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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第2章 不和と重奏

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疑念

「中には誰もいないようですから、まずは調べて見ましょう」

 そういってアザナは、ユールテルが仕掛けた魔法錠を勝手に解除した。

 これでアジト内にエロい本とかあったら、気まずいよなぁ。

 ユスティティアはアザナに寄り添い、廃屋の中を覗きこむ。オレも後ろから首を伸ばす。


 薄暗い屋内には最低限の椅子やテーブルがあり、その周囲には魔法書やメモが散乱していた。


「なにかの研究をしていた。というカンジですね」

「た、たしかにルテルはこのところ勉強熱心でしたが……」

 2人に続き屋内に入ったオレは、ぐるりと見まわしてから天井を眺めた。そこには力を失っている魔胞体陣があった。


「ドア開けると発動する魔法があったようだが」「魔法錠を解除したついでに無効化しました」「お、おう……」

 本当に、さらっと凄いことするなアザナ。

 今更だが、なんでオレはコイツにケンカを売ってるんだろうか?

 2度目の人生ってせいもあるが、改めて実力差をひしひしと感じる。コイツ、前の人生でも子供の頃から、こんなに常軌を逸脱した存在だったか?

 屋内を捜索するアザナを横目にして、一度目の人生の記憶を手繰ってみる。


 一度目の人生最後の時、互角とは言わないまでもオレはアザナの実力に肉薄していた。

 確かにあの時、アザナはオレを救おうとして手加減をしていた。その隙をついたのは事実だ。

 それなのに、オレは「今、目の前のアザナ」と接戦できる自信がない。

 

 コイツ、本当に「前のアザナ」と「同じアザナ」なのか?

 もしかして今のオレが、こうして10年分の記憶を持つようにアザナも――。


 そういった疑念が湧いていき、メモ拾い上げるアザナの尻……じゃなかった背を見るオレの目が、自然と険しくなっていくのが自分でもわかった。


「待てよ、そういえば……」

 アザナは魔法錠を見つけた時、「古来種カルテジアンの力」と言ってなかったか?

 なぜ、古来種カルテジアンの力と分かった?


「おい……」

 少し問い詰めようと、アザナの肩に手を伸ばした瞬間――。


「学園にユールテルの反応があります!」

 アザナが跳ねるように立ち上がった。

 思わずオレはのけぞり、後ろにいたユスティティアとぶつかりそうになった。


「なんですって! ルテルが学園に?」

 そのユスティティアはオレを押し退け、アザナに駆け寄る。


「おい、アザナ。どうしてそれが分かる?」

「ザルガラ先輩が書き換えた魔法陣を、間借りしてユールテル探知用にしました」

「さらっとトンでもねぇことしてんな! テメェは!」

 アザナの魔法陣タダ乗りに文句をつけていると、ユスティティアが廃屋の外に飛び出し、マントを両手で跳ね上げた。


「『寸借対象天使の翼!』」

 ユスティティアの詠唱で、魔法学園のマントの裏に書きこまれていた魔法陣が発動する。マントは黒い翼となり、魔力を纏って広がった。

 古式かと思ったら新式だったんだな。

 翼となったマントを羽ばたかせ、ユスティティアの身体がゆっくりと舞い上がる。


「まって、ティティ! 『青空羅紗にかかれ、撞球の……』」

 アザナは魔胞体陣を一瞬で投影しておきながら、内部に描く魔法陣を緻密に描いている。コイツが詠唱に時間をかけるなんて珍しいな。

 そんなアザナをわき目にみて、オレも飛行魔法を発動させ、先に飛び出したはずのユスティティアを追い越す。


「遅ぇっ!」

「う、うるさいですわよ!」

 風を切るとは言い難い。羽ばたきでやっと飛んでる有様だ。

 鳥のように飛ぶではなく、鳥のように羽ばたいて舞い上がると言った感じの魔法だ。

 その遅さはイラッとするほど……、ん?

 ユスティティアを追い越したオレを、さらに魔胞体陣が追い越して行く。その魔胞体陣は、正5角形陣を左右に置き去りにしながら、目にもとまらぬ高速で飛んでいった。

 飛び去る方向は、魔法学園の方角だ。


「なんだ? これ? アザナか?」

 後ろにいる魔法使いとなると、アイツしかいない。確認のために振り返ると、アザナが恐ろしい速度で迫ってきていた。

 飛んで行った魔胞体陣が、中空へ置き去りにしていった正5角形陣に近づく時と、触れた瞬間、アザナの速度が上がっていく。


「速ぇっ!!」

 ユスティティアを遅いと評したが、これじゃあオレの立つ瀬がない。

 なんだよこれ!

 飛行魔法ってモンじゃねぇぞ、これ!


「ティティ! 捕まって!」

 アザナはよたよた飛んでいたユスティティアを回収し、矢より速くオレを追い越して飛んでいく。


「きゃぁぁああああぁあぁぁっ.............」

 左右に弾かれながら加速していく2人。どう聞いても恐怖の絶叫を残すユスティティア。

 取り残されたオレは、のんびりアザナの魔法を解析しながら飛ぶことにした。


「こりゃぁ……。そうか。正5角形陣が対象を引っ張り、対象が触れた途端に反転して弾くって仕掛けか……。すげぇけど、マジ怖ぇぇぇなコレ」

 つまり、魔法陣に触れるたびに、どんどん加速するってことじゃねぇか。

 しかもルートは決まってる。まあ筒のような道になっていて、その中を飛んでいくから、外部から鳥が入ってきてぶつかるってこともなさそうだが……。

 単純に加速が怖い。

 利用して追いかけようと思ったが、すぐにそんな考えは捨てた。普通に怖い。


「人生、安全が一番だよなぁ」

 なんか、自分の生き方を否定したような気がした。

 

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