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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第2章 不和と重奏

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其は字

「ああ、チクショウ。もしかしたら3度目があるかなぁっと思ってたけど。残念、無しよ! ……か」

 オレは深い霧のかかる河原で、1人立ち尽くしていた。

 死後の世界って奴か? 天国ってのは河原なのか?

 

「そういえば死んだらどこに行くんだろうなぁ。まさか川と石ころと、霧のかかった空しかねーのか? 退屈すぎるだろ」

 ぐるりと見回す。360度、視界不良の霧の中。

 天使とか地獄の死者が、あの霧の中から現れるのだろうか?

 楽しみに待ち構えるが、一向に現れる気配がない。霧も晴れそうにない。


「なんだよ、ここぉ。暇すぎて、石積んじゃうぞオレ!」

 屈みこんで石を積み始めると、背後から笑い声が聞こえてきた。


「あはははっ! ほんと、ザルガラくんって面白いよねっ!」

 聞き覚えがあるのに、忘れている。そんな不思議な声だった。


「オレの後ろに立つんじゃねぇっ!」

 笑い声が、妙にムカつく。

 オレは手に持つ石を投げつけるようにして、振り返った。


 そこには20歳ほどのアザナがいた。だが、そのラインは女だ。

 張り出した胸は、そうそうみない大きさだ。そして華奢な腰。どうみても女だ。

 少年っぽさはそのまま、女として美しく成長したアザナの姿があった。


「アザナ……。アザナなのか?」

「うん、そうだよ」

 明るい声で返事をするグラマラス・アザナ。


「お、おまえ……、女だったのか!?」

「うん、1回目はね」

 けらけらと良く笑い、グラマラス・アザナが頷く。

 意味が分からない。

 女の子ってことも理解できないが、1回目?。


「1回……目? どういう意味だ?」

「2回目は僕です」

 女のアザナに問うと、男の声が背後から返ってきた。

 またもオレは振り返る。

 そこには、苦み走ったアザナがいた。

 一回り大きく、ずいぶんと鍛えなおしたな、という体格のアザナがいた。しかも、無精ひげまで生えていて、すっかり大人の男だ。


「お、おまえ……、おっさんだったのか!?」

「ひどいですね。これでも26ですよ」

 おっさんぽいアザナが、やれやれと肩をすくめて首を振る。


「ああ、そうか。いい夢を見てたから、悪い夢を見始めたんだな、オレ。夢から覚めろ、オレ」

「あはははっ! ほんっと、おもしろ~い」

 ケラケラ笑うグラマラス・アザナ。ムカつく、殴るぞ。


「大丈夫、これは夢じゃないですよ、ザルガラさん。あー、なんだか小さいザルガラさんに、さん付けするのって違和感ありますね。ザルガラくんって呼んでいいですか?」

「さんつけろや、おっさん」

 なんだ、この状況?

 女のアザナと、おっさんのアザナに挟まれ、オレは状況を理解できず頭を抱えて悶える。

 なんだ、この状況?

 

 誰か教えてくれ!


「あははっ! なんか、1回目よりザルガラくん、面白くなってるね」

「そうだね。僕のときは、もっと険のある取っつきにくい人だったんだけど」

 男女のアザナが、オレが理解できないことを言っている。


「頼むっ! 頼むから、この状況を教えてくれ!」

 降参だ。

 マジで頼む、教えてくれ。

 この2人のアザナは、なんなんだ?


 グラマラス・アザナが手を後ろで組み、前かがみになってオレに顔を寄せた。11歳児のオレに、目線を合わせてくれているのだろう。

 だが、目の前には揺れる豊かな胸。あざとい姿勢だ。


「久しぶり、ボクは1回目のアザナ・ソーハ」

「は?」

 久しぶり?

 誰が?


「そして、僕が2回目のアザナ・ソーハ」

「は?」

 おっさんのアザナが、胸を張っていた。

 誰が2回目? 

 オレじゃなくて?

 

「まってくれ、もしかして――」

 グラマラス・アザナの記憶はないが、おっさんアザナの記憶はある。この恵まれた体躯は、あの時のアザナに似ている。 


「おっさんは、オレの知ってる(・・・・)アザナなのか?」

 指を差すと、おっさんアザナは頷く。


「正解。僕はザルガラさんが、命を削ってまで戦ったアザナ・ソーハ」

「ひっどーい。ザルガラくん、ボクのことは忘れてるんだ。ぷんぷんっ!」

 嬉しそうなおっさんと、拗ねているグラマラス。

 オレを2人を指差し、確認する。


「そっちのバインバインが1回目?」

「そう。可愛いアザナ・ソーハ」

「そっちのおっさんが2回目?」

「そう。おっさんじゃないけどね」

「じゃあオレは?」

「「2回目かな?」」

 2人のアザナがハモる。


「数が合わなくねぇか?」

「ふっふっふ~。それにはふかーい、事情があるのだよ、ザルガラくん」

 胸を張り、おっぱいを無駄に揺らして、得意げに言うグラマラス・アザナ。


「まずは経緯をなぞって説明しますね」

 おっさんアザナに敬語を使われると、なんか気持ち悪い。

 話の腰を折ってもなんだから、オレは黙って聞くことにした。

 おっさんアザナは、グラマラス・アザナを紹介するように手を差し向ける。


「1回目のアザナ。彼女が全ての始まりです」

 手を上げ、グラマラス・アザナは発言をする。


「はい、1回目のアザナ・ソーハです。19歳の若い身空で、古来種カルテジアン代入者サブスティテューショナーに負けて死んじゃった乙女です!」

「なるほど、わからん」

 ちょっとこのグラマラス・アザナは、おつむ足りないみたいだ。

 オレは話の通じそうなおっさんアザナに、説明を頼むと目を向けた。

 

「そして僕が、2回目のアザナ・ソーハ。26歳の時、古来種カルテジアン代入者サブスティテューショナーとの戦いに負けて、死んでしまいました。そして、ザルガラさんが命を削って戦いを挑んだ相手が僕です」

「なるほど、わからん」

 わからんと言ってはいるが、おっさんアザナこそが、オレのよく知っているアザナということは把握できた。

 間違いない。確かにアザナだ。

 2度目の人生で会ったアザナは、あざとすぎる。

 オレの良く知っているアザナは、このおっさんアザナみたいに落ち着いた雰囲気で、なおかつ魅力あふれる偉丈夫だった。


「じゃあ、あのあざといアザナは、いったいなんなんだ?」

「3人目ってことになるね」

 オレの疑問に、おっさんアザナが速答してくれるが、納得できない。

 納得できず唸るオレに、グラマラス・アザナが爆弾発言を投げかけた。


「さっきまで、ザルガラくんと戦ってた3人目のアザナは、ボクたちの娘なんだよ」

「はぁっ!?」

 やっぱり、あいつ女だったのか!


「いや、僕たちの息子だよ」

「はぁっ!?」

 どっちなんだよ!


「まあ、3人目のアザナが男の子か、女の子かはどうでもいいです」

「よくねーよ」

 頼む。オレの精神衛生上、はっきりさせてくれ。


「重要なのは、世界はすでに3回やり直されてるということです。さきほど、古来種カルテジアン代入者サブスティテューショナーって言いましたよね?」

「言ったな。それがなにか?」

「僕たちの敵です」

「そうか。それに負けたって言ってたな」

 ここまできて、やっと2人のアザナは真剣な顔付きになる。


古来種カルテジアンは、ザルガラさんのいる時代の遥か前に、世界から立ち去った伝説の種族です。僕も直接あったことはありません。優れた種族ではありますが、社会形態や性質は人間とさほど変わりません。悪人もいれば善人もいて、弱かったり強かったり、どちらでもなかったり、日和見だったりします」

 おっさんアザナは話が出来る。グラマラス・アザナは、はやくも詰まらなそうな表情をしている。

 おっさんがいて良かった。


「近い未来。古来種カルテジアンの悪い人たちが、僕たちの世界にやってきて、この世界の人や魔物たちの精神を乗っ取ってしまいます。そして僕たちは、彼らと争うことになってしまうのです」

「なるほどねぇ。異次元からの侵略者ってわけか。で、オマエらはそいつらにあっさり負けたと?」


「ひっどーい! ザルガラくん! ボクは善戦したんだからね! 世界滅んじゃったけど」

「ダメじゃねーか」

 グラマラス・アザナはダメな子。憶えた。


「あと、精神を異次元に封印されちゃったの、ボク」

「さらにダメじゃねーか」

 完敗じゃねーか。


「そして、1人目のアザナが負けてしまったので、責任を感じていた善人の古来種カルテジアンがチャンスを与えてくれたんです。時間を巻き戻して、古来種カルテジアン代入者サブスティテューショナーに対抗できる魂を、この世界に呼び出した。それが僕です」

「ふーん。で、なんで男になったわけ?」

 世界の時間を巻き戻すとか信じられんが、古来種カルテジアンならできるだろう。それは想像できる。

 だが、なぜこのグラマラス・アザナはリストラされて、男アザナになったのか。非常に気になる。


「え? ボク、男の子だよ」

 グラマラス・アザナが、なんか言った。

 オレはおっさんアザナの目を見る。

 おっさんは気まずそうに、何も言わず目を逸らした。

 乳をオレとおっさんの間の空間に差し込み、グラマラス・アザナが可愛いポーズを取って見せる。


「ボク、魔法で女の子になったんだ」

「変態だぁーーーーーーーっ!!!!」

 大変だぁーーーーーーーっ!!!!


「ま、まあそんなわけで、精神をここに封印された1回目のアザナに代わり、僕が古来種カルテジアン代入者サブスティテューショナーと戦うことになったのです。うまく古来種カルテジアン代入者サブスティテューショナーの侵略を遅らせて、万全を期して戦ったのですが――」

「負けたのか?」

「ありていに言えば。正確にいうならば、相討ちくらいにはなったのですが……その、古来種カルテジアンに取って不都合な結果だったらしく、もう一度、歴史が巻き戻されたんです」

 こうして聞くと、古来種カルテジアンって身勝手だな。

 どんなヤツらか知らんので、実感がわかないが。


「ちょっと待て。つまりあれか? アザナは魂が別人で3回の人生を繰り返してて、オレは記憶を保って2回目ってことか?」

 世界は3回やり直しされている。そしてオレは、2回目の記憶を持って、3回目を経験したってことだ。


「要約すると、そういうことですね」

 おっさんアザナが神妙に頷くと、グラマラス・アザナがまたおっぱいと口を挟んできた。


「ひっどいよね。1回目のザルガラくんは、ボクにそっけない態度だったし、ぜんぜん憶えてないし」

「あたりめぇだ。変態がっ!」

「ぶーぶー」

 可愛らしい仕草で不機嫌アピールしてくるが、元男だ。元男だ。


「ザルガラさん」

「なんだ?」

 話の通じる方のアザナが、真剣な目で話しかけてきた。こいつとなら、マトモに会話できるな。


「ザルガラさんが、記憶を保ったまま3回目を経験しているのは、イレギュラーです。でも、そのお陰で、とてもいい結果がでています」

「ああ、カタラン領のことや、今回のユールテルのことか」

「ええ。大幅に歴史が変わって、事態が好転しているんです」

「ふーん」

 とはいえ、オレには関係ないことだけどな。


「3回目のアザナは、力こそ高いですが、記憶は僕たちから受け継がれてません。ザルガラさんが記憶を保って、3回目を生きている。これはチャンスなんです」

「いや、死んだぞ、オレ。だからここにいるんだろ?」

「いえ、死んでませんよ。死んだら困るので、生き返します」

「軽っ!」

 しかも決定権、オレに無しか。


「ユールテルの前で、かっこいいセリフ(笑)を言いながら死んだところ申し訳ありませんが」「待って、恥ずかしい! 止めて!」「生き返ってもらいます」

 結構、おっさんアザナが外道だ。ケラケラ笑ってるグラマラス・アザナは、かなりイラッとするが基本無害だ。


「生き返らせてまで、オレに何させるつもりだよ! おっさん!」

「お願いします。僕たちの息子」「娘だよ」「を助けてやってください」

 どっちだよ、ほんと。はっきりしてほしい。


「助けて欲しい――か。勝手なお願いだな。そうだなぁ……どうかお願いしますって、その頭を下げてやったら考えてやっても――」

「死ぬ前の、かっこいいセリフ(笑)をリピート再生しますね」

「え? なにこれっ!? 幻影? やめて、とめて、やめて、とめて! うん、わかった。ザルガラ、古来種カルテジアン代入者サブスティテューショナーと戦っちゃうぞ~っ!」

 恥ずかしいセリフを言っているオレの映像が消え、思わず胸を撫で下ろす。こいつ、おっさんアザナじゃねぇ。外道アザナだ。


「もう、時間ですね。では、お願いします。少しだけ古来種カルテジアンの力を残して生き返しますので、役立ててください」

 外道アザナは、もう終わりだとばかりに話を切り上げやがった。チクショウ、いつかぶん殴ってやる。

 

「ばいばーい! ザルガラくん。もう、ボクのこと、忘れないでよねー!」

 グラマラス・アザナが、バルンバルンとバイバイしながら、霧の向こうへ消えて行く。

 それを追うように、外道アザナも霞んでいく。

 オレの足場が、急速に2人のアザナから遠ざかっていく。


「お、おい! 待てよ! アザナは? オレが2度目に会っている今のアザナは、いったい何者なんだよ」

 霧の向こうへと消えて行く2人。

 黒い影になっているのに、2人が同時に同じ動きをさせるのが見えた。

 2人の口から発せられた言葉――。


「「あざな」」


 答えを聞きながら、オレの意識は白く、遠く、薄く、離れて行った……。

 

 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] おん? つまり3度目アザナはTSホモ……と? ………これはNLなのか……? [一言] まあ可愛くて付いてなければ元男でも関係無いよねっ!!
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