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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第2章 不和と重奏

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夢の終わり

 ほぼ無人となった、エンディアンネス魔法学園の西校舎。

 その中を探索魔法を併用し、ユールテルの姿を捜すアザナの姿があった。


 昼食時の避難ということもあり、練兵場への移動を渋った生徒もいたようだが、ことごとく教師の怒声で追い立てられていなくなっていた。


「……ほとんどの魔法陣が書き換えられてる」

 校内を走り捜索しながら、一目見ただけでアザナは学園施設の魔法陣を解析した。どうやら、なんらかの魔力制御の補助システムらしい。 

 アザナやザルガラでさえ、社会的な事情から一部を書き換えるのがせいぜいなので、騒動の犯人は形振り構っていないと思われる。もしかしたら、学園の被害など気にかけていないのかもしれない。


 そしてアザナはこの騒動の犯人に心当たりがあった。

 放棄遺跡の廃屋で見た、ユールテルの気配。それが魔法陣の書き換えに残っていた。


 アザナは教室をわざわざ覗かない。魔胞体陣を教室内に入れ、アザナは廊下を通過。内部を捜索し、もう一つのドアから出てきた魔胞体陣と合流して、次の教室へといく。これで立ち止まらず、ユールテルを捜すことができる。

 

 そして異変は、アザナが2階を捜索し始めたときに起きた。


 突如、校舎の外で轟音が鳴り響き、魔力を持った光の柱が天に向かって伸びた。

 アザナは窓か身を乗り出して、光の柱が立つ場所を確認した。

 

「第一実習棟か!」

 魔法学園には校舎の他に、迎賓館や学生寮などいくつかの建物がある。その一つ、第一実習棟は独立した建物の中で、学生寮に続いて2番目に大きい。

 

 透明な魔力で囲まれたドーム状の施設で、競技場や決闘場として利用できる。観客席もあり、模擬戦やトーナメントも行われる場所だ。


 第一実習棟は練兵場の近くにある。

 突如立ち上がった魔力の光を見て、避難していた生徒たちは騒然とし、教師たちが必死に収めようとしていた。


 アザナは西校舎2階から飛び降り、実習棟へと魔法で飛んだ。

 実習棟の屋根中央は、元から穴が空いている。そこから侵入できそうだったので、アザナは魔力の柱を避けつつ降下した。


 光の柱の底。

 そこには少年がいた。


 魔力の柱に煽られながら、奔流を楽しむかのような――ユールテル・エン・エッジファセット。


「ユールテル!」

 アザナは婚約者の弟……友人の名を叫んだ。

 やっと乱入者に気が付いたのか、ユールテルがゆっくりと振り返る。


「やっぱり……。この学園の魔法陣を書き替えたのは君だったんだね」

「……」

 超々立方体の魔胞体陣を操作するユールテルは、無言で肯定した。


「何をする……つもりなの?」

 アザナは「何をしてるか?」と質問しつつ、同時に魔胞体陣を解析し、何をしてるかを探った。物が物だけに、いくらアザナでも解析に時間がかかる。


「僕はエッジファセット家に相応しい魔法使いになるんだ」

古来種カルテジアンの力を使って?」

「うん、そうだ。でも正確にいうなら、古来種カルテジアンの残した遺跡を使って……かな」

 アザナはユールテルのヒントを聞いて、一気に超々立方体陣の解析を終えた。


「王都の地下に、古来種カルテジアン魔力庫プールがあるんだね!?」

 解析した結果、ユールテルの投影している超々立方体陣内部の術式は、遥か地下にある古来種カルテジアン施設の開錠キーと制御システムだった。


「そうだ。せっかく描いた超々立方体陣……、【古来種カルテジアンの目】が盗まれてしまったから。しかたなく、学園の施設を借りることにしたんだ」

 形振り構わない書き換え。

 それは実力不足のユールテルが、古来種カルテジアンの力の一部をつかった強引な行為だった。


「僕はこの手で、エッジファセット家に相応しい人物になるんだ!」

 ユールテルの目の焦点は、どこにも合っていない。あえて言うならば、その目は自分が思い描く自分の理想像を見ていた。


「そんなことをしたら大変だよ! それだけの魔力、制御できるわけがない!」

「大丈夫、うまくいくさ!」

 楽観的なユールテルに、アザナは歯がゆい思いをした。危険性を、どう説明したらいいかわからない。


「それに学園どころか、王国全体が大騒ぎになる」

 学園の魔法陣を大部分書き替えただけでも大事だが、古来種カルテジアンの力を手に入れれば、国中が……いや、大陸全土が上を下への大騒ぎとなる。


古来種カルテジアンの力を手にいれれば、学園の施設をちょっと壊したくらい不問になるよ。アザナだって、転移門ゲートの件でそういう手打ちになったろ?」

 アザナは言い返せなかった。まさしくその通りだ。

 世間的には転移門ゲートは、古来種カルテジアンの遺跡の再起動となっている。だが、アザナをはじめ、近しい人々はみな、アザナが1人で作り上げたと知っている。

 ユールテルはそれを突いてきた。


 彼の言う通りだ。

 散逸した古来種カルテジアンの力を、その手に取り戻したとなれば、紆余曲折しながらも政治的決着を迎える可能性がある。

 学園施設の違法な使用も、不問とまではいかないまでも、功績に隠れるだろう。

 力を恐れられ排斥されるとしても、古来種カルテジアンは世界中で信仰の対象になるほどだ。その力をもつ存在を、容易に排斥できるとは思えない。

 いや普通ならば、利用するだろう。古来種カルテジアンの力とは、それほどまでに魅力的なのだ。


 それに魅入られた者。ユールテル・エン・エッジファセット。

 

 婚約者の弟。個人的にも親しい友人の変貌に、アザナは困惑を隠せない。エッジファセット家の立場や、ユスティティアの心配などを言葉にして、説得しようと考えるが時間が足りない。

 もっとも家族だの個人の未来だのと、そういった特売品みたいにありふれた説得が、いまさら通じるとはアザナには思えない。

 歯ぎしりをして、アザナは確認のため尋ねる。


「どうしても、やめないのか?」

「どうするの? 僕を止めるの?」

 ユールテルはやってみろ、という目線を向けた。


 アザナは止める手立てが思い付かない。

 いや、手立てはある。だが、どれも選びたくない。


 1つ目は学園の破壊。書き替えられた学園施設の魔法陣は、地下の遺跡から魔力を集積するための補助システムとなっている。それらが全て壊れれれば、この現象は停止する。

 2つ目はユールテルを殺害。論外である。

 3つ目は……。


 古来種カルテジアンの魔法陣を書き替えて、魔力集積を乗っ取る事。

 この魔力すべてを、ユールテルに代わり、アザナが受け止めるという手段だ。


 アザナにとって【この世界】の人が描く魔法陣は、【平文】で出来たお手本のような魔法陣である。アザナでなくても、充分な知識があれば、誰でも読めるし、誰でも書けるし、誰でも書き換えられる。

 通常は書き換えを防止するため、魔法陣に注ぎ込む魔力で介入を阻んでいる。だが、投影魔法陣を描ける者が、それさえ突破できれば他人の魔法陣を書き換え、乗っ取ることができる。


 城塞に例えると、壁こそ高く警備の兵が睨みを効かせているが、中に入ると屋内は整然としていて、武器防具と財宝が並べられているような状態だ。

 もっとも、その壁を簡単に越えられるような人物は、アザナとザルガラ以外にはそうそういない。仮にできても時間がかかるか、数人がかりだろう。


 ユールテルは乗っ取りの可能性を想定してないようだが、それが出来るとしてもアザナは選べない。


 古来種カルテジアンが利用していた力の源流。それを人間が扱えないと、アザナは知っている。

 自殺行為と理解しているからだ。

 躊躇していた時間は、わずか数秒だっただろう。たったそれだけで、手遅れとなった。


「アザナ! 僕は君を超えて見せる!」

「やめるんだっ! ユールテル!」

 口先だけ。

 アザナは止めろと、口先でしか言えなかった。

 凶行の犯人であるユールテル。その友人である天才アザナは、彼を止められなかった。


 魔力の奔流がユールテル1人に集積する中、アザナは何も選ぶことができなかった。


 そんな中、決断した者がいた。

 

 膨大な魔力の柱がねじ曲がり、光に包まれていたユールテルの身体が外気に晒された。


「魔力が……僕を避けた?」

 ユールテルが実習棟中央で、何事もなく立ち尽くしている。

 アザナは、彼の向こうに集まる魔力を見た。

 誰かに魔力が集積している。


 ユールテルが描いていた魔胞体陣は、全くの別人に向かって、全ての魔力が流れるように書き替えられていた。

 もちろん、アザナはそんなことをしていない。

 眩しい光の中に目を凝らすと――。


「ザルガラ先輩……」

 魔力の集積する中心。

 第一実習棟の入り口に、1人の少年が立っていた。 

 怪物ザルガラ・ポリヘドラ。

 彼に古来種カルテジアンだけが扱える、膨大な魔力が集積されていく。

 ユールテルは状況を理解できず、ぽかんと口を開けてそんな怪物を見ていた。一方、アザナは事態を理解しながらも、ザルガラを助ける術を見いだせずにいた。

 ザルガラとて、自分のやったことが分からないわけではないだろう。


「あ~あ……。やっちまった」

 自殺行為と等しい決断を実行したわりに、彼の口振りは軽い。まるで、高いワインを落として割ってしまった……、そんな言い方だ。


「これで名実ともに怪物かぁ」

 集積される魔力を見上げるザルガラは――


 いい夢から覚めてしまった。


 そう言いたげな自嘲を浮かべていた。

  


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