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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第11章

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あんまり冴えてなかったやりかた

 

 その日、王都は黒く甘くなっていた。


 大量の砂糖と小豆とゼラチンが消費され、どちらの甘味が覇をとなえるのか? 

 勝者も結論もない争いが続いていた。


 そんな王都に飛来する大きな影があった。


 王都が開かれて以来、こんな巨大生物が飛来することなどなかった。

 異常事態でありながら、異常事態である王都の人々は、頭上のことより口の中に入る甘いモノに熱中していた。


 それが巨大生物……古竜の背に乗る王女の逆鱗に触れた。

 

「私が食べられないのに、あなたたちはその食べられないもので争う。ムカつく」


 臣民が食べ散らかすヨーカンを見て、心の底から腹を立てた。

 その声は夜の街に響き渡り、魔力プールを介して王都の各所に広がる。


 ザルガラが行方不明などの緊急時、王都に限り、高次元体を維持するため、魔力プールとバイパスが繋がる仕掛けがディータ=ゴーレムには施されていた。


 これをディータは悪用した。

 

 異様な魔力の振動……。

 ここでついに王都の人々は、飛来した巨大竜に気が付いた。


 熱をあげ、酔っていたかのようなつぶ派こし派たちも、さすがに食わせ合う暴動の手を止めた。

 正気を保っていた鎮圧にあたる巡回兵たちも、その巨大竜に圧倒される。


「なんだ、あの巨大なドラゴンは?」

「王都へ侵入されたのか!」

「軍隊はなにをしていたんだ!」


 軍隊の大部分がこしあんか、つぶあんか、などと争っていた。

 平時であったからよいが、考えてみると、防衛力が皆無になっているかなり危険な状況だ。

 

 しかし、素通しさせなければ、背に乗るディータに万が一があったかもしれないので、結果的は良かった。


「その背に乗っているのは……」

「おお、姫様だ」

「姫様がお怒りだ……」


 魔力プールとの接続のため、一部を高次元体化したせいもあり、ディータ姫は現王……父よりカリスマチューンの力が強まっている。

 王国歴代でも一番であろう。

 古来種によって造られたカリスマとはいえ、それは絶大だ。

 

 誰もが空を仰いで親愛の態度を示す。


「半裸祭りではないのか……」

 

 興奮する姫殿下に反比例して、古竜レッデカエサリは意気消沈していた。

 項垂れる古竜は、まるで王女の怒りに首を竦めるかのようである。


「おお……。姫殿下が古竜との交渉に出向いたと聞いたが……」

「ああも従えているとなると、対等な交流どころではないのか?」


 背を赦し、意に従うかのような古竜の姿を見て、高官のみならず平民までもが思った。

 姫殿下は強大な古竜を従えていると。

 実際は半裸祭りと聞いて、意気投合し引き留める官吏たちをぶっちぎってやってきただけだ。


 主従の関係より、意気投合するほうが、互いのためになるだろう。なるかなぁ、半裸で意気投合。


「わたしが食べられないのなら! こうしてくれる!」


 姫らしからぬ理由で、怒りを魔法に変えた。

 竜の背の上で、胞体陣が投影される。


「ああ、こしあんが!」

「つぶあんが!」

 争いの火種であるヨーカンが、意志を持ったかのようにディータ姫めがけて飛んでいく。

 釜で茹でられていた作りかけまでもが、王都の空を飛んでいき、竜の眼下で人型を作り出す。


 それはまるで真っ黒い巨人だ。


 ディータは、餡子でモノゴーレムを作り出したのだ。

 だたの黒いゴーレムではない。


 未成熟なディータの肢体を模した、黒く染まった姫殿下の姿であった。 


「ヨーカン。食わせろ!」


挿絵(By みてみん)


 姫らしからぬわがままを言い、ディータ=ヨーカンゴーレムが両拳を振り上げた。

 挙動でヨーカンが震え、ディータの身体を模したふくよかな部分がプルプル震える。

 人のそれとは違う動きであったが、青少年には好ましくない光景だ。


「ヨーカンをよこしなさい!」


 ディータ=ヨーカンゴーレムは、奪いきれなかったヨーカンに手を伸ばした。

 市民からつぶこし分け隔てなく奪い取り、その身体に取り込んでいく。

 ディータ強奪! ヨーカン……強奪!

 

 ディータ、暴虐の限りをつくす。(ただしヨーカンに限る)


 この光景を遠目に見たエイクレイデス王は、暴徒の包囲から解放されながらも、こう嘆いたという。


「我が娘を赦してほしい。甘やかしすぎたのだ……」


 ヨーカンだけに。


   *   *   *


「センパイ、本当にリカバリーできます? これ」


 アザナが惨劇を指さし、あまり見たことない青ざめた顔で眉をひそめ尋ねてくる。

 いつもなら笑顔で煽ってくるアザナでも、さすがにこれはない、とわかっているようだ。


「そうは言うけど、半分とは言わないが責任の一端は、ヨーカンをバラまいたオマエにもあるんだぜ」

「そうは言うけど、姫殿下に関しての責任の一端は、センパイにもありませんか?」


 ねーよ……いや、あるか?

 実現性がまったくないため、ディータが食事できるように改造はしなかったし、ゴーレムや高次元体で食べられる食品の開発をしなかったのオレだ。


「……やめよっか、この話」

「そうですね。……で、リカバリーできるんですか?」


「おう、ま、任せな」


 強がるオレ。


「ほんとにぃ? 騒乱を起こしている相手でも、悪意ある言い方をすれば、権力者による非合法な略奪現場ですよ」


「任せろ」

 なんで任せろと言ったかな、オレ。

 

「それにな、これは姫殿下による緊急対応だ。そのくらいの権限くらいあるんだよ。……屁理屈つければ」


 騒乱の原因となっている資産の巻き上げ、じゃなかった、接収はかつて多くの統治者が行ってきた手段の一つだ。

 良いこととはいえないが、解決手段の一つであることはまちがいない。


「これだから人治は……」

「ん? なんだ。アザナは法治推しか?」


 前髪をイジり呆れるアザナ。

 いるんだよな、法治を好むヤツって。

 習慣法を一掃する時間と労力はどうすんだか……。いや、コイツが法治を望む理由は。


「でもオマエは、脱法するんだろ?」

「あったりまえじゃないですか」


 よくわかってますね、と笑って答えてくれるアザナ。

 お互い理解者、と喜ぶと同時に、乾いた笑みで返すことしかできない。どうしよう、マジで言ってるのかな、アザナ。

 

 ん、待てよ?


 脱法?

 視点を変える。立場を変える。逸脱する……。


 ふと、考えが浮かぶ。

 言外に言質を取らせず、意味を理解させる貴族の含みを持たせる話術を組み合わせれば、これは使えるのではないか?


「いいアイデアが浮かんだ。つぶあんとこしあん、ただの趣向にどっちが優位と決めるから悪いんだ」

「え? はい。だから街はこんなふうに……」


 さすがのアザナでも、こういった考えはできないか。

 魔法の天才で、ちょっと悪戯好きくらいではなぁ。


「だから、決めようのない逸脱した出来もしない目標で、優劣を決める。アザナ、手伝え」


「は、はい。わかりました」


 オレとアザナは王都の夜の飛び、ディータ=ヨーカンゴーレムとレッデカエサリのところへ急行する。


「よう、ディータにレッデカエサリ殿、なんで来た……の?」


 騒動をさらに大きくした要因の二人。

 皮肉の一つも言ってやろうと思ったが、古竜の長レッデカエサリが意気消沈していてその気が失せる。


「なんじゃい。半裸祭りと聞いたが、これはなんじゃい」


 拗ねているようだ。

 半裸って……何?

 おとなしいからいいや。


「……ザル様。ヨーカン」


「わかったわかった。オレに任せな。アザナ」

「はい、センパイ」


 さすがアザナ。オレが最初に投影した魔法陣を見て、何をやるかすぐさま理解してくれた。


 オレが持ち歩いていた数十の宝石の内部に、二人で胞体を投影して胞体石を作る。


 オレの声を中継する胞体石と、拡声効果のある胞体石を王都の各所に飛ばした。

 通信ではなく、声を拾って一方的に音を拡散する目的なので、造ること自体は難しくはない。だが突貫なので新式なのに効率の悪い魔法が出来上がってしまった。


「あー、あー。ディータ姫殿下はこうおっしゃられておられる」


 ディータ=ヨーカンゴーレムの大声と違い、各所で時間差で響くオレの声はちょっと聞き取り難い。

 だが、簡潔に言葉をまとめれば聞き間違えられることはないだろう。

 

「私につぶあん、こしあん、どちらでもいいから、食べさせろ。と」


 単純明快。ディータの駄々を、整えて王都の人々に伝えた。

 要求は言った。

 次が本題だ。


「こし派もつぶ派も、よく聞けっ! 殿下の御身にて、最初に食したどちらかを国の食……国民食とする!」


 空気が変わる瞬間、というのはこういった時だろう。


 王都の各所で、人々が目覚める瞬間であった。


「姫様に献上し、召し上がっていただくことができたら!」


「俺たちのつぶあんが国民食に!」

「こしあんだろ!」

「とにかく国花や、国鳥と同じ扱いになるのか!」

「つぶあんが国の旗に記されるのか」

「こしあんだろぉ!」


 つぶあんとこしあんの区別つくのか、ソレ。


 だが、騒動は治まりつつ。

 こうしちゃいられない、負けられない、と争いをやめていく。

 ディータのカリスマチューンのおかげもあり、魔力プールとゴットフリートの精神操作より、王家に尽くそうという気持ちが勝ったのだ。

 

 そのうえで、無理に食わせてどっちが上だ、とさせるのは下策だと悟ってくれた。

 

 ついでにディータ姫に食事をさせる方法を、王都の人たちが試行錯誤してくれる。


「ふぃー。これで面倒なことも丸投げできた……」


 オレは料理のことは詳しくない。一部の天才が余暇に研究するより、あちこちで大勢が試行錯誤する方が、意外にいいアイデアが出るかもしれない。

 なにより、こしつぶ問題を、抗争から逸脱させて競争にすることができた。


 嫌がらせやアイデアの盗用などいさかいは起きるだろうが、大規模な抗争は起きにくくなったはずだ。

 

「見事、と素直に言えないこの気持ち、センパイ、わかります? あ……」


 どう褒めよう、という顔のアザナだったが、オレの後ろを見て、するりと逃げる。

 なんだ?


「……ザル様」

 背後からディータ=ヨーカンゴーレムの胸が押し付けられた。

 

 べったり――。


「やめろ、オマエの胸、ベタベタする」

「……それ、私以外の女の人に、言っちゃダメ」


 怒られた。

 ベタベタする胸って、言われたくないよな。

 いやだって、マジでベタベタするんだけど、ヨーカンおっぱい。


「……ありがとう、でも」


 オレはディータ=ヨーカンゴーレムに抱きしめられる。

 べったべたするんだけど……。そんな不快感が吹き飛ぶ言葉を、ディータが告げる。


「……これ。絶対。小豆とか原材料と燃料の価格高騰する。大丈夫?」


「オレ、経済とかそっちは勉強中なんだ」


 そっちの発想はまったくなかった。

 

 どうしよう……。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 『ディータの身体を模したふくよかな部分がプルプル震える。』 姫様にふくよかな部分なんてあったか……?
[一言] さすが王女殿下と次期国王、見事に争いを収めましたね。 詰めが甘いのもザルガラらしくて良いかと。 どうやって収めるか、楽しみです。
[一言] 寛容さが肝要ですね ヨーカンだけに
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