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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第12章 錯覚の巨人

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旅は道草、余は情けねぇ 1

構成と文字数ミスって分割と話が前後してます。

前回のちょっと前になります。

 

『復原……、成りました』


 アンの声が談話室の天井から降ってきた。

 ちょっと疲れている様子だ。


 以前として吸引の大魔人は空飛ぶ遺跡の外に貼りついているが、遺跡の傾きはアンの尽力により回復した。


「よく元通りになったねぇ」

 イシャンが感心した様子で、足元を確認している。


「もともと遺跡は増築されることを想定していて、水平を保つように設計されてるんだ。吸引の大魔人が吸引を止めてくれるの前提だが、重ささえわかれば復原可能だよ」


 重さを推測して数値を入力、回復した角度からさらに重さを推測して、3回ほどで遺跡は水平となった。

 

「計算するのはこっちだが、復原作業はアンなので彼女に負担を強いることとなったな。この問題が解決したら、運行はしばらくオレが代行するぞ。休養だ」


『あ、ありがとうございます!』

 アンは遠慮もせずに礼を言った。

 一度、断る気もしないくらい疲れたのだろう。


「オレが代行するといっても、大魔人を幻覚魔法で隠してる間はできないな……」


 さすがに両方できるほど器用じゃない。できないことはないが、遺跡運行に不安がある。


「あの巨人をすべて隠すほどの幻覚……。それを簡単にできる君にはいつも驚かされるよ」


 イシャンが呆れたもんだよ、と肩を竦めた。


「デカすぎて、光を当てて測定されたら一発でバレるけどな」


 小さい幻覚ならば誤差だが、大きな幻覚は光を曲げすぎているため、各所で屈折率が違っていてバレやすい。

 

「さて、復原も完了したし、大魔人……いやブラウニーの要求もわかったが……」


 現在、オレたちはこの遺跡で発生したブラウニーを取り囲み、尋問を終えたところだ。


 状況はわかった。


 空飛ぶ遺跡のダンジョンが、魔物を生成する条件に地域性があったため、ブラウニーを作ってしまった。

 ブラウニーたちは、以前より古来種の支配下であった。そのため彼ら彼女らの存在は問題ない。

 だが、ブラウニーの分身にあたる巨人を支配下にない状態で、顕現させる能力をブラウニーは持っていた。


 古来種が大陸東にいた巨人たちを支配できなかった理由。

 それは巨人たちの発生が特殊であったため、隷属の魔法に晒されなかったというわけだ。


「1000年前に連合で大暴れしたっていう巨人たちは、リバーフロー国のブラウニーハウスが解放されてすぐに顕現化。で、生まれた最初は牛乳とかでは物足りないオマエらは、人間の母乳が必要なんで要求を通すため暴れた、と」


 ディータ以下、オレを含め城の責任者クラス(アンは除く)と、アザナとその取り巻きが談義室に集まり、吸引の大魔人の中にいたブラウニーの説明を受けて話をまとめる。


「そういうことデス」


 おっぱい要求という看板を持ち、テーブルの上でブラウニーが肯いた。

 隣でタルピーが踊っている。


「古来種は誕生したばかりのブラウニーに、母乳を与えることを知っていたため、巨人の顕現化はなかった。そのせいで、というか……古来種は巨人がブラウニーの分身どころか、存在すら知らなかったために巨人を支配下に置くことがなかった……か」


「まさか生まれたばかりのブラウニーには、人間の母乳が必要だなんて。驚いたよ、脱衣だ」


 イシャンが脱帽の代わりに脱衣した。

 即、モザイク。


「普段は牛乳でもヤギ乳でもよいが、生まれた後、一回だけ人間の母乳が必要というわけなのか。おっぱい」


 大魔人の影響下から逃れたジーナスロータスだが、語尾がまだ影響下だ。


「それが分からなかった1、000年前の連合は、突然現れて会話の成り立たない巨人をただ敵だと判断して攻撃。各国巻き込んで、戦闘状態になったと?」


「すまない、人間。ただ母乳が飲みたくて。デス」


「くだらねぇ……」


 吐き捨てるように、過去の騒動をくだらないと断じた。

 もう1000年前とはいえ、母乳が欲しいからって理由でいくつもの国が半壊し、大勢の犠牲がでた。

 このブラウニーが原因ではないので責められない。

 それを含めてくだらないと、オレは断じた。 


「いや、そうでもない、おっぱい」


 ジーナスロータスが難しい顔をして呟く。


「外交でもよくあることだ。文化が違い、表現方法が違い、互いの理解が足りなかったばかりにおっぱい、交渉が揉めに揉めて、一度、戦争をやってから、後から互いに譲歩し合える条件だったじゃないか。なんてことは……おっぱい。それをくだらないと言ってしまえばそれまでだが、人間はちょっとした理解の不足で争う。親しい友人同志でも起きることだし、親しくない人物相手ではなおさらだろうおっぱい」


 オレはくだらないと断じて、悲劇をうやむやにしようと思った。

 だが、ジーナスロータスは違う。

 真正面から受け止め、悲劇そのものではなく、至った理由を考察してみせ、歴史を例にして含蓄あることを語った。

 だが、ノイズ多いな。

 みんな聞こえて聞こえないふりをしているが。


 と、ここでアザナが割って入る。


「足跡諸島も帝国とは文化の違いとか価値観の違いがあって、互いの無理解で拗れて戦争したんですよ」

「っ! どうした! 歴史苦手なアザナが!」

「アザナくん! そういう歴史の細かい暗記物、苦手だったよね!」

「歴史、いつ勉強したの?」


 オレとアリアンマリがざわつく。

 アザナは天才という割に、どういうわけか歴史関係が苦手だ。

 歴史については、アリアンマリの方が詳しい面があるくらいだ。


「足跡諸島はボクの祖先の出身地ですよ! それくらい知ってます」


 アザナが可愛く口を尖らせて反論してくる。

 しかしそれってやっぱり歴史は苦手ってことだよな?


「それよりも、だ。母乳が必要なわけだが」

「妊婦も産後間もない女性も、人員にはいませんからね」


 モザイクイシャンの発言に、人員を把握しているティエが反応した。


 長期の外遊で子供や母体に問題が起きたら対処しきれないという理由で、この空飛ぶ遺跡に妊婦や幼い子供を持つ女性は乗っていない。

 

「ベデラツィが用意した、飲食店や雑貨店の人員にいるか?」

「おりませんね。こちらも精査してますので」


 精査が裏目に出たか。

 こんな事態なんて、想定できないから仕方ないが。


「地上に頼るか」

「痴情に頼る!? いいですよ、貸しますよ! 頼ってください! この痴情!」


 オレの独り言に、ヨーヨーが妄言を吐く。

 そして抱きつこうとしてきたので、さっとタルピーを持って押し付ける。

 

「またぁ!」

「ちっちゃい子もラブなんですが熱ぅっ!」

「お? ワンツー、ワンツー」

「あつつー、あつつー!」


 今回、タルピーは拒絶しない。

 熱さに耐え兼ね引き離すヨーヨーの動きが、タルピーの波長とあったのだろう。

 一緒にデュエットを踊っている。(片方は踊ってない)


 ブラウニーのため、誰が母乳を貰いにいくか?

 それが問題だ。


「オレは嫌だぞ」


 言われる前──視線すら集まるまえに、オレはやらないぞと言い放つ。


「わかった」

 イシャンが肯く。

 わかってくれたようだ。 

 そして──


「ここはこの飛竜責任者のイシャン自ら! 母乳を分けてもらいにいこう! 全裸で!」


 全裸立候補する。

 

「他国の平和な村に、全裸特攻は宣戦布告だろ」


 しかも全裸で母乳くださいって、未だかつてない変態すぎる。


「いや飛竜で降りてはまずい。警備責任者の私が」


 警備主任が手を上げる。


「警備続けてくださいよぉ~、主任!」


 貫禄的には彼は適任だが、彼を地上に降ろすのはあまり望ましくない。


「……総責任者の姫。私が適任」


 ディータが対抗したいのか、シュタッと手を上げて発言した。


「やめろ。大事になりすぎる」


 手を取って下げさせる。

 と、このとき、オレとアザナの目が合った。

 ──はっ! と何かを思いついたような愛らしい顔。

 コイツ、立候補してくる……と、直感したその時。


「いけません。アザナ様に行かせるくらいなら、ここで私が」


 ユスティティアがアザナの挙手を遮った。


「お供します」

「仕方ありませんね」

「あ、あたしも!」


 アザナを止めるため取り巻きたちがずずっいと一歩前に出た。

 アリアンマリは一瞬遅れている。


「キミたちは同行人程度なんでナシで」


 アザナたちは出発前は手伝いこそしているが、現在の正式な立場は同行人、同乗者程度だ。


「ここは外務官の私たちの出番だろう。おっぱい」

「おっぱい」

「おっぱい」

「おっぱい」


 ジーナスロータスとその側近3人が手を上げる。

 だが、まだ語尾などからおっぱいが抜けていない。


「普段なら頼むけど、今日は絶対ダメ。無理。勘弁」


 今の彼らを外に出すわけにはいかない。


「ぎゃお? おっぱいならエトの方がいいよ! まかせて!」


 エト・インが部屋の端っこから手を上げて駆けてくる。


「はいはい! エトがいくならアタイにまかせな!」

「ぴー!」

 ダンスをストップさせ、キメポーズでタルピーが割って入る。フェニックスのピーちゃんもノリノリだ。


「論外だろうが。ええい! オマエらが降りて行くくらいなら、オレが行くぞ!」


「どうぞどうぞ」「どうぞ」「どーぞどーぞ」「どーぞーっ!」「どうぞっ!」「……行ってらっしゃい」「ごふっ!」

「行くって言ってねぇ! いや言ったわ、オレ!」


 オレが行くと言った途端、その場にいた全員が申し合わせたように手を差し出し頭を下げる。

 どうぞ連呼で、ドアまでの道を開けてくれる。

 アザナは身体を折っているが、あれは本気で笑っているときのアザナだ。


「はかったな、アザナ!」


「ボク、何もしてないし言ってないですよね、今回は!」


 今回はな。

 

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[一言] おっぱいで戦争は起こると思います!
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