買い物下手のアザナ
タルピーの服を直して、満足したオレは少し遅れて散歩に出た。タルピーはなぜか拗ねてお留守番だ。
オレが追い出される形で散歩に出ている。うーん、前の作りの方が良かったのか、オレが勝手に手を加えたのが悪かったのか。
まあ後でアイツの服でも作ってやるか。
さて、ベクターフィールド内でも十分、散歩は楽しめる。
ハイトクライマーの発着所に流用している眺望のよい迫り出した広場は、植え込みをあって散歩の定番だ。
アザナとその取り巻き四人がいた。
「よう、オマエらも散歩か? というか降りてなかったのか?」
政務のないアザナたちなので、観光に降りていると思ったらそうでもなかったようだ。
「いえ、帰ってきたところなんですよ。センパイ」
見れば近くに手荷物がいっぱい置いてあった。
何か買い込んで、こちらに運び込んだようだ。取り巻き三人のところの使用人と、フモセのモノゴーレムが手荷物を運んでいる。
「あー。珊瑚の椅子。欲しかったなぁ」
使用人たちに荷物を運ばせながら、アリアンマリがなんか言った。
「そんな大物を買うつもりだったのか。倉庫賃貸料取るぞ」
「アザナくんの小豆入れた倉庫に入れるから」
オレがちょっと突くと、アリアンマリはオレから目を背けてアザナに頼った。
「言っとくけど、アザナのヤツ、結局小豆を買い逃したから、オレが念のため買ったヤツを融通してやっただけだからな」
「え? そうなの! アザナくん!」
頼られたアザナは目を逸らした。
「あのーそれにつきましては、大変そのあのセンパイには感謝しておりますですはい」
アザナの態度が小さい。アリアンマリは知らなかったようだが、フモセとユスティティアは知っていた。誰にも目を合わせられないアザナは、とても哀れだった。
「アザナくん、なんのために東方諸国に……」
さすが辛辣なヴァリエ! 呆れたように口を押え、小さくなっているアザナを冷たい目で見ている。
「そう、アザナは安く買おうとして、ギリギリまで選んでいて買い逃しやがったんだよ。無駄にはならないからと、オレも買っておいたから──」
「そ、そういえばー、大公国は珊瑚の加工品が有名でしたねー。アリアンマリもそういうのが欲しかったの?」
露骨に話題を変えてきた。話を振られたアリアンマリはちょっと反応が遅れる。
「え? あ、うん。いや、違うよ。珊瑚を切り出した椅子」
南方や足跡諸島では、玉座として使用されているような代物である。そんなの売ってたのか。
オレとアザナが呆れる横で、取り巻き組は戦利品の話題で持ち切りである。
さすがのアザナも、女性陣の買い物に付き合うのは大変なようだ。
「それにしても、アザナ様が控えてくれれば……」
「半分だもんねぇ」
「もう少し買えたのに」
「オマエが大半かよ」
少しは反省して、懲りろよ。
商才ない上に、お金の使い方下手すぎるだろ、お前。
「き、金額的にはと、五等分くらいですよ……あー、そうだセンパイ。アレなんですかなんですか?」
またも露骨に話題を変えてきた。
とてとてと広場の端まで言って、ヴァルカンの街を指し示す。
アザナって立場悪くなると、こういう話の逸らし方するよな。とてもうまいとはいえない。ちょっとこう、なんというか、うーん、あざといなぁコイツ。
「なに、アザナくんを見てニヤニヤしてんの!」
「し、してねぇよ!」
アリアンマリが蹴りいれてこようとしたので避けた。
コイツ、アザナに似て足癖が悪くなってきてるぞ。
勇者という一種の呪いのせいで、オレに攻撃的になるアザナと違って、アリアンマリは素で凶暴なのか?
……凶暴だったな。
蹴りを避けたまま、ととと、と進んでアザナの隣まで行く。
「で、なんだ。アザナ。ああ、あれな。都市防衛用のゴーレムのことね。買うのか?」
「買いません! ……売り物なんですか、アレ?」
「そこ! アザナ様に変な方向性を与えないでください!」
ユスティティアが本気のツッコミを入れてきた。
欲しいとなると、金に糸目を付けぬ恋人がいてたいへんだな、ユスティティア。
「それにしても大きいゴーレムですね」
アザナが指さしたゴーレムは、街の城壁外に建設? 設置した巨大なゴーレムだ。
東門の外にあるため、街に遊びに行った時は気が付かなかったのだろう。
「完成したとは聞いたが、デカいなぁ」
巨大ゴーレムをつくることそのものは難しくない。資産と資源、維持費と要相談というだけだ。
一番の問題は運用である。
大きさに比例して魔力がいるため、一人で扱えるものではない。自然と大量の魔石か魔力プールへの接続が必要となる。
アレが運用できるということは、国力……魔力プールに余裕があるということを誇示している。
緊急時に、短時間だけ可動するという代物かもしれないが、それでも対応できる魔力プールがこの街にあるということだ。
示威効果も高いだろう。
「巨人に対抗して作ったんだろうが。あ、そういえば……」
ここで日程表を思いだす。
「アレの起動式典ってのが、あったな」
「起動! 式典に参加できるんですか?」
アザナの目が輝く。またかと取り巻き四人が呆れてため息をつく。
だが、オレもアザナが興味あるなら、参加していいかなと思った。
「貴賓席とかは無理でも、来客席くらい用意してもらえるかな? ジーナスロータスに相談してみるよ」
「やったー! 約束ですよ、センパイ!」
アザナは喜び、モノゴーレムを出して、大荷物を大急ぎでベクターフィールド内へ運び込む。
そんな5人を見送ると、入れ違うようにハイトクライマーがベクターフィールドに向かって昇ってきた。
気になったので待っていると、到着したハイトクライマーから、ジーナスロータスが降りてくる。
「ああ、ちょうどよかったサード卿」
顔を見せるなり、ジーナスロータスはオレがいてよかったと言う。
テロップを降りてくると、珍しいことに形式的だが頭を下げてきた。なにか問題があって、オレに用があるのか?
身構えると、意外なことを言われた。
「急なことでもうしわけないのですが、サード卿。私がなんとか調整をしますので、大公殿下にお会いになっていただけませんか?」
「なんで?」
なんでとしかいえない。
大公がオレと時間を割いて合う理由など……あ、アレか。
ディータの婚約者候補。
大公もオレを気にしているということか。
 




