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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第12章 錯覚の巨人

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プロウトラクタドラゴン


 地面が傾いた!

 空中で地面が、床が傾いているということは、この遺跡が傾いているのか!?

 

 琥珀色の裸体をしたディータがオレの方に向かってきた。

 

 ゴーレム体に代入されてるため、身体の制御が得意ではなく運動神経が不安なディータだ。

 倒れるくらいで壊れるとは思えないが、傷がつくと直すのが面倒なので抱きかかえて支える。


 琥珀の身体とはいえ、ほぼ裸体の姫様を抱きかかえるのは抵抗があった。

 しかし、緊急時なのでしかたあるまい。


「大丈夫か、ディータ……」


『センパイ! なにがあったんですか!?』


 呼びかけると、帰ってきたのはアザナの声だった。


「うぉっ! なんでディータからアザナの声が出てくるんだよ!」


『ちょっと発声の魔具を借りてます。センパイだって、これくらいできるでしょ?』


「できねぇよ」


 できねぇよ。

 くっ!

 あまりのことに、思考より先にツッコミが出てしまった。


 やっぱりオマエの方が天才だよ。


「何があったかと聞かれても、ここじゃわからない。一先ず、指令室に行ってみるがオマエはどうする……」


 風呂に行ったアザナだが、まだ服を脱いだかそれくらいだろう。

 イシャンだとこれ幸いと、脱いだまま戻ってきそうだが、アザナならそんなことない。

 オマエも来るかと尋ねたら。


『とりあえずボクは、お風呂に入ってから行きますね』


「どうやって? 床傾いてるけど?」


『通信、以上』


 そう言って乗っ取りを解除したのか、ディータの顔が穏やかに、無表情な表情へと戻る。

 まだふらつくディータだが、もう一人で立てるようなのでいったん放す。 


「斜め浴場でどうやって入るんだ? 端に溜まったところか? すごい気になる」


 たまにアイツの胆力には驚かされる。


「……確認のため、覗きます?」


 しゃべれるようになった途端、ディータが変なことを言う。


「覗かねぇよ!」

「……想像で我慢?」

「うるせぇな! まず、この異常事態への対処からだよ! おい、アン!」


『は、はい! ええっとあの、そのなんでしょう!』

 

 天井に向かって叫ぶと、空中遺跡を支配、管理しているアンから反応があった。

 音声が天井付近から降ってくる。

 アンになにかがあった、ということではないようだ。


「何があった! そっちでわかるか?」


『原因はわ、わかりませんが! 左舷に異常なウエイトがかかっているようです! 運行に支障があるため現在は浮遊に注力し、遺跡内の被害チェックを優先してます!』


「ふむ……ああ、惰性で進んでるが、推進は止めたのか。いい判断だ」


『あ、ありがとうございます!』


 遺跡の運行どころか、大型船舶の管理や運航すらしたことないだろうに、しっかりした対応ができるとは。

 まったくアンは有能だな。


「アン!」

『はい!』


「仕事のできるヤツは好きだぞ」

『えあ!? あわ! あばばばばっ!』


 通信にも障害が出たか?

 アンの声が飛び立ちそうで、まったく飛べない鳥の羽ばたきのようになった。


「なんだ? どうした? 故障か?」

『な、なんでもないですっ! アンは故障してません』

「いや、オマエは故障しないだろうけどさ」


「……ザル様」


 隣に立つディータがなんか睨んできた。

 な、なんだよぉ……。


「あー、ところでアン。ウエイトについてはわからないか?」


『え、えーと……左舷側のいくつかの目がふさがれているようで、よく見えません。外部から視認していただかいないと。水平へ……回復もちょっと無理そうです……』


「わかった。指令室に行ってみる。アン。オマエは原因が分かるまでは、強引に復原させるな。維持に力いれろ」


 アンには遺跡がこれ以上、傾かないように注力してもらう。


 臨時の指令室になっている中層の張り出した広間に向かう。

 後片付けに使用人は残し、ディータを伴ってエレベータに乗り、数階降りて廊下に出る。


 そこにはエト・インが倒れていた……いや、寝そべっているのか。

 その寝そべる背中の上で、タルピーが踊っている。

  

「ぎゃお! 7度だよ!」


「人間水平計……、いや人間分度器かよ」

「ぎゃお? エトは古竜だよ?」

「ああ、そうだったな。プロウトラクタドラゴンだな」


「……勾配は12.278456パーセントほど。ですね」


 ディータがエト・インの推定を7度ぴったりという仮定を元に、勾配の計算をかなり細かく弾きだした。


「人間計算尺かよ」

「……私はゴーレム。もしくは高次元体。スライドルールゴーレム!」

「人間だろ」


 あまり表情の変わらないディータだが、そういうとハッとした顔になった。


「まあいい。いくぞ、ほら」


 寝ていたエト・インを拾いあげ、タルピーを頭に乗せて指令室へと向かう。


 傾斜がすごいので、ルートによってはかなりの上り坂、下り坂となる廊下を進み、やっとのことで指令室へとたどり着く。


 エト・インを小脇に抱えたまま指令室に入室したのだが、これをみんな気にしている様子がない。

 ドアが開いてから、これって変じゃね? と思ったのだが、あまり問題視されなかったようだ。

 もしくは見て見ぬ振りをされたか。


「やあ、遅かったね」

 

 最初からいたのか、飛んできたのか、『跳んで』きたのか、イシャンがすでに指令室にいた。

 服は着ている。


「イシャン先輩、なにがあったのかわかるか?」


 警備の主任は別の人物だが、着衣イシャンから事情を聞く。

 アンから報告ではこの傾斜は外的要因らしいので、飛竜を使って周囲警戒を担当している彼に聞いた方が良さそうだ。


 なお、アンもこの指令室にいるのだが、中央のカプセル型の大型魔具の内部にいるため姿は見えない。


「たった今、警戒に当たっていた飛竜と連絡を取れたところなんだ。なんでも外壁にかなり大きい何かがへばりついているようだよ」


「へばりつくぅ? かなり内部の荷のバランス配分が狂っていても、水平を保てるこの空飛ぶ遺跡が、7度も傾くほどのウエイト? どれだけの巨大物体なんだ?」


「さあ、なんだろうねぇ? 報告者の話だけでは、錯綜して混乱もしているのでなんとも。ただ飛来してきたり、上空から落下してきたということはないようだ」


 警戒にあたっていた竜騎兵たち全員が、接近に気が付かないほどぼーっとしていることなどないだろう。

 おそらくだが超高速も無いだろう。

 音や衝撃が消せるのならば、気が付かれず近づけるかもしれないが……可能性は低いな。

 

「となると、転移してきたか……まさか湧いたか」


 脳裏にアザナの顔が浮かぶ。

 アイツ、ダンジョンの魔物を形成リミッター解除したんじゃねぇか? という疑念と同時に。


「飛竜から映像、出ます!」

「え? 出せんの?」

 

「はい、出せますが?」

「お、そうか。じゃあ頼んだ」


 なんかアンがオレの知らない遺跡の機能を使いこなし始めてる。

 飛竜からの映像って、何か飛竜とパスでも繋いでるの?

 いや、何か魔具を竜騎兵に持たせているのか?


「すげぇな。みんな成長してて、嬉しいやらびっくりやら」


 感心していると、遅れてやってきたヨーヨーがオレの隣にくると……。


「私のおっぱいも成長してます」

「黙れ」

 

 変態が自慢の胸を突き出してきたので躱した。


「……っ!」

「え? ちょ、殿下! な、なにを!」


 目標を失ったヨーヨーの胸を、ディータが無言で掴んだ。


「あ、あの! 敵意とか憎悪を込められた手で揉まれるのは、ちょっと怖いんですが……」

「……」


 半眼のディータは、無言でヨーヨーの胸を揉み続ける。


 無敵のヨーヨーも、権威のあるディータ相手では手も足もでないようだ。


 あ、ディータになんでもいいから服を着せるの忘れてた。

 琥珀色をした裸の姫様が、辺境伯息女の胸を揉むという光景が繰り広げられ、指令室にいる誰もが視線を彷徨わせる。


 そんななか、マイペースな男が一人……。


「ザルガラくん。わたしも成長を」

「閉じれ」


 イシャンが胸をグイッとはだけた。

 男の胸筋とか見てもしかたない。


 などど緊張感皆無な中、オレとアンが収まるカプセル魔具のちょうど中間。

 そこに握りこぶしほどの映像が、ぼわっと浮かびあがった。


「……うわ、小さい」

「ナンだよ、思ってたのと違うなぁ~」

「なんかええっと……これが遺跡本体かな?」

「失礼しますね」


 オレとディータ、イシャンに警備担当の四人が顔を近づけ、小さな映像を覗く。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい!」


 アンがカプセル内で謝る。

 ぶつかる音が聞こえるが、もしかしてカプセル内で頭を下げて内壁に当たっているのか?


「いいって、いいって。映像は綺麗だがから、少人数で見るなら困らないよ」


「あ、ありがとうございます~」


 アンの鳴き声が聞こえた。

 やっぱり頭ぶつけたのか。


「なんだ、これは?」


「人かな?」


 アンに気を取られていたら、投影された映像を見ていたイシャンと警備主任が呟く。

 二人の間から覗き込む。

 小さな映像の中に写る空飛ぶ遺跡に、巨大な人型生物が抱き着いていた。


「これは確かに……なんというかへばりつく、だな」


 竜騎兵の言う表現はなかなか的確だった。


 人のように見えるが、クズ鉄やらなんやらが身体にへばりくつ巨人が、飛びついて必死に縋っているという光景だった。

 真っすぐ立てば、遺跡の全高の半分ほどあるであろう身長の巨人。

 体中にクズ鉄がみっしりとついている巨体では、かなりの重量であることが想像できる。


 なんだこの巨人は?

 誰か知っているか、と聞いてみようとしたとき、指令室に妙にこざっぱりとしたアザナが入室してきた。


「さっぱりしたー。あ、それって吸引の大魔人アスプレイションジャンキー限定版リミッターバージョンですね」


「限定版? 知っているのか、アザナ?」


 吸引の大魔神より、限定版が気になる。


「はい。古来種が支配下に置けなかった巨人族の一人ですね。本来ならば、物体どころか魔力でも生命力でも吸引できる能力を持っているのですが、リミッターバージョンなので身体に吸い寄せることができるのが、金属類だけという巨人です」

 

「ぐふふ。身体は掃除機というやつですね」


 さすが勇者だ。

 通常の魔物以外も、情報を持っているようだ。

 ヨーヨーがなにかくだらないこと言ったようだが無視。


「よく知ってたなぁ。こんな一個体の存在を」


「知っているというより、ボクの目を通して古来種レンズでの検索結果が届く感じですね。外部記憶装置へのアクセスというか……まあ、精度が低いのが困りものです」

 

「そういえば、知ってたり間違ったりするよな、オマエ」


 グレムリンすら間違えたことのあるアザナだ。

 古来種レンズとかいうシステムは、今後の発展に期待する。


「よし、原因もわかったし、行くか」


 そういって腰を伸ばすと、投影図を見ていたイシャンが視線を向けてきた。


「倒すのかね? アレを」


「なんで?」


「じゃ、じゃあ、引きはがすのかい?」


「そんなことしたら、落っこちて海に沈んじゃうじゃん。話してくるんだけど。なんで?」


「え、いや。キミに兵をつけようと思ってね。いや、そうじゃなくて、話をしてくる? どういうことだい?」


 変なことを聞いてくるな、イシャン。

 倒す?

 あんな珍しい存在を、倒すとかどうこうするなんてどういう発想だ?


「あんなのいたら、普通は話してみたいだろ? せめて話ができるか確認したいだろ?」


「あ、ああ……。うん、そうだね」


 イシャンだけでなく、指令室にいる人物たちがどこかよそよそしい。


「たしかにああ見えて、実は友好的って存在かもしれないが……」

「あ、あれが強者の余裕なのか?」

「怖くないと……いや、怖いからこそ我々は攻撃的になるのか?」


 オレとイシャンとディータの家臣たちが、垣根を越えてヒソヒソ話をしている。


 なんでだよ。

 あーいう存在見かけたら、話をしてみたいのっておかしいのか?

 そりゃ運航の障害になっているが、倒すとかそう考える方が危なっかしくない?


 不安になってアザナに水を向ける。


「おい、あんなの見たら、話をしてみたいよな? おかしくないよな?」


 腕を組み、顎を撫でながらアザナは答える。


「ボクならまず解析してみたいですね。ゴーレムなら解体してみたいです」


「なあ、こっちの方がおかしいよな? なあ?」


 オレはアザナを指さして、イシャンたちに尋ねてみたが目を逸らされた。


サブタイトルがサブタイトルしてない

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― 新着の感想 ―
[良い点] 人間椅子とは アザナも知っていそうですね [気になる点] 前々から気にしていましたが 今のアザナって外から来た8人目(8番目)?なんじゃないかと
[一言] まず会話から。 ある意味当然なんですけどね。 ザルガラのイメージに合ってないですねw あと変態だらけのこの世界では、正常は異常扱いされるのでしょうw 誤字報告です。 >話ししてくるんだけど…
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