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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第3章 憧憬と真贋

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冴えた男の子の遊び方

「っ! まだまだ終わってねぇーぞ!」

 オレは不屈の咆哮を、天井に向かって放った。

 天井?

 天井が低い。第一演習場は観客席の一部しか屋根がないはずだ。

 硬いベッドの上で、むくりと身を起こす。

 さっきまで隣りにいたアザナが居ない。

 代わりに目の前にタルピーがいた。


『ザルガラ様、大丈夫?』

 心配そうにタルピーがオレの胸に乗って、頬に張り付いていた。重さはないのに、ほんのり暖かいという不思議な感覚を与えてくれている。


「あ? んー、大丈夫だ、タルピー。っと、ここは救護室か。あー、くそ! よりによって自爆で決着かよ~」

 頭を振りながら、状況を思い出す。

 アザナに負けると分かってても、負け方が問題だ。

 今回、オレはアザナのマネをし過ぎた。それが敗因だ。

 せっかくアザナに尻もちを付かせたのに、つい雑な攻撃をした上に、物まねで防御をしてしまった。

 これからは自分を信じて、ぶっつけ本番とかは止めよう。


 そんな事を反省しながら、ふと横を見ると新式魔法陣が一つ、ぽつんと浮いていた。


「なんだこれ? オレの投影した魔法陣?」

『うん、ずっと出っ放しだったよ』

「気を失ってる間、ずっと出てたのか?」

 魔法陣を指差し尋ねると、タルピーがこくこくと頷く。

 普通は気を失ったら、投影魔法陣は消える。距離が離れたり、意識を無くしても魔法を持続させるなら、素直に魔法手帳を使うか、チョークなどで手書きするものだ。

 どういうことだ?


 オレは未だ浮いている魔法陣を解析してみた。

 そう言えば、わざと外した魔力弾がそこで投影魔法陣を描く独式魔法を利用したが、それの残りのようだ。

 

「使えるな……」

 意識を失っても投影されたままの魔法陣。アザナですら使ったことはないだろう。

 これでまた一歩、アザナに近づけた。


「でも、これをアザナは見てたんだよなぁ。アイツのことだから、解析済みなんだろうな」

 これでまた一歩、アザナが遠ざかった。

 下手すると、ここからさらに発展させた魔法陣を作ってくるかもしれない。

 悔しいが、アイツはそれくらいやってくる。数日置いたら、ヤツの実力は跳ね上がっていると思っていい。


 雲をつかむような行為。

 そんな事が続く。それが堪らなく嬉しい。

 互いに刺激しあって、高みを目指す二人三脚。 


「ふふふふふふっ……」

『怖いよ、ザルガラ様……』

 思わず笑みが漏れて、タルピーにどん引きされた。


 2度目の人生は、おつりみたいなモンだと思ってたが、なかなか有意義だ。なにしろ、目標であるアザナが1回目より、さらに強くなっている。

 霧の向こう側のような技術には、学ぶべきところが多い。


 ごくまれに、その霧とも靄ともつかぬ何かに、手が触れて掴める瞬間がある。

 その時オレは、アザナとの距離を思い知りつつも、一歩近づいたという実感を得られる。


「いつか、追い付いてその肩を掴んでやるぜ……。アザナ」

 オレは1人、救護室のベッドの上で手をわきわきさせた。


 ――って、またオレ1人かよ!

 一応、タルピーはいるけどさ!

 頼むから誰か、オレを見守っててくれよ!

 

「やあっ! ザルガラ君! 目が覚めたようだね!」

 全裸がきた。


 救護室のドアを開け放ち、いろいろ開け放ったイシャンが入室してきた。

 いや、よく見たら半裸だった。

 そう言えば、最終試験には外部からの見学もあるから、全裸を禁止されてたんだ。

 良かった、パンツ履いてて。

 いや良くない、パンツ一丁は世間的に良くない。

 

「ザルガラくん、大丈夫?」

 ペランドーがきた。イシャンに続き、我が心の友がやってきた。


「ああ……。2人には、みっともないところを見せちまったな」

「いやいや、ザルガラ君。そんなことはないぞ。あの後、熱気に当てられ調子ノッた者たちが、アザナに集団で挑んだが、まさに鎧袖一触。改めて2人との実力差を、学園全体が思い知ったよ」

「本当……。アザナって子はホント異常だよ……。5回生や4回生が束になっても、勝負にならないんだもん」

 イシャンとペランドーはそう言ってくれるが――。


「オレが負けたってのは変わらんがな。負け犬だよ。結果が全てだ」

「そんなこといったら、ぼくだってそうだよ!」

 オレが自嘲気味に笑うと、ペランドーが強く食いついてきた。


「ザルガラくんに一学科でも勝つって言ったのに、結局惨敗だもん」

「あー、そうか……。わりぃな」

 頑張っても無駄だった。――と、このオレが言えば、そのオレを目指して頑張ったペランドーが無駄なことをしたということになる。

 オレに勝てはしなかったが、コイツはしっかりと結果を出している。


「実技と、実戦訓練はぜんぜんだったけど、学科はいい感じだったんだけどなぁ」

 ペランドーが心底悔しそうにいった。コイツのこうした表情を見るのは初めてだ。

 7日に及ぶ試験で、実技は後半に行われるが、筆記などの学科は初日に行われる。学科などの筆記は一斉に行えるので2日で終わるが、実技関係は教師が生徒1人1人に付いて、いちいち確認を取るため、どうしても時間がかかる。

 学科試験では、自己採点でペランドーがなかなかの成績を収めている。実技が足を引っ張るが、2回生では総合で中級成績に達するだろう。


 まあオレは2度目なんで、大抵の試験がチョロい。

 だが、いろいろあって試験勉強してなかったし、たまーにど忘れしてるところがあるので、プラスマイナスゼロといったところか。

 

 なお実技などの採点方式は、加点と減点が入り乱れるため、採点する教師側に負担が大きい。特に加点する場合は、教師たちが会議にかける。

 きっとオレとアザナが、なんども議題に上がってどの程度加点すべきか、喧々諤々とすることだろう。

 加点式であるため、飛びぬけたことや複雑な行為を達成すると、倍々的に点数が増える。オレとアザナが、異常な点数を叩きだして、3位以下をダブルスコアで突き放す理由だ。

 しばらく教師は採点で係りっきりになる。


「そういや、イシャン先輩。5回生で筆頭成績が確実そうで……」

 ほぼ全裸で。


「ありがとう。しかし嬉しいことだが、今回の試験ではあの兄妹が、体調不良で居なかったからな。いや、恥ずかしい」

 ほぼ全裸がトップとか恥ずかしい。


「あの兄妹っていうと……、えっと誰だっけ?」

 2回目なのに、というか2回目だからあまり覚えていない。何しろ記憶では10年とか9年も前の話だ。3歳も上の上級生とは、あまり交流がないので仕方ないと言える。


「うむ。コリンとローリンのクラメル兄妹だね」

「あー……、あー! そうそうっ! そうだ。やたらと可愛い名前だが、神経質そうで目がギラギラしたヤツらだ!」

 オレはスッキリと思い出せ、思わず膝を打つ。

 西方の勇、クラメル伯爵のところの双子だ。

 兄がコリン。

 妹がローリン。

 名前だけ聞くと、語感がやたらと可愛らしい。タルピーと並べても良さそうだ。


 ところでそのタルピーは、彼女を視認できない人がいるので、結構大人しくしている。見えない自分が出しゃばると、オレに迷惑がかかると分かっているのだ。

 ただし放っておくと、踊り出す癖はなんとかしてほしい。

 いまも視界の隅で、薄絹振り回してクルクルと踊っていて気になって仕方ない。


「ひどいこというなぁ。たしかにそうだけど」

 ペランドーがオレの意見に同調した。こいつもなかなか豪気になったな。いいことだ。


「とにかく試験も終わったし、遺跡探索いこうよ!」

「そうだな。明日あたり準備して行ってみるか」

 そういや約束してたな。

 前述通り、これからしばらく学園の教師たちは皆忙しい。しばらく学園は休みとなる。双子月が入れ替わるまでの8日間。まるまると休みとなる。

 ついでに、オレとアザナとユールテルが書き替えた魔法陣が、休み期間中に直される。

 今回、エッジファセット家が全額負担なので、オレのところは楽だ。ほぼ全部だから高額だぞ。

 王家に並ぶ財産があると言われてるが、大丈夫か? エッジファセット家。


「遺跡か。古来種の技術も見たいし、私も行きたいところだが、父の仕事の手伝いがあるからねぇ」

 イシャンが残念そうに言った。

 全裸で遺跡探索に来られると、首をねる、ねられる戦いになりそうで勘弁してもらいたい。


「いいですね! 遺跡探索! 冒険ですね、冒険!」

 タイミングを見計らったかのように、アザナが救護室のドアを開けて入ってきた。


「……立ち聴きか。いい趣味してるな」

「ボクの趣味は悪戯いたずらですっ!」

「趣味悪いな」

 断言。

 そういえばそうだった。

 オレとしたことが、皮肉を空振りした。


「冒険とか、バッカみたい」

 アザナの後ろには、小さな取り巻きの女の子がいた。取り巻きでありながら、アザナの意見をバカらしいと思ったら、バカらしいと言える、その小さい女の子のクソ度胸と、バカ正直さは恐れ入る。


 その女はアリアンマリ・ルジャンドルだ。

 どこまで意識してたか知らないが、気を持たせてペランドーをそそのか(あっちからすれば諭)し、裏切らせておきながらひどいことに振った小悪魔的で悪魔のようなデビルチビだ。

 もっともそれは1回目の出来事である。今は関係ない。

 だが――


「男の子って夢の見方がバカっぽくて、なんか嫌ぁ」

 コイツは言葉を選ぶって事を知らねぇんだよなぁ。

 社交の場ではそうでもないらしいので、出来ないってわけじゃないんだろう。

 オンオフが激しい。


 なんでコイツの事を好きなったんだ? ペランドー?

 ふと見ると、ペランドーも微妙な顔をしていた。

 惚れた経緯を改めて見たい気もするが、見たくない気もしてきた。


「ザルガラ先輩! 遺跡探検しましょう! 冒険しましょう!」

「いってらっしゃい」

 オレは冷たくあしらった。

 アザナは口を尖らせ、不満を主張した。


「意地悪ですね、先輩」

「オマエに意地悪って言われたら、意地悪で世界取れるな」

「性格悪いですね」

「おう。当たり前だろ」

「捻くれてますね」

「おう。風当りが強かったからな」

「先輩、好きです」

「引っかからねーよ!」

 超反応で、アザナの罠を回避した。


「ぶー、ぶー! いいですよー。ボクはボクで、大発見してきますから!」

 拗ねたアザナが、そっぽを向いてそんな事をいった。


 ――アザナはアザナで?

 ――オレはオレで?


 はたと思い付く。


「そうだっ! それだっ!」

 

 直接対決で勝ちたくない……じゃなかった、直接対決で勝てないなら、競争で勝てばいい。

 オレはベッドの上で立ち上がり、頭上からアザナを指差した。


「遺跡探索で勝負だっ!」

 


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― 新着の感想 ―
[一言] そういうことするから「かまってもらえた!」って懐かれるんだぞザルガラwww
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