197日の放置
お久しぶりです。
あとがきに、この作品についての裏話と、新連載の宣伝があります。
「ああん! 197日の放置プレイ! さすがザルガラ様です!」
エウクレイデス王国の南西に位置するカタラン辺境伯領。
東の大陸へ最初の親善大使を送る準備が、着々と進むある日。
ここの領主であるカイタル・カタラン伯に会おうと訪れたら、その娘であるヨーファイネ……ヨーヨーが全力でわけわからんこと言ってきた。
「やたら具体的な日数だな、おい。ご無沙汰しております。カタラン伯」
コイツには用はないので、ぐいと押し退け、その向こうにいる老年が迫るにも関わらず筋骨隆々のカタラン伯に挨拶をする。
「久しぶりだな、サード卿」
屋敷の玄関ロビーにまで出迎えてくれたカイタル・カタラン辺境伯は、にかりと笑ってオレを屋敷に招き入れてくれた。
歓談室でオレはお茶を頂くことになり、そのままヨーヨーを交えて世間話を始める。
相変わらず質実剛健な屋内だ。
オレですらベクターフィールド内を飾り始めているというのに、こういうところに武人と文官……俺の場合は才人の家系だが違いがでるもんかねぇ……。
「ところで今回はごゆっくりされていかれるのかな?」
歓談室の作りを観察しながらお茶を頂いていると、カタラン伯が軽い口調で確認を取ってくる。
「そういきたいところなのですが、陛下とブラエ侯からお役目をもらっておりまして」
やんわり忙しいと伝えると、いつの間にか隣に座るヨーヨーがすり寄ってきた。
「ゆっくりと愛を育むのもいいですが、性急にっ! 性急って性的!」
ヨーヨーがいるとなんかノイズがすごいけど、スルーで。
えー……っと、なんだっけ。
たんなる子息ではなくなり、正式に男爵となったオレに、カタラン伯はそれに合わせて丁寧な対応をとってくれる。
こうなるとオレもそういう風に、応対しないといけないので面倒くさい。
「ほう、そうか。あのブラエ侯からもお役目を?」
「ええ、お願いレベルですけどね」
国境で長年、あのヤバい伯爵夫人とバチバチやり合ってたカタランのことだ。
いくら領隣のネーブライト伯爵夫人と争いが小康状態となっていたとて、心中は穏やかではないようだ。
共和国の実質指導者の一人と、オレが会談をして頼まれごとを受けているのはさらに考えることが多いだろ。
「……そうか。しかし、これも時代か」
カタラン伯は時代と言い、いろいろ飲み込んだ。
そう。時代は変わりつつある。
共和国での叛徒が、実質ただのアイドルグループとその運営母体とそのファンに成り下がり、なし崩しに沈静化。
ブラエ侯はただ弱体化しただけの共和国を維持するため、王国との関係の雪解けを望んだ。
架け橋となったのが、このアイドルグループとその関係者たちだ。
叛徒が両国の架け橋になるとか、オレもびっくりのアクロバット着地というほかない。
だが、共和国も王国も古来種のコンサート改めライブを見たいという感情が抑えられず、これをお互い言い訳にして両国は接近。
東方の諸国もこれに賛同し、友好的な交流を望んできた。
図らずも古来種を中心……中心かどうかは議論の余地があるが、大陸はまとまりつつある。
カタラン伯のようにわだかまりがある貴族は、どこにでもいるが古来種をアイドルとかいう旗印にして平和的融合を始まりつつあることまで否定できる者はいない。
古来種が支配者ではなく、ただの偶像で収まってくれるからこそ、現支配者階級から反発が出なかったというわけだ。
なにが幸いになるかわからんもんである。
「時代か、時代といえば、オレもこんな立場になるとは思ってませんでしたよ。外交要員とかガラじゃない。このオレだよぉ?」
「ははは! 若者からの愚痴はたまらんな! 苦労せい、若人よ」
「はいはい」
カタラン伯はオレが困っていると言えば喜ぶ。
愚痴だったらいくらでも聞くし、何かあったら頼れよ。と歓迎している意味だ。
普通、愚痴とは聞かされて気持ちいいものではない。それを楽しいと言って、吐き出せといってくれるのだ。
ありがたい。
「ザルガラ様。どうよ、うちのお父さん。義父に?」
「婚約狙って、オヤジを売り込んでくる娘ってどういうセールスだよ」
ヨーヨーはまだ婚約をあきらめる様子がない。
オレがあきらめるまでアピールしてくるつもりなんだろうが、あきらめんぞっ!
カタラン伯をこんなオレたちを笑って眺めている。
笑い終えると、真剣な眼差しで話題を切り替えてくる。
「……で、ネーブライトの夫人は?」
なんだかんだ、カタラン領に少なくない損害を与えてるし、なにより太湖で起こした遊覧船襲撃が影響が大きい。
さらにオーラ・ネーブライトがゴーレムという姿で、この世に舞い戻ったとはいえゴーレムはゴーレム。
夫人との子供は望めないだろう。
カタラン伯もおおよそ見当がついているだろうが、ブラエ侯との会談で決めたことを伝える。
「──そんなわけで、ネーブライト家は分家筋や遡って実家筋に吸収。王国への態度の示し合わせとして、国境を守る貴族としての力は削いでいく形になりました」
これは政治的パフォーマンスとしてインパクトがあり、そしてなりより効果が目に見えてある。
独立した権限の多い辺境伯を畳ませるだけでもだが、自国の弱体化を見せるなどブラエ侯も大鉈をふるったもんだ。
もっとも辺境の独立機構がなくなるから旧ネーブライト領は中央から制御しやすくなるので、本当の意味で弱体化しているわけでもないけど。
「やはり、領地は接収と共和国は決めたか」
「緩やかに段階的にと」
カタラン伯は少し寂しそうだった。
代々敵であるとはいえ、さらにより深い因縁そのものを作ったのはカタランである。
ネーブライトのやらかしが、完全にはご破産となっていないように、カタランが全面的に許されているわけでもない。
あくまで表面上、手打ちってやつだ。
その相手の家が途絶える。
複雑な気分だろうな。
「はあはあ……。まだ放置されてる……、これはこれで」
真面目な話をしている横で、ヨーヨーがなぜか喜んでいる。
親の前でコイツ、無敵か?
+ + + + + + + + +
翌々日。
オレは共和国の国境を守るネーブライト伯爵領へと訪れ、夫人たちが住まう屋敷に到着した。
カタラン伯の屋敷とは違い、やや飾り気があるがそれでもまだまだ質素かつ実用的な屋敷だ。
煙突が多いのって、あれは飾りじゃなくてきっといざとなったら大量のかまどが使える実用重視のやつだろうな。
武人の館ってこんなのか……と、オレは圧倒される。
あと、ついてこなくてもいいのに、ヨーヨーもついてきた。
「ようこそ、おいでくださいました」
ネ―ブライト伯爵夫人が、なんと出迎えてくれた。
と、言いたいか声だけだ。
ゴーレムと化してしまったオーラ・ネ―ブライト伯爵しかいない。
「声はすれど姿がない」
どこにいるんだろうと思っていたら、オーラ・ネ―ブライト伯爵の鎧前面が、パカリと開いた。
「このような姿ですみません」
ネ―ブライト伯爵夫人は、オーラ・ネ―ブライト伯爵の中にいた。
「本当にこのような姿だな! なんか大きくなったとおもたら、中にいたのかよ!」
「愛しい人の中に私が収まっているこの満たされた気持ち……おわかりになりますか?」
ネ―ブライト伯爵夫人は恍惚した表情で、夫であるゴーレム体の内部をぺたぺたと触っている。
あ、これまた新しい変態だ。
なんだよ、たしかにちょっとこの夫人もおかしかったけど、こういう方向性じゃなかっただろ?
いや、前よりマシかもしれんが、これはこれでないだろう。
そういうのは誰もいないところでやってくんねぇかな。
なんでオープンな場所で、鎧オープンして、オープンなことしてんだよ。
「まったく、わかんねぇよ! …………え、なんでオレをみてんだ、ヨーヨー?」
「ザルガラ様なら、他人を内部に取り込む魔法くらいできそうかなと」
……五胞体陣を使えば、擬似的にはできるかな。
「…………やらねーよ」
「できないではなく、やらないですか」
ぐ、コイツ、勘がいい!
ヨーヨーが微妙なオレの返答から、切り込んでくる。
「うひひ、できないというのはプライドが許されないからって、可愛いですね」
「拒否したって意味の方が強いだろうが」
夫人の部下たちも見て見ぬふりをする中、応接室へと案内されて、共和国からの通達と王国から承認を受けたとある提案を伝達する。
「要件はすでに、中央からの書面でおおよそ把握しております。段階的に権限が解除されていく過程で、あぶれる我が家臣の武官を移籍させると?」
これは武官不足に悩むオレの臣下になるという意味じゃない。
東の大陸との交流に、共和国も関わるという意味がある。
共和国側が頼んでベクターフィールドに相乗りするのではなく、オレが雇った官僚の一部が共和国側であり、その者たちが成り行き東の大陸と親交を結ぶことだってあるかも?
という言い逃れの組み合わせだ。
オレ……ひいては王国側の監視ありだが、まったく関われないより遥かにマシという共和国の思惑だ。
同時に完全な締め出しをしたわけではない、という王国の言い訳も混じっている。
「わかりました」
ゴーレムとなった夫に代わり、領の政務一切を代行するネ―ブライト伯爵夫人は快諾してくれた。
「よかった。ではそういう方向で、内容の擦り合わせを」
「武官たちと共に、夫と私も東の大陸へ同行させてください」
「粗目の金属やすりで擦り合わせしてきやがったな! なんでだよ。家名返上まで大人しくしてろよ」
かわりの条件だとばかりに、ネ―ブライト伯爵夫人は同行を申し出てきた。
「あ、じゃあ私も」
ヨーヨーが乗っかってきて、ベクターフィールドに乗っていこうとする。
いや、コイツはコイツで優秀だから困らないけど、困るんだよ!
「なんでオマエもついてくるんだよ! ついてきたら、東の大陸の領事とかにして放りだしていくからな!」
「現地に放り出される!? なんて高度な放置プレイ!」
「プレイじゃねぇよ!」
「進んでるわねぇ……」
あらまぁと夫人。
「一歩も進んでねぇよ!」
うっとりとした様子でネーブライト夫人が、うらやましいとかいう態度してるけど違うからな!
どうみてもオレが困ってんだろうが!
「言質とりましたからね! 現地に放置プレイ……じゃなくて、ついていったら領事として置いていくって!」
「わたくしも聞きましたわ」
ついてきたらこういう目に合わせるという拒絶のジョークを、ついていけばこう扱うという解釈して言質をとったと喜ぶヨーヨー。
それを援護射撃するネーブライト夫人。
「うわーっ! オレ、なんか余計なこと言ったー! これはついてくるなよって意味であってな──」
と、ここでネーブライト夫人の隣で、置物と化していたオーラ・ネーブライト辺境伯が急にポーズを取って叫んだ。
『私も聞いたっ! ガオオオゥン!』
今まで無言で置物ゴーレムだったのに、なに急に叫んでるのこのオーラ・ネーブライト辺境伯さんはぁっ!
政治の世界、特に外交に携わるものとして、たとえジョークでも命取りになる場合がある。
軽々しい発言は厳に慎むべきと、この日、この時、この場所で、心底オレは思い知った。
新連載 2つ紹介!
【この星の魔法少女たちは、まだ戦えない! ~アコンプリス イン マジカルガール~ 悪の組織が、戦えるよう魔法少女を育て上げます!】
https://ncode.syosetu.com/n7415lo/
【私こそ大悪役にふさわしい! ~魔王も魔物もいない、魔法もスキルもステータスもない異世界を、ぼっちが1人でビルドアップ~】
https://ncode.syosetu.com/n1513ln/
双方、同時に執筆してます…。
魔法少女物の方は、今のところ毎日更新中
・裏話1
・【悪役は二度目も悪名を轟かせろ!】の元ネタ……というか原型。
当初、この作品は東方二次のつもりで、アイデアが頭の中にありました。
アザナは博麗の巫女になる前の霊夢で、その能力に嫉妬している令嬢みたいな別の大きな神社のオリ巫女という形です。
学園物で紫が学園長で、魔理沙は最初はオリ巫女の友人だったけど霊夢と仲良くなってしまい……、みたいな流れだったと思います。この辺はよく覚えてません。
それが描き始める直前に、なら全部オリジナルキャラとファンタジー世界でタイムリープも入れて書き出してみるかと出力されたのが第一話です。
・胞体と魔法の設定について
魔法陣の形が胞体となったのは、当初予定の東方のスペルカードのイメージからきたものでした。
弾幕がサイクロイドのように描かれていくのが綺麗で好きなので、それらを描こうとしてオリジナルになった際に立体となり胞体となり、と変化していきました。
・魔力弾と一回休み
作中、もっとも多様する魔力弾が非殺傷という設定や、そのためつっかかって返り討ちになってもすぐ復活する一回休みみたいな妖精っぽさ?も、東方二次の名残です。
序盤ではザルガラがアザナに負けて、毎回意識を失い一回休みでベッドで目を覚ます。というパターンばかりだったのは、この影響ですね。
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短編更新のたびに、裏話をあとがきに書いていこうと考えています。




