表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第12章 錯覚の巨人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

341/373

大森林に火気厳禁

 リトルウッド公国での日程をすべて消化し、オレたちを乗せたベクターフィールドは西へと向かった。

 間もなく木こりの軍隊が詰める要塞を越える。


「要塞、作ってる途中?」

 

 進行方向の斜め下方が見渡せる下部ラウンジで、ディータが公国の要塞を指差して言った。

 リトルウッド大公国の西の要塞を眼下にし、緑の大樹海の上を眺められるテラスで、オレとディータ。アザナとその取り巻き、そしてイシャンにドワーフのワイルデューとハーフエルフのテューキーが集まってお茶を楽しんでいた。


 なお今日は、アザナたちやイシャンなど友人関係を集めて茶会なので、しっかりディータには服を着せている(・・・・・)

 土塁や石垣の上の櫓や、内側の構築物が建設中であり、それを指差している。


「日々、増築と新規発案の要塞に建て替えを繰り返しているそうだ。なにしろ資材は無限に等しいからな」


「ふっ……。これだけの規模を毎日か……。きっと恐ろしいほど練度が上がるな」


 イシャンが戦慄している。

 軍属である彼には、木こりの軍隊の精強さが理解できるのだろう。脱帽ならぬ脱衣のため、胸を開けようとし手が止まっているのだから、その驚きは計り知れない。


「ボクも驚きました。設営の試行錯誤や新技術のトライアンドエラーが繰り返されてるわけですから、一種の試験場でもあるわけですね、この要塞は」


 アザナが研究者や技術者の視点で、要塞を眺めている。上空から見るだけでも多くの情報が得られるのだろう。視線が釘付けだ。

 まあ、もっとも人を相手にするために要塞ではなく、主な仮想敵は森の浸食なのでかなり特殊なのだが。


 建設が終わらない要塞を越え、これで連合と公国を含めた東方諸国からとお別れだ。


 下方の視界はすべて緑。見渡す限り緑。ベクターフィールドという上空から見ているのに、遙か先まで緑。

 これがエルフが住まい、管理する大森林だ。


「うう……気が重い」


 テューキーが茶も飲まず小さく丸まって、長い耳を畳むように頭を抱えていた。ハーフエルフの彼女には、エルフの本拠地である大森林が苦手なのだろうか?


「なんだ? エルフにとって故郷みたいなところだが、ハーフのオマエにはやっぱり思う何かがあるのか?」


 少し心配になって声をかけると、テューキーは首を振って否定した。


「親はともかくあたしの出身は大森林じゃないんだけど……」

「違うのかよ。じゃあ、それなのに気負うって、やっぱエルフがなにか?」


 差別的反応は、古来種の精神操作でかなり抑えられてはいる。とはいえ、エルフからハーフへ対しての反応が、柔らかいモノばかりとは言えない。

 疑問に答えたのは、ドワーフのワイルデューだった。


「こいつ、以前大森林に住む夫婦が引き取ってくれると言ってくれたのに、断ったことがあるんじゃ。よ」


 屈んでいるテューキーを短い指で差して、彼女の孤児院時代の過去を曝露した。

 ああ、なるほど。単純に気まずいだけか。ワイルデューが簡単に曝露するあたり、断った経緯もそれほど深刻ではないのだろう。


「うああー、気が重いー」


 曝露されて怒るわけでもなく、テューキーはさらに丸まった。

 

「それ以上丸くなると、テュキテュキ球になっちまうぞ」


「なんないわよ! あーもう。なんでエルフの大森林がコースに入ってるんのよ。最初から教えなさいよ!」


「いや、ちゃんとコースに書いてあるぞ。外遊先には書いてないが、運行スケジュールにはばっちり入っている」


 険しい難所超えないといけない連合と違い、エルフと王国は交流が盛んである。そのため外遊先とわざわざせず、訪問地の一つになっているだけだ。

 親しいというだけでなく、エルフの大森林の立ち位置もエイスター連合の諸国家とも違う。


 大森林はエルフの国家というより、自治権のあるエルフの集団と彼らの土地である。だたの森ではない大森林を人間が管理できるはずもなく、王国の支配下のまま自由采配の多めな自治権を与えて統治せずという形だ。


 王国内の貴族たちの領地を訪れないので、エルフの大森林はそれらより優遇されているように見える。

 丸まっているテューキーをそのまま。しばらく緑の大地を進んでいくと、


「あ、村発見! エルフの村だよ、アザナくん!」


 目のいいアリアンマリが、緑の大地からわずかに除く人工物を見つけた。

 袖を引っ張られ、テーブルから引き離されたアザナが首を傾げた。


「わあ、これがエルフの村かぁ……村? なんか家とか……少なくないですか?」


「そうですわね……、村を作ってる途中なんでしょうか?」

「むしろ村を壊していませんか?」


 アザナと取り巻きたちが、エルフの集落を見て首を捻る。


「ああ、アレは集落を片付けてるんだな」

「村を……集落を片付ける? どういうことですか? センパイ」


「大森林の中でエルフにとって、明確な都市や村はないんだ。森の環境変化に合わせて移動するんだよ」


 部族単位で集団となり、必要とあらば集落をつくるが、定住というほどではない。


「資源が豊かな森だからできること、なんでしょうか? 定住して国力を発展させたほうがいいと思うんですが」


「詳しいところまではわからんが、今までそうやって生きてきて1万年だ。伝統的な生活を簡単には変えられないだろうし、また変わるべきでもない──」


「あ、アザナくん。湖発見!」

「わあ、綺麗な湖ですねぇ」

「鳥がいっぱいですね!」


 オレ、今、すごいキメ顔で良いこと言ったつもりだったんだが、アリアンマリに遮られて流されてしまった。


「聞いていたよ、ザルガラくん。感銘のあまりこのイシャン。脱帽ならぬ脱衣──」

「やめろって」


 最近、【極彩色の織姫】も無意識に使いこなせるようになってきた。

 イシャンとディータがいつもいるせいでな!


 + + + + + + + + +


 便宜上、アバカスと名付けられたエルフの中心的な集落へ、アンが操舵するベクターフィールドがたどり着いた。

 山をも凌ぐ高さを誇る大木が3本あり、エルフの聖地とされている場所だ。遠方に微かに見える山しかないため、とりわけこの大木は目を惹く。

 

 この大木から少し離れた位置にベクターフィールドを留ませて降り、オレたちはエルフの集落へと向かった。

 数度に分けてハイトクライマーで集落へと降りる。ディータとジーナスロータス外交官たちは先に降り、オレとアザナたちは3回目で降りる。


「エルフの聖地かぁ。どんなんでしょうね」


 アザナ、アリアンマリ、仲良く並んで窓に貼りつきエルフの村を眺めている。

 タルピーは置いてきた……さすがのエルフたちも、イフリータを見ては落ち着かないだろう。


「アザナは大森林、初めてなのか?」

「来たことはありますが、端っこのほうだけですよ」

「オレもそんなもんだな」


 王国側から狩人の小屋がある辺りまでなら案内版もあり、信用できるので迷わず入れる。だがそこまでだ。アザナもそれくらいなのだろう。


「半日くらい飛んで、何もなかったので戻りました」

「わりと奥まで行ってるじゃねぇか。常識的なオレと違って、やっぱオマエの基準はおかしいぞ」


「常識?」

「常識的?」

「アザナ様と比べれば……」

「そうかなぁ」


 アザナの取り巻きがヒソヒソと耳打ちしあってるが、そういうのやめて欲しい。はっきり言えよ。いや、やっぱやめて。特にアリアンマリとヴァリエ。


「それでエルフの王様かぁ。どんな人なんでしょう」

「そう大げさなもんじゃないっていうな。王といっても、エイクレイデス王とは格が全然違うし」

 

 エルフの王とは、古来種から精神操作を含めた権威というカリスマチューンを与えられた中位種の支配者ではない。


 あくまでエルフたちの王として与えられた便宜上の地位であり、任命した古来種由来の権威はあるがそこになんらチューンは施されていない。

 なので、同じ王という称号でも、格としてはエイクレイデル王には並ばず、東方のエイスター連合国の各国家元首と変わらない。南方諸国の族長たちや、足跡諸島の島ごとにいる酋長とかよりは上だが、王という割には格が低い。


「そういえば寿命が長いから、今のエルフの王様、8代目なんですよね」


「1万年間で8代かぁ」


 アザナの何気ない一言で、人間では感覚的につかめない時間を想起する。

 

「一人につき、平均1,200年は王座についているという計算か」


 ざっくりした数字を言うと、給仕を終えて控えていたティエが口を開いた。


「初代が5,000年君臨したと聞いてます」


 ティエが補足すると、ハイトクライマーの船内が騒ぎ起つ。


「半分じゃん!」

「長すぎですよ!」


 アリアンマリとアザナが、5000年という数字に強く反応した。オレも驚いたがそこまでじゃない。


 2代目以降の平均在位期間が700年くらいになってしまった。約半分だ。8代目は王国建国時についたので、300年なので他の王はもう少し長いが。


 こんな雑談をしながら地上に降り立つと、最初に降り立っていたジーナスロータス外交官がオレを待っていた。その顔は弱り切った表情だった。


「お待ちしてました、サード卿……」

「え? どうした? オレを待ってた……って?」


 歓迎の出迎えが終わり、エルフたちが太鼓などと片付けている。そんな中、オレを待っていたジーナスロータス。

 ディータと共に降りた彼は重要人物であり、そのままエルフの王と挨拶へと向かうはずだが……。

 心労が重なって虚ろなジーナスロータスの表情を見て、前をしていた顔だと思い当たる。


「なんかいやな予感がする。誰かがオレに用があるとか?」


「ご明察です、サード卿。エルフの姫……ヴィーンツオ大公殿下と縁談が進むリンナヴァン姫殿下が、あなたにお会いしたいと」


「マジかよぉ。最近、なぜか嫌な勘ばかりが当たる──」


 頭を抱えるオレに、ジーナスロータスはさらに言葉を続けた。


「それと、イフリータ……タルピー様にもお会いしたいと」


「なんで?」


 なんで?

 可燃物(大森林)にイフリータ?


 今だともれなくフェニックスが付くんだけど?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >脱帽ならぬ脱衣のため、胸を開けようとし手が止まっているのだから、その驚きは計り知れない。 驚きのあまり服を着込み初めたら、本当の異常事態でしょうねw
[一言] 焼畑農業でもしたいのかな?盛大にやってしまう?
[一言] 広がる森に対抗するためのプレハブ要塞であり頻繁なアプデがはいるサグラダファミリアみたいなのなんですかね? なんかワクワク要素詰まってそうですね! そしてジーナロータスが疲弊するほどの特殊性…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ