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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第1章 天才と怪物
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突発ヒアリングロス

「あーあ、結局今日は無駄に過ごしちまったな」


 放課後にアザナを探すのは難しい。さっさと帰宅されてしまえば、それまでだ。流石に学園の外で騒動を起こしたら、大事になってしまう。

 教頭会は疎ましくとも、なんだかんだ学園内の自治を守る者たちだ。学園の利権などを守るため、対外には大した騒ぎではないとし、オレを叱りつけながらも保護するだろう。

 ある程度の範囲で、数回なら――だ。

 

 やり過ぎはいけない。重ねて学園の外では大人しくするべきだ。

 学園を最後にして立ち去る覚悟なら、その制限を無視するが、今はその時ではない。

 アザナの姿を探すために、オレは学園の中で見晴らしのいい時計台に上った。

 鐘が下がり、壁が四方に抜けたここは、ぐるりと学園を見晴らせる。遠目の魔法と探索の魔法を駆使すれば、下校しようとするアザナを見つけられるだろう。

 念のため、魔法陣の準備は凝っておこう。

 投影型の古式魔法陣より、手書きで複雑な独式魔法陣の方が効果が高い。

 チョークを取り出すため胸元を探っていると――


「見つけましたわ! アザナ様、こちらです!」


「っ! 誰だ!?」


 女の声が、アイツの名を呼んだ。オレは身構えて振り返る。

 魔法で作った翼を羽ばたかせ、ユスティティアがオレを指差して飛んでいた。 

 制服の一部を羽と変えて飛んでいるのか。純粋な飛行魔法はまだ出来ないのだろう。飛行の補助に、魔法羽を使っているのだろう。


「エッジファセットの姫殿下が、オレになにか用か?」


「貴方に用があるのは、わたくしではありませんわ」


 羽を休めるため、仕方なく――といった態度で、ユスティティアは時計台の鐘吊部屋に舞い降りた。 


「……アザナのヤツか」


「ええ、そうですわ」


 不機嫌そうなユスティティアの顔。それが、一転して笑顔に変わる。

 原因はアザナだ。

 隣の校舎から、銀光の軌跡を残してアザナが飛んできた。たしかあれは、アイツが昔から使っていた高速飛行魔法だ。入学当時から使えたのか。

 恐ろしいな。


 鐘吊部屋に飛び込んだアザナは、光の粒を背後に吹き飛ばして魔法を解除した。いちいち派手だ。

 魔法を解除したアザナは、一歩だけオレに近づいて口を開いた。 


「……ポリヘドラさん」


「おう」


 アザナがオレの苗字を言って、少し嬉しかった。

 できれば、早くザルガラと呼んでほしい。


 オレは無言でアザナを睨む。一瞬、アザナが怯んだ。

 この態度を見るに、コイツはまだ争い事に慣れてないのかもしれない。もしかしたら、実戦はオレが初めてだったのか?


 それであれだけ対応できるなら、それはそれで喜ばしい。

 まったく、底が知れない。

 もしも実戦を重ねているのに、こんな風に怯むとするなら――。そんな性格でありながら、誰よりも強いということだ。

 まったく、恐ろしいヤツだ。

 さぁて……そんなアザナに。どうやってケンカを売ろうか?


「ポリヘドラさん。一つ、質問していいですか?」


「ああ、いいぜ」


 アザナの質問に難癖つけて、ケンカを売ってやろうか。などと考えていると、アザナは驚くべきことを訊いてきた。


「あの芝生を捲った魔法。 魔法陣を介して物体に命令する術式は、アレはあなたの魔法ですよね?」


 こいつっ!

 一回見ただけで、オレの魔法を識別できるほど解析したのか。


「ふふふ、ふはははっ、そうか! それでオレに用があるってか? そりゃいい!」


 ホントにそれはいい。

 オレからケンカを売ることはあったが、アザナがオレに売ってきたことはなかった。何がどう転がったのか、コイツはオレを探し出して、オレにケンカを売るつもりか?

 愉快だ、痛快だ、最高だ!

 マジで歴史が変わってる! いい具合に変わってる。

 拳を握りしめる、歓喜で顔が緩む。

 アザナの攻撃を待ちわび、オレは笑顔で構えた!


「さぁこいっ!」


「ありがとうございました!」


 拳を突き出して魔法陣を展開するオレに、アザナが深々と頭を下げた。


 ――ん? なんだって?


「なんだって?」


「ありがとうございます。あの時、五回生たちからボクたちを助けてくれたんですよね?」


 なんだって?


「なんだって?」


「入学以来、ずっと困ってたんです。ボクを入会させようと、――えっとその全裸倶楽部ですか?」


「素衣原初魔法研究会ですわ、アザナ様」


 ユスティティアが横から訂正した。 


「そう、それです。その人たちがしつこくてどうしようもなくて」


「なんだって?」


「すぐに服を脱ぎだすし、変だし、その……お陰で助かりました」


「なんだって?」


「アンズランブロクール先輩たちは、すっかり犯人探しに夢中です。ボクたちは解放されたんです。ぜんぶ、ポリヘドラさんのお陰です」


「なんだって?」


 ぱぁっとした笑顔で、アザナがオレを見上げている。

 なんだって?


「まったく。アザナ様ったら。この方はアザナ様に問答無用で攻撃をされるような人ですよ、結果的にそうなっただけにすぎませんわ」


「まったくその通りだ、いいこと言ってるぞユスティティア・エン・エッジファセット嬢。もっと言え」


「いえ、ボクは分かってます。ポリヘドラさんは、いい人なんですよね?」


「オマエは何を言っているんだ?」


 おい、オマエは何を言っているんだ?


「試験後に、ボクを攻撃してきたのも、ボクの噂をきいたからですよね」


「まったくその通りだ。そろそろ考え方を軌道修正しようか、アザナさんよ?」


「ボクは試験結果のせいで、男子のみんなから距離を置かれていたんです。でも、ポリヘドラさんが乗り込んできたお陰で、それからはみんなが同情してくれました。ポリヘドラさんのお陰です」


「オマエは何を言っているんだ?」


 もじもじするな、アザナ! 男だろが、オマエ!


「男子がみんな、ボクに災難だったねって、みんなが貴方の悪口を言って……その、でも、その時は分からなくてすみませんでした。ボクが上級生に難癖付けられて、可哀想と思わせるためだったんですね!」


「オマエは何を言っているんだ?」


 笑顔と勘違いが痛い。やめろ、なんで赤い顔でオレを見る!


「今日のお昼に確信しました! ポリヘドラさんは、ボクを見かねて助けてくれてるんですね!」


「オマエは何を言っているんだ?」


「わたくしは、ザルガラさんがだんだん心配になってきましたわ。大丈夫ですの?」


 いや、ユスティティア。お前はアザナを心配してやれよ。


「入学前から、怖い人だと伺ってましたが――。ほんと、人のうわさなんて信用できませんね。ポリヘドラさんはこんなにいい人なのに」


「オマエは何を言っているんだ?」


 確かに一回助けたような物だが、最初は完全に勘違いだぞ。

 しっかり説明して、しっかり理解して貰いたい。そしてケンカを売りたい!

 くそ! 展開がおかしくて考えが纏まらない。言葉が出ない!

 

 オレが戸惑っていると、アザナがやけに色っぽい上目使いで見上げてきた。

 ヤメロッ!

 オレをそんな目で見るな!


「あの……、ポリヘドラさんの事……ザルガラ先輩って……呼んでいいですか?」


「オマエは何を言っているんだァアアアァァァァッ!!!???」


 あ、でもちょっと嬉しい。




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