表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
コンフォートゾーン 番外編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/373

アルジェブラ 2

 夜も更け、風すら眠ってしまう牧場の暗闇。

 厩舎の一角だけ、煌々と明かりが灯される。

 そこで膝を抱え、ペランドーは眠い目を擦りながら、2つの音を耳にしていた。

 一つはソフィの寝息。

 もう一つは、ナイトが飼い葉を食む音。


「なんだ。結構、元気じゃないか」

 ゆっくりとだが、ナイトは飼い葉を食べている。

 弱ってたり死にかけていたら、普通は物を食べようとしない。

 看病を始めると同時に、ソフィが「元気になりなさいよ」と飼い葉を与えた時は、ひどいことをするなと思ったが、その時から少しずつナイトは食べていた。


「看病する必要あるの~?」

 意外と元気そうなナイトを見つめつつ呟くと同時に、むくっとソフィが起き出した。


「ソ、ソフィ!」

 怒られるとペランドーは身構えたが、ソフィはふらふらと厩舎の外へと歩いていく。 


「ど、どうしたの?」

 声をかけ、ペランドーはついていこうとしたが――。 


「ついてくるんじゃないわよっ!」

 けんもほろろに追い返された。

 ソフィは厩舎の外へと出て行ってしまう。


 ペランドーは1人になり、ため息をついた。


「あーあ。ザルガラくんみたいになれたらなぁ」

 彼のつぶやきは、ザルガラのように強くなりたいという意味ではない。

 ザルガラのように、我を出して生きたいという意味だ。

 上に対しても、下に対しても、強気で我を通すザルガラに、ペランドーは憧れている。人と距離を置き、交友を絞っているように思える。

 実際は違うのだが。

 ザルガラは友人、誰でもウェルカム‥‥状態なのだが。


 誰とも親しくせず、人との間に壁を作っておきながら、助けを求めれば手を取ってくれるというザルガラ。

 実際は違うのだが。 

 距離感が分からず、手を出されると喜んでお手状態になっているだけだが。


 そんな中、ペランドーは友人として選ばれた優越感がある。と、同時に劣等感があった。


「あ~あ……。なにが足りないんだろう?」

 飛びぬけた魔法の才能ではないと、ペランドーは分かっている。何しろ、彼は世間から見れば、圧倒的な才能を持っている。王都の一市民で、エンディアンネス魔法学園の門戸を潜れるのは、年に数人しかいない。

 ペランドーはその1人だ。

 誇って、奢って、増長してもいい。それくらいの将来、有望な少年。


「きっと、性格……なのかなぁ」

 多分にソフィとの幼少期からの関係もあるのだが、ペランドーにとって彼女はあまりにも身近な存在すぎて、気が付かない。

 

 そうしてしばらくしていると、厩舎のぽっかりあいた入り口の向こう――黒い闇、そこで――


「きゃぁああっ!!」


 黒の中で、悲鳴が上がった。


「ソフィ!」

 今まで何度も聞いたソフィの声。だが、聞いたこともない必死な悲鳴。

 幼なじみの声に反応して立ち上がる。

 不意に暗闇の中からは不穏な魔力を感じ、不完全ながら投影魔法陣を眼前に描いた。

 線でも投射型の魔法ならば、ある程度まで防げる。地金で魔力勝ちしていれば、完全に防ぐことができる。

 それを見込んでの行動だった。

 しかし、闇の中から飛んできた魔法は、予想を超えていた。


「『なにをいってもなにをしてもなにをやっても、だめだだめだだめだ!』

 長い呪文の意味を悟ると同時に、ペランドーは強い虚脱感を感じて膝をついてしまった。


「阻害、の……新式魔法……だって!」

 目に見えて飛んでくる攻撃魔法は、魔法陣で防げる。だが、こういった魔法はそういかなかった。自分の魔力を制御して、抵抗しなくてはいけない。

 ペランドーにはその実力がなかった。

 

 そして、単純に攻撃する魔法と違い、他人に不利益や不都合を与える魔法は難しい。

 自分を強化したり、変化させる魔法は比較的簡単だが、他人にそれをかけるのは難度が跳ね上がる。不利益を与える魔法ならなおさらだ。

 それを使ってくる魔法使い。

 並の腕ではない。

 ペランドーは恐怖した。自分の腕では敵わないと、瞬時に悟る。


「学園の魔法使いがみんな、投影魔法が出来るとはかぎらんが、撃ち合いになったら魔力の地金で負けちまうからなぁ」

 暗闇の中から、魔法手帳をひらひらとさせる男が現れた。肉食獣を思わせる大柄の男で、額にはバツ印に傷がついている。

 手帳はボロボロで、あと数回で使えなくなるような代物だ。しかし、阻害魔法などの魔法は、手帳に収録されてはいないはずである。


「……市販の手帳に……阻害魔法なんて……」

「普通はないな。だが……」

 ×印の男は、にやつきながらペランドーを見下し、正3角形の魔法陣を2枚作り出した。

 いまだペランドーが出来ない投影魔法陣。

 立体ではないが、×印の男はそれができていた。投影はゆっくりとはしているが、熟練していることが伺えた。


「魔力さえ高ければ、俺も学園に行けたかもしれないなぁ」

「いったい、何を……する気?」

「う~ん。ちょっと馬を戴きに来た悪いヤツだねぇ。おい、てめぇら。人数分、用意しろ」

 満足げに×印の男は言った。ペランドーに対する魔法の効き具合を見て、愉悦に浸っているように見える。

 男の声を受け、暗闇の中から2人の男が姿を現した。1人は気を失っているらしいソフィを、小脇に抱えている。


「ソ、ソフィ……」

 ペランドーの声は小さい。阻害の魔法がよく効いている。

 動けないペランドーを後目に、部下らしき2人の男たちは、壁にかかった鞍を奪って、元気に3頭に装着した。


「4頭いますね。全部、頂いていきますか?」

「ん? 1頭は病気の馬じゃないか。置いていけ」

 必死に立ち上がろうと、もがいているナイトを見て、鼻で笑う。

 そして、魔法で動けずに甘んじているペランドーを見て、呆れたように肩を落とす。


「魔法学園のナイト様かと思ったが、実力も根性も並以下か」

「……」

 ペランドーは反論しなかった。下手に反論して、不興を買って痛めつけら得るのは御免だからだ。

 馬を盗んで、このままいなくなってくれ、と心の中で祈る。


「親分、準備できました」

 部下が×印の男用の馬を曳いてきた。


「……おい、ボウズ。俺たちがお前を殺さないのは、やり過ぎたら追撃が厳しくなるからだ。俺たちが逃げるまで、そこで大人しくしてな。このお嬢ちゃんは人質だ。うまく逃げられたらどっかで解放してやる。……わかるな」

 ペランドーは動きにくいにも関わらず、必死に首を縦に振った。


「よぉし、いくぞ!」

 ×印の男は、もうペランドーを危険視していない。馬に跨り、振り向きもしない。

 部下の馬には、気を失ったソフィの姿があったが、すぐに男たちと共に闇へと飲み込まれていく。


 走り去る蹄鉄の音を耳にしつつ、内心、複雑だが、ペランドーは必死に言い訳を考えていた。

 

 ――大丈夫、ぼくは無事。敵は優秀な魔法使いで、不意打ちもあって動けなかった。ソフィだって助けるって言ってた。

 ――それに、もしもソフィにもしもの事があれば、ぼくはやっとイジメから解放され……。


 あらぬことを考えたペランドーの背後で、黒い影が立ち上がる。

 影を後ろから被せられ、ペランドーは恐怖した。

 あの男たちが戻ってきて、後ろから刺そうとしているのではっ!


 今まで阻害の魔法に逆らわなかったペランドーだったが、あまりの恐怖で魔法に打ち勝ち振り返った。


 黒いナイトが立っていた。

 黒い眼で、黒い考えをしたペランドーを見下していた。

 

 改めてペランドーは思う。


 ――こいつ、こんなに大きかったか?


 まだ11歳のペランドーだが、初めてナイトと会った6歳の頃を比べれば大きくなっている。

 だが、その時を比べて、またさらにナイトは大きくなったように思えた。

 夜を吸い込んで、大きくなった。そう錯覚するほどだった。


 とても病で臥せっていたとは思えない。


 責めるようにペランドーを見下ろしていたが、くいっと壁を顔で差す。そこには鞍がぶら下がっている。


「一緒に追えっていうの?」

 命の危険がある。物置にいる飼育員に任せたっていいんじゃないか?

 あとは衛兵や巡回兵に任せるべきじゃないか? ぼくはまだ子供だ。ソフィだって、無事解放されるに違いない。

 言い訳を心の中で繰り返していると、ナイトは鼻先でペランドーを突き転がした。


「う、うわ! なにをするんだ!」

 起き上がり抗議し、そして気が付く。

 魔法が解けていた。

 いや、とっくに魔法の効果はなかったのだが、恐怖で動けなかっただけだ。そして恐怖だけではない。ペランドーの言い訳する心が、自分の身体を縛っていた。


 気が付かされたペランドーは見た。

 ナイトの黒い目の中に、ザルガラの姿を。

 ナイトは、どこか彼に似ていた。

 ごくごく単純な怒りを秘めた目。


「そ、そうだ! ぼくはザルガラくんみたいになりたいって思ってたんだ!」

 ペランドーは壁の鞍に飛びついた。


「どこかでソフィが1人で解放されたって、あんな子が無事でいられるはずがない!」

 鞍をナイトに装着する。


「『上におちろ!』」

 ペランドーの身体が僅かだが浮く。その勢いでナイトに飛び乗り、手綱を握る。


「なにかあったんですか? お嬢様?」

 今頃になって出てきた飼育員の脇を駆け抜け、ナイトとその騎手は暗闇の中に飛び込んだ。


「ぼくはっ! あいつに舐められたんだぞ! バカにされたんだぞっ! 許せるかっ!」 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ