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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
内在を想う気高さで苦しめ超越者 もしくは アルキメデスソリッド

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親の義務を果たす者

366話 秘策ありの会談 で、会談室にアザナがカレンダーを貼るシーンを追加しました。


当初の予定では、全◯プロレスのカレンダーを貼る予定でしたが、アザナが実物やレスラーの写真や映像を持ってるわけがないので断念しました。

 【倍加する偃武】の影響下にある場所は、会談にふさわしい。

 前もって攻撃魔法を空撃ちしておけば、それだけでその者の攻撃する能力が半減する。


 古来種の3人も、ザルガラ側も、魔力弾の空撃ちを1つしてから、会談を始めた。

 そんな挨拶がてらの儀式を終えた後、ザルガラが発言をする。

 

「まずは感謝の言葉を、古来種カルテジアンのみなさまにお伝えしたい」


 会談室に大きく投影されたコンサート会場は、激しい雨でけぶっている。

 オーディアンドリアムの演目は一時中止され、雨具のない観客たちも避難している。今頃、雨具が売れ、服を乾燥させる魔具は、有料でフル回転していることだろう。


 演目は中止されているのに、オーディアンドリアムはステージから離れていない。


『中止時間に歌えば! 再開しても歌える! 実質。出番が倍! お得!』


 などと言って、演奏もないのに、持ち歌を自分で拡声して歌っている。

 観客席と違い、舞台には屋根こそあるが、それはひさしを想定した物だ。屋根は高く前側が大きくあいてるため、吹き込む雨がオーディアンドリアムはずぶ濡れである。

 痛々しい。


「オレは恐れ入ったよ。……あ! そこで雨の中で意地汚……たくましく歌ってるヤツのことじゃないぞ。古来種全体のへの話だ」


 ザルガラはオーディアンドリアムを指差し、皮肉ではないと慌てて補足した。


 やっと真摯な態度を見せたザルガラに対し、古来種の3人は聞き手に回る。交渉が有利になってきた。という印象を抱いたからだ。


 ざーざーという雨音と、明るい歌なのに一抹の寂しさを感じるオーディアンドリアムの途切れがちな歌をバックグラウンドにして、ザルガラは発言を続ける。


 イニシアチブがザルガラ側にあろうと、態度に敬意が見られる。偽りない敬意だ。

 

「たとえば戦争。古来種の方々は、地上のオレたちが悲惨な戦争を行わないよう、なにかと精神を調整してくれている」


 オーディアンドリアムの歌が終わる頃、雨が小降りになってコンサートが再開が告知された。

 ふんわりしていた髪がぴったりと張り付き顔を隠しているが、『続けていくよ!』とオーディアンドリアムが2曲目を歌い出した。


「親や子を殺されても、その相手に対して憎悪を燃やそうとも、精神支配でなるべく抑えるようにしている。むろん個人差や影響力の差はある。だが、全ての下位種と中位種に、その精神操作を施していることで、全体としては連綿と続く憎しみの連鎖はつきにくい」


 オーディアンドリアムの2曲目が終わり、古来種アイドルのチームが登場してきた。

 そのままオーディアンドリアムは濡れネズミのまま続投だ。

 しっかりと決まった古来種アイドル他メンバーに比べて、オーディアンドリアムは化粧が落ち、でろんでろんの悲惨な姿である。

 曇天で相変わらずやけに暗いが、雨足はかなり弱まっている。

 これを想定していたのか、照明が多く設置しているため、夜間のような暗さでもコンサートは滞りなく進行する。

 こうなると、ちゃんとインターバル中に、スタイリングをセットしてきた方が良かったはずだ。


 古来種たちはザルガラの話を聴きながらも、オーディアンドリアムの悲惨な様子が気になって仕方なかった。

 

「王国と共和国は、反目しあってる。だが、そのうち有耶無耶になるだろう。歴史上の話だということじゃない。親が子に、あいつらはひどい奴らだと恨み言をいう頻度が低いからな」


「まあ、ボクはひどいとも思いますけどね。この精神操作というか、人格調整は」


 アザナが個人的感想を挟む。

 だが、それを聞いた古来種は正当な感想だとも思った。


 恨む権利を、奪っているようなものだ。それが社会的平穏をもたらすとしても。


 ザルガラも同意する。

 古来種たちも首肯する。 

 

「まあ、たしかに」

「支配者としては。間違ってはないない」


 酷薄な面のある古来種たちは、人の心をいじることに罪悪感はない。所有物を都合に合わせ、ほんの少しだけ改造したという意識だ。

 

 そろそろ話が終わるだろうと古来種たちが思っていると、ザルガラが不意に語気を荒らげた。

 しかし余裕のある古来種たちは動じることはなかった。ザルガラの様子に敵意はないからだ。

 

「そしてっ! なにより魔力弾だ。これは素晴らしい。古来種……いや流石にこればかりは尊主と敬したい。尊主たちの意図に気がついた時は、オレは泣きそうになったよ」


 今ではザルガラの癖となっている魔力弾を高次元へ打ち込む仕草。

 それをしてみせ、会談中に関わらず、失礼にも席から立ち上がる。


「さらに防御胞体陣。これがまたいい。争いの時、ほぼ全ての物理攻撃、そして大抵の攻撃魔法を無効化する防御だ。防御胞体陣と魔力弾の組み合わせは、本当に素晴らしい」


 コンサート会場で古来種アイドルたちのグループが、ソロが、次々と演目を続ける投影スクリーン。

 その前まで歩を進めるザルガラ。


「ある程度の実力者同士で争っても、大規模、小規模な戦争でも、ただ雷や爆発を起こすだけでは、ほとんど効果がない。前もって防御胞体陣を張ってるし、防具も何十の防御陣があるからな」


 胞体防御陣を撃ち抜くには、魔力弾が常道である。そしてその魔力弾は殺傷能力が極めて低い。


「そこで魔力弾。中位種と上位種ほどの実力差がなければ、防御陣を打ち破るには、ほぼ魔力弾しかない。そしてこれが非殺傷ときた。防具が魔力弾に対し、一定の効果あるのもなお良い」


 ザルガラは感心しきりで、言葉に熱が入っている。


「殺意を持ってわざわざ止めを刺すか、よほど不幸な事故でもないと死者がでない。死者も少なく、なかなか恨みつらみが継続しない、古来種方の精神操作が効いてくる。憎しみこめて徹底的に止めを刺すことも減っているし、勢い余って不幸な事故も……まあ多分減っているだろうな。とにかく、防御陣を破る魔法のかかった武器による攻撃だと、意図に反して勢い余って死者がでるが……。とにかく感謝するほかない」


 古来種たちは「よくわかっているな」という態度で頷く。

 皮肉などではなく、感謝されている、褒められていると、ザルガラの真摯な態度が伺いしれたからだ。


「ああ、でも人口抑制ため、下位種や中位種に、変態的な性的嗜好をつけてるのは勘弁してくれよ。マジ」


 おどけたように肩をすくめるザルガラ。古来種たちは、乾いた笑いを見せた。

 3人の古来種のうち、ジョンソン・エンド・イアソンは、「まだイニシアチブを取られているな」と気がついた。だがまだ余裕があった。どこかでザルガラを侮っているからだ。

 

「これら多くの気遣いを受けていることに気がついた時、オレは震えたよ」


 ジョンソン・エンド・イアソンが侮っている理由は、こうしたザルガラの物言いにもある。彼は勤めて古来種に敬意を払い、感謝の言葉を並べている。

 その言葉と態度が、とても心地よい。

 支配者側の意識を、良い具合に刺激する。


「この大陸を支配し、傍若無人で、勝手に高次元へ去り、気分でこっちに戻ってくるような存在であったとしても――」


 投影スクリーンの向こう。コンサート会場では、また雨足が強くなり始めていた。

 次は上位種、タルピーの出番のはずだが、なかなか舞台の上に現れない。


 しかも暗い。

 雲が分厚すぎて、陽の光が遮られているのだろうか?

 夜のような視界になってきている。会場に照明が多いこともあって、真っ暗ではないが、湖上はもはや夜かという光景である。


 雨も強くなってきた。

 

 会場では、「また一時中断になるのか?」と、ざわめきが上がり始めた。


「あんたたちは、オレたちの親だと、心底実感したよ」


 ザルガラは盟友タルピーの出番直前でありながら、いまだ古来種へ言葉を止めない。


「だから感謝する。ただ盲目的に、精神操作からくる崇め奉るやつらの代わりに、別の意味で心からあなたたちに感謝する」

 

 古来種たちには、ザルガラの発言と行動が、敗北宣言に聞こえた。


 強大な力を持った存在。そしてそれを親と認めながら、敬意と感謝を述べきった。

 親と思い、感謝する。そうザルガラは宣言している。

 

 さきほどまで散々、小馬鹿にしていたようだが……。いい気分になっていた古来種たちは、そんな細かいことは忘れてしまっているようである。

 

「それら感謝をふまえ、オレは嬉しい」


 今までの殊勝な態度はそのまま。ザルガラの口元にわずかな笑みが浮かぶ。


「古来種様の方々が、オレたちの……いや、オレの親同然だったなんて、幸運で、嬉しくて、喜び飛び上がる気分だ。ほら、オレの父親はあれじゃん。オレに気を揉んで、様子伺って、ご機嫌取りもできないから、うるさいだけでさ」


 ほぼ抜け殻のような母親については語らない。

 しかし古来種は情報としては知っていた。廃人であるという理解はしている。


 古来種たちは、ここで少しばかり訝しんだ。

 ザルガラの言うことは、親でいてくれて嬉しい、ありがとうという意味だが、どこか表現が引っかかる。

 不気味でもあった。

 

 あのアザナが黙って、席で胞体石をいじりながら茶を飲んでいる。それも不気味だ。……胞体石で、D◯◯Mをプレイしている。

 なんで、どうやって、なんの意図で胞体石でD◯◯Mを起動させているのか?

 なんだこいつら……。心底、不気味だ。意味がわからない。

 

 そんなアザナに、古来種たちが困惑していると、投影されているコンサート会場で動きがあった。

 観客たちが騒ぎだし、空を指さしている。


 画角が変わる――。

 会場の上空を映し出す。

 

 そこには、雨の中を飛ぶ4体の古竜がいた。


 4体は浮島の四方に散り、天に向かって口を開くと、一際激しいドラゴンブレスを撃ち放った。

 ドラゴンブレスは天候を変える。

 空飛ぶ遺跡の積乱雲を吹き飛ばしたように、4体の古竜のドラゴンブレスは、激しい雨を降らせていた雲を打ち払う。


 投影スクリーンが白飛びして、ザルガラの表情が逆光で見えなくなる。


「あんたたちは親同然。だから――」


 映像が戻る。


 雨が吹き飛び、一切の雲が散り、そこには煌々と浮島と太湖を照らす太陽が……。


「っ!」

「そんな!」

「バカな!」


 ――なかった。

 正確には太陽はある。だが、二つの月が重なり、すべてが覆い隠され、日輪の外縁と立ち上がるコロナだけが見えた。


「日蝕!」

「皆既日蝕だと!」

「バカな! そんなはずはない!」


 3人の古来種は、会談室脇にアザナが貼ったカレンダーを同時に見た。

 月齢まで詳細に書かれたこよみには、当然、皆既日蝕のような大イベントは記載されるはずだ。

 古来種たちはこの星の天地黎明から1万年前まで、この地上を支配し、天体観測と暦の製作に余念はなかった。


 現代でも古来種の残したデータが利用され、暦が作られている。もし、いま地上に降りてきた古来種たちが、暦を作るとしても、その過去の膨大なデータを利用する。

 

 壁のカレンダーも、それらの膨大なデータを利用して、古来種アイドルたちが独自に計算して作ったはずだ。


 それが外れている!


 今日の日付に、皆既日蝕などの情報は一切、記載されていない。翌日も、前日も、今月いっぱいも。なんであれば、カレンダーをめくったとて、皆既日蝕の情報はない。

 

 席から腰を浮かせた古来種たちを前に、ザルガラは感謝の言葉を言い切る。

 

「だからオレは、生まれて初めて、親に反抗できる。ありがとう。親の義務を果たす者(ペアレント)たちよ」

 

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まあ子どもは親を超えて一人前ですからね。 存分に乗り越えるのが良いかとw
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