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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
内在を想う気高さで苦しめ超越者 もしくは アルキメデスソリッド

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373/373

dump the cylinder.

大変遅くなりました。最終回です……

大変長くなりました。最終回です…………

1万5千字です。最終回です………………

「ふは、はーはっはっはっ! どうやら流石の古来種(カルテジアン)様方々も、オレとアザナの連携攻撃の前では無力のようだな」


 会談室の冷たい床に、並んで膝をつく古来種たちを見下ろし、オレは高笑いをして見せる。


「悪役みたいですね、センパイ」

「オマエもオレの仲間だぞ」

「ボクたち正義の味方みたいですね」

「ヨシ」


 アザナの手のひら返しに満足するオレ。

 最悪、コイツ、面白いからと裏切るからな。

 味方であることが頼もしいけど信用ならんし、敵に回ると厄介なうえに信頼できる。

 

「くっ。魔力プールさえあれば」

「仕方ない。最終兵器を出す」


 オレたちの寸劇を無視して、古来種たちは真面目に悔しがり、まともに対応をしてきた。

 ノリが悪いというより、こういう時はちゃんとしているのが古来種である。

 

「最終兵器だと……?」


 コイツら、魔力プールの管理者権限を奪われても、まだ奥の手を持っていたようだ。

 いったいなんだ?

 まさか、アザナを操ってオレにぶつけ、キスしたら洗脳が解除されるとか、オレの仲間たちが敵に回るようなことではないだろうな?

 

「そう。最終兵器だ」

「なんと。勇者の10体分。の能力だ」

 

勇者アザナのの10人分だと……」


 古来種の大言に、オレは少し緊張する。

 コイツらたまーにふざけるが、油断ならない存在であることも間違いない。

 

 警戒する中、どこからともなく残りの7人が現れ、10人となった古来種が一斉に同じポーズをすると。


「合体!」


 と、叫んだ。

 そして輝きながら、古来種たちの影が重なっていき――。

 

「これ隙だらけだな……。邪魔をしてやろうか」

「やめてあげましょうよ、センパイ」


 割り込むように魔法を解放しようとしたら、アザナがオレの手を引き止めに入ってきた。

 いいとこなしの古来種に同情しているのか、その目はいつになく真摯だった。


「いつも容赦無くて、いい加減なオマエがそういうなら」

「前から言おうと思ってたんですけど、センパイの評価ってトゲありますよね」


 オレが手出しをやめ、アザナが頬を膨らませる間に、10人の古来種が光輝き、影となって1つとなっていく。

 防御魔法陣が強い光を防いでくれるが、それでも目がくらむ。

 光量が収まり、光の中から現れたのは……。

 その姿にオレとアザナは声を失う。

 

「正気かよ……」

「ボクの写し身で、コラージュを作られたみたいだ」


 そこにいた存在は、アザナの表現が的確だった。

 アザナの顔が、頭部周囲全面に6箇所。頭頂部を仰ぎ見るように1つ、胸と腹に1つづつ。とどめに背中にもアザナの顔があった。

 10人分のボディパーツで、手足と胴が延長され、ヒョロくて不恰好な巨人と化している。

 

「うわー……。ボクの顔オンリージンメンだ。いや……グロゴスG5かな? 嫌なオンリーイベントだなぁ」


 アザナがまたわけのわからない感想を言いながら、「今度ほどお前たち古来種を憎いと思ったことはないぞ、ジンメン」とか呟いている。

 でもまあ……そうだな、理解もできる。

 自分の姿をああもされたら、憎いと思ってもおかしくはない。


「全周囲を。警戒」

「我々に。隙はない」


 出来損ないみたいな姿で、自信に満ちている古来種たち。……たち?

 そんなこんなどんな感じで、オレとアザナ対古来種のアザナ顔いっぱい巨人との戦いが始まるのだが――。

 オレとアザナは、すぐ問題に気がついた。

 攻撃の合間に、アザナが問う。

 

「後ろ向きな3人分は、攻撃に参加しないんですか?」

「……」

「あと上を見てる顔。天井ばかり見てて、ほとんど出番ねぇだろ」

「……」

「なんか言えよ」

「なんか」

「なんか言わなくていいぞ」

 

 なんかとか言った古来種に、一撃を与えたあと、オレは一息入れる。

 どうやら予感的中だ。

 10人分の能力というほどでもなく、せいぜい古来種数人分を相手にしている感触だ。

 オレとアザナがいれば、脅威にはならず、反撃する余裕すらあった。

 

「侮るな」

「まだ奥の手がある」


「背中側の余ったボディを発射でもするのか?」

「……」


 適当に言ったんだけど的中だった。

 合体古来種からの攻撃が途絶えてしまう。

 余裕すぎてあくびが出るぞ、オレ。

 

「古来種ミサイルですか……。あのボク、思うんですけど」


 アザナが古来種からの攻撃距離から、さりげなく離れて呟く。

 

「なーんとなくわかるが、なんだ?」 

「普通に10人で連携を取った方が強いんじゃないかなと……」

「そうだな。でも、言うな」


 この合体古来種……魔力は10人分だろうが、それを正面側4、5人で共有してるだけにすぎない。

 正面以外の古来種が、防御を担当してるのだろうが、だからといって目覚ましい効果が感じられない。

 別々に魔法を放ってくるが、オレだけでも頑張れば凌げるというくらいだ。

 そんなわけで、アザナ10人分の戦力(古来種比)をなんなく撃破。


 バラバラと一人づつに分かれ、古来種たちは床に倒れ伏した。


「くっ。よもや。我々が」

「これで。勝ったと思うなよ」

「いや。勝ったからこそ。これからが。過酷だ」

「中央の魔力プール。すべて掌握したなら」

「地上の未来は。暗く辛い……」


 古来種たちは負けを認めながらも、口々に負け惜しみを言い出した。

 しかし、それも想定済み。

 むしろ言ってくれたので、親しみが湧く。 

 

「なんだそれ? 呪いの魔法の詠唱か?」


 呪いという評価に、古来種たち一同は首を傾げた。

 アザナが「出た、センパイのトゲトゲ評価論」と、さすセンさすセンとか言ってる。

 

「できるわけがない。無理だ。不可能だ。高次元に戻っても、そうやって唱え続ける呪いの詠唱か? 確かに、これからオレたちは大変だろうな」


 魔力プールの権限奪取により大陸のオレたちは、古来種の庇護下から抜けたと言っていい。

 オレも管理で大変だ。

 勝手なことするなと、世間様は騒いでオレを悪者扱いすることだろう。


 望むところだ!

 

「だが、もうオマエたちがオレたちに手が届かないのに、気にすることも心配することも、オレたちの失敗や躓きにそれ見たことかと笑うことも、オレたちの成功を妬むことも、すべて呪いだ。オレたちもオマエたちも呪うだけだ」


 

「高次元からいつオレたちが失敗するか、それみたことかと言いたくてうずうずしながら、指を加えて見てろ! そんな『オレたちを想うちっぽけな気持ちに苦しめ!古来種!』【天へ向かって(かけ)り!執金剛神!クラターン ホック ヴァジュラパーニ】

 

 この時のため!

 アザナと共に、研究した最後の魔法!

 古来種を高次元へと弾き飛ばす魔法が放たれて――――――――――――――


 +++


 ――何事もなく、なんでもない朝が来た。

 

 朝日が満ちる窓の外では、小鳥たち……に混じって、大型の馬ほどの大きさまで育った不死鳥(フェニックス)のぴーちゃんが歌って踊って、小鳥たちと仲良く交流している。

 タルピーとの生活が長すぎた上、巫女巫女筋肉隊とも交流が深かったせいか、神秘的なフェニックスがすっかり歌と踊りが好きな鳥になってしまった。

 

 ……筋肉が感染らなくてよかった。 本当によかった。

 一時的にマッチョになったフェニックスのピーちゃんを見て、アザナのヤツが「わあ……ブロイラーフェニックスだ」とか呆れて言っていたが、本当に感染らなくてよかった。

 ブロイラーがなんだかわからないけど。

 

「まったく、いい歳になってだいぶ経ったっていうのに、またあの時の夢か……」


 オレが魔力プールの権限全てを奪い、世界のあり方が変わったあの日。

 現在ではライヴと呼ばれるようになった、古来種たちによるコンサートの下賜――――それを、超える暦に存在しなかった皆既日食という天体イベント。それに伴う大陸最大の魔力プールの権限移譲。

 それからアザナのヤツと一悶着した時の夢……。


「まあ、記憶とだいーぶ違う夢だけどな」

 

 実際の記憶と違うが、あの時、有り得たかもしれない古来種との雌雄を決する戦いの夢。

 毎回毎回、夢のなかでどーしょーもない展開になっているが、史実・・よりはマシだ。

 正直、もう思い出したくない……。


『お目覚めですか、ザルガラ様。おはようございます』


 身を起こすと、かすかな動作を感じ取ったアンが、ベクターフィールド中心部から念話・・を送ってきた。

 彼女は今、ベクターフィールドと完全に一体化している。


「おう、おはよ」

 

 もう世話係のティエに起きたことは伝わっているだろう。

 ベッドから起きて自分で身支度を整える。

 昔のように、身支度に使用人が数人も張り付くようなことは、日常では珍しくなった。

 

 時代は変わった。

 

 中位種チューンドという区分けや、貴族という特権階級は残っているが、それに準じたそれらしい生活も廃れて久しい。

 基本の新式魔法さえ上手に使えれば、中位種が使う魔法と比べて遜色ない魔法を再現できる魔具が流通している。

 べデラツィ()()も今は大陸屈指の巨大企業となり、人々の生活向上に貢献している。


 商社の影響で、上から下まで便利で豊かになった。

 資産のある貴族様ですら大豪邸や屋敷から出て、経済的な理由と関係なくこじんまりと便利な集合住宅に住んでいたり、ふらりと街の特売店で買い物しながら、地域の人たちと談笑をする。

 逆に庶民でも成功者は貴族越えの大邸宅を建て暮らし、それが無相応だと言われることもない。

 この次元に降りてきた古来種たちは、気ままにアイドル活動していたり、生まれ故郷へ帰るため勝手にだが大人しく研究生活している。

 

 古来種崇拝も階級制も形骸化はしていないが、何もかもが時代に合わせて変化していた。

 

「おはよ、アン。運行状況は?」


 寝巻きから執務用の服に着替えつつ、アンにベクターフィールドの現状を聞く。

 

『本日4時52分に、新大陸の西海域に到達しました。現在7時33分。順調に巡航中。トラブルも起きていません。無事故1100日を更新です!』


 ノントラブル時間を誇るように宣言するアン。

 うむ。誇っていいぞ、アン。

 でも、以前トラブルの理由はほとんどアイツのせいだったような気がするなぁ……。

 

「日程は予定通りだな。毎度のこととはいえ……やっと到着したか」


 身支度を終えたオレは、感慨深く行程を振り返る。

 

 アイツのせいでなし崩しのように、いつの頃からか始まった新大陸との定期交流。

 もう何回目だろうか?

 

 連合国の構成国のひとつであるリバーフロー国が、望んでやまなかった東の新大陸への進出は、今は王国と連合国の共同国家事業となっている。

 その旗印となっているベクターフィールドと、その責任者であるオレは、いつの間にか王国の代表者だ。


 やっててよかった、ジーナスロータス式外交術、ってところだな。

 魔法体系どころか、根本的な文化が違う相手と交流するにあたって、基礎の基礎から応用の応用。知らなければ無駄と言えるほど膨大な資料まで与えてくれたジーナスロータス師匠には感謝しかない。

 倍々卿と並んで、彼は外交での尊敬すべき師匠だ。


 ――引退してからも、オレの面倒を見てくれてありがとうジーナスロータス師匠!

 

 次から次へと、当初は何の役に立つんだと思える知識やテクニックを、晩年までオレに提供してくれたジーナスロータス師匠に心の中で礼をする。

 

 最近、開発が終了したクリスタルグラスの屈折率の高さを利用した多重層人工胞体石に、ジーナスロータス交渉術が大量に保管されている。

 これ紙の本にして出版したんだが、世間では巻数が多すぎる! 嫌がらせか! 買うけど! 読むけど! とわかる人にはわかるくらいの売れ方で、微妙な評判だ。


 売り上げをジーナスロータス師匠のお孫さんとかにあげようと思ったんだけど、巻数からかかる経費のせいでお小遣い程度にしかなっていない。


 身支度を終えて廊下に出ると、ティエが控えて待っていた。

 以前は室内でも身の回りの世話をしてもらっていたが、今は時代が違うからと近くの部屋で待機してもらっている。

 今は起床の連絡が届き、部屋の前で待ってくれている。

 

「おはようございます。ザルガラ様」

「おはよう。さっそくなんだけど、心配の種はどうしてる?」


「ディータ様はラウンジに」


 心配の種と言って、ディータのことだと通じてしまうのもまた心配で困るな。


「オレもラウンジで済ませるか。じゃあ、いつもどおりなんか軽いものを」

「かしこまりました」

 

 増設された施設につながる連絡通路を通り、ラウンジに向かう。


 連絡通路は屋根がなく、解放的だが高高度特有の寒さや息苦しさなどはない。

 ベクターフィールド周囲は気圧が調整されている。

 立ち並ぶ柱の向こうに流れる細い雲から、ベクターフィールドらしい高高度の気流が快適に視覚的に感じられる。

 

 増設されて出島のようになっている娯楽複合施設のラウンジに到着。ラウンジの大扉を開けると、そこは観葉植物で満ちた空間だ。

 周囲がガラス張り、植物で余計なものが目隠しされている。隠れ家のようにゆったりした席が配されて、ここが建物の中どころか空の上というのすら忘れさせてしまう。

 

 以前は朝といえば茶の香りだったのだが、新大陸からもたらされたコーヒーの香りが満ちている。

 ……いや、昔からコーヒーはあったんだけど、生産量が少なくて毎日香りが充満するほどは利用されていなかった。

 

「……おはようございます。バリバリ、ゴリバリン」


 ラウンジで一番よく日が当たるところで、ディータのやつが光り輝きながら、真っ黒な塊を食していた。

 

「朝から最高強度のつぶあんのようかんバーとは優雅だな、ディータは」

 

 長年の研究の結果、ゴーレム体でも食事ができるようになったディータは、いつもなにかしら食べている。

 

 ようかんバーとは、アザナが作った失敗作アイスだ。

 本来はもう少し柔らかいはずだったのだが……、幾人もの前歯を折ったアイスである。

 アザナは「本家より固くなるなんて、失礼にもほどがある!」とか言って悔やんでいたが、そのまま流通している。

 

 それをディータのやつは、軽々と噛み砕き屠る。

 呆れるオレの発言に、ディータではなくアンが反応する。

 

『え? アイスをバリバリと噛み砕くのが優雅ですか……?』

「お、なんだ? 謀反か?」 

『い、いえ! 滅相も無い! とっても優雅! 優雅です!』

 

 アンがディータへの優雅さに疑問を呈したので、ちょっとからかってみた。

 慌てて訂正を繰り返している。

 悪気のあるオレに対して、当のディータは鷹揚に返す。

 

「……気にしないで、アン。本当に、気にしてない」

『ありがとうございます! 姫様!』


「……もう姫でも、なにより女王でもない」

 

 ディータは姫であることを否定した。

 そりゃそうだ。姫様だった時期っていつだよ。だいぶ前だぞ。

 そして、先日退位したので女王でないことも強調した。

 

「アン。オマエ、まだ時々、失礼だよな。いまだに姫様呼びもだが、ディータ様のなさることは、すべて優雅なんだよ」

「……その言い方は慇懃無礼。不敬。死刑」


 アンは許したのに、オレは許してくれず不敬なのか。

 まあ実際、不敬なんだが。 

 

「……そう。今は姫、違う。だから」 

 

 ディータはそう言いながら、ドレスをパージする。

 脱ぐではない、パージだ。

 すぐさまオレは【真・極彩色の織姫・旗機改改最終安定版ver8.0】で、ディータにドレスを着せるが……抵抗された。

  

「……ザル様。それ、ヴァージョン7.1のころの方がよかったと思う」

 

 オレの魔力で作られたドレスを霧散させ、魅惑的な琥珀ゴーレムボディを曝け出すディータに、ダメ出しをされた。


「まったく。服を着せるのは、防御とかそんな大袈裟な話だけじゃなく、擦過とかの傷から守るためだぞ。そのボディももう新調できないんだからな。せっかくの成年ボディを壊したの忘れたのか?」


 ディータの想定される成長に合わせて作られた各種年齢ヴァージョンの琥珀ボディは、カルフリガウの天才的な個人的技巧によるものだ。

 いかにオレとアザナが優れていて、カリフリガウよりゴーレム制作能力が卓越していたとしても、芸術的なディータの琥珀ボディは再現できない。

 

 ディータが20歳になったおり、制作された成年ボディを長く使っていたが、ついに昨年、経年劣化もあって修復不可能となった。

 現在のディータのボディは、18歳くらいを想定してるものだ。


「一応まだ、11歳ボディと15歳ボディがあるからいいが……。残機があとふたつっていうと不安だろ?」


 11歳ボディは、最初に作ったボディの予備。15歳ボディは、成長しないのはなんだからと、後年作ったが2年も使わなかったのでほぼ問題ない。

 現在の18歳ボディは、カルフリガウが勝手に作ったボディで、予備もないし魔法的な補助や仕掛けも最低限だ。


 ミニのディータゴーレムは、彼女の全てを代入できるほど高性能化はできなかった。

 あくまで外部端末くらいの役目だ。

 

 なので、あとふたつのボディが壊れれば、もうあとがない。 

 しかも、壊れるたびにだんだんと若いボディになるというのは、なにかともうなんだ、ややこしい。

 

「……私はそれでいい。いつかこの世界から去る時期が、来るという戒めにもなる」

「それがオマエの哲学か」


 肉体を失い、高次元化してゴーレム体に代入されている今、ディータはどうあっても通常の死を得ることはできないってわけだ。

 そういう意味で、寿命のようなものがあるゴーレム残機制は、精神的な安定のため必要なのかもしれない。


 もっとも高次元へ行けばそこで古来種との生活ができるし、なんなら昔みたいにオレに取り憑いて暮らすこともできるわけだが…………それはそれとして。


「ま、予備含めてすべてのボディがぶっ壊れたら、このオレが作り上げた箱型ゴーレムがあるからサルベージしてやる」


 透明の箱に4つの目と3つ足、3つ腕、隠し腕満載のゴーレムを取り出すと、ディータは露骨に拒絶の表情を見せた。

 18歳ボディはすべてのボディの中で、もっとも表情豊かだ。カルフリガウが勝手に精魂注いだだけある。


「……それが嫌」

「なんでだよ。ちゃんと足も手もついてるし、無駄を省いた魔力投影装置のおかげで、人型なんかより遥かに高性能だぞ」

「……それが嫌だと言っている。い・や・な・の」


 頑なに拒絶された。

 しかし、オレも負けてはいない。

 食い下がって問題点がなく、利点ばかりであることを告げる。


「まったく、なんだよぉ。4次元の物質を利用して擬似的だが正5胞体ボディだから、全身が胞体陣のようなもので理論的には外的要因で壊れることもないのに」

「……だったら、ザル様が入って使えば?」

「ん? それもいいな、そうするか」

「やっぱりダメ!」


 右手を分離し、この身体から高次元体を掴んで取り出し、箱型ゴーレムに代入しようとしたら、ディータが飛びついて止めてきた。


「やれと言われたからやろうと思ったのに――。でもこれは女性型だから、オレが入るのもまずいかもしれんな」

「……箱型なのに女性型ってなに?」


 代入を押し留めたディータが、オレから離れて頭を抱えて悩み始めた。

 たしかに……どこが女性的であるかを、見せて説明しないとわからないな。

 オレは胞体陣の中に描かれた魔法陣の術式を、投影して開いてみせる。

 

「ただの箱型じゃない。ほら。このベッチ数の捩れの分布群の具合が、実に女性的だろ? 高次元体をトーラス化して最適化する時に、あえて男性的なポアンカレ多項式を定義しないことにより、余分に繰り返される係数の女性的ホモロジー群が見えてきて……」

「……うわぁ」


 箱型ゴーレムの内部に投影された胞体を指し示し、どれがどう女性的なのか説明した。

 するとディータから過去最大級の拒絶を示された。

 解せぬ。


「……ザル様、そういうところ。変態」

 

「どこが? 変態と一緒にするなよ。はあ、まったく。ディータのやつはすぐ脱ぐし、他の若いヤツらも変わらず変態どもだし、そんなヤツらに限って、まともなオレを変態扱いしやがる」

 

 ディータからの不当な評価を否定する。

 そう。世界から変態は減っていない。

 

 魔力プールの権限を奪い、オレはまず古来種への信奉矯正と変態たちが生まれるコードを削除した。

 これで生まれてくる新しい世代は、無為に古来種を信奉するようなことはなくなり、人口抑制のため人々が変態となる可能性はなくなった。


 ……はずだった。


 実態は、新世代も今までと変わらず変態が生まれてくることとなった。


 古来種信奉の方は、教育などで芽生えるし、古来種アイドルたちの積極的な活動で変質した信仰心を人々に植え付けているが……それは後天的なのでいい。


「なーんで、変態どもの総数が減らねぇんだよ! むしろ体感では増えてる気がするぞッ!」

 

「……もともと、わたしたち人類は変態だった?」

「知りたくなかった、こんな真実」


 ディータの忌憚のない意見に、オレは頭を抱えてしまう。

 

 この真実を高次元に住まう古来種たちも想定してなかったらしい。

 オレたちからの報告を聞いて、人口抑制変態量産計画のため無駄な魔力プールのリソースを使ってしまったと後悔していた。

 アザナのやつも微苦笑まじりに、このシステムを「メモリの無駄遣い♡」とか言って古来種たちを煽っていた。

 いや、まじ、なんであの時、あの比較的温厚な古来種たちが怒ったんだろうか?

 

 追いかけ回され、必死に逃げるアザナは見ものだったが、オレも途中から巻き込まれたので笑えない。

 

「ザルガラ様。お茶をお持ちしました」

「おう。ご苦労……」


 箱型ゴーレムをしまい、ティエから茶を受け取り香りを楽しみ――考える。 

 なんか……ティエ、変わらないな。

 

 ディータはわかるよ。

 姫さんはもう肉体がないので、こうしてゴーレム体の姿だから器の形次第だ。


 アンもわかる。

 アイツはベクターフィールドと同化して生きていて、肉体は太古の古来種の肉体と共に保存されている。

 ベクターフィールド中核となったアンを見て、アザナが「わあ、トチしかくーだぁ」とか言ったがなんのことか……。


 アザナだってちゃんと成長し、それなりに老いていった。

 

 だというのに、なんでティエは昔の姿のままなんだろうか?

 オレは……アレだ。

 右手だけでなく、いろいろ高次元に置き換わったお陰で、30代……いや、20代後半くらいの見た目のままなんだが……。

 ティエには理由がない。背景がない。

 

「……? 私の顔になにか?」

「いや。別に。それより明日……初日の日程だけど……魔物のお披露目会、大丈夫か?」


「はい。ザルガラ様の部下も、元遺跡所属の者たちも準備は終わっております」

「そうか。まあ、オレはあっちでも、なーんか変な風に受け取られてるからなぁ」


 現在、新大陸の国家と、無難な国交を築けているのはわずかである。

 小国が乱立する政情不安な新大陸なので、総数のわりに友好国の数は本当に少ない。


「蛍遊魔は別として、オレたちの大陸では古来種のもと、ほとんどの魔物が敵や護衛や味方と役割が振り分けわれてるのと違って、新大陸では魔物が人類の敵だってのに……。なんで人間同士で争ってるのか……。オレたちは友好的に接したつもりなんだが、みんな違っててみんな悪いみたいな感じで……、アイツら覚悟決まりすぎだったな」

『初年度は大変でしたからねえ……。歓迎されてるのか、敵視されてるのか、同じ国なのにコロコロでしたよね』


 アンがほとほと懲りたという口調で、当時のことを溢す。


「ああ、大砲で撃たれた時は、本当に驚いたよ」

『祝砲かと思って撃ち返しそうとしちゃいました。大砲ありませんが』

「あるだろ? オレとアザナで直したヤツ」

『え? ありまし、た、か……あっ! あれは危険すぎますぅ!』


 アンは攻撃的な性格ではないし、争いも苦手だ。

 街を2、3つ吹き飛ばすような落雷型砲撃装置があることすら、自分の体も同然のベクターフィールド内にあるのに、こうして忘れていたくらいだ。

 試射して以来、点検するだけで一度も使ってないから忘れても仕方ないけどさぁ。

 

「それにしても最初とはいえ、あんな手荒い歓迎を受けるとはなぁ」


 ずいぶんと前――。初めてこの新大陸沿岸に到着した時を思い出す。

 連絡してあるとはいえ、ベクターフィールドでいきなり乗り付けると悪いから、ハイトクライマーで降りて行ったら砲撃だ。

 当時を思い出しながら愚痴る。

 

「リバーフロー国が先触れだしておきながら、当該国が歓迎の準備しててそれだからな。連絡無しで急に訪れてたら、どうなっていたことか」

「……戦乱待ったなし」

「こっちは待ったするけどな。……挙げ句の果てには、オレのことを魔王とか言い出すしよぉ。なんだよ、化け物から魔王とか大出世だな、オレっ!」

 

 オレが到着した当時、たしかにこの新大陸は今より荒れていた。

 だから神経が尖っていたのは理解できるが、だからといって手荒い歓迎をした上に、魔王と評して貶めるとか度が過ぎていた。

 いまでもその魔王として言われたことが、尾をひいて悪影響をもたらしている。


 いまから時間逆行して、そんなこと言い出したヤツらを痛めつけてやろうか…………、いやダメだ。

 時間逆行できるとかいうことがバレたら、魔王とか言われるレベルじゃ済まない。

 

「……それは当然。ザル様の最初の姿見せが悪い」


「なんだ? そんな変な格好したたか? 文化の違いはあれ、変な服飾じゃなかっただろ」

「……そっちじゃない」

「じゃあなんだよ」

「……魔物を侍らせてたのが問題」


 新大陸とのファーストコンタクト時。

 ベクターフィールドの乗員ってことで、タルピーやらエト・インやら何故か幼女形態へなれるようになったフェニックスのぴーちゃんやら、いろいろみんな揃っていた。


 新大陸には魔物なんてほどんどいなかったし、きっと、びっくりしたんだろうな。

 デュラハンのトゥリフォイルとか、スキュラのビュフォーンとかは、ショックが大きかったかもしれないな。

 

「みんな見てくれはいい女の子たちだったし、そんなに悪い印象を与えるとは思わなかったんだが……。とはいえ確かにな。こっちの大陸じゃ、魔物そのものが珍しいし、そもそも魔物とは敵対してたし、そんなの引き連れてたらびっくりするよな」

「……もういい。はあ、もう」


 ディータが会話を、嘆きながら投げやりに投げやがった。

 さすが最盛期のカルフリガウが造っただけあって、表情豊かで嘆き顔もできて、それもまた魅力的だ。


「一時期、大変だったな。魔王扱いされて、なんか討伐隊とか乗り込んでくるし」

「新大陸の方々は、少々荒っぽいですからね」


 オレの愚痴に、ティエが同意してくれる。

 そうなんだよ、こういってはなんだが気性が荒いんだよな、新大陸人。

 この新大陸、統一勢力がないどころか、国も出来たり消えたり、領地の広さだけ立派で実態バラバラとか、とにかく大小さまざまな勢力で群雄割拠。

 血で血を洗う戦いが長く続いている。

 先方が「小競り合いが繰り返されてても、大合戦はしばらく起きてないから平和」とか言い出した時は、心底驚いた。


 その小競り合いで数百と死んでるのに平和も何もないだろう。

 

 新大陸の人たちは平和の感覚も、長く続く戦乱で大きく変質していったのか。

 

「……古来種様に感謝」

「そうだな。古来種様には、この点は感謝だな」

 

 素直に、この時ばかりは「様」付けで感謝する。

 オレたちの大陸では、支配されて精神まで弄られていたおかげで、根深い争いはほぼない。

 大規模な戦争も稀にはあったが、1万年という歴史の中で数える程度である。そして、大きな禍根を残したという話もない。


 古来種たちが、オレたち便利な道具が仲間同士で争って損耗することを嫌って、精神的に枷をかけていただけだが……。

 そんな利己的な理由でも、感謝してやまない。

 新大陸の争いの歴史を聞いた時、オレは心底そう思った。


「なんだよ。10万人規模の虐殺とか、一撃で街を吹き飛ばしたとか……」


 新大陸では、魔力弾のような無力化を目的とした魔法や魔具が皆無だ。

 すべてが殺すことに長け、殺すことを目的に、いかに多くを殺すかを至上命題にしてる節があった。

 非殺傷の魔力弾の撃ち合いから始まり、下手な物理攻撃は1撃無効となった兵たちが殴り合い、実質魔力切れが負けというオレたちの大陸と戦争のあり方が違いすぎる。


 ――そんな風に、新大陸の状況に呆れつつも同情していたら。

 

『ザルガラ様! 大変です、侵入者です! ああっ! ノー・トラブル2000日の目標がぁっ』


 アンが慌てて報告を上げてきた。

 これを聞いて、ディータは気落ちした様子を見せたが、オレは不敵に笑う。

 

「ほう、この海上でか? どこから現れた?」


 トラブル無し期間更新の途絶を嘆くアンに対し、オレは侵入者という言葉にやるじゃねぇかという気持ちが湧く。


「アン、どこから現れた? 現在地は」

『第4貨物街からです。現在地は……スフィンクスゲートへ向かう集中連絡橋です』

「もう連絡橋にいるのか……。小慣れてきたから、人員減らしたし、そんなもんか」

 

 昔はともかく、今はアンの管理が完璧に近いため、自動化が進んでいる。

 侵入者排除は経費削減を兼ねて、昔からいる魔物任せに切り替えたため、セキュリティに穴があるといえばある。

 ま、それだからこそ、こうしてオレは楽しめるわけだが。

 

「第4……ですか。先日、孤島群で停泊しましたから、その時でしょうか?」

「ああ。現地の人に物資売ったし、こっちもなにかと購入したっけな」

 

 ティエは積荷の上げ下ろし日程と利用箇所から、思い至ったようだ。

 細々した行程や売買をオレは把握してないので、ティエの痒い所に手が届く現場把握は助かる。 

 アンの報告が続く。

 

『スフィンクスゲートを突破されました』

「早ッ! ……でもまあ、そこは突破されてもいいや。最近、『ネタ切れ、しんどいんや』とか言ってたし、謎かけで門番も限界っぽいし」


 それに、あいつのところで侵入者が撃退されると、古着があの部屋に溢れることになるんで、正直迷惑だ。

 突破されるくらいがちょうどいい……けど、時間稼ぎくらいしてほしいな。

 

『タルピー様と遭遇しました』

「なんで?」


 なんで?


 ま、まあ、たしかにタルピーは自由なヤツだ。

 だからと言って、防衛区域に行く必要はないと思うんだが?

 

『ダンス勝負を挑みました』

「なんて? い、いや。アイツの得意分野だから、いい手……なのか?」

『あ、負けました』

「早ぇよ」


『侵入者、トゥリフォイル様とエンゲージ』

「矢継ぎ早だな」


 トゥリフォイルは白兵戦闘主体だが、現在は上位種タルピーを超える使い手だ。

 未来予測という先読みを極め、未来線の手繰り寄せという能力まで得た今、ヤツの実力はオレに迫る防衛隊の要……。


『トゥリフォイル様、頭部を取られました! ドリブル! パス、スルーパス! トラベリング! レシーブ! あ、梁の上に引っかかりました。体育館でたまに見るバレーボールのアレです』

「完敗してんじゃねぇか」


 トゥリフォイルは魔法使いとしては凡庸だ。

 高いところに首を置かれては、浮遊もできないアイツじゃ回収もままならない。

 

「せっかくペランドーの最高傑作とも言われる遺作で装備固めてたのに、この体たらくかトゥリフォイル……」


『とりあえずトゥリフォイル様の回収に、飛べて作業できる誰かをおくりますが……ど、どうしますか? 隔壁を閉じますか? ゴーレム部隊を出しますか?』


 アンはさらに慌て始めた。

 ベクターフィールドの制御と管理はオレより長けているが、小市民的なところは変わってないな、コイツ。

 変わらなさに、オレは思わず笑みを浮かべた。

 

「ふっ……。隔壁はやめとけ。破られても横穴を開けられても困る。ゴーレムは……高いからやめろ」


 現在、ベクターフィールドでは新大陸からの留学生受け入れ施設を建設中で、余計な出費は抑えたい。

 やることが多い上に、大事業が続いてて意外とカツカツなんだよなぁ、現状。

 そりゃ資金は十分あるけどさ。余計な出費や修理の手間を取られたくない。

  

『で、では、どうされますか?』


「こういう時、ヨーヨーのやつがいてくれたら楽なんだが…………」


 新大陸で領事をしているヨーヨーを、思い出したくも思いたくないが思う。

 アイツは思った以上に、思いのほか、思わぬほど才能を伸ばした。

 性格と相まって、まともな人間を追い払うということなら、誰にも負けないだろう。

 しかし、いないものはしかたない。しばし考える。

 

「どうしよっかなぁ…………よし。オレが歓迎する」

 

 襟を正し、立ち上がる。

 マントを翻し、謁見の間へ踵を向けた。


「正直、飽き飽きしていたところだ。新大陸からは魔王だとか無遠慮に称されさ、一方的に畏れられさ、迷惑なことに挑まれさ、勝手に敵わないと放置されてさ」

「……でも、楽しそうだった」

「そう。無鉄砲に挑んて来るから、手加減してやってたのに」


 まあ、手加減といはいえ知らない文化圏で、そこにいる人たちの実力をわからない時だったので、見た目の派手な魔法ってだけでビビられたが……。

 もう少し、手加減がうまければ、もっとオレに挑む奴らも今より多くて、もっと長く楽しめたかもしれない。


「だが、今日は来た。久々だ。しかも、タルピー相手に倒して……これはダンスか。倒されてはいないな。真面目にやったトゥリフォイル相手して完勝……完勝っていうのか? まあいいや。とにかく有望な挑戦者どもだ」


 侵入者を称賛しつつ、オレは乱れた髪を手櫛で整える。

 なでつけただけで、ぴったりとオールバックで決まる。 


 なんと!

 ついにオレは、この硬くてわがままで融通の効かない髪の毛を、ばっちりキメる魔法に成功した!


 ベクターフィールドの主としても大使としても魔王としても、ぼさぼさの頭では印象が悪い。

 粗野な魔王より、洗練された魔法の方がいいだろうしな。


「さーて、どう出迎えてやろうか。オレのこと魔王って思ってきてるなら、期待に応えないとな」

 

 謁見の間として利用する大ホールへと侵入者を誘導させ、オレは出迎えの準備を整える。

 ホールをそれらしく魔法で装飾する。

 こざっぱりと小綺麗だったホールが、堂々と重々しく厳かな内装に変わり雰囲気満点だ。

 これに気圧されるようなヤツらじゃないだろうが、雰囲気というのは重要だ。


 服装も重厚で威圧的な服に着替える。

 武器らしい武器は用意しないが、錫杖の一つくらいは持っておく。

 

 侵入者の誘導はアンに任せ、すべての準備を終えたオレは、玉座っぽい椅子で待ち受ける。


 果たして、侵入者は大ホールの巨大なドアを開け放って、オレに対峙した。

 

 侵入者の6人は、皆若くそれでいて多様だった。


 露出が激しく、背の高い派手な女性。

 すらりとしているが、真面目そうで隙のない軽装備の青年。

 長い前髪で目を隠した小柄な……少年?

 ニコニコとした双子の少年少女。

 真っ黒な装備に真っ黒な髪で不気味さのある少年。


 共通している点は、誰もが目を引く美形で、それでいて強者の印象を与えるナニかがあった。

 

「よくきたなっ! 歓迎しようではないか!」

 

 アザナがいなくなって以来、どことなく物足りなかった時間を、コイツらなら変えてくれるかもしれない。

 そんな期待をこめて、心底で歓迎する。


「この星の古き支配者たちの再来を難み、大地の理をこのかいなに納め、人の世の支配も破壊も虚うも思うがまま。そんな我と知って、たかが一時いっときの盛名を求め、身の事無しを打ち捨て挑むか? 今生の終焉に立つ挑戦者たちよ!デッドエンドチャレンジャー」


 侵入者たちは震えていた。

 魔王を倒すぞと意気込んできたが、実際のオレを見てビビったか。

 それほどオレの演技がどうに入っていたのか――。

 

「どうした。やっとの思いでたどり着いたのに、ナニをしている……ほんとナニ?」

 

 兄のやたら闇に格式ばった物言いを真似してみたが、効果はばつぐ…………ん?


 なんか、コイツら。

 腹を抑えて身体を折るように、震えていて…………見覚え、が……。

 

「お、おまえ……まさか? いや、オマエら!」


 挑戦者たちを指差し、その正体を尋ねる。

 この体勢、この堪え方!

 コイツら、怯えてるんじゃない!


「く……、ははは、やめてくださいよ、センパイ」

「センパイの似合わないオールバックだけでも失笑モノなのにー」

「す、すみません、笑って……しまって」


 笑ってやがる!

 双子がオレを指差しあからさまに笑い、真面目そうな青年が謝る。


「は、ははは…………その笑い方、オマエら、アザナか!」


 笑う6人のアザナに釣られ、オレも思わず笑い声が漏れる。

 腹立たしいが、正直、嬉し……くなんかないぞ!

 

「はっ! なるほど1つの肉体に入っていた全員の精神が、それぞれ肉体を同時期同時間軸に得たってわけか」

「さすがセンパイ、理解が早い」

「ボクたちが6人であることとか、まったく説明してないのに」

「さすがねー。惚れちゃいそう」

「センパイ、天才!」


 黒いヤツ以外が、わっとオレを称賛する。

 オレは鼻高々、ふんぞり返る。

 

「わはは、もっと褒めよ、オレを讃えよ〜」


「称賛されて喜ぶなんて、偽者だ!」

「ボクたちが成敗してくれる!」

「センパイ、成敗!」

「成長したって言え。アザナその1、その2、その3。今なら化け物も魔王も笑って流すからな、オレ」

 

 アザナたちが揶揄ってくるが、精神的に成長して熟成して老成したオレには通じない。


「だれがその1ですか」 

「しかし、なんだ。取り返しがつかないような攻撃で、うむを言わせず駆逐者オマエたちを駆逐しなくてよかったぜ」


 本気で思う。

 アザナがいくら優秀であっても、数人分の精神力や魔力や思考演算を最適化してたからだ。

 今のオレが本気を出したら、6人に別れたアザナたちじゃ対抗できなかったかもしれん……いや、連携してくるだろうから侮れはしないだろうが。


「うむを言わせずって……ボクたちいきなり、うむを言わせてもらえず、長くて超かっこいいー口上を聞かされたけど」

「かっこいいー」「かっこいいー」

「すまない、笑ってしまって」

「…………見てるこっちが恥ずかしい」

「くふふ……『よくきたな! 歓迎しようではないか!』だって」

 

 出迎えた時のオレのモノマネするメカクレのアザナその1てめぇ、こんにゃろう!

 顔が真っ赤になるのがわかる!

 やべぇぞ、コイツら!

 アザナが6人になると、超絶に乱痴気でかしましいっ!

 

「しかも、デ、デ、デデデ、デッドエンドチャレンジャーって……」

「ボクたち、センパイのもっと独特なセンスが好きだったのに」

「そ、そんなありきたりな『ぼくのかんがえたかっこいい二つ名』みたいの……」

「うわーッ! アザナその1! やめろってッ!」


 魔王を演じたオレを、アザナたちにおちょくられて頭を抱えて天井へ向かって叫ぶ。

 

「おいっ! もうこれ、だいぶ取り返しがつかねぇよ!」


最期までお付き合いいただき、ありがとうございました。

年代ジャンプし、これにて最終回とさせていただきます。


こまごまと本編に入れられなかった小ネタや、最終回年代ジャンプする期間等の短編など、不定期で投稿すると思います。


重ねてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
最後まで笑わせていただきました。本当に面白かったです。完結お疲れ様でした、番外編も楽しみしてます。
知らぬ間に終わっていたので、気付いたタイミングで一気読み。 相変わらず変態ばかりの作品でした(褒め言葉)。 個人的にはヨーヨーちゃんがどうなったもう少し深掘りして欲しかったところですぜ…… 完結、お…
完結おめでとうございます! ザル様はもう孤独に怯えないし、 化け物扱いされても歯牙にもかけなくなった 本人の成長もあるし、周囲に味方が居るのにも気が付けたのが大きいのかな? 長く楽しい物語をありがとう…
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