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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第2章 不和と重奏

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Keep the change.

 偶然なのか、狙ってアザナが撃ち落としたのか、それとも何かの意志の介在なのか、オレはユールテルの前に墜落した。

 痛みはない。

 どさりと落下する。

 

「うわぁっ!」

 オレの代わりに、ユールテルが悲鳴を上げた。

 ユールテルはオレの作った魔胞体陣から解放されている。魔胞体陣が解けたのか。まあ、オレが死にかけてるから当然か。


「いょぅ……ユールテル」

「ひいっ!」

 オレが声をかけると、やたらユールテルが驚いて見せた。そりゃそうか。胴体に穴が空いてるもんな、オレ。どう見ても死んでる。

 そんなのがしゃべったら、びっくりするわな。


「死んだと思ったか? いやぁ……まあ、もう死にそうだけど……」

「あ、あああ……」

「返して欲しいか? この力? 怪物でも制御しきれず、それでいながら天才には及ばない程度の、そんな力が?」

 ユールテルは左右に首を振ってるのか、震えてるのか分からない動きを見せる。

 困ったな。なんて声をかけたらいいかわからない。

 オレはなんだかんだ言って、ユールテルを助けたわけだが……。なんで助けたんだろうな。

 やっぱ中身は21歳だからかな?

 子供を見たら助けたくなる。

 そうだ、中身は21歳だからな。こういうガキに説教するのもいいだろう。オレは説教ばかりされるほうだったから、説教するのも経験してみたい。

 どんな説教をしてやろうか。

 そんな事を考えていると、やっと緊張が取れたのか、ユールテルが首を左右にふった。


「そうか。夢から覚めたか、ざまみろ」

 説教するつもりが、なんか煽り文句になっちまった。いい言葉が見つからなかった。

 口は上手いつもりだったんだが、慣れないことはできないな。


「……ごめん、なさい」

 ユールテルが泣きながら謝ってきたが、なんか腹が立つ。なぜか腹が立つ。

 言い訳でもしてくれた方が、文句言えるんだが。

 素直に謝るとか卑怯だろ。文句言えねぇじゃねぇか。


「謝ってすむかよ。せっかく、今までで一番いい夢見てたのに、オマエのせいで目が覚めちまった」

 なぜか文句が出た。

 オレ、文句言うの好きなんだな。ツッコミみたいなもんか。……違うか?


「オレは、全力だったんだぜ。オレみたいな怪物が、人間止めて本当の怪物になっても、あのアザナには敵わない。そんな程度のインチキを、オマエは自分のモノだといって欲しがっていたわけだ。わかったか?」

「ご、ごめんなさい! ごめ、ごめんなさい」

「よくわかったようだな。……いいことだ。もうテストでカンニングしたりすんなよ」

「してない……。しない……。しないから、ごめんなさい! だから……死なないで……」

 イラッとする。だからオマエのせいで、オマエの代わりに死ぬんだよ、オレ。

 今度は文句を言おうとするが、オレの口から出た言葉は慰めだった。


「安心しろ。この2度目の人生は、おつりみたいなモンだ。おつりが支払った分より多かったら変だろ。そろそろおつりの分は、終わりってことだ」

 そうだ。オレがユールテルの身代わりになれたのは、2度目をおつりの人生と、心のどこかで思っていたからだ。

 死んだはずのオレが、なぜか2度目の人生を貰えたから、どこか達観してたと……いうか満足感があったのだろう。そりゃ、もっといい夢を見ていたかったが、そのいい夢がずっと続くとは限らない。

 どっかで悪夢になるかもしれない。


 そうなる前に、目覚めた方がいいだろう?

 なあ、アザナ。


「そうだよな?」

 オレという行き場を失った魔力が、空のあちこちで弾けて輝いている。そんな光を背に、アザナが舞い降りてくる。

 つか、倒れるオレの頭上……枕元に降りるのやめてくれね? 

 それ怖いから。


 オレの頭側に降り立ったアザナは、跪き両手を握り合わせる。そして祈りをささげるよう、目を閉じて小さく聞きなれない言葉を呟き始めてる。


「おい、まだ死んでねーよ。お祈りは死んでからにしてくれねぇかなぁ」

 オレの軽口を無視して、アザナは祈りを続ける。もしかしたら、魔法で治療でもしてくれるのかと思ったが、どうやらそんな雰囲気ではない。

 期待して損した。つーか、期待したオレが情けねぇ。

 しかし、アザナのヤツはガチでお祈りかよ。勘弁してくれよ。


 泣いてるバカと、お祈りしてる不思議くんに見守られて死ぬのかよ、オレ。


「でも、よかったぜ。ほんとよかった」

 祈りをささげるアザナ。オレはその顔に礼を言う。ユールテルに懲りてもらうためには、オマエがいなけりゃ始まらなかった。


「アザナ。オマエがオレより強くて、本当に良かった……」

 ――――――――。


 ――――。


 ――。



 オレがアザナより弱くて、本当に良かった――。



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