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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第11章

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たのしい古竜交渉

 会食に参加できない、というより会食で置物になってしまうディータは、夜の演奏会前にレッデカエサリと会することになった。

 

「気高き古竜の長レッデカエサリ・クウアエスントカエサリ様へのご挨拶が遅れましてお詫び申し上げます」


「いやいや、事情は分かっておるよ。こちらも今まで正式な挨拶などしとらんのに、歓迎してもらって恐縮じゃわい」


 ディータの遅参を――予定として計画的に遅らせたのだが――を、おおらかに許してくれたうえ、今まで王国と付き合いをしていなかったことに触れるレッデカエサリ。


「こちらこそ遠方であることに甘え、正式な使者も送らずにいたことを恥じ入るばかりです」


 ディータは静かにお辞儀して見せた。

 なるほど、これはオレでもわかる。


 互いに交流していなかったことを、挨拶してないのに歓迎してもらえて恐縮、国として動かず恥じ入る、という言葉で表現した。

 そのことを悪かった。ごめんなさい。とは具体的には言わないが、良い選択をしてこなかったという意味で発言している。

 そしてその主張を認め合うことで、没交流だったけど、お互い、悪くはないよ。


 ということになったわけだ。


 だから、この話はもう終わりだ。

 同時に、遅参を謝罪すれば、理由しだいで古竜の長は赦すという度量を持っていることを示してくれた。


 政治的に付き合っていける、という事実と例を示してくれたわけでもある。 


 さらにこれで他の古竜たちが、こちらの落ち度をいちいち指摘して怒ることはできなくなった。

 まあ……他の古竜たちがそういう政治的判断してくれるかどうかは別だが、少なくても長はその身で付き合い方を見せてくれた。


 しかし、レッデカエサリも然る者。

 さらに攻めてくる。


「もっともよくこの王国には来ておっての。むしろ挨拶していなかったのはこちらじゃな。ワシはどうしても人間の街で遊びたくてな。具体的にはそう。めんこい娘と遊びたいんじゃ」


 あ、この古竜の長。

 没交流を赦しあうこの雰囲気のどさくさに紛れて、今までの密入国と女遊びを水に流してもらうつもりだ。

 ディータが僅かに緊張した。そんな気配がゴーレム体制御のノイズとして、製作者のオレに飛んでくる。


「ええ。この国をお気に入りいただき、ありがとうございます。今回、このように会することになった僥倖も、長殿のお気持ちに頼るところがあったのでしょう」


 うまい!

 密入国を具体的に赦すとは言ってないが、エイクレイデル王国が好きだから出入りしていたことにした! 

 古竜の長がこの国を気に入っているという意味に、レッデカエサリの発言をすり替えやがった!


 具体的に赦してないのに、古竜との交流を「あちらが気に入ったから」という事実にしやがった!


 この返しに、さしものレッデカエサリも押されているようだ。

 がはは、勝ったな。

 古竜がいかに優れていようと、政治はこっちが積み重ねている長所だ。

 ……ま、オレはあんまり得意じゃないし、好きでもないことなんだけどね。


「う、うむ。これからのためにもザルガラ殿。どうじゃ? もう少しエト・インとの婚約、継続してはもらえんかの?」


 レッデカエサリも負けていない。

 まだ切り込んでくる。


 これは……一体、どういう意図だ?

 今まで読めていたオレでも、レッデカエサリの政治的意図が読めない。

 インゲンスの意思を無視してまで、婚約継続の裏に何がある?


 外交担当の官吏が、それとなく小さい動作で引き伸ばせ、引き伸ばせと合図を送ってくる。その後方では情報担当の役人たちがあれこれと相談し合っていた。


 ディータも反応に困っていた。


 臣下の婚姻には、王家にも責任がある。

 同時に遠い地の実力者と、交流を続けられるという甘い誘惑がある。


 ディータの強い緊張が伝わってくる。


 執政者の一人として思い悩んでいるようだなぁ……、ってなんで睨んでくるんだよ、ディータ。


 レッデカエサリとディータの矛先が向かってきて、オレは困惑するしかない。


「ハハハ……。それはエト・インの都合も……え? いいの?」

「ハハハ。ですが、先ほどすでに彼女の父親から破棄を申しつけられたばかりですので」


「良いではないか。婚約破棄で大笑いして、最後まで言えておらんかったろ?」

「聞こえておいででしたか、ワハハ」

「おう、聞こえていたぞ、ワハハ」

「いやはやワハハ」

「ハハハ」

「耳が良いのですね、ワハハ」

「うむ……はは……」


 雑談を引き伸ばすため無理に笑う。

 苦しい!

 突っ込みならいくらでも長くできるが、無為に、もしくは惚けながら伸ばすとか無理!


 早くしてくれ、勝手に断るぞ、と睨んだら情報担当の役人が二人が連携してポーズをとりオレに指示を飛ばしてきた。


 受けろのサイン。


 え、やだよ。

 王城に詳細届けた?

 権限者の意向聞いた?

 え? それも想定のうち?

 プランDにもあった?

 女遊びについてだけ、情報精査中?

 ていうかキミたち、ジェスチャー上手いね!


「しかし、彼女の父親の意向も……」


「とってきました。かまいません」

 オティウムがインゲンスから許可を取ってきたようだ。

 早い。気安い。軽い。の三拍子だ。


「ぎゃお? ザッパー……。エト・インのこと嫌い?」


 エト・インが拒絶と受け取って、寂しそうな顔をする。

 政治的な場面で無垢な子供とか反則だ。

 どうする、オレ。


「で、ではそうですね。学園にも彼女はまだ通いますし、エト・インとも仲良くしていて、これでお別れでは寂しいですかね。お受け、受け……受けけけ……」

「お受けします」

「わーい、ザッパーのお嫁さん!」


 オティウムが割って入って、エト・インが飛びつてくる。

 エト・インはいい。子供だから無邪気にお嫁さんというフレーズに喜んでいるだけだ。

 だがオティウム。オマエ、旦那さんを置いてまだこっちにいるつもりか?


「私は一度帰って、エト・インはザルガラ様のおそばに」

「何度目だ、育児放棄!」

 真剣に親権を奪われるぞ、爬虫類!


   *   *   *


 ホールの演奏会では、ディータとレッデカエサリが同じボックスの貴賓席に会席し、オレはちょっと離れた隣の貴賓席で一息つく。

 エト・インが隣にいて、なぜかさらにアザナもいる。おまけにヨーヨーもだ。

 タルピーはいつものように、演奏に合わせて踊っているが、いつの間にか舞台のほうにいってしまった。


 エト・インは分るよ。隣にいることが婚約継続の象徴だし、エト・イン自体がオレの隣にいたいと張り付いてきたから。


「どういうつもりですか」

「違うんだ」


 アザナに問い詰められる。

 婚約継続のことだろうなぁ……。タルピー戻ってきてほしいなぁ。いてもあんまり役に立たないだろうけど。

 ヨーヨーまでオレを睨んでいる……いや、コイツは親の意向もあるので、わからなくもない。


「な、なんだ。オレが誰と婚約しようと、アザナには関係ないだろ?」

「ありますよ、ほら……えっと。ドラゴンと結婚なんてなんか変です!」

「だから形だけだって。それになあ」


 アザナが無理な文句を言ってきたので、形だけだからとなだめる。

 ああ、オレが古竜と結婚して、西のかなたに行く可能性を考えているのかな?

 それはそれでいやだな。アザナやぺランドーたちと気軽に遊べなくなる。


「形だけといえば、姿形も種族も別の子ですよ? なんか、その変態じゃないですか?」


 ヨーヨーがなんか妙なことを言った。なんのことだ?


「姿形と種族が……違うからって? どういう意味?」


「え゛っ!」


 あのアザナがいつものカワイイ声ではなく、濁った声を出して身構える。

 ヨーヨーも座ったまま椅子ごと後退りだ。

 オレ、なんか変なことを言ったか?


 そんな中、アンがあたふたとみっともなく演奏会場に飛び込んできた。

 演奏の邪魔にならないように、出入口付近は沈黙の魔法がかかっているからいいが、空中遺跡の制御と管理をほったらかして何事だ?

 

 アザナたちの追及から逃げるため……じゃなくて、アンが飛び込んできた理由がきになったので、それとなく席を立ちあがり、アンのいる出入口へ足を向ける。


「ザルガラ様! あのあの大変です!」


 すがりつく勢いでアンが迫ってきた。やめろ、なんかアザナが睨んでる。


「王都で反乱! 反乱です!」





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― 新着の感想 ―
[一言] アザナが結構本気で嫉妬してるのが良かったです。 大丈夫、真剣な愛の前には、年齢も性別も種族も関係ないから! 重要なのは性癖だけです!!
[一言] ??? 変態とはこの世界の一般的感性だろう?
[一言] インゲンスがインゲルスになってますよ
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