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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第12章 錯覚の巨人

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チェンジ・ザ・ワールド


 空中遺跡にブラウニーという妖精が発生した翌日。

 オレはティエとタルピー、それに高次元体状態のディータだけ連れて、中層部外縁に設けられた街……のような場所に足を運んだ。

 

 探索する冒険者たちが、遺跡を解放するまで快適に過ごせるようにと、遺跡管理局がそれらしく作った冒険者用の街である。


 元は官営の宿屋や商店が並び、酒場や浴場など娯楽の施設が並んでいた。

 今は宿などは兵舎や使用人の仮住まいとなり、酒場などはそのまま流用されている。


 商店は最初からベデラツィが主体で半官半民として配し、現在は生活用品を扱う雇われの小商人が常駐している。


 それらが空中を飛ぶ遺跡のなだらかな斜面の外縁部に、張り付くようにずらずらと細長く立ち並ぶ光景はなかなかの絶景だ。


「見た目は異質で特異だが、実質的な活動は……大貴族の屋敷内にある使用人の住まいってこんな感じなのかな。いや、家族住まいはいないから、やっぱ違うか」


 今回の外遊で乗り込んだ者たちは、ほとんどが外務政務と遺跡運用の実動隊と、それらの使用人のバックアップ隊……まあ、つまりこれも実動隊だ。

 あとはベデラツィ商会と伝手のある商会の関係者だ。

 商会だと家族経営などで、親子で来ているなどあるが、それでも子の方がいい歳の大人だ。

 それ以外の者たちの家族はいない。


 外遊の仕事で乗る下級官吏と、遺跡の維持管理の人員たちで、賑わう……ほどではないが、人々が行きかう中、通りをずんずんと突き進む。


 遺跡の修復職人に道を譲られ、オレの前は見通しがいい。


『……私は初めて。ザル様、きたことなかった?』

「書類では知っていたが、足を運んだのは初めてだ」


 並ぶ商店と人の流れを見つつ、たまにはこういうのもいいもんだ、と晴れ晴れとした気持ちになった。


「アタイはよく来てるよ!」

「オマエは自由だなぁ」


 オレの肩の上で、商店の者へ親しげに手を振るタルピー。


 敷地内にあたる遺跡内はタルピーの庭みたいなものだ。

 たまに見えなくなると、エト・インと共に空中遺跡のどこかで遊んでいる。

 

 そうして外縁部を長くカーブするこの通りの中ほどに差し掛かる。

 食堂や酒場が並ぶエリアだ。

 この中の一つ、アザナと取り巻きが入り浸っている甘味屋があるという。


『……ザル様、ここ。ここじゃない?』


 久々に高次元体となり、同行していたディータが目的の甘味屋を見つけた。


「甘味処『腹の空きは別件次第』……ここか。なんだ、この店舗名」


 空飛ぶ遺跡の外縁部に、張り出すように突き出た足場。そこへ細長く作られた店舗だ。

 真下には遺跡を支える下層部の大きくどっしりした基部があるので、崩れるとかそういうはない。

 だが、周囲に囲いなど視界を遮るものがないため、空中店舗といった様相である。


 爽快感、恐怖感、解放感、転落感、これらの絶景が売りの甘味屋だ。


 ま、この店舗だけでなく、ほかにもこうした張り出し基部に店舗や宿を作っているところもあるんで、特別ここだけの絶景ってわけでもない。

 上空特有の風も、遺跡を包む薄い防御胞体陣のおかげでここまでは届かない。

 だが、びゅーびゅーという音は伝わってくる。

 これをうるさいと取るか、怖いと取るか、爽快と取るかは各々次第だ。


 空きっぱなしの入口に顔を突っ込み、空席の目立つ店中を伺う。


「おう、アザナ。いるかー?」


「いませんよー」


 空が広く見える端の大きなテーブルに着いていたアザナが、最近身長の伸び始めたヴァリエの後ろに隠れながら返事?をした。


「おう、そうか。じゃあ、偽者だな」


 間髪入れず、オレの眼前・・からごく自然に魔力弾が放たれた。


 遅れて立方体陣が現れ、ヴァリエの後ろに隠れるアザナを狙うよう魔力弾の軌道が変わる。


「危ないないなぁ。当たったらどうするんですか?」

 

 身構えるヴァリエを迂回した魔力弾を、なんなくアザナは軽く触れて消し去った。

 当然の結果を眺めつつ、オレはアザナたちの席に歩み寄る。


「何すんのよ!」

「最近、慣れてきましたわ、これ」


 アリアンマリが文句をつけ、ユスティティアが呆れかえっている。フモセは愛想笑い、ヴァリエは穏やかな表情だが、オレを睨んでくる。


「でもさ、これが当たったら偽者だから……偽者だから……偽者……?。偽物だったらどうしよう? え? どうする、オレ? どうする、なあアザナ」


 適当に偽物とか言ったが、それを想定してなかったので、対処とか心構えがわからず戸惑うオレ。


「いきなり不安そうな顔にならないでください」


 わなわなとするオレの手をぺしゃりと叩き、隣の席に座らせる。

 むっ、とする顔を露骨に見せるアリアンマリ。 


「で、なんのようですか?」


「あ、そうだった。ちょっと、手伝ってもらいたいことがあるんだ」


 簡単に要件を伝えると、アザナは即座に協力を望んで申し出た。


 + + + + + + + + +


「これが空中遺跡のコア? まるでプラネタリウムみたいな部屋だぁ」


 目を輝かせ、アザナが空中遺跡のコアである胞体石を見上げていた。


 ここは空中遺跡のいくつかあるうちの中心部、コアの台座が設置された重要施設である。


 薄暗いドーム状の部屋の中、光の柱に包まれた人の頭ほどある胞体石コアが、くるくるとゆっくり回っている。

 ドーム内には、ゆっくり回るコアから乱反射して飛び出した魔法陣が投影されていた。


 文句をいいながらついてきたアリアンマリですら、他の取り巻きとともに、うっとりと投影陣を眺めている。

 ヴァリエが「二人っきりでこれたらいいのに……」とつぶやきながら、邪魔なヤツだという冷たい目でオレを見る。


 だが無視。

 

「これは遺跡のダンジョンシステムの方な。空中遺跡としてのコアは別にある。あと、本物のコアは解放(エルレーゼン)時に取り外して、そのまま王家に譲り渡したからから、これは現代の技術で再現したコアのコピーだな」


「で、ブラウニーがここで構成された仕組みが、この中にあるってことですね」

「そういうこった」

「それをセンパイが調べると?」

「そういうこった」

「ボクはそれを後ろから見学する役ですね?」

「喜んで手伝います、って言ったよねぇ? オマエさぁ」


 その為にわざわざ遺跡の中核部に招いたんだ。

 手伝うから、中心部に入れてくださいって言っただろ?

 働いてほしい。


 だが、アザナは調子にノッていた。


「膝をついて、どうか手伝ってくださいって言ってくれれば手伝ってあげますよ。ふふーん」


 面倒くさいヤツだな、アザナ。


「なんだぁ? なら頼まねぇよ」


「面倒くさい人ですね、センパイ」


 オレが思っていたことを、そのまま言い返された。


「仲がいいですねぇ」


「はあ? なに言ってんの? アザナくんと誰が?」

 

 待機中のヴァリエがつぶやき、アリアンマリが反発している。


「で、なにを手伝えばいいんですか」


「コイツ、ノルマ達成みたいな顔しやがって」

 

 アザナが態度を豹変させたのでツッコミたいが、また面倒になるのでこのままやっていく。


「オレは観測するから、胞体石を起動させるのやってくれ。オマエ、人に合わせるの得意だろ?」


 今まで何度か、オレのフォローや魔法の増幅にアザナは合わせてくれた。

 天才というものは、そんなことも容易いのだろう。

 それをアテにしている。

 しかし、アザナは少し首を傾げた。


「うーん。どちらかと言えば、センパイの術式に同期させるときに波長が合う、かな?」


 誰でも合わせるのが得意、というわけではないようだ。


「胞体石に魔力を送って、二人で魔法使うんですか?」


「いや、起動と維持だけしてくれればいい。胞体石をコアの容器に入れるから……」


「ちょっと待ってください」


 ポーチから胞体石を取り出そうとしたら、アザナが真剣な顔で手をかざした。


「コアを保存してあるこの容器内って、光が満ちてますよね? 胞体石、入れて発動できるんですか?」


 胞体陣も立方体陣も平面陣も、その中に描かれた魔法陣も、投影陣とは大ざっぱに言えば光だ。光で描いた図形である。


 光が満ちたところでは、投影された光は満ちた光にかき消され、図形も胞体もなにもない。

 

 胞体石の内部の図形とて同様だ。

 光に飲み込まれ、立方体も胞体もなにもない。


 例外として、専用に作られたコアだけは違う。

 満ちた光の柱内部の光もまた、コア専用に照射されている。


 簡単にいえば、この光の柱の中では、専用に作られた胞体石(コピー可)以外は発動しない。


「起動中のコアは、光に包まれてて外界からの光の影響を受けませんね。つまり光学的には観測できないし、観測するための胞体石を組み込んだ魔具も使えない」

 

 胞体石は魔具の核であると同時に、スイッチだ。

 最低一つは胞体石部分が見えないと起動もできないので、一部を露出させるとか透明なパーツ内に組み込む必要がある。


「そこで試作したこれなんだが」


 オレはポーチから、試作品を取り出した。


「なんですか、その真っ黒い球?」

「ジェット、ですわね?」


 ヴァリエが首を傾げ、ユスティティアが見抜く。


「さすがアイデアルカット公の娘さん。拝領先の特産品、亜炭と一緒にとれる奇石のジェットだ。これに胞体を刻んだ」


 ジェットを掲げて説明すると、アザナと取り巻き4人、ティエもディータも沈黙した。

 タルピーだけが踊っている。


「は? 光が届かない範囲に……投影できないところに刻んだ? どういうことですか?」


 沈黙から一転。

 目にも止まらぬ速さで、アザナがオレの手のひらから、ジェットの胞体石をかっさらった。


「胞体石って……レーザー彫刻みたいなものだから、ある程度、透明性があればできますが……これは完全に不透明ですよね? ガンマ線とか電磁波で刻むとしても……いや、図形自体は内部に描けたとしても、魔法はそれとは別に魔法としての情報が必要で……それはどこへ行くんですか?」


「いや、内部そのものに図形は描けてないぞ」

「は? それでどうやって胞体石になるんですか? 胞体のない胞体石?」


 アザナが分からない、と目をむいた。


「うーん。なんていうかなぁ……」


 オレもうまく説明できる自信がない。

 コアから投影される天井の付近の胞体を眺めながら、言葉を手繰り寄せるように説明する。


「こう、投影するときにパワー全開で胞体もジェットも崩れないようにツッコんでやるとな。なんかこう……投影した胞体が潰れる感じで、ぶわーとにじむように表面全体へ広がってな。光はジェット内にたぶん魔石と同じで魔力として蓄えられるんだが」


「……はあ。魔石は不透明な石に余剰魔力が染みこむようなものですから、ジェットでも同じことはおきるでしょうが……ん?」


 珍しく理解できないという顔をしたアザナだが、次の瞬間、とても険しい顔つきに変わる。とてもかわいい。


「真っ黒な表面で光が……圧縮? で、光が満ちたところに投げ込むと、光を吸収して周囲だけ真っ暗闇にしてジェットを中心に、表面に広がった胞体を投影してくれるんだ」


 険しい顔をしていたアザナが、腕を拱き顎に手を添え、目を彷徨わせて震え始める。

 ブツブツとつぶやきながら、その場で歩き周り、やがて半径が小さくなっていきくるくると回りだす。

 なにこれ、可愛い。


「光を圧縮ぅ? そんなのできるわけ……できるのはブラックホールとか、ものすごい重力くらい……あ、もしかして情報の圧縮かな? いや光が魔力として内部に吸収されて……この世界では、魔力を帯びた投影陣の光は余剰魔力として、石の内部に……だからエントロピーの消失はないけど……情報は? 表面で情報だけ二次元化? ……それが三次元、四次元に再度投影される……って、これ! ホログラフィック原理ぃっ!」


 ジェットを握りしめ、アザナが形相で振り返る。

 オレの顔をまじまじと眺めたあと、ため息とも悲鳴ともわからない声を発して頭を抱えた。


「ああっ! これだから本物の天才は! わけわかんないこと理屈抜きでやっちゃう!」


「は? 天才はオマエなんだが? 実際、オレがいまいちわかってないことを、オマエは理解してるっぽい──」


「ボクはみんながまだ知らないことを知ってるだけです!」

「それを別理論でも反映できて実用できるんだろ?」


「センパイみたいな才能と感覚だけで、ゲームチェンジャー……いえ、ガチチェンジ・ザ・ワールドできるのと比べたら、ボクなんて器用なだけです!」


 アザナがオレを賞賛しながらキレかかってる。

 目が輝いているので、怒っているフリにも見える。


 だが、アザナのこの剣幕。

 ただごとではないと感じられた。


 まだ実感できないが、アザナの驚きは本物だとわかった。

 理解はできないが、いよいよオレも事態を肌で感じ始める。


「世界を変える……? あれ? オレ、なんかやっちゃいました?」


「やっちゃってますよ!」


 地団駄踏むアザナを見て、あははーおもしろかわいいなー、なんて思ってるオレは、やっぱりまだ事態がわかってないんだと思った。

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― 新着の感想 ―
[一言] アザナは転生者ゆえの、別世界の知識を活かした秀才。 ザルガラは感覚派の天才。 って事ですかね?
[良い点] 知識チートと現地の天才って関係がはっきりして面白かったです。 [一言] 甘い物は別腹 の翻訳に失敗した…?
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