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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第1章 天才と怪物
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キモイパワードファイブ

 時はまさに大後悔時代――。


 オレは夕食後、自室で頭を抱えて悩んでいた。

 そりゃそうだよな。前の人生と違うことしてりゃぁ、いろいろと変わるよな。

 かといって以前の行動を踏襲するにも、そんなに細かく日々を記憶しているわけでもない。

 迂闊だった。

 幸せだった学生時代に戻れて、ついつい浮かれてしまっていた。

 

「よりによって、エッジファセット公か。アザナの取り巻きどころか、未来のアイツの身内じゃねーか」


 いっそ利用するか?

 しかし、それはそれで状況が変わる恐れがある。

 一番、恐ろしいのはオレの事をアザナが「義弟の友人」と認識する可能性だ。

 喧嘩を吹っ掛けても、仲間内のことと考えて以前より本気を出さないってこともあるだろう。

 今はユールテルを近しい公女の弟程度にしか思っていないだろうが、ユスティティアの事を考えてオレへの対応が甘くなるかもしれない。


「しかたない……ユールテルとは距離を置くのが妥当か」


 率先して彼と仲良くする必要性はない。先輩後輩というのは魅力的ではあるが、アザナとの関係がどう転ぶかわからない。

 方針が決まったところで喉が渇いた。

 オレはティエを呼んで、お茶を用意してもらった。

 

 ほどなくしてお茶と焼き菓子が用意された。半分ほど飲んで一息ついたころ、ティエが恐れながらと声をかけてきた。


「なにかお悩みのようですが、いかがなされましたか?」


 彼女がこんな事を訊ねてくるなど珍しい。

 使用人だからというわけではないが、オレは怪物と呼ばれていただけあって、人に心配されることなどなかった。

 早くも怪物の死効果が出てきたのだろうか?

 もしかしたら、オレから暗さが消えているのかもしれない。何しろ二回目だからな。これからオレの評価が変わる事を知っている。その余裕が顔に出ているのだろう。 


「悩んでいる……か。ティエにはそう見えるか?」


「はい。今までとご様子が違うので、差し出がましいようですが気になりまして」


「出しゃばりとは思わなかったな。しかし、まあ家に関することでもあるから、家人の耳には入れて置いたほうがいいか」


 貴族となると、個人同士の付き合いで収まらない。ユールテルが父親にオレのことを報告し、回り回って我が家の実家に話が及ぶこともある。

 そうなると、勝手に両家が友好関係を結ぶことになるだろう。

 そんな事態になれば、アザナがオレに気を使ってくるのは明白である。


「実は、学園でエッジファセット公の長男と知り合ってな。そうとも知らず、ちょっと魔法の技巧を高める協力をしてしまった」


「それは喜ばしいかと」


「だが、あまり親しくするつもりはない。なにかあちらから接触があっても、父上にも失礼のない程度の浅い付き合いをしてほしいと伝えてもらえないか?」


 さすがのティエも戸惑っている。無表情だが、手元が硬直していた。


「そ、それはなぜ、また……。失礼でなければご理由を伺っても?」


「オレって何かと、いたるところで避けられてるし、公の子息に迷惑をかけるかもしれない。今のところは距離を置くつもりなんだよ」


 半分はウソだが、怪物の死を知らない父はこの言い訳を信じるかもしれない。

 いっそのこと、エッジファセット公が敵に回ってくれてもいいのだが、その場合はアザナが出しゃばらない可能性もある。他家の問題となれば関わりたくないのも心情だし、なにより貴族同士の争いとなれば、本気でアザナが逃げるかもしれない。

 アザナが如何に天才であろうと、今は一貴族の子弟だ。


「ザルガラ様のご配慮ならば……」


 ティエが反応に困っている。

 まあ……優秀とはいえ一使用人の立場で、貴族間の問題について連絡してくれとなれば、しり込みすることだろう。


「悪いな。オレも手紙を書いておく。オレからの父上への願いはめったにないから、話くらいきいてくれるだろう」


 ティエを下がらせ、オレは一先ず寝ることにした。


  *   *   *


 翌日、学園でユールテルが接触してくるのではないのかと危惧したが、幸いなことにそのようなことにはならなかった。

 考えてみれば、彼だって新入生でいろいろと忙しいだろう。

 それに昨日の今日で、とにもかくにもといった具合に懐くわけがない。


 授業はいつも通り平穏に受けつつ、休み時間はアザナの行動を調べようとしたが、それはそれでユールテルと出くわす可能性が高い。

 彼は昼休みに練兵場で自主訓練を行うだろうから、その間にアザナの動向を調べる事にした。


 もうすぐ一時限目の授業が始まる――ふと気が付くと、隣りの席が空いていた。

 いきなりフェードアウトか? ヨーヨー・カタラン嬢。


「えー、知ってる方もいらっしゃるかと思いますが、ヨーファイネ・カタラン嬢は自領の都合で一時帰郷なさいました」


 入室してきた女教師が、授業を始める前にヨーヨー嬢の欠席理由を説明した。


「辺境ということもあり、時間がかかるかもしれないので一応休学扱いとなってますが、都合がつき次第すぐに復学するので、早く戻られるかもしれません」


 なんだ?

 早くもヨーヨー嬢に嫁入り話でもあったのか?

 まあ、いいだろう。ヨーヨーの席は窓際だ。そこが空けば、外を眺めるのに都合がいい。

 二度目の授業の暇を潰せるようになる。


 外を眺めながら魔法陣構築法をあれこれ考えてる間に、つまらない授業が終わり昼休み。

 ティエに用意させた弁当で、手早く昼食を済ませてアザナの捜索を始めた。

 学園は広いが、昼休みの行動はだいたい読める。食堂か、園内のランチに向いた心地よい場所だ。

 アザナはなんだかんだと上下の礼儀を守るから、上級生が陣取る場所にはいかないだろう。

 そうなると下級生が集まる西校舎付近。今日は日差しが柔らかく、風が心地いいので日当たりのよい芝生のあるところか。

 食堂にアザナやその取り巻きがいなかったので、オレは西校舎付近を捜してみることにした。


 ユールテルと出くわす可能性もあるが、彼はたぶん練兵場だ。今頃、オレが手渡した魔法陣再構成術式で、自主訓練をしているだろう。

 アザナは目立つ。すぐに見つかるはず――、ほらいた。

 と、おや?

 なぜか上級生たちの姿も見えた。


 アザナとその取り巻きの女の子、合わせて5人。

 上級生たちも5人。

 合い向かって、10人。いったい何事だろうか?


「ふむ――」


 この状況でケンカを売ると、上級生が止めに入るかもしれない。上級生たちが雑魚だとしても、流石に五人で割って入られたら、アザナとケンカするどころではない。

 

「『覗き見するには小さいヤツが最適だ。紙切れくん。オマエも、そう思うだろ?』」


 新式魔法の一つを、近くの紙クズにかけた。

 丸まっていた紙クズが開き、つぎに畳まれて人型へとなった。

 偵察用の【紙魔法人形(ペーパーゴーレム】である。風の一つで吹き飛んでしまうし、障害を越えられないデメリットがあるが、とにかく見つかりにくいメリットがある。

 オレは物陰に隠れて、紙魔法人形をアザナたちの近くへと送り込んだ。

 

 天才アザナが警戒していたら、一発でバレるだろうが、今は上級生への対応でいっぱいになっている。覗き見と聞き耳なら、気が付かれない。

 仮に気が付かれたら、それはそれで面白い。


 幸い……なのかどうかわからないが、紙魔法人形は見事に彼らの死角に入りこんだ。

 植え込みに潜ませ、会話を聞き取る。


「君にも悪い話じゃないと思うんだけどなぁ」


 上級生のリーダー格。男のくせに巻き毛を伸ばした優男が、髪先をいじりながら言った。


 たしかコイツは、5回生のアンズランブロクールだ。名前は忘れた。

 アンズランブロクール侯爵家は、王国でも特に古い貴族の名門で、歴史だけを見ればエッジファセット公の倍はある。

 実家の政治的実力も折り紙つきだが、彼自身の魔法能力は、5回生の中で3番手に甘んじている。しかしながら、実家の政治的背景があるせいか、グループとしては1、2を争う学園生徒の派閥である。

 

 大貴族の子息を前に、天才アザナも萎縮している。いかに王国一と言われる魔法使いも、今はまだ貧乏貴族の子だ。相手が悪い。

 たとえ実家の社会的地位が上なオレみたいなやつでも、力で襲ってくるならアザナも力で対抗したり、いなしたりできる。だが親切な顔をして、その実は上手いところを頂こうというヤツだとアザナは弱い。

 まあいずれ鍛えられて、その辺も上手く躱せるようになるだろうが、今はまだ無理そうだ。

 

 そんなアザナに代わって、前にでるのはユスティティア嬢だった。


「大変申し訳ございませんが、アザナ様のご予定はわたくしが先約ですの」


 アンズランブロクールは、アザナを派閥に取り入ろうとしたか。たぶん、ランチか会合に誘ったのだろう。

 ユスティティアがいなければ、アザナたちは断れなかったに違いない。

 取り巻きの3人は、すっかり大人しくなっている。大貴族相手では、そこらの貴族では太刀打ちできない。たしか1人は、アザナの幼馴染で貴族ですらなかったはずだ。

 

 しかしなんだな――。

 ユスティティアのヤツはぁ、この頃から派手な顔つきと髪型をしているな。成長した姿で憶えていたが、10歳の頃から「濃さ」があって印象があまり変わらない。


「ユスティティア殿下だけでなく、もちろん君たちも同席してもよいのだが、どうだろうか?」


 アンズランブロクールは食い下がる。相手が公爵姫でも物怖じせず、要求を平然と口にする。実家という背景もあるだろうが、神経が図太い。


「ですから、そういうわけにはまいりませんわ。男性だけの会合に、わたくしたちが参加するなど外聞が悪いですわ」


 ユスティティアの拒絶が強い。アザナを連れていかれないように、と必死なのかと思っていたが、どうやらそれとも違う問題を突きつけられているらしい。


 男性だけの会合?


 ――ああ、あれか。

 素衣原初魔法研究会。

 魔法を使うには、人間が本来持つ原初の力が必要である。なるべくなら薄着、できるならパンツ一丁、理想は全裸とかいう変態的な研究会だ。

 名門アンズランブロクールの癖に、ずいぶんと怪しい会合に出入りしているな。


 しかし、これは同席してもいいと譲っている発言だが、実質的に「来るな」と言っているようなもんである。

 大貴族に連なるモノなら、もう少し腹芸やら耳当たりの良い言い回しを覚えるべきだな、この男。

 

「見学だけなら、昔から女子にも門戸が開かれているよ。結構、これでも婦女子に人気があってね――」


 アンズランブロクールは、わざとらしく薄い胸元を開けて見せた。

 なぜ「はぁん」とか言って、それをやる。ぶっ飛ばすぞ、変態。

 彼の取り巻きも、それぞれ決めポーズを取っている。おのおのまあまあ顔が整っているので、なんか腹が立つしキモイ。

 1人マッチョがいて、そいつだけ異質だ。重ねてキモイ。

 キモイ。

 これから、キモイ5乗(パワードファイブ)って呼んでやる。


「ななななな! 公然でなんてことぉ……」


 こんなキモイモノを見せられ、さすがのユスティティア嬢も赤面だ。

 取り巻き女子も顔を覆っている。1人だけ、がっつり指の隙間から見ている。うん、素直な子だ。ちょっと好感が持てる。


 て、オイコラ、アザナ! テメーッもか!

 なんでテメーも顔を赤くしてるんだよ。

 男の素肌を見て紅潮するなよ、まったくホ〇好調だなっ! 

 

「女子にもぜひ見学してもらって、経験してもらいたい。きっと新たな自分と、新たな魔法に目覚めること――」


「『裏切れ大地!』」


 キモイパワードファイブが上着を脱ぎ、ベルトに手を掛けたあたりで、堪らずオレは新式魔法を放った。


 魔法を使った命令に、大地は素直に従う。キモイパワードファイブの足元で、芝生が剥がれて裏返る。

 5人のキモイ奴らは、信頼する大地の不意な裏切りによって、ひっくり返った。

 勢い余って全員のズボンが脱げ、キモイパワードファイブは無様な姿を晒していた。彼ら的には本望であろうが……。よかった、パンツは死守されている。


「きゃぁああああっ!!」


 西校舎前に、黄色い悲鳴が立ち上がる。

 5人の男がパンツ姿を晒したら、そうなるだろうな。 


 オイコラ、アザナ。

 いま、オマエもキャアとか言ったろ?

 それでもオマエはオレのライバルか?

 

 キモイパワードファイブは気を失っているようだ。全員がズボン脱ぎかけのせいで、うちどころが悪かったのだろう。

 少し心配だが、ここは魔法学園。

 死にかけていても、すぐに治療してくれる。


 こんなマヌケな状況で、オレが出て行っても締まらない。

 オレは早々と退散することにした。


 あいつら……打ちどころが悪くて、もっと頭悪くならなければいいが――。


 


キャラ名などは数学ネタから取ってるので、国籍不明状態になってます。

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