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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第12章 錯覚の巨人

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訪問地ガルナッチャ国


 東方諸国連合国は、その名の通り複数の国が連合している体制である。

 かつて帝国が大陸の中央で覇を唱えていた時代。

 その脅威に対抗するため、大陸を隔てる山脈以東の20の小国が連合共同宣言を行った経緯がある。


 だが帝国が崩壊し、王国が中心を纏めてあげ、南方は緩く統治され、西は共和国が建国された今、連合国は形骸化し変質していた。


 なにしろ東進しない王国とは良好な関係で、なおかつ中央と東を隔てる大山脈と大森林がある。

 連合各国は王国に、あまり脅威を感じていないのだ。


 形骸化甚だしいそんな連合だが、代表が集まる機会は依然として存在する。


 エイクレイデル王国から、初めてディータ姫が連合各国を巡幸するにあたり、代表が集まることになっていたのだが──。


「半分、遅刻かよ!」


 ディータ姫最初の訪問地であるガルナッチャ国のアッシェンフェルター代表が、空席の目立つ円卓を叩いて怒鳴った。

 後ろに控える護衛の女も、この状況に驚くより呆れていた。


 怒鳴るアッシェンフェルター代表に、他国の代表が宥めるよう努めて優しい声をかける。


「アッシェンフェルター殿、お気持ちはわかります。彼らからは一応、連絡は受けている。東の巨人が動き出す懸念があるから、その備えといっているが」

「またか。地震があるたび、彼らはそれをいうが、この5百年。なにもないだろうに」


 他国の代表たちの手前、アッシェンフェルターは憤りを収めて椅子に座りなおした。

 小声で文句を言い唸りながらも、状況を考える。


 東端の岬には、岩と化した巨人たちが眠っているという伝説がある。

 僻地におり、眠りが長いこともあって、その巨人たちは古来種の支配を受けておらず、目覚めれば危険とされている。


 だが、目覚めた記録は大昔。活動時間は7日間。そのスパンも千年単位だ。

 7日間で各国に甚大な被害を与えたとはいえ、現在、危険視するものは少ない。


「巨人の脅威は遠いとはいえ、言い訳されてはこちらも強くは言えない」

「実際、目覚めたならば目を覆わんばかりのことになるだろうしな」

 

 納得は出来ないが、表立って非難はできないと各国代表は頭を悩ませる。


「彼らは足並みをそろえる気がないのだろう」


 代表の誰かがつぶやくと、その通りだな。という同意の沈黙が会場に広がった。

 しばらくの沈黙の後、短いため息に続きアッシェンフェルター代表が口を開く。


「一番最初にディータ殿下が到着するのはわが国、ガルナッチャだ。足並みがそろってない状況で、まず様子見をされるのは誰だと思う?」


「当然、君の国だな。貴国に足並みも揃えるつもりの我々も、様子見されるのは同様だが……。ここにいない各国は歓迎の規模に合わせてくるだろう」


「そうだ。豪奢にやり過ぎれば、ガルナッチャ国が先走って足並みを乱したと言うだろう。そして控えめにすれば、後からディータ姫が訪れる東の諸国は、我々の歓迎がみすぼらしいと言わんばかりに、派手な歓待するだろう」


「ここにお集まりの各国は、連合宣言にならう赤心の執政者です。靦然てんぜん目に余る横風おうふうを吹かす愚物の徒が弄する策は無視すればいいでしょう。今回において大切なのは我々ではなく、顕揚けんような来遊者であるディータ姫殿下です」


 アッシェンフェルター代表の護衛として控える女性。サラブランシュが代表たちの会話に口を挟む。

 護衛という立場ではあるが、ガルナッチャでも歴史ある貴族であり、役人としての顔を持つ彼女は議題によっては一定の発言権を持つ。


「今回、我々が泥を被ろうと、主賓が被らなければ成功、ということか?」


 他国の代表がアッシェンフェルター代表の様子を伺いながら、サラブランシュに意図を尋ねる。


「はい。むしろ現状を知っていただけることかと。それにディータ姫殿下がそのような足並みを揃えない他諸国の里俗をむき出しにした妄言や驕傲きょうごう露わな式典などを、真に受けることなどないでしょう。万が一、真にうけるならば、そのようなお方。加えて控えるを量ることにもなるでしょう」


 サラブランシュは大げさで、難しい言葉を使う悪癖があった。

 しかし、言われてみればと代表たちの顔色も変わる。

 連合内で後塵を被っても、エイクレイデル王国の覚えが良ければむしろよいのでは?

 そう考えるものが出てきた。


「控える彼か……。高次元化し、去るはずだったディータ姫殿下を、この地上につなぎとめたという……。たしかサード卿、ザルガラ・ポリヘドラと言ったか?」


「まだ15にもみたいない少年ですが、活躍華々しいと聞きますな」


 近年、王国で起こる大事件の解決に、大きく寄与しているザルガラの名は、高い山脈と深いエルフの森を越えて、遠く東方の連合各国に伝わっていた。


「たしか、あのトゥーフォルド・スクエアード侯の弟子……。という噂もある彼だな?」


 ある国の代表が自国の得ている情報が正しいのか、探るようにつぶやき周囲の反応を見る。


「そのようだな」

「やはりそうでしたか」


 自国の得た情報が、他国と同じなようで安堵する代表。


 だがそれは、勝手にザルガラがスクエアード候を師匠と呼んでいるだけである。

 

 だが遠い地の情報を、そこまで得ているだけでも十分なのだ。

 まさかザルガラがそこまで変わり者と把握するなど、どだい無理である。


「ディータ姫殿下とサード卿の人柄に、先んじて触れられる。足並みを乱される以上の実りを、得れるならばよいか?」


 この会議に居合わせない各国に先行して情報を得られる有利さと、ディータ姫への対応を先んじられる幸運で、ガルナッチャの代表アッシェンフェルターは溜飲を下げた。


   *   *   *

 


「初の空から訪問だっていうのに、整った歓迎だな」


 オレたちは空中遺跡の舳先に当たる広場に立ち、ディータと共にガルナッチャ国の出迎えを受けた。

 ディータは前列であんこ食う騎士団と官僚共に立ち、陪賓にあたらず同行者となるオレやその他は中列以降に並んでいる。


「見事な編隊だ。飛龍と違って滑空が苦手なヒポグリフであの隊列の維持は、私としても見習いたい」

 

 オレの右隣に立つイシャンが、迫るガルナッチャのヒポグリフ隊を見て呟いた。


「ほう。なるほど、そういうもんかぁ」


 ヒポグリフとは、ワシの姿をした前半身をした魔物で、空こそ飛べるが後ろ半身が馬というアンバランスな体形をしている。

 後ろ半身が馬ということもあり、ワイバーンやグリフォンより騎乗しやすい。

 しかし、飛行能力となるとやや落ちる。


 ヒポグリフは失速しやすくバタバタと、上下にブレて飛ぶ傾向がある。

 それがああして整然と、静道が心地よい飛び方で飛んでくる。


 イシャンの言う通り、ガルナッチャのあのヒポグリフ隊は精鋭なのだろう。

 ところで全裸じゃないとはいえ、イシャンが俺の右隣にいると副官ぽいな。ほんと全裸じゃなくてよかった。

 式典ではちゃんと服を着るから助かる。


 終わると困ったことに一瞬で脱ぐだろうけど。


 ちなみに左隣は武装したティエだ。

 数合わせと言ってはティエに悪いが、オレには直属の武官が少なすぎるため、今回の表敬では侍女より騎士として務めてもらう。


「うむ、そういうものだ。それにしても……変わった隊列だな。どういう意図があるのか?」


 魔獣、特に空飛ぶ魔獣に詳しいイシャンが、ガルナッチャのヒポグリフを観察して首を捻る。


「ああいった縦に並ぶ習性はヒポグリフにはないものだし、かといって繊細な上昇下降が苦手な魔獣で上下に編隊を組むのは危険なだけで、戦術的には意味がなさそうだし……」


 イシャンが唸る。

 野性的にも、軍行動としても、ヒポグリフの隊列に前例がないという。 

 

「ただ難度が高いだけで、儀礼的な意図も聞いたことがない。攻撃的な隊列ではないとはわかるが、何か意味があるのだろうか?」

「そういうのはオレ、わかんないけど。イシャン先輩、気になるなら、後で隊伍について聞けるように場を設けて貰うよ」

「それはいい。ぜひとも」

 

 軽く提案すると、イシャンが喜ぶ。

 その横顔を見て、この全裸を国外で空中遺跡の外に出すはマズかったかなと悩んだ。


 後で聞いた話だが、ヒポグリフの編隊は艦船の出迎えを空に応用したモノらしい。

 空飛ぶ遺跡での訪問は初めての試みなので、あちらも手探りだったようだ。


 航行する空中遺跡の進行方向に平行し、すれ違うようにヒポグリフの編隊が通過していく。

 ヒポグリフに騎乗する兵は、儀仗よりも実用的な杖を掲げている。

 少しづつ遠ざかる軌道を描きながら、全隊員で波形を描く杖を使った敬礼は、一糸乱れぬそれはそれは見事なものだ。


「花形の騎乗兵としては、なんだか不釣り合いな杖ですね? 儀仗というには普通……なんていうか……言ってはいけないのかもしれませんが、武器っぽくないような簡素な杖に見えます」


 オレの斜め後方。取り巻き4人と並んで立つアザナが、歓迎のヒポグリフ編隊を見てそんな反応をした。

 天才と呼ばれるアザナがどんなに魔法や計算や魔具の生産に優れていても、他国の儀礼にまでは詳しくない。興味がないのか、環境が悪かったのか。

 

 ただわずかな違和感や差異に気が付くのも才能だな。


「確かにただの杖っぽいな。でも儀仗として、質素で古いデザインの杖がこの国の象徴なんだ」

「杖が象徴ですか?」


「ガルナッチャ国は王国と連合を隔てる山脈の東斜面に面してるから、高山に適応した文化を持ってるんだ。国土の大半が山とか斜面でさ。整備された町でも階段と坂ばかりで、足にクるんだよ。だから杖が重要」


「足にクる? ああ、疲れたり膝ががくがくになるんですね。転ばぬ先の杖ってことか」


「その言い回し、いいな。そう、この国は杖を老若男女問わず杖を持っている。生まれて数か月で小さな儀式用のミニ杖を渡される行事があったり、杖が結婚式で必須だったり、あといろいろ、そんなわけで健脚なガルナッチャの人たちは、空を飛んでいても杖を手放さない」


「ふむ。全裸でもか」

「ちょっとイシャン殿は黙ってていただけますか?」

「ははは、じゃあ脱ぐか」

「なんでだよ」


 しゃべるなと言ったら脱ぐと言うイシャンを、胸をはだけたあたりで止める。

 そんなオレたちを見て、アザナが微笑んだ。


「人込みの中で、こうして雑談できる身分はいいですね」


 イシャンが胸を開けただけで満足してくれたので、定位置に戻ってアザナに答える。


「そうだな。オレたちはメインじゃないからな。ディータ姫や前列は大変だ」


「いくら上から見える環境とはいえ、前列は目立ちますからね」


 ディータも餡子食う騎士団もさすがの様子。無駄話すらしていな……。騎士団のやつら、ちょっと呼吸あらくないですかね?

 

「ところで杖なんですけど、ボクたちは持ってなくていいんですかね? ほら、ボクたちだけ持ってないのは浮きません?」


「なるほど。全裸の中、一人だけ服を着ているのは──」

「いや外国人が持ってないからって、変には見られないんじゃないかな? 逆に外国人が似合わない杖を持っていても、それがどうのってわけじゃないだろうし」


 イシャンの反応を無視して、アザナの疑問に答える。


「そうですか。ちょっと杖。買ってこないと」


 真後ろにいたイマリひょんが、オレたちの会話を聞いてそんなことを言い出す。

 そうか。イマリひょんが認識阻害して情報収集に出掛けても、ガルナッチャじゃ杖無しでは素性がバレかねない。

 ……あれ? コイツ、なんで並んでるんだ?

 いつ来た?


 ……まあいいか。

 

「とりあえず杖はワインと並んでガルナッチャの名産でもあるから、買って帰るなら杖もいいかもな。行程まだまだ長いし、保存を考えないといけないワインより土産向きだ。変わった杖から笑える杖まであるぞ」


「笑える?」

「実家にあったからな。笑えるんでよく覚えてる」


 そう答えると、アザナではなく取り巻きが反応した。


「それはそれでちょっとどういうものか見たいですわね……」

「え? マジで言ってるの?」

「たまに趣味悪いですよね、ティティア」


 実家にある笑える杖の話題に、公女であるユスティティアが食いついた。アリアンマリとヴァリエが半笑いで、ユスティティアの趣味に不理解を示した。

 フモセは目を細めて黙っている。


「な、なんでよ! あんた、たまに……し、失礼ね! ヴァリエ」 

 

 ユスティティアが顔を赤くし、扇で顔を隠してヴァリエたちに叱りつける。

 もっと言え。

 そいつら、オレにも残酷なほど冷たく失礼な時あるから。


 なんで笑ってんだよ、アリアンマリとヴァリエは!


「センパイ、センパイ! あれなんですか?」

「オマエの取り巻きが一触即発な時になんだよ! あ、あれか?」


 高い山脈の山肌に築かれたガルナッチャの街が見えてきた。その城壁を指さし、アザナがオレの肩に飛びついて聞いてくる。

 寒い空で冷えた身体が、アザナの体温を与えられ喜ぶ──。


「え、ええっと、ああ、あれが連合で有名な……。有名なぁ……。有名な……? ティエ、なんだっけ?」


 アザナが指さす城壁のソレは、異様に大きな口を開く大砲だ。砲弾が出るようには見えない。

 忘れてしまったので、控えるティエに尋ねる。


「はい。あれは対巨人大砲『エッグフライヤー』です」


「あー、そうだ。それだ。対巨人大砲エッグフライヤー」

 

「……ぐふっ」


 名称が分かってすっきりした俺の斜め後ろで、アザナが身体を折り口を押え肩を震わせる。

 ダメージを受けたように見えるアレは、アザナ特有の笑い方だ。最近、やっとわかってきた。

 なにか、笑うところあったか、今?

 

「かくいうオレも、本で読んだだけで名前は知ってたが、エッグフライヤーってどういう魔具なんだ、ティエ」


「名前は知ってた? ……忘れてましたよね?」


 ヴァリエがなんか言うが無視。


「東端の岬で岩となり眠る巨人対策で作られた魔法の大砲です。強力な光を収束させて巨人の目を焼くものとのことですが、実際に巨人に使われたことはないようです」


「ああ、古来種の支配から逃れた巨人か」

「使われたことはないんですか、ティエさん?」


「はい。数百年前、巨人が目を覚まし、連合各国が被害を受けたさいに開発されたのですが、完成して配備する前に巨人が再び岩に戻ったため、使用されずじまいとなったと聞いています。配備は進んでいるので、巨人相手には使われていないだけで、各国の小競り合いでは使用された記録が残ってます。まあ、あまり効果はないようですが」


 防御胞体陣は、選別しないと音や光を通してしまう。

 かといって無選別に遮断すれば、音も光も通らないで自分の耳目をふさいでしまう。


 まあ光は壁でも作れば防げるので、わかっていれば怖くないしな。

 知っているそこそこの魔法使いなら、防げてしまう。


「へえ……ちょっと貰って改造してみたいですね」

「出力上げて、岩をも溶かす光線兵器とかにするなよ」

「そんな! ボクがやりたいこと、すぐ理解できるなんて……好き」

「なんでだよ!」


 隊列を乱さないよう、後ろ蹴りを出すが届かない……。オレの足が短いわけじゃない。アザナが見事な足さばきで体をさげたからだ。


 などとジャレあいながら、ふと気が付く。


 タルピーのヤツ、どこにいるんだろう?

 高いところで踊ってると思ったのに、どこを見回しても見つからない。

 裏の方にでもいるんだろうか? 

 アンとエト・インと共に、遺跡内部で留守番しているんだろうか?


 列から抜け出すわけにもいかず、探せなかった。念話が届かないとなると、ちょっと離れたところにいるんだろうが……。



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[一言] 東方諸国連合国には要人を全裸で出迎えるって習慣がないんですか? なら根付かせないと!
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