……アンは』

 酔っ払い突っ伏し、泣きながら悔やむターラインの姿を浮かぶ。 


 大丈夫だ、ターライン。オレたちは明日には遺跡へ行くし、情報もあるし、足は速いし怪我もしていない。

 二度目の人生で、初めて自分で好きなように未来を変えられそうだな。

 カタラン領のランズマを救ったり、ユールテルを助けたりしたご褒美かね、これは。

 良い事もしておくもんだ。  


「ザルガラくーん。行っちゃうよー」

 振り返ると、ティエと一緒に道を先へ行ってしまっているペランドーが手を振っていた。


「おう、すまんな」

 オレはすぐに2人を追いかけた。

 俄然、やる気が出てきたってもんだ。


「待ってろよ、ターライン。断交は残念だが、オマエの大切なアンは助けてやるぜ」

 


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