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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
11~12までの間

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310/373

遊んで飛んで誘蛾灯 前編

長らくお待たせしました。

思いのほか短くまとまらず、大きな話になって長くなり前後編です。

次々回より本編です。


 薄暗い夕刻の狭小な街道に、50を超える武装した小鬼の群れ。


 相対するは年端もない少年と少女、そして僅か2人の護衛。


 『古来種はいつも数の味方』というが、ただ頭数が多ければよいモノではない。

 『古来種は数を使いこなす者の味方』というのが正しいだろう。


 無勢の少年は魔法学園の4回生ぺランドー。もう一人の少女はソフィであった。

 知らない者が見れば、ぺランドーは頼りない。


 だが見た目に反してぺランドーは強い。


 ぺランドーは強かった。肉体的にも、魔法の行使も、そして精神的にも強かった。


 闘い向きではないとはいえ、鍛冶仕事で体力もある。筋肉多めで固太りなので、大人に負けない程度に力もある。


 ソフィの不安をよそに、ぺランドーは堅実に小鬼の群れと戦い、そして勝利を掴みつつあった。

 モノゴーレムを2体ほど先行させ、狭小な地形を魔法で変化させ、さらに道を細くして足止めをし、小鬼を集めたところで魔法で一掃している。

 あっという間に、小鬼の数は半数となり、戦うことを躊躇し始めている。まもなく逃走するだろう。


 護衛も給料泥棒ではない。

 ぺランドーの援護を受けて3枚の三角防御陣をもらい、ソフィを守りつつ撃ちもらしを相手にして果敢に戦っていた。


「終わったよ、ソフィ」


「そう……ぺランドー! 見てたから、べ、別に心配してないけど! 怪我は?」


 護衛を押しのけ間から駆け出し、ソフィはぺランドーの背中や脇などを確認する。


「大丈夫、ないよ。被害は僕の靴が汚れたくらいかな。でも……、これってなんだったんだろう?」 


 ソフィに身体を心配されながら、ぺランドーは倒れるゴブリンたちを見やった。


 逃げ出した小鬼たちが戻ってこないか?

 退いたと思わせて、狙っている者がいないか?

 もしくは新たな襲撃者がいないか?


 それらを一通り確認してから、ぺランドーは警戒を解いた。


 敵がもういないと聞いて、ぺランドーの怪我の確認を終えて、ソフィはすっくと立ちあがる。


「護衛に役に立つんじゃないかと思って、アンタを連れてきたけど正解だったわね! ま……ご褒美として、今回のバカンス。アンタも楽しんで行ってもいいわよ。特別なんだから……って、報酬って意味よ」


「うん、そうさせてもらうよ」


 硬い態度のソフィに対し、ぺランドーは自然体だ。

 武器を収めた護衛の二人も緊張を解いた。そして雇い主が素直じゃないな、と困ったように顔を見合わせる。


 ソフィはぺランドーを誘って、風光明媚な山間にバカンスで訪れていた。

 清水があちこちから湧く水源地で、自然豊かな森と愛くるしい野生動物たちを観察できる名所である。


 馬車に乗り途中まできた一行だったが、今は徒歩で山を登っていた。襲撃で下した荷物を背負いなおし、またこの景色を楽しみながら目的地を目指す。


 やがて視界が開け、山の中腹にある谷合の村が見えてきた。

 

「うわぁ、おもちゃみたいな町だね」


 ぺランドーは山間の村をそう称した。

 おもちゃといってもバカにしているわけではない。 

 ソフィの持っている手の込んだ高級な模型と比べているのだ。

 目も心も楽しませるため、贅を凝らした質の高いおもちゃである。


「当然よ。この村を模して作った模型だもの。でも本物の方がすごいでしょ」


「うん、そうだね」

「でしょー」


 ぺランドーは少女の自慢を素直に受け取り、ソフィは満足して上機嫌だ。

 こういった素直さが、好かれる要素なのだろう。

 護衛の2人はそう納得しつつ、この素直さの何分の一かがソフィお嬢様にあれば、と頭を悩ませた。


 谷の村に下る道を進み、4人は外界と村を仕切る簡素な門をくぐった。


 一行が到着するなり、ソフィは村長の出迎えを受けた。

 宿泊先へは荷物を運ぶからと、村長邸宅へと招かれる。


「ようこそ、おいでくださいました。ソフィ様。ええっと、こちらの方はご同行でしょうか?」


 白髪のよい歳をした村長が、幼さの残る14歳のソフィに頭を下げて挨拶をする。 

 護衛以外の見慣れぬ少年の姿を見て、村長が確認を取る。 


「ええ、わたしの……護衛よ! 魔法学園でも特別クラスにいる子なんだから! でもわたしの友達なのよ!」

 

 護衛という前に、ソフィは一瞬だけ逡巡した様子があった。しかし、護衛ぺランドーの能力を、普通ではない、強いぞと自慢するかのような口ぶりを見せた。

 そしてぺランドーの横顔を伺ってから、慌てて友人であると付け加える。


「そうでございましたか。えー」

「ぺランドーです」

「ぺランドー殿ですか。ようこそ、おいでくださいました。では、ささこちらに。みなさま、お疲れでしょう。冷たいものとお食事を用意しております」


 護衛の二人は別室だ。護衛たちも当然な様子で、別室で休憩を取る。

 村長はソフィとぺランドーを、当然のように食堂へ案内した。


 小さな村の村長宅だが、観光地で貴賓を招くことを想定し、食堂は広く質素ながらよく整っていた。

 

 ソフィとぺランドーは違和感を覚えた。


 郷士とはいえ、こうも歓迎? される?


「実はせっかく来ていただいたのですが……」


 と、村長は申し訳なさそうに話を始めた。

 心苦しい様子の村長の説明は、観光地にとっては致命的な問題であった――


「蛍遊魔が連日現れる?」


 話を聞いて、ソフィは驚いた。腰を浮かせて立ち上がると、ぺランドーを見下ろした後に冷静になって座る。

 村長はソフィが席についてから話をつづけた。


「大きな被害はありませんが、このままですと……」

 

 今後の観光業に影響がでる……


 村や水源、主要街道は古来種の祝福で守られているため、襲われる心配はない。

 だが、風光明媚を売る観光名所のいくつかには、その祝福が施されていない。

 古来種のほとんどが人と乖離した性質を持ち、風景が綺麗だの心が落ち着く場所など気にかけないためだ。


 ソフィは巻き髪をイジリながら、ケーキを食べるぺランドーの横顔をちらりと見て、タイミングの悪い時に来てしまったとため息をついた。


「街士はいないのかしら? この村には2人くらいいたと、記憶してるけど?」


 80戸ほどの小さい村だが観光地である。

 名士や時には貴族もくるということもあり、快適にもてなすため街士の需要は大きい。そのため規模に似合わず2人の街士がこの村にいた。


 街士は魔法使いの中では、あまり戦闘向けな魔法を使えない。だが、補助や援護、回復などとなれば下手な魔法担当の兵士より優れている。

 むしろ指揮官おり兵役を終えた一般人に混ぜる場合においては、一騎駆けで強いという下手な騎士より、街士の方が有利という場合すらある。


「いるにはいるのですが、一人はその、妊娠中でして」

「あら、そうなの」


 村長の説明にソフィは仕方ないわね、と肩を落とした。

 

「じゃあもう一人は?」


「村の仕事はこなしてくれるのですが、荒事は特に無理なような男でして……それに」


 街士は前述のとおり後方援護向きである。

 有益であっても、性格的に戦闘が苦手という者もいるだろう。

 しかし村長の口ごもり方を見るに、そういった理由より、何かもっと大きな問題がありそうである。


「それに?」


「こう、ちょっと変わった人物でして……。今は何を言っても村から出ないと言ってまして」


「解任したほうがいいんじゃないの?」


 村長に権限はないが、ふもとにいる代官あたりに頼めば街士の解任は可能だ。


「後任がいませんので、今はちょっと……」


「そう。わたしも気分で言っただけなので、本気ではありませんわ」


 ソフィは村の大切で太い客ではあるが、村とは本来無関係である。強く言えない立場なので、聞いたらそう思えたということにした。

 

「ソフィ。僕は協力するつもりだけど?」

「え? どうしたらそんな話になるの? ぺランドー」


 現状を説明されただけなのに、ぺランドーは協力するなどと言い出した。

 頼まれてもいないのに、協力するとは安く見られる。


「別に螢遊魔の巣に突撃するってわけではないでしょ? せいぜい夜の警備に協力して欲しいってくらいで」


 協力の内容を決めつけるぺランドー。

 だが、図らずも善意とその決めつけは、村長を縛ることとなった。


 頼んでもいないうちに、要求の度合いを見切ったように思えるからだ。

 

「村の人に任せて寝てるくらいなら、僕が見張りに協力したほうが、ソフィも安心して寝れるでしょ」


「っ! ま、まあそれはそうだけど。あなた寝なくて大丈夫なの?」


「まだ日も沈んでないし、今からすぐ寝れば、交代で深夜の番くらいできるよ」


 日が浅いとはいえ冒険者もしているぺランドーは、多少不規則な生活でも対応できた。若さもあるが、不寝番や警戒のやり方をベテランから教わった経験が生きている。


 ソフィのため協力すると判明し、村長はまたも舌を巻いた。

 魔法による夜の見回りを頼みたかったが、ソフィを守ることに専念するとぺランドーは宣言してしまった。

 善意に見せかけた先手を打たれ、協力の要請が絞られる形だ。村長は一言も発することなく、すべてを決められたと唸る。


 実はあまり深く考えていないだけで、ぺランドーは自分のしたいことを言ってるだけだ。

 村への善意はない。


「で、ではお疲れかと思いますが、お言葉に甘えまして、宿泊とお食事など配慮いたしますので、ぺランドーさんには見張りの協力を……」


「うん、いいよ」


 村長は後だしで条件を出す。

 その条件も簡単に受けてしまい、村長とソフィは心配のあまり顔を見合わせた。

 

   *   *   *


 その日の夜、村のはずれに螢遊魔の集団が現れ、放牧地の羊小屋が襲われた。


 本来、ぺランドーは村の警備。しかもソフィの泊まる宿泊所を守るだけだった。しかし襲撃地の近くには、帰り道に通る吊り橋がある。

 吊り橋に被害があれば、日程に支障がでる。

 村としても損害が大きい。


 急遽、討伐隊が準備され、ぺランドーも同行して螢遊魔殲滅に向かった。


 結果から言えば、ぺランドーたちの大勝利であった。


「学生とはいえ……魔法学園に席を置くとなると、ここまで優れた魔法を使うか」


 早朝、村に凱旋した一行を率いる旧式の軍服を着る老齢の戦士が、ぺランドーの背を見ながら驚嘆の声を上げた。


 彼はとある貴族の元で従士をしていた。

 50を越した頃、主人が隠居したことを契機に引退した今は、風光明媚なこの観光地で余生を過ごしていたという。


 そんな従士経験のある彼が、村の若者たちを率いた。

 おっかなびっくりついてきた村の若者たちだったが、元従士の活躍……そして何よりぺランドーの魔法により、危なげない勝利を得た。


「あったり前でしょ。ぺランドーったらウチの鍛冶組の中にいる平民なのに、学園に入れるくらいなのよ! わかったかしら?」


 ぺランドーの前にでてソフィは鼻高々、胸張り張りで自慢する。

 彼女の顔は少し紅潮していた。

 それだけで彼女の心中を、この場にいた者すべてが悟る。


 ぺランドーを除いて。


 鼻高々なソフィを横目に、ぺランドーは村長に願い出る。


「ちょっとお願いが」


「なんでしょうか、ぺランドーさん」

 村長は上機嫌だ。笑顔でお願いに耳を傾ける。


「その研究肌の街士さんにあってみたいんです」


「お薦めしませんが……学園の生徒であるあなたが仰るのならば……」


 村長は難しい顔で、ぺランドーを街士へ紹介することを約束した。


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― 新着の感想 ―
[一言] ぺランドーとソフィーの婚前旅行ですね! ソフィーは勝負かけてると思いますw
[気になる点] 大量のインプに続き、大量の小鬼(コボルト?ゴブリン?) 意図されてなんだろうなー
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