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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第11章

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はきはき挨拶


「こ、交渉? 古竜と、ですか?」


 ごとり……、とエンディ屋敷の床に首が落ちる。

 デュラハンのトゥリフォイルが首を取り落とした。

 なあ、それ、大事なものじゃねぇのか?

 実はボールか瓜かなの?

 本当の頭は、鎧の襟の中にあったりしない?


「古来種の財産を守っている様々な竜……、ではなく共和国の向こう……西の端にいるあの……竜、ですか?」


 わなわなと震えるデュラハンの身体で、足元の首を蹴ってしまう。あっちへ転がっていく首。

 やっぱりただのボールかな?


「怖いのか?」


 気軽に、そして端的に尋ねると、トゥリフォイルは身体がピンッを背筋を伸ばして答える。


「! し、心外でしてよ。このわたくしが古竜をここここ怖いなどと思っているなどと思っているなど思い過ごしでしてよ! おーほっほっほっ」

 

 誰だ、オマエ。


 トゥリフォイルの返答が壊れ、まるで別人の口調である。


 騎士の亡霊のわりに、古竜を恐れるとは意外にかわいいところがあるじゃねぇか。

 でもまあ、わからなくもない。

 最上位種にも匹敵する古竜だ。

 たんなる質量だけでも脅威だし、いかに先読みがあろうとも剣を武器にするデュラハンでは不利だしな。


「安心しろ。交渉といっても、挨拶みたいなもんだ」


 役人からもらった書類の束を翳し、簡単な説明をする。

 魔物ながらさすが高い知性のある中位種。トゥリフォイルは一回の説明で理解してくれた。


「はあ、つまり……エトちゃんとの婚約解消へに向けてのお話を、それで終わらせず今後のお付き合いを兼ねて、挨拶と贈り物を王国側からすると?」


「概ねそんなところだ」

 

「考えたら、私はここの警護がお仕事なので、ついていくこともないんでしたね」

 

 自分の役目を思い出し、落ち着いたトゥリフォイルは、やっと床の頭を拾い上げた。


「なんだったら連れて行くぞ。そろそろエンディ屋敷も引き払うし、勤務地も空中遺跡になるから」


 取り落とした。

 古来種の支配体制からの解放に、嫌がらせしていた彼女だ。心のどこかで古来種の影響を受けていない強者に、恐怖を感じていたのかもしれない。

 かわいそうだから、もうからかうのやめるか。


 とりあえずこれで主要な臣下全員に、今回の状況を伝えることができた。

 

「へぇ、下命ってこういう風に行われるんだ」

「てっきり、お城で王様にいきなり指名されて下命させるんだとおもってました」


「驚いたなぁ」

 

 アザナとヨーヨーの2人が、同じ言葉を同時に漏らす。

 たまにこの2人、気があう……だが、オレもかつて同じ意見だった。

 しかし、問題はソレではない。


「オレにはオマエたちがいるほうが驚きなんだが?」


 ここはエンディ屋敷。

 当然、アザナもヨーヨーも招いていない。仕事しろ、トゥリフォイル。


「ボクは接待料理人スタッフの監修者の補佐のアドバイザーのアイデアマンで、正式に呼ばれて来ているんですが」


「なんだその、村長代理見習い覚えみたいな立場」


 エッヘン、と胸を張っていうアザナ。

 しかし、胸を張るほど無い、じゃなかった胸を張るほどの役職だろうか?

 古竜への接待料理を頼んで呼んでいるのは確かだが、アザナはそのおまけといったところか。


「とりあえずアザナの言い訳は聞いた。で、そっちは?」


「アザナさんの荷物持ちで」


 おまけのおまけだった。


「オマエ、接待料理人スタッフの監修者の補佐のアドバイザーのアイデアマンの荷物持ちかよ」


「わ。適当に言ったのに、一字一句間違ってないザルガラ先輩なんだかキモイ」

「アザナさんの役職が気になっていらっしゃる?」


 アザナとヨーヨーから、理不尽な反撃がきた。


「オマエら、ほんと放り投げてランニングウォーターに叩き落とすぞ」


 2人とも高いところから落ちても無事だろうから、いつか飛べないようして落としてやる。

 

「それでどんな先に下される書面なんです?」


 川の上空を飛ばせる理由を考えていたら、アザナがオレの腕にぶら下がるようにして書類を覗き込む。


「お、オマエ! 勝手に見るなよ!」


 引き離し書類を隠そうとすると、アザナが追いかけてオレの膝に手を付き追いかけてくる。 


「見せてくださいよぉー」

「や、やめろ! くっつくな! ほんとやめろ!」


 ティエなど家人ならともかく、アザナなど他の貴族にこの書面を見せるわけにはいかない。

 なんとかアザナを押しのけて、残り香を咳払いで散らして説明をする。


「演劇では、家臣をいっぱい集めた謁見の間でいきなり命令するって感じだが、実際は下命の詳細が書かれた書類を持って、中央官僚がくるんだ。まあオレは一応だが影門を守ってる役職あるし、王命には諸侯以上に従わないといけないわけだが……、それでもいきなり陛下から面前で下命ってのはない」


 内容についても付け加えると、アザナは満足してくれたのか、オレの隣から離れてくれた。


「でもザルガラ先輩とエト・インとの婚約話、どうやって王国が把握したんですか?」


「ああ、どうもオティウムが関わってるみたいなんだ」


 アザナの疑問に答えるが、言ったオレも渋面だ。


 あの古竜たちの母は、どうもつかみどころがないのに、デカい問題を持ち込んでくる。


 安全面はエト・インの母親、オティウムが保証してくれている。王国と挨拶交渉のとりなしをしたのも彼女だ。

 オレとエト・インとの婚約がどうの、っていう問題を奇貨にして、どうやら王国と交流をするつもりらしいが……真意は遊びたいだけかもしれない。

 

「でも……昔はありましたよね、謁見の間でいきなり下命って」


 謎の圧迫感から解放され一息つくと、ヨーヨーが尋ねてきた。


「あったらしいな。正直、大臣や諸侯が列挙する中で、いきなり指名とか当時の貴族って度胸あるよなぁ」


「面前で全裸になるのとどっちが度胸あるのでしょう……」


 ヨーヨーが爆弾みたいな発言を投げ込んできた。


「そう考えると今の貴族も度胸すげぇな」

 

 うなりつつオレは同意するしかなかった。


「もしかして、先輩。今、屋敷の中の人が少ないのって、みんな忙しいからですか?」


「ああ。でも文官は多いから、それほど忙しいってわけでもないが」


 調整はマーレイとティエ、実務はポリヘドラ家からの移籍組と、王城から派遣されている文官が行っている。


 主役はオレとディータだが、あまりやることがない。

 むしろ所在をはっきりさせろ、ってことで、連絡のつきやすいエンディ屋敷にオレは待機。ディータは城で王城組の繋ぎのため待機だ。


「それは良いのですが……」


 アザナへ説明を終えたころ、部屋の隅にいたベデラツィが手を挙げて発言した。


「なぜわたしもここに?」


「なぜって、ここにアザナとヨーヨーがいるよりは不思議じゃないはずだが」


 そう答えるとベデラツィは困ったように、アザナとヨーヨーの顔を伺う。

 アザナは手を振り、ヨーヨーは気が付かないので、彼は困ったようすで肩を落とした。

 御用商人の不安を取り除くため、オレはやさしく声をかける。


「真面目な話、今回のことでオレが軽んじられないように、オマエの御用が必要なんだよ」


「あっ……ああ、そちらのご用意がいるのですね。それも早急に」


 さすがベデラツィ。

 一言で理解してくれる。

 念話が出来なくても、オレとベデラツィの心は繋がっているに違いない。


「このところ、遺跡関係の発掘品売買ばかりで、資金は増え続けるというのに、ザルガラ様から御用のお声がかからなかったので余りに余っていたのですよ」


 ベデラツィが肩を竦め、対面するオレにオレへの愚痴を述べる。

 ほら、この気安さ。

 繋がってる感がする。


「ニヤニヤと、何を見ているんですか?」


「ん? ああ、ベデラツィが頼りになるな、と」


 ここまで言って、オレは身構えた。

 アザナの奴はどことなくオレに似て、対抗心を持っている。

 まだ勇者としての活躍が乏しいアザナと、その実家ソーハ家は出入りの商人こそあれ、御用商人という程のものはいない。


 ベデラツィとの関係を自慢と思われたら、対抗心を出してくるかもしれない。


「ふ~ん……」

 だが、反応は弱かった。


 寂しいような、助かったような。


「なんだよ……。じゃあ、ベデラツィ、頼んだぞ」

 

「はい。では、私は準備に入りますので、急いで戻らせていただきます。……あ、それと物資の運搬はこちらでハイトクライマーを借りますのでご安心を」


 微妙な気分をありがたいことに、ベデラツィが打ち払ってくれた。

 

「……ザル様。あの人になに頼んだの?」


 影門屋敷にいるディータの代わりにいるディータ・ミラーコードだ。隣の部屋でタルピーとのダンスの練習をしていたが、それを終えて尋ねてきた。


「姫様の方がわかってなかったのか。オレの身の回りのモノとか、遺跡の居住区の家具とかだよ」


 ここまで言えば、ディータも理解できたようで頷いた。


「え? 今のままじゃダメなの?」


 今度はタルピーか。

 まあ相棒コイツは仕方ない。


「名目違いのご挨拶とはいえ、勢力のトップとの会談だからな。こっちも舐められないようにしないといけない。立派な調度品やら客間を用意しないとな」


「あー、そっかー」


 タルピーも納得した様子で、踊り始めた。

 ……タルピーの踊り。

 ああ、ダンスの準備もいるか。


「そうだ、アザナ。なんだったらユスティティアとかアリアンマリとかも呼んだらどうだ? 親は親でもその子供なら政治的に重くない(・・・・)からさ」


 ダンスパーティーを執り行うとなると、どうしても人数がいる。しかし、諸侯を呼ぶのは尚早だ。

 あまり影響力の大きい人は呼べない。かといって影響力皆無も好ましくない。

 その点でアザナの取り巻きのうち、ユスティティアとアリアンマリは最適だ。

 ちょっとオレのメンタルがつらいが、ヴァリエがいてもいいだろう。


「そう……ですね」


 軽い気持ちでそんな提案をしたとき、アザナの顔が寂しそうに見えた……のは多分、気のせいだろう。


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― 新着の感想 ―
[一言] 流石にアザナが書類覗こうとしたのはマズイかと。 ちゃんと叱っておいた方が良いです。 ダンスパーティーですか。 女装したアザナと最初に踊るんですよねw
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