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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第12章 錯覚の巨人

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ひな鳥たちの羽休め

章タイトル変えました


 エイクレイデル王国の高級官僚であるシード・ジーナスロータスは、貴族の血を引くが爵位を持たない。


 王家に使え官職こそあるが、領地も禄もないため、仕事をしないと生きていけない。

 しかし逆をいえば、仕事が立派にできるからこそ生きていけると言える。


 それが彼のプライドに繋がっている。


 ジーナスロータスは若いころには外勤で各地を回り10年も実績を重ね、王城でも同じく10年勤め上げた。

 その彼は今、ディータ姫付きの第一等級官吏として抜擢された。


 王城からの派遣組であり、形の上ではザルガラの下についているが、周囲は誰もそのように思っていない。


「サード卿。翌日の会合で殿下との同席はご遠慮願いたい」


 そのジーナスロータスは名目上の上司であるザルガラに、不遜な態度で告げた。

 いくら空飛ぶ遺跡の管理者であって、ディータ・ゴーレムの維持に彼が必要だとしても、齢14の下につくことは、ジーナスロータスのプライドが許さなかった。


「っ! ……なんだと!」

 

 かつては怪物などと言われ、あいまいな実績で今は当代の英雄などと呼ばれる少年が目をむきだしにして反応した。

 

 官吏の間でツーフォルド侯爵の弟子などと言われているが、感情をあらわにするなどまだ小僧だな。と、ジーナスロータスは鼻で笑う。

 その態度に気が付いたのか、ザルガラは牙のような犬歯を見せて苛立ちを露わにする。


「そう感情を剥き出しにしないでください。それではなおさら殿下のお隣に、とても相応しいとは言えなくなります」


「なに? ……そうか。今、感情あらわにしてたか、オレ?」


 落ち込むようにうつむくザルガラを見て、まだまだ子供じゃないかとジーナスロータスは思う。

 同時に、伝え聞くよりは素直な様子を見て、少し言い過ぎたかと思う。


「と、とにかく会合ではより詰めるので、我々にお任せください」


「ああ、わかった……」


 言いたいことを言えない。そんなような微妙な態度をしつつ立ち去るザルガラの背中を見て、ジーナスロータスは溜飲が下がった。

 素直に引き下がったザルガラに背を向け、ジーナスロータスはディータの元へ向かった。


 ディータは控室というには豪奢の部屋で、静かに待っていた。

 許可を得て入室したジーナスロータスは、資料を手渡しながら、ザルガラが次の会合では同席しないことを伝えた。


「……ザル様は? 同席しないの?」


「殿下。サード卿はご自分をよく、理解しておりますよ」


「……あなたが?」


 あなたがザルガラに出るなと言ったのか?

 そう尋ねられたと判断したジーナスロータスは、憚ることなる答える。


「快く納得してくださいましたよ」


 不興を買うことを覚悟で、ジーナスロータスは行動に出ていた。

 

 仮に不興を買うならば、自分では殿下に取り入れられないだけどのこと。

 栄達より自身のプライドを優先するところが、ジーナスロータスにはあった。

 それに完全な博打というわけではない。

 数多くいる官吏の中から、ディータは第一階級官吏として、ジーナスロータスを選んだ。

 それに姫も一時の感情で、この会合で官吏を遠ざけるようなことはしないという確信が彼にはあった。


「……そう。それは私が心配じゃない。ってこと」


「そのようで」


 賭けに勝った。

 不興を買うどころか、ザルガラに不満が向けられている!


 そう思うジーナスロータスだが、その判断は少しばかりズレていた。


 不興を買うもなにも、ディータはあまりジーナスロータスを気にかけていない。

 能力を高く買っているのは確かだが、今回の外遊の第一階級官吏に選んだは彼が危険性が低く王城内での力関係の問題で彼が無難だからだ。

 

 なによりディータ姫は、ザルガラのひねくれ具合をよく理解している。

 もとよりザルガラは「パーティならともかく会合には出たくないな」と、常々言っていた。

 むしろジーナスロータスが背中を押した、いや太鼓判を与えたといってよい。


 ことのほか――ディータは彼女・・を選んだことに、機嫌を悪くしていたに過ぎなかった。


  + + + + + + + + +


「良かったんですか? センパイ」


 ガルナッチャ国が用意した、でっかいゲストハウスのでっかい庭で、駐機中のハイトクライマーをチェックしていたらアザナがそんなことを聞いてきた。

 オレの目の前には、空飛ぶ遺跡と地上を繋ぐためのハイトクライマー。隣にはアザナとその向こうに取り巻きたち。

 ティエが飲み物を用意して、久しぶりに一息つけたという気分だ。


 ここ数日、ガルナッチャの歓迎パーティや式典で疲れたからな。


「そりゃあ、あの役人の態度は頭に来たよ。でも参加しなくていいっていわれて、ラッキーこれ幸いしめしめだったしな。任せろってんだから、任せるよ」


「ふん。まるであいつみたいな丸投げだな!」


 ハイトクライマーの整備担当に連れてきたワイルデューが、しかめっ面でハイトクライマーの制御盤の数値を調べながら言った。

 ドワーフってどうして聞こえるように大声で、気になる言い方をするかなぁ。

 窓ガラスの向こう側にいるっていうのに、丸聞こえだ。

 別にそういうの嫌いじゃないけどな。


「テューキーか? ああ、あのなんでも丸投げはマネできねぇけどな。怖いから。でももとから出たくないのはマジだし、ほんと幸い」


「幸い、だったのですか?」


 アザナを手伝うため、ハイトクライマーのチェックを手伝うユスティティアが、不思議そうな顔で手を止めた。


「自慢になるけどさ。オレ、政治は理解かるけど、政治は出来ないぞ」


「自慢? 自慢……かなぁ?」


 同じくアザナを手伝うため、ハイトクライマーのチェックをしていたアリアンマリが首を捻る。

 オレの歳で解るだけでも自慢だと思うんだけどな。中身、見た目どおりじゃないし。


「ところでアザナ。買い付けのほうはいいのか?」


「え? はい、まだいいです」


「そうか? 時間あるんだから、ツレ連れて買いにいってもいいんだぞ。ハイトクライマーのチェックなんて手間じゃないし」

「手間じゃわい」

「小豆はもうちょっと東にいった方が安いんです。それに紹介状は遺跡の置いてきちゃってるし」


 このアザナは欲をかいている。そういう目だ。

 コイツ、金のことになると、どうして失敗しそうな欲を出すんだろ?

 ワイルデューの愚痴はスルー。


「買えるうちに買っておけよ。買えなくなったらどうすんだ? ハイトクライマーだって2機しかないんだぞ。現地でもう時間がないとかなっても、小豆を載せて運んでやらないからな」


 空飛ぶ遺跡は着陸なんてものが出来ないので、乗り降りは自力で飛ぶか何か乗り物に乗るほかない。

 警備と護衛のためにワイバーンが多数いるが、他国においてこれで地上に降りるのは武威が強すぎる。


 自分で飛ぶことができる者や、自由落下を遅くする程度の魔法なら使える者もいるが、これでは手荷物くらいしか持てない。

 あと後者では帰れない。


 仕方なく、王都で使われているハイトクライマーを二機、借りてきた。


 このハイトクライマーは遺跡の小型魔力プール──小型といっても、ちょっとした庭付きのお屋敷みたいなデカさだが──から、魔力の供給を受けて可動するように改造されている。

 活動範囲が王都で運用されているそれとは格段に狭いため、ほとんど空中遺跡から地上までの移動にしか利用できない。


「運ぶのは……その時はなんとかします! メイビー!」

「そういえば、なんとかしちゃうね、キミ!」


 こうしていろいろとおしゃべりしているうちに、ハイトクライマーのチェックも終わった。


「さて、問題もなかったことだし、一回戻るか。タルピーも心配だしな」


「結局、どこにいたんですか? タルピーさん」


「ああ、式典でいないからどこにいるのかと思って探したら、アイツ、遺跡の最頂点に居やがった。なんか鳥の卵みつけて親鳥がいないから自分が温める、って言い出しやがってな。まだそこにいる……いや、もういいのか?」


 念話は伝わらないが、タルピーが地上に降りて近づいてくる感覚がよぎった。

 どうやって降りてきたのか? と、遺跡を見上げてみたら、太陽が二つあるかのような眩しさに目がくらむ。

 改め手をかざしてタルピーを見上げると、そこでは輝く炎が羽ばたいていた!


『ザルガラさま~。ヒナ、うまれたよ』


不死鳥フェニックスじゃねぇかっ!」


 タルピーは、生まれたばかりのフェニックスに乗って、ガルナッチャの首都へと舞い降りた――。


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― 新着の感想 ―
次々と厄介事が突撃してくるザル様に幸あれ
[一言] これは螢遊魔なのかそれとも古来種のデザインモンスターなのか? タルピーとは相性良さそうですね
[一言] この作品は、真面目な人間ほど空回りしますよねw
感想一覧
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