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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第11章

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ゲッツはゴットフリートの愛称


 ゴットフリートが、自分の略称である「ゲッツ」と言った途端に、アザナが苦しみだした。


「ど、どうした? なにか指向性のある攻撃を受けたのか」


 あのアザナの防御陣を貫通させるだと!?

 姿隠しの魔法が解ける寸前、手を伸ばしたが間に合わない。

 アザナは誰かに後頭部でも殴りつけられたかのような勢いで、身体を曲げて通気口の入口から飛び出していった。


 危険な落ち方だったわりに、床には激突するようなことはなかった。

 いつもの不自然な挙動……ふわっというか、ひょいっというか。安全とは言い難いが、落下速度は床直前で急激に弱まって軟着地した


 だが、苦しむままだった。


 隠れていても優位性はもうない。オレも姿隠しの魔法を解いて、アザナの隣に飛び降りる。

 痛みに苦しんでいるのだろうか、アザナの小さい背中が震えている。

 これを見て、カッとオレの顔が赤、いや頭に血が上がった。


「おい、侍従長ゴットフリート! いまなにやった!」


「ゲッツ」


「ッズヒ!」


 また言いやがった。

 そしてアザナが変な悲鳴を上げた。とりまき連中には聞かせてはいけない、どこかかっこ悪い悲鳴だ。


 しかし、あのゲッツというのはなんだ?


 たしかにゴットフリートの愛称はゲッツだけど、自分で自分の愛称を連呼するって意味わからん。


 オレだったら自分で「ザルちゃん」って言いまくるようなもんだ。恥ずかしくてできん。


「とにかく、オマエがなにかやったことは確かだ」


 苦痛を和らげる魔法をアザナにかけ……え? アザナ、なんで余計にうごめいてるの?

 身体をよじりながら、懸命に床を叩いたり蹴ったりしている。


 それほど苦しいのか……。 


 とにかく自分で愛称をいうゲッツのヤツに対処せねば、なんかアザナがぷるぷる可愛い状態から復帰できそうにない……もうちょっと見ていたいけど。


 そうだ。古来種が中にいるかどうかを見抜けるタルピーを、ここに連れてくればよかった。でも空中遺跡の留守番はアンに任せるとして、ディータの警護にタルピーが必要だったし、ただの偵察のつもりだったし、とにかくもうどうにもならない。

  

 ゴットフリートはオレの質問に対して、首を捻るようなしぐさをした。

 まったく意味がわかっていない。という表情もおまけつき。


 違う、のか?

 オレは防御陣を固めながら、金色ゴットフリートの周囲を探る。

 

 ゴットフリートは、魔力プールと微弱ながら繋がっていた。


 一週目のステファン、二週目のオレが魔力プールに繋がっていた時より、はるかに薄く細く微かに繋がっている。


「ずひー……せ、センパイ……どひー……、あの人……洗脳魔法使ってます……」


 ゴットフリートを探っている間に、アザナは魔力プールから発せられる魔法を読み解いていた。

 辛そうなのに、よくやってくれた。

 涙目のアザナの顔から眼を背け、ゴットフリートを睨みつける。


「そうか。なるほど、そういうことか、ゴットフリートさんよ。信じてた、というのは大げさだが……」

 

 二重スパイにしていたナインたちから上がってきた報告と、一種の共通性もあった。

 地上に戻ろうとする古来種たちが、共和国で現体制を崩そうと暗躍していたようだが、それは王国でも行われていた。

 

 それをゴットフリートは察知し、彼なりに解決させようとしたのだろう。

 オレは侍従長の忠誠心と、民を労わる心に感服した。


「つぶ派とこし派の闘争に書き換えて、事件を矮小化。これなら確かに反徒は反徒ではなくなり、市民の罪は軽くなる。まあ騒乱を起こした罪くらいにはなるだろうが、その程度だ。これならバカらしくて、反逆罪にはならんしな」


 なんてヤツなんだ、この金ぴか。

 反徒の誹りを厭わず、敵地で事件の矮小化を図ったのか。


 感心しているオレの隣で、アザナが涙を拭きながら起き上がる。


「おい、だ、大丈夫か……」


「あー、笑った笑った。久しぶりにお腹よじれるかと思った」


「オマエ、笑ってただけなのかよ。どこか笑う要素あったか?」


 回復し膝をついて立ち上がろうとしていたアザナが、オレの考えに首を捻った。


「ところでセンパイ。本当にそ、そうなんですか? ゴットフリートさん、そんなつもりだったんですか?」

「ああ、そうだろう。ここで洗脳魔法を維持し続けているのがその証拠だ。言語障害が出ているのは、なんのせいか解析しないとわからないが」


   *   *   *

 

 ――違うんだが。


 金ぴかゴットフリートは、ザルガラの推察に困惑していた。


 ゴットフリートの主目的は、エイクレイデス王にこし派へ鞍替えしてもらうことだ。

 魔が差した、というほかない。


 当初は反徒の捕縛が目的であり、彼らの身を案じたことはなかった。

 事件を矮小化して、罪を軽くするなどという考えは毛頭ない。


 エイクレイデス王が、こしあん派になり、おやつがこしあんのヨーカンとなり、王宮内のおやつもこしあんが主体となる。


 王宮の使用人や侍従のおやつは、基本的にエイクレイデス王と同じである。物品質管理と毒味の必要性があり、そして見栄えを優先して盛り付けるため、お残りやお下がりが多いからだ。


 彼はここが魔力プールの端末であることを知らなかった。

 

 しかし、洗脳魔法が発動。状況が変わるにつれ、反徒たちは……


「古来種再来をこの地とするため、国家体制を転覆」


 などという曖昧で夢物語から


「つぶ派である王を、こし派に」

「改宗しなければ、こし派の国家体制に」

「こしあんで古来種をお出迎え」


 などという具体的な……具体的? 具体的な標榜を持つに至った。


 組織弱体化のため、独断で行った反徒こし派化計画は、魔法の暴走から組織の暴走へと突き進んだ。


「どうしよう……」


 魔力プールに存在に気が付いたゴットフリートは、制御しようと、あれこれやっているうちに、逆に取り込まれることとなった。


 この場所から離れることもできず、身体も服も金色に輝いている状態だ。


 そんなゴットフリートの前に、二人の子供が現れた。


 ごわごわヘアのいかめしい眉毛で、そろそろ大人になりかけた少年、ザルガラ・ポリヘドラ。

 さらさらヘアのやさしい顔つきで、まるで少女になりかけたような少年、アザナ・ソーハ。


「ゴットフリートさん…いや、ゴットフリート殿。ここは任せますんで。オレはあんたの奮闘を伝えて、対策と解決を試みます。このまま、洗脳魔法を維持してもらえますか?」


 普段、小生意気なザルガラが、少し態度を改めてゴットフリートに協力を申し出る。

 だが、そうじゃない。


「ゲッツ……」


 違う、と否定したいができない。かつ、否定したところで、好意的に解釈した彼を止めるのも問題だ。


「さあて、アザナ。ここ、任せられるか?」

「えー、ボクも一緒に行きたいです」


 立ち直ったアザナは、ザルガラを慕うように隣へ寄り添った。

 仲睦まじい姿に、困惑していたゴットフリートの顔もほころ


「じゃあ、そうだな。トゥリフォイル=ボディに任せるか」


 そうザルガラは決断すると、排気口外部に待機していたトゥリフォイルの身体を呼び出した。


「ゲッツ!」

 綻んでいたゴットフリートの顔が強ばる。


 反論も提案もできず、残された首無し騎士とともに、ゴットフリートはこの場に残された。


「ゲッツ……」


「…………」


 反応がない。ただの首無し騎士のようだ。


   *   *   *


「センパイ、聞いてるんですか?」


「ん? え? あ、ああ?」


 魔力プールの端末に続く通気口から出ると、アザナは金網をかけてその周囲を瓦礫で隠しながら尋ねてきた。

 瓦礫を動かす魔法の力の根源を探っていたので、集中しすぎて何を言ったか聞いていなかった。


「聞いてなかったんですね?」


「うん、わりぃ」


 素直に謝る。

 アザナは「もう!」と、両手で何もないところを叩くように何度も振り下ろす。


「ゴットフリートさんには、センパイはああ言ってましたが、どうするつもりなんですか? アテとかあるんですか?」


 アテ?

 ああ、解決の仕方か?


「ゴットフリートの素晴らしい業績を報告してあとは丸投げすればいんじゃ……なんてことはないよ、ははは。ちゃんと考えてるよ」


 思いっきり丸投げするつもりだったんだが、アザナの視線が痛くて放物線染みた放言を軌道修正してしまった。

 そういえば誰に話を持っていけばいいんだ?

 役人や中央にいる貴族に知り合いは何人かいるが、今、どこにいるのか判然としない。


「アザナ。オマエの案は何かないか?」


「アイデアが出てこないから、ボクに聞いて考えようって魂胆ですね?」


 さすがアザナ。敏い。

 思わずオレは言葉を失う。


「ボク、センパイのことならすぐなんでもわかっちゃうんです!」

「それ、変な魔法使ってないよな?」

「このくらい魔法なんていらないですよ」


 さすがアザナ……というのは違うか?

 

「た、確かにその場の考えだったが、まあ、大丈夫だ。アテならたった今できた」


 オレはそう言って、王都に近寄る気配に対して顎で指し示す。

 排気口を隠すため偽装に力を使っていたアザナも、遅れてその気配に気が付き――


「えー……」


 露骨に不満そうな表情だ。

 う、上目遣いで、オレをさげずむな!


「安心しろ。ちゃんといくつも案が浮かんだうえで、さらにアテがあるんだよ」


 ……たぶん、大丈夫だよな?


 月明りを背にし、王都に影を落とす古竜の長。

 その背にはどうやって飛び出してきたのか、ディータ=ゴーレムの姿があった。

 ついでにディータの服変わりに、炎を纏わせるためタルピーも来ている。


 普通に、常識的に、そしてマトモならば、どう考えてもこれは騒動の種だが、考え方を変えればこれは奇貨に間違いない。


「でもその前に、どっかに権限のある役人か、中央に伝手のある貴族いないかな? まずゴットフリートの考えを、誰かに伝えておかないと」


「それ重要なんですか? 別に後回しでもいいと思いますよ」


「ちょっと前のオレならそう思っただろうけどさ……」


 悲しいけど、立場ができるとそうも言ってられないんだよ。

 いろいろ考えてたら、考え無しに来たディータのヤツにイライラしてきた。アイツこそ立場考えるべきだろ!

 思いっきり利用してやるから、覚悟しやがれ姫殿下!




サブタイがサブタイしてないサブタイ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ザルガラが対抗して「ケッツ」って言いながら尻でも出すのかと思ってましたw
[良い点] ゲッツ懐かしい。 [気になる点] 勇者さり気なくポ○キー盗むのに元の世界への帰還ゲート開けてたけど古来種は開けなかったんだろうか? [一言] 最新話まで一気読みして羊羹が食べたくなり、近所…
[一言] そういえば侍従長って190話で出てましたよね あの、1話遅れてしまいましたが300話突破おめでとうございます
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