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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第12章 錯覚の巨人

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そら の じこ


「何事もなく、出立いたしましたな」


 整然と白壁の家々が並ぶ沿岸のリバーフローの街に、強い海風が当たっている。

 城のバルコニーからゆっくりと去っていく王国の空飛ぶ城を眺めながら、リバーフローの重臣たちは肩の荷が降りたと息をついた。


 夕日に向かってゆっくりと飛んでい城を、うっとりとした視線で見送るネルソンに、背の低い重臣が親しそうに声をかける。

 

「ネルソン殿。多少の軋轢と無礼を承知の上、外交団の年少組をブラウニーハウスへお呼びしたようで。成果はどうですかな?」


「ええ、それはそれは素晴らしい。思った以上の満足いく結果でした」


「それはよい。よいですな」


 良かったですな、と笑う背の低い重臣に対し、ネルソンは「ですが」と渋い顔をした。


「どうされましたかな?」 


「できればディータ殿下のご様子を伺えればよかったのですが……」


 残念がるネルソンに対し、背の低い重臣は大げさにおどけて見せる。


「いやいや、それはそれは。そうなれば問題になること必須ですので、ネルソン殿、それはお控えを。何事も加減。加減ですぞ」


 大国の姫殿下の私室を探る。

 言葉にするだけで、大変危険だ。

 対して新興の男爵と、その友人である子爵と辺境伯の子息子女。

 限界を超えてはいるが、彼らへの受けは良かったため問題にはなっていない。


 ネルソンがそうですね、と控えた様子を見て、小柄な重臣は言葉を続ける。


「ところで、あの城の運搬能力の方は判明したかね?」


「【パロパラのゴーレム】を出立前日まで遊んでいたため、時間がなくてこれを折りたためなかった。という名目で、分割したまま数度に分けて運搬していましたね」


「ほう、そうして正確な空飛ぶ城への輸送能力はボカしたか。なによりなにより。楽しんで頂けて良かった」


 積み込み作業を数回にわけることから、一度に運ぶ能力はないとリバーフロー国は判断した。

 分解できる贈り物を送った理由は、今回のように「解体して運んだ」と言い訳をさせるためである。

 また実際に運び込めなくても困るため、分解可能な大型の贈り物を用意した。


 事前の情報から、城への輸送能力は推測できていた。

 わざと解体できない大型の一品は送らず、解体できる大型の贈り物を分解して運ぶか仕掛けたのである。


 無論、欺瞞工作の可能性もある。だが拡げたまま贈り物を積み込むなどという無作法をしてまで、積み込み能力を隠す理由は感じられない。


「あれに積み込む手段を考えなければ、ただの外洋船より扱いにくいですな」

「船を随伴させ、その都度、空飛ぶ城と相互に物資を供給しあう計画も難しい」


 東の大陸へ行くため、空飛ぶ遺跡を欲していたリバーフロー国だったが、現実がブレーキをかけるかたちとなった。。


「まだ見ぬ世界……」


 重臣たちがいくつかの計画を諦めていた時、ネルソンは一人無関係な様子で物思いにふけっていた。


 ザルガラはネルソンを、遠い世界に思う人物と称した。

 彼女は決して、遠い異国の文化と人々に思いを馳せていたわけではない。

 皆無ではないだろうが、それよりも重要な要件があった。


 それは──


「アザナくんとヨーファイネちゃん。二人の部屋は個性的で良かった。アザナくんはあの狭い部屋。そして貴族にあるまじきプライベートすぎるあの部屋。半裸の男性の姿絵だらけ。どういう意図なのか、想像が捗る。小さく簡素なベッドでどうやって寝ているのか。着替えも見たことない服が多い。あの私服で出かけるのか思うと、興奮するな! たぎるな! はかどるな! あの部屋でどのような生活をしているかを思うと、たまらないものがある。ぐへへへ」


 覗きである。


 直接、人の様子を覗く性的指向はないが、他人の部屋を物色して、いろいろと懸想する癖があった。


 凛々しい顔を崩し、だらしない笑みでよだれを拭う。


 ザルガラは彼女を、「海の向こうに焦がれる女性」と称したがそれは間違いであった。


 彼女は他人の部屋を覗くことが好きなのだ。


 ザルガラは、またもすっかりさっぱりと忘れていた。

 この大陸は、変態が多いということを。


「こ……ここは最初の予定通り、航路の確定と測量、中継できる島の捜索に力をいれるべきだな」

「そ、そうだな。探索隊への予算を増やそう」

「お、おう。賞金も用意して隣国からも募ろう」


 重臣たちは見て見ぬふりをして、東へ意識を飛ばした。


「ヨーファイネちゃんの部屋は……まさか椅子の中に入れるようになっているとは。拘束されながら、愛しい人を抱き支えるとはなんという発想。しかし、ザルガラ殿はつまらない、常識的な部屋だったな。あれはいざとなるとつまらない男だな」


 幸い、彼女の魔の手……いや魔の目はザルガラに向けられていない。


 + + + + + + + + +


「……なにか、分かった?」


 大陸東端の国、リバーフロー出立から丸1日。

 アザナと共に空飛ぶ遺跡の胞体石コアを調べつつ、腹の具合と相談して、もうそろそろ夕食かな、と思っていたころ。

 飽きた様子のディータが、解析の捗り具合を尋ねてきた。

 

 現在、空飛ぶ遺跡は沿岸を眺めつつ、海上を飛んでいる。

 近隣に島など陸地がないため、通行許可を得やすい航路だ。


「ああ、コレね。コレはアレだ」

「ダンジョンがアレですね。それでコレが地域でアレしてるんですね」

「ああ、アレっぽいな。こう発生がアレな感じ。そんでコレがアレなんだな」


 コアから取り出した胞体の図形と、それらに刻まれた魔法陣のメモから目を離さず、作業をしながらオレとアザナは質問に答えた。


「……あれこれそれどれ。わからない」


 ディータがアレやらコレで話すな、と文句をつけてきた。

 だが、それも当然である。

 客観的に意味が分からない。


「ああ、悪い。昨日からアザナとかかりっきりだったか、ついアレとかで通じるんで、そのノリのままだった。進んでるよ、解析。結果もわかった」


「センパイ、ソレ、解析終わりました?」

「終わった。アレもこうしておいたから」

「ああ、あれの形成方法ですね。ありがとうございます」


 まだまだあれこれそれどれの会話を続けるオレとアザナ。


「あ、っと悪い。ディータ。つい、な」


 素直に謝るが、ディータの様子がおかしい?


「……ふんす、ふんす。続けて。そのツーカープレイ」


「? なんて?」


 ディータ=ゴーレムの鼻息が荒い。コイツ、なんで鼻息あるんだ?

 コイツ、この前、大浴場で沈んだままとかで遊んでたくらいなのに?

 おかげでこの前、間違って踏んだ。


 ゴーレム体とはいえ、王族を踏んだ叛意溢れる貴族はいないだろう……いや、この世界ならいるか。性的な意味で。


「ま、まあいいや。説明するよ」


 気を取り直し、ディータに向けて説明を開始する。

 

「この遺跡のダンジョンコア、付近の気候や風土、遺跡の能力、地域性とか魔物の分布に影響を受けて、最適な魔物を発現させる能力をもっているようだ」


「……地域性? 山のあたりなら山の魔物? 森のあたりなら森とか?」


「そうそう。つまりこれ、アレだ。不死鳥もどっかの地域性かなにかをコアが拾って、卵が発生したのかもな」


 フェニックスの卵はいつの間にかあった。

 実際にフェニックスが来て、産みつけて行った可能性もあるが、今回のコア解析で他の可能性も見つかったわけである。

 どこの地域で拾った特性なのか、ログが残っているかと探してみたが、今のところ見つかっていない。


「もちろんいくらでも限度なく、ってわけじゃなく、ある程度、内部の魔力プールの消費や魔具、資源の量で発現したりしなかったりするようだけど。あとアンデッドとか海中生息してるヤツとか、一部魔物は絶対出てこない。」


「下位のドラゴンあたりまで生成発現されることもあるようですが、かなりの魔力と物資が消費されるので、通常ではポップしないように、セーフティがかかっているようです。解除しますか?」


「なんでだよ。解除すんなよ」


 しれっと怖いことを言うアザナ。


 今回、発現したブラウニーですら、その能力の高さから結構な魔力が消費されている。

 この上、魔力と物資が消費されたら、空飛ぶ遺跡の維持に問題がでるかもしれない。


「ブラウニー発生の原因もわかって区切りもいいし、ここらでいったん休憩、ってことにするか」


 これ以上解析されても、アザナに手土産をリボン盛り盛りおまけつきで与えることになるので、休憩の名目でおしまいとする。


「じゃあ、ボクはお風呂入ってきますね」


 アザナが上着を脱いだ。


「なんでオレに手渡すんだよ」


 ひょいっと投げられたので、つい受け取ってしまった。

 ぺいっ、と投げ返……そうと思ったが、ちょうど控えていた使用人に手渡す──オマエ、名前なんだっけ?

 

「ところでオマエ、ここで入っていくの?」


 遺跡の中央区画は、遺跡の運行に割り当てられている以外の大部分が、オレかディータの私室となっている。

 あと狭いながらもアンの部屋。アイツ、もうこの遺跡になくてはならない人材と化しているので。


 街中の王都屋敷と比べればそれほど広くはないが、それでもちょっとしたお屋敷の離れほどの広さと質がある。


「だって、客室区画より、中央の区画のほうがいいお風呂なんだもん。お手伝いしたんですから、いいですよね?」


 足はすでに浴場へ向き、上着は脱いでタイを外しているアザナ。


「お、おう。勝手にしな」


 ここであーだこーだ言うと、なにか危険な気がするので入浴を認める。

 そっぽを向いたら、ディータが近寄ってきてささやく。


「……ザル様、ザル様」

「なんだ? ディータ」


「……裸の付き合い。行って。ほら。一緒に。行って」


 姫様、命令系かよ。


「いつも裸のオマエに言われても、あんまりピンとこないな」


 ディータ姫殿下は、今日も絹のゴントレットとガーターストッキングだけである。

 解析中、タルピーはエト・インと一緒に遊びに行ってしまったため、炎のドレスがないからだ。

 オレは解析に注力してたので、ディータに服を着せるのを忘れていた。


 なんだかんだ、あの全裸……イシャンは「今だ!」という時に脱ぐタイプなんで、何事もなければ8割くらいの確率で服を着ている姿が見られる。

 一度脱ぐと、しばらく着ないが。

 あと脱ぐ瞬間が、もっとも魔力が高くなるとかなんとか──。


 比較的セーフなゴーレム体の裸体と、確実にアウトだが普段は服を着ているイシャン。

 どっちも厄介だ。


「と、とにかくオレは腹が減ってるんだ。まず夕食っ!」


 オレはまず腹ごしらえだ、と広間を後にしようと立ち上がった。


 決して、アザナと風呂に入るのに抵抗があったわけじゃない。


 と、その時。


 視界が、広間の床が、大地が……いや、この空飛ぶ遺跡が傾いた。

  


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― 新着の感想 ―
[一言] >この大陸は、変態が多いということを もう全員変態ってことにしましょうw
[一言] > しかし、ザルガラ殿はつまらない、常識的な部屋だったな。あれはいざとなるとつまらない男だな 本人が聞いたら喜びそうだなぁ……。
2022/06/17 23:35 退会済み
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