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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第3章 憧憬と真贋

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王都に伸びる手

 いろいろ問題のあるヨーヨーだが、捜査協力として隣りの部屋で、上位種について資料を纏めていた。

 ヨーヨーの手から、局長に資料が手渡される。


 服飾について詳しいというのも事実で、詳細なデザイン画まで添付されていた。今日一日、ここに閉じ込められて、書かされていたのだろう。

 たぶんエロいことを言いながら、喜々として捜査協力したのだと思う……いかん、そういう事を理解しようとするなオレ!


 ヨーヨーの母親が病気の折に、金策としてディータ姫に譲り渡したラバースーツは三点。どれも遺跡で見つかったものだ。

 デザイン画の一つは見覚えがあった。

 オレの家に送り付けられた物だ。

 古来種カルテジアンの遺跡には、保存用の倉庫が良く見つかる。その中には、経年劣化していない遺産が見つかることが多い。しかも、古来種が残したものの殆どが、正しく利用しているかぎり壊れない。

 外的要因にも強く、古式魔法で修復できれば、ほぼ無制限に利用できるといっていい。


 ラバースーツはその中でも、特に人気が無く、売り手も買い手もいなかった。

 古来種の服飾に興味のあったヨーヨーの母が買い取ったのだと言う。

 そういった不人気用品を、二年前にディータ姫の使いが、比較的高い価格で買い取ってくれた。

 さすがのヨーヨーも変わった人だと思い、記憶していたのだという。


「これがその似顔絵か」

「うまいな……」

「意外な才能だな」

『けっこう、美人~』

 ヨーヨーが手持ちサイズの黒板に描いた似顔絵は、白の濃淡だけでリアルに描かれていた。

 ウェービーな髪をバレッタでまとめ上げ、厚ぼったい唇と今にも泣きだしそうな目元が魅力的な女性である。ディータ姫の使いとして、彼女がラバースーツを買い取りに来たという。


 魔法使いは白墨チョークの扱いに慣れている。術者が投影魔法陣が出来ない段階や、壁や通路へ設置、さらには遅延など、いろいろな理由でチョークを使う。

 ヨーヨーはそのチョークで、幻影魔法もかくやという似顔絵を描き上げていた。


「幻影魔法で像を作るよりいいかもしれん。似顔絵というのも捜査に使えるな」

「幻影は魔力切れすると、消えますからね。これなら手渡しできます」

「お役に立てて、なによりです!」

 ヨーヨーは自信たっぷりだ。確かにこれは誇って良い。

 2人の治安責任者は、似顔絵そのものに関心をもったようだ。

 幻影魔法は便利だが、幻影そのものをコピーすることはできない。

 その点、チョークで描かれた絵なら、その絵を魔法で記憶して幻影として描ける。コピー元として優秀だ。

 局長とフランシスが、オレを誘ったようにヨーヨーを誘うのかな……と、横目で見ていたがそんな様子はなかった。

 フランシスはヨーヨーの描いた似顔絵を見て、ふむと頷く。


「このご婦人は、ディータ姫の付き女官のルテネイアだな。アトラクタ男爵令嬢だ」

「アトラクタ男爵?」

 また知らん貴族の名前が出てきた。つか、オレってほんと社交界知らんな。

 モルガン局長が意外そうな顔をした。


「アトラクタ家はポリヘドラ家と遠戚と記憶していたが?」

「そう……だっけ?」

 ヤバい。記憶ない。というか、オレは近い親戚もよく知らないんじゃないかなぁ。


「まあ私もたまにそういう事があるがな」

 局長の苦笑し、オレは肩を竦めてみせた。 


「アトラクタ家は古くからの法服貴族だね。礼儀作法と宮中儀式、それに宮中舞踊の大家だ」

 フランシスがオレの遠戚の説明をしてくれた。


才人さいじんってヤツか」

 法服貴族とは領地を持たない貴族だ。王家の傍らで仕えたり、王宮内の仕事を務めたり、政務や軍政を行ったりして、生計を立てる苦労人である。

 領地経営だって大変だが、法服貴族は各々の身体が資本なので、才能と健康が最重要となる。

 仮に領地持ちが領地経営の才能がなくても、代官でも立てればなんとかなるもんだ。

 ところが法服貴族は、王家の役に立たないと価値がない。才能を使って、国家のため働き続ける運命の貴族だ。

 その中で才人とは、王家や貴族の風習、芸事の伝授を主とする女官を主とする法服貴族である。

 宮中の宗教儀式なども取り扱い、直接政治に関わらないわりに文官の中では最上位となる一族だ。政治的影響を弱めるため、バランスをとって男爵という立場なのだが、それでも名家中の名家である。


 ちなみにアリアンマリのルジャンドル家も法服貴族だ。彼は完全に宗教系議員を掌握してるバリバリ政治家なので、才人とは似て対局にいる存在だが。


「ルテネイアは、ディータ姫が小さいころから付いている最古参の子だ。もっともここ1年は、姫と一緒に見かけないのでどうしているのか……」

「姫さん、何をしてるんだ? 引きこもってるのか?」

「もともと王宮には王家の居住区があってね。そこで生活が完結してしまうから……まあ、引きこもりといえばそうか……。ちょっとした街ほどの面積のある場所だが」

 それを一口で引きこもりというのは難しいか。公の活動が必要とされる王家としては引きこもりだが、1人の少女としてみると行動範囲は普通だ。

 

「ザルガラ君。念のため確認だがこの女性に見覚えはあるかね?」

「いや。まったく。なにしろご近所の親戚の顔も記憶が怪しくてね」

 オレは参った、と自嘲してみせた。

 すると大人しく座っていたヨーヨーが口を挟む。


「ザルガラ様。一応、申しておきますが、私も遡るとポリヘドラ家とは親戚――」

「知ってるけど、オレの中ではなかったことになってる」

「ひどい!」

 無駄に古いポリヘドラ家は、王国各所の貴族と関係が深い。比較的王国参入の日が浅いカタラン家も、その中の一つだが、うちみたいな古い貴族は大体どこかと関係がある。


「女官についてはこちらで調査する」

 フランシスはヨーヨーの描いた黒板を預かって言った。


「では我々巡回局は、引き続き王都の警戒に当たろう。しばらく残業だな。で、ザルガラくんは、出来れば王都を離れていて貰いたいのだが」

 局長に申し訳なさそうに言われて、オレは腕をこまねいた。


「普通ならそういう事を頼まれても嫌って言うんだが」「面倒くさいですね、ザルガラ様って」「うるさい。たまたま王都を離れる用事があるんで、従うけど理由を聞いてもいいか?」

「それは私が答えよう」

 フランシスが手を上げた。


「世間ではいないなどと言われているディータ姫だが、実のところ王都内ではそこそこ手が伸びる。王宮に出入りする大商人から情報を得られるし、手足のように動く女官がいる。今回の件で君が、姫もしくはその関係者に目を付けられているようなので、できれば王都内にいて欲しくないのだ」

 考える振りをして視線を逸らすと、タルピーが踊っている姿が目に入った。

 ――踊り。踊りか。


「オレが王都から退避するってのが、何者かの筋書ってのはないか?」

 ペランドーとせっかく遊びに行くのだ。踊らされて王都外にでて、そこを邪魔をされるのは困る。


「その可能性は……ないと断言できる。現在、王家が王都外に手を伸ばす時、かならず我々の網に引っかかるようになっていてね」

 それはそれで、王家の弱体化を公言してるようにも聞こえる。

 まあ事実、最期の王朝となるわけだし、フランシス・ラ・カヴァリエールも次の王の側近となる人物なので、その辺の政治的うねりがあるのだろう。案外、1回目も2回目も消失姫の問題で、フランシスが関わってカトプトリカ朝に楔を打つのかもしれない。


 そういった王宮内のごたごたに関わりたくないので、オレは素直に王都から離れることにした。



   *   *   *


 エンディ屋敷に帰ったオレは明日に備えて早く寝たいところだったが、念のためにタルピーに話を聞いておくことにした。


「なあ、タルピー。ヨーヨーの言ってたことって本当なのか?」

『ん? ラバースーツのこと』

 サイドテーブルの上で踊っていたタルピーは、オレが話しかけるとぴたりと止まった。

 最近、オレはタルピーと会話してから寝ることが多い。

 友達が少ないからじゃないぞ!


 先日死にかけた時、2人のアザナから聞いた古来種の進攻という未来の凶事があるからだ。

 こうして毎晩少しずつ、タルピーから古来種についての情報を引き出しているのだ。

 今回は、巡回局で聞いたラバースーツの件があるので、それを優先する。


「そう、それだ。たしか、上級種の正装とかいったけど」

『言った言った。でも吸血鬼だけじゃないよ。中には好きで着てた奴らもいたよ』

「好きでアレを着るのか……。で、例えば?」

『いろいろ?』

 ぼんやりとした回答だ。その点を問い詰めると、タルピーはひどく困った顔で小さくなった。


『そんなこと言われても、アタイは火の精霊の管理が仕事だし、あんまり他の種とは関係がなかったし……』

「言われてみれば、火と一緒にする仕事って限られてるよな」

 火は強力だ。しかし生活となると、工房や竈くらい。自然ではあまり活躍の場はない。地や水なら適応範囲も広いだろうし、風なら勝手に関係することになる。

 魔法の光を利用していた古来種とって、火の精霊は光源として必要ないだろう。

 攻撃特化とは言わないが、火は身近なようで距離がある。


『アタイらを暖房にするとかで、寒いところでは活躍するんだけどねぇ』

「暖房替わりかよ」

 ちょっと寂しい扱われかただ。

 そんな会話をしていてふと思う。

 

「なあ、もしかしてオマエがいつも踊ってるのって?」

『火の演出』

「やっぱりか」

 火はゆらゆら揺れているものだ。その表現なのだろう。

 炎と火の踊り。タルピーの踊りからは、それが感じられた。


『アタイの踊りは、上位種の中でも最高なんだから!』

「ほう、そうなのか?」

『踊りの亜神とされてる最上位種は、部屋の中に卵を並べ、その中を目隠しして踊っても、1つの卵も割らなかったって言うけど、アタイはもっと凄いよ』

「具体的には?」

『アタイは目隠しされても、逃げ惑う火の精霊たちを全部踏みつけながら踊れるよ!』

 タルピーに踏まれ、泣きながら耐える火の精霊を想像してしまった。

 こいつが封印された原因って、踊りのせいじゃねぇか?



   *   *   *


「ティエ殿。私は聞いてしまいました」

 家令のマーレイは神妙な面持ちで、遺跡探索の道具を整理していたティエに話かけた。


「どうされたのですか?」

「先ほど、坊ちゃんの部屋の前で話声が聞こえ、悪いと思いながらも聞き耳を……」

「……そうですか」

「そうしたら、ザルガラ坊ちゃんが……。なにやら独り言を延々と……」

 沈痛な面持ちで、涙を堪えて拳を握りしめる。

 ティエは困った。

 ザルガラはたぶん、タルピーと会話していたのだろう。ティエはタルピーを知っているし、見えるので理解できる。だが、マーレイには分からない。

 タルピーについて説明していいのか、まだザルガラに確認していないので答えようがなかった。


 仕方なく、ティエはもっともらしい理由を伝えることにした。


「ザルガラ様は今、交友関係を広げようとしているのです。独り言はその練習なので、なにもおかしいことはありませんわ、マーレイ」

「で、ですが……」

 マーレイは純粋にザルガラを心配している。ティエは分かっているのだが、あえて誤魔化すことにした。


「考えてみてください。ザルガラ様が友人や級友を前にして、普通に会話なさると思いますか?」

「――言われてみれば、あの気性です。思わず悪態をついてしまうかもしれません」

 マーレイも良く分かっている。分かり過ぎていて、ティエは少しザルガラを不憫に思った。


「つまりそういう事です。もっと柔らかい言い回しを練習しているのですよ」

「そうでしたか。ここは聞いて聞かぬ振りが一番ですな。分かりました。家人の皆にもそのように伝えておきます」

 ――しまった!

 ティエはここで失敗に気が付いた。

 家人全員に、ザルガラが友人との会話を模索して、夜な夜な独り言を発していると思われてしまう!


 立ち去るマーレイの背を見つめ――。

 ま、いっか。友人との関係を模索してるのは事実だし。と、ティエは開き直った。



16/11/21

アトラクタ男爵、ルジャンドル子爵などの設定説明に若干追加。

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[一言] ザルガラ(よくねーよ!?)
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