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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第2章 不和と重奏

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デシメーター

「あーあ、やっちまった。これで名実ともに怪物か」


 自殺行為をしたわりに、オレは晴れ晴れとした気分だった。

 

 アザナの高速移動魔法を利用せず、のんびり飛んできたオレが学園で見たものは、練兵場に避難していた生徒たちだった。

 事情を訊けば、学園に不審者が侵入して、施設用の魔法陣を大規模に書き換えたらしい。

 もしやと思ってユールテルを捜してみれば、今まさに古来種カルテジアンの遺跡を再稼働させる場面だった。

 アザナはなまじ頭が回る分、対策に困っていたようだった。

 そんなアザナを横目にして、オレはオレなりに、最適な行動を取れたと思ってる。

 

 ユールテルが手に入れようとした力。それをオレが横から掠め取った。

 アザナが躊躇した決断。それをオレが横から掠め取った。


 悪役としてこれ以上ない行動だった。


「なぁるほど、こりゃすげぇ。これが古来種カルテジアンが使ってた力か」

 オレの身体に巡る力。

 まるでオレの中へ強引に魔力の海が流れこみ、魔力の嵐で頭ン中が揉まれるような愉快で不快な感覚だ。


 てっきり古来種カルテジアンの力というのは、超々立方体陣から生み出される力と思っていたが、どうやら地下に眠る魔力供給システムの事だったらしい。

 魔力の質がまず違う。どうしても人間の使う魔力は不純物がある。そのせいで、体調に左右される。

 この供給システムなら、得られる魔力はすべて純粋な魔力となる。これならロスもなく、ムラもない。

 そしてなにより、量が違う。

 いやはや、これは人間が制御できるレベルじゃない。意識が飛びそうになる。下手したら死ぬ。下手しなくても、しばらくしたら死ぬ。

 

 短足のカトゥンが目に入れていた超々立方体陣は、この膨大な魔力を制御する仕掛けの一部だったらしい。


 ふと手をみると、肘から先が宙に浮いていた。いや正確には肘がなくなり、二の腕部分から先が浮いていた。

 よく見れば、オレの膝もない。

 肘と膝の周囲が消え、さながらパーツの欠けた人形といったところだ。


「マジかよ。こりゃぁいよいよ怪物の仲間入りだな。見た目は普通だと思ってたんだけどなぁ、オレ」

「ザルガラ先輩……」

 笑うオレに、深刻な顔のアザナが声をかけてきた。 


「ああ、悪い。無視しちゃってて」

 ついつい、自分の中に流れて込んでくる魔力に夢中となってしまった。


「返せ! それは僕の力だ! 僕が手に入れるべき力なんだ!」

 オレが正気に戻ったと同時に、ユールテルも正気に戻ったようだ。

 しょうがない。

 こいつの目を覚まさせてやらないとな。オレだけ良い夢から覚めるのは気に入らない。


「なに言ってやがる。このインチキ野郎が」

 ユールテル。オマエも諸共だ。道連れだ。

 オレのインチキ発言に、ユールテルが怯む。


「横取りしてわかったが、これはインチキだ。たんに膨大な魔力を、個人で自由にできるだけ。死人から利子無しで金を貸してもらって、あとは知らぬ存ぜぬで返さない。そんなインチキだ」

「ぐぅ……。返せ、よ」

 諦めの悪い奴だ。

 オレは魔胞体陣を作り出し、その中にユールテルに閉じ込めた。


「な、なにをする!」

 ユールテルの実力じゃ、どうにもできない。今のオレは魔力も高いしな。アザナでもちょっと手こずるだろう。


「オマエはそこでよーく見てな。……アザナ。ちょっと付き合え」

「え?」

 オレの呼びかけに、アザナはマヌケな返事を返す。


「殺し合いだ。このユールテル……バカテルにこのインチキが無駄ってことを教えてやらねぇとな」

「な、なんで」

 夢から覚まさせるためだよ。とは言わない。


「はは。良い顔してやがんな。オマエがそんな情けない顔見せるなんて、なかなか愉快だぜ」

「な、なんで殺し合いなんてするんですか?」

 分からんか。

 まあわからんだろうな、天才のオマエには。

 仕方ない。説明するか。いいかげん、魔力制御するのつらくて億劫なんだが――。


「一応、断っておくが、親切心とかじゃねーぞ。ユールテルが下らねぇ夢を見てたと、オマエとオレが証明してやるんだよ。怪物ザルガラがインチキな力を持っても、天才アザナには敵わない。そうユールテルに教えて、バカみたいな夢から叩き起こしてやるんだ」

「そんな! そんな事するために、なんで殺し合いだなんて言い出すんですか!?」

 必死になって出来ないと言うがな、アザナ。やってもらわないと困るんだよ。


「あのなぁ。こんな力手に入れて、人間が制御できると思うか? いい加減、パンクしそうなんだよオレ」

「……分かってて横取りしたんですか?」

「いやぁ、実はここまで無理がかかるとは思ってなかったな。だが無事で済むとは思ってなかったぞ」

 1度目――あの時のステファンも、自分に限界が来るとわかっていたのだろう。そしてあの変態は、自分の思いを遂げようと、アザナに襲いかかった。

 変態のわいせつ目的の悪あがきで、学園は消滅したわけだ。事情がわかると、ひどいなこれ。


「つーわけで、バカテルに自分がどれだけ無駄なことをしたか、叩きこんでやらないとな。そのためには、オマエが戦って、オレをぶちのめしてくれるのが一番だ」

「冗談……ですよね?」

「死ぬ前に冗談言えるほど器用だったら、いまごろ友達100人いるぜ」

「そうですね」

「おい、笑顔で同意すんな!」

 ムカついたので、一発魔力弾を叩きこむ。一瞬で投影した魔胞体陣で、なんなくそれを弾くアザナ。


「よし、やるか!」

「……わかりました。介錯します」

「カイシャク? またぞろわけのわからん言葉を言いやがって」

 オレとアザナはヨールテルを残し、学園上空へと舞い上がる。


「こんなやり方でしか、インチキを否定してみせることができないんですか?」

 アザナの髪が風で暴れている。目が隠れて表情が見えない。

 風が巻いている。オレから出た魔力の余波か。すげぇな、無駄にすげぇ。


「実はなあ、オレもインチキしてんだよ。2度目の人生。信じられんかもしれんが、オレは10年後に死んだ。気が付いたら、こうして10年前。今の時代に意識が舞い戻ってた。オレもインチキしてるんだよ」

 アザナの表情が変わる。信じられないのだろう。疑いと驚きが入り乱れる表情だ。


「だから、それを否定してくれ! やっぱインチキはいけねぇよな……って、バカテルにも、オレにも身をもって教えてくれ! オマエならできるぜ、絶対! 近道やインチキ全部、オマエの前では無駄だって証明してくれ!」

 オレは信じている。

 だから、耐えきってオレを倒してみろ!

 

 オレの手で、正600胞体陣がすんなりと描けた。寿命どころか体力すら削らずに。


 王都とその周辺にある遺跡から、魔力の柱が天を目指して立ち上がる。膨大な光量を持つ柱が、王都を赤々と照らし大地を揺らす。


 アザナはこの光景を見て――


 平然とオレを睨め付けていた。

 笑えることに、アザナの目には涙が浮かんでいる。だが、嬉しいことに恐怖している様子はない。

 オレの攻撃を受けきれる算段があるから、アザナは恐れることなく、背筋を張って泣いている。

 

 さすがだ。じゃあ、オレも安心して一撃を放てる。

 

 いまから放つ魔法にどんな名前を付けるか?

 最後の魔法だから、一発キメておかないとな。フィーリングで決めよう。

 勝手に魔法の名前が口に上る。

 

「『悪名を轟かせろっ!』」

 天に昇りつめた魔力の本流が、オレの号令でアザナに向けて降り注ぐ。

 

 轟音、轟音、また轟音。

 

 おそらくこのまま地上に落ちれば、王都を蒸発させ、遥か地下にある古来種カルテジアンの施設を露出させるだろう。それほどの威力。

 止まらない音と光の束が、アザナの頭上で鳴り響き続ける。


 アザナは頭上に翳した正600胞体陣で、すべてを受け入れていた。光の一筋すら、地上の学園に溢していない。

 轟音は空気を震わし、王都全土に伝播していく。

 耐えられると信じて放った魔法だったが、あまりにあっさりと受けられたので、さすがにオレも困惑した。

 どうやってるのかと、『悪名を轟かせながら』アザナの魔胞体陣を解析してみた。


「……どういうことだ?」

 アザナの魔力が上がっている。常にどこからか供給されているかのようだ。

 その供給元を捜すと、オレからだった。正確には、ユールテルとオレが書き換えた学園の魔法陣からだった。


「ああ、あれか」

 そういえば、アザナはステファン監視用に書き換えたオレの魔法陣をつかって、タダ乗りをしていた。いまもその状態ってことだ。

 しかも、ご丁寧にそこを起点として、ユールテルの書き換えた学園の魔法陣まで手中に収めている。


「すげーや、やっぱオマエ」

 オレの魔法陣をタダ乗りしていたのは、単なる運だ。だが、それを起点にして形勢を逆転。

 接戦できるはずのオレから、圧倒的有利な状況を作り出している。


 よし、横から邪魔してみるか。


 オレは頭上の攻撃を受け止める泣き顔のアザナに向け、嫌がらせの魔力弾を放ってみた。


 予想以上に大きな魔力弾が飛び出し驚いたが、アザナは片手で払ってしまう。

 それた魔力弾は、遥か後方の山にぶつかり、一部を削る。


 いまのは古来種カルテジアンの地下施設から、流れ出た魔力を利用したように見えなかった。完全にアザナの力だけだった。

 ……マジか。

 いくつか魔力弾を打ち付けるが、それらすべてをアザナは弾く。

 小さいアザナの手の平から血が出ている。無傷とはいわないが、アイツは上空からの【悪名】を受けきりながら、文字通り片手間でオレの魔力弾を全て払いのけている。

 

 反撃が来た。

 天空からの【悪名】を受ける正600胞体陣から、いくつもの魔力弾が飛んでくる。

 いや、もう正600胞体陣ではなかった。頂点と辺を削り落とした【半魔胞体陣】だ。

 短足のカトゥンが描いて見せた、多面体の超立方体版で、魔法陣を書きこめる面がとてつもなく増えている。

 えっと……あー、たぶん面が1万7千くらいだ。つまり、1万7千分相当の新式魔法を使える。もちろん使用魔力は相対して激増しているはずなのだが……。

 オレから横取りしてる魔力で、十分賄えるようだ。というか、それらを完璧に制御してるところは、さすがアザナだ。


 よく見りゃ、切り取った頂点と辺も、別の新式魔法陣と化している。つまりあれだ。えっと……おそらく、ろ、6万8千くらいの新式魔法陣をアザナは操っている。


 それらを使い、アザナが魔力弾を放ってきた。いくつ飛んでくるんだ、あれ?

 マジ、手加減しないなアザナ。ため息がでるくらい嬉しいぜ。


 オレは肘から先に浮かぶ腕を、魔力弾に向けて【転移】させた。不気味な手が、空中に浮かんでは消え、飛んでくるアザナの魔力弾に触れて消滅させる。

 

「お、こりゃいいな。ちょっとした遊びみたいで楽しいぞ」

 腕が離れているせいか、自分の手だと思えない。浮かんでは魔力弾を消し、次へ【転移】してさらに魔力弾を消す。

 最初のうちこそ間に合っていたが、アザナの正600胞体陣……じゃなくて大斜柱正600胞体陣と、それから切り落とされた3角錐陣などから、飛んでくる魔力弾は留まるところを知らない。

 中には軌道を変える物まであった。

 よく見れば、アザナが高速移動に使った魔法陣が、いつの間にかあちらこちらに貼られていた。


「なるほど。本来はそうやって使う魔法だったってことか」

 加速させるだけでなく、本来曲がらないはずの魔力弾の軌道まで曲げる。一石二鳥の魔法だ。

 厄介なので、その魔法陣も消すが、手が足りない。比喩で無く、本当に手が足りない。

 飽和攻撃と変則軌道の魔法弾の前に、ついにオレの防御が崩壊する。


 次々と命中するアザナの魔力弾。今は魔胞体陣で耐えているが、あと数発でオレの身体に届くだろう。

 あと8、7、6……と、その球数を数える余裕がある。

 

 ああ、ペランドーと早めに仲良くなれてよかったな。1度目通りだったら、アイツが声をかけてくるのは、まだ先だった。

 そうなったらアジトも一緒に作れなかった。

 蒸しパン旨かったなぁ。

 

 5、4、3……。


 そういえばティエとも会話が増えたな。1度目は、完全に主従関係で終わってたが、アイツが軽口を叩く陽気なところ持ってるとは知らなかった。

 イシャンと仲良くなれて、良かったのか悪かったのか。でも、今思えば悪くなかった。いや全裸の光景を思い出すな、オレ。

 カタランの騒動も同時に思い出すな、こんなときに。悪夢見せるな!

 走馬燈に横切るなっ! 全裸っ!


 2、1……。


 今回はアザナとも少し仲良くできたな。1度目には、オマエと争わず一緒に歩くなんてことなかったな。

 昼飯くらい、一緒に食っておきたかった。アジトも案内しておけば良かったかな?

 いや、いっしょにアジト作りで――。

 

 ゼロ……。


 充分な威力を持って、魔胞体陣を貫いた魔力弾が、オレの胸を貫いた。



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[良い点] 非常に熱い展開でワクワクしました
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