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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第2章 不和と重奏

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見当違いの探索者

「すまない、全裸以外は帰ってくれないかっ!」

 休日明けの昼休み――。

 ちょっと聞きたいことがあったので、素衣原初魔法研究会の会合に顔を出したら、イシャンがひどい剣幕で振り返り、オレを拒絶する発言をした。

 戸を開けた態勢のまま、あまりのことにオレは硬直する。


 友達おためしサービス期間終了ですかぁ?

 延長の手続きしないといけませんかぁ?

 先日の竜兵協力のお礼、家を通してやったのがいけませんでしたかぁ?

 やっぱ脱がないとダメですかぁ?

 上だけなら――


「あ、ああ、すまない。ザルガラくん。キミか。ちょっと会合で気が立ってしまっていてね」

「お、おう、そうか」

 全裸のイシャンが、額を押さえながら冷静になろうと頭を振っていた。

 会員たちも全裸なのだが、みな難しい顔をして座っているので、異様ながら一種の真剣さがある。


「なにかあったのか? イシャン先輩」

「いや、つまらないことなのだが、脱ぐ順番は上からか下からか、最後は靴下にすべきか、パンツにすべきかで意見がまとまらなくてな」

 本当につまらないことだった。


「ランズマでの経験は非常にためになったよ、ザルガラくん。カタラン卿の話は聞いたかね?」

「ああ、すっかり元気になってるそうだな。あの筋肉」

「うむ、そうだ。それからカタラン卿は、なんと、キミの使っている『極彩色の織姫』と同様の魔法を編み出したようだ」

 あー、そういやあの時も、いつの間にかパンツ履いてたが、魔法で作ったのか。

 さすが英雄カタランだ。いや、まあうーん、さすがって言っていいのか?


「それでちょっと研究してみたのだが……。ザルガラくん。キミの使う『極彩色の織姫』だが、構成物質はどこから出しているのかね?」

「そりゃ、魔法でほとんど作ってる疑似物質だが」

 疑似物質は4属魔法など、火水風土を生みだす触媒にもなる。

 4属魔法で水を作り出す場合、まず魔法から疑似物質をつくり、それを水などに変えている。

 これを応用して繊維物質を作り出している。


「ほとんど、ってことは残りの物質は?」

「ああ、それは魔法をかけた対象者の放出してる魔力を使ってる。これがないと服のサイズがぴったりにならないからな」

 対象者のサイズをいちいち測るわけにはいかない。なので、生命維持のため常時放出してる僅かな魔力をまず疑似物質にかえる。そこを起点に服を構成していけば、ぴったりサイズとなるわけだ。 


「やはりそうか」

 納得した。と、全裸のイシャンたちはうなずいた。

 ところでオレ、なんか普通に全裸のヤツラと会話してないか?


「いやね、カタラン卿が元気になった理由は、そこにあると踏んだんだよ、私たちは」

「どういうことだ?」

「常時放出の魔力を疑似物質に変換するときに、僅かながらだが身体の内部から『澱』のような魔力も引き出しているのではないのか? ――と」

「なるほど。そういや、余分なのや体質に合わない魔力を常時放出してるって説もあったな」

 余分なモノで服を作る。改めて考えるとなかなか合理的な魔法を作ったな、オレ。


「それでだ、それを一瞬で脱ぎ去ることにより、内部に繋がった澱も一緒に脱ぎ去っているのではないのかと、推論しているのだ」

 余分なモノを脱ぎ去る。改めて考えるとひどく業の深い魔法を作ったな、オレ。


「そこで、さらに深く考えた。私の『美、すなわち素肌』は、一瞬で脱ぎ去る。ようで、実は順番だ! この順番によっても、大きく効果が変わるのではないのかと思ったのだよ!」

 …………。

 ……。

 あー、アジトに何を持ち込もうかなぁ。まずは収納関係かなぁ。放課後、ペランドーと相談しながら帰るか。


「やっぱり患部のところから脱ぐべきだと思いますよ、会長」

「いや、最後まで残すことにより、そこに澱がもっとも残るのではないかと思っているぞ」

「イシャン会長! 澱がある部分が最後まで残ることで、なにか問題が出るかもしれません! ここは健康なところを最後まで残すべきだと」

「患部に止まってすぐ溶ける。という服を作るというのはどうでしょう?」

「いや、形式美だ。なにがあろうと靴下を最後!」

 なにやらまた談義が始まったようだ。

 こいつら全裸健康法研究会になってんな。


「あ、じゃあ、忙しそうなんでオレ、これで失礼……」

「待ちたまえ、なにか用があったのだろう?」

「いや、あとで――」

「我々もちょうど『極彩色の織姫』の術式を教えて欲しいところだし。ささ、入りたまえ」

 なんか全裸の人たちに、どうぞって言われて部屋に入るの抵抗が……おい、こら中央に椅子を用意するな。

 ん? 待てよ。


「ああ、じゃあ簡単だし先輩方ならすぐできんだろし――」

 オレは先に服を着せる策を思い付く。

 本来、手帳や服の文様など、身に着けた二次元の魔法陣で発動できる『極彩色の織姫』だが、いまここにいる全裸は全裸なのでその方法はできない。

 素体ゾムで五角形を描き、その頂点を結んで星を描いた。いわゆる五芒星だ。


「おや? 一枚の五芒星で出来るのかい? この魔法は」

「鎧つくるわけじゃねーしな。立方体陣使うほどでもない」

 素体の五芒星内に、数値と呪文を描き、これで完成だ。あとは魔力を注ぐだけで発動する。


「これが術式。各自、模写して試してみてくれ」

「よし、やってみよう」

 オレの投影した魔法陣を解析しながら、先輩方も投影を始めた。

 各々描く速度は違ったが、全員が魔法を発動させ、無事に同じデザインの服を身に着けた。


「ほう。あとは数式をいじれば色や服を変えられるわけだな」

「そういうこと」

「じゃあ、さっそく……」

「いやまて、いま脱ぐと、またさっきの談義みたいになるだろ? ちょっと聞きたいことあるんで、それ先にすませていいか?」

「うむ、そうだな。あとでじっくりと実験しないといかんし、集中したほうがいいだろう」

 よし、作戦成功である。みな服を着たままとなった。

 オレもこういう手が上手くなってきた。やっぱ、真正面からぶつかるばかりじゃいかんな。

 

 イシャンも今は脱ぐべきではないと思ってくれたようで、自分の椅子に座ってくれた。


「では、なにについて聞きたいのかな?」

「ああ、ちょっとステファン・ハウスドルフの事を知りたくてな」

 ステファンの名を出すと、イシャンが微妙に顔をしかめた。


「キミはアザナ君以外には興味がないと思ったが」

「あん? アザナがなんの関係――」

 あ、またなんか勘違いされてるのか?


「ちょっと待て。オレが興味あるのはアザナだけだ。ハウスドルフはな、ちょっと昨日、スラムで騒動を起こそうとしてて、何かあるんじゃないかと調べをいれているだけだ」

「あー、そういうことか。やっぱりね」

 納得してくれたようだ。まったく、オレがステファン自身なんかに興味持つかよ。

 ん? なんか引っかかるが――まあ、いい。


「昨日、東の放棄遺跡あたりにいったんだが、ハウスドルフがスラムのチンピラと揉めてたんだ。新品の剣を腰にさげて、5人の男に囲まれてた」

「それは確かに珍しい」

「やっぱ、そうか? オレの印象でも、そういうことするヤツには思えなかったんだが」

「私も親しいわけではないが、彼はトラブルを起こすタイプではない。騒ぎを起こすこともしないだろうし、騒ぎに首を突っ込むような人物ではないね。わざわざスラムに行くというのも、おかしいな」

 イシャンの印象でも、ステファンの行動は奇異に思えるらしい。

 会員の一人も、声を上げた。


「俺、ステファンと同じクラスなんすけど、いつも静かっていうかかっこつけて、騒ぎに近づかないって感じだったぜ」

「そういえば、先週あたりだったかな? ステファンの様子がおかしかったな」

 短髪の会員。ジャンニー・チェンバーが腕を組んでいった。

 イシャンも興味を示す。


「と、いうと? 具体的には?」

「ええ、なんかね。大荷物を抱えて早退していったんですよね。あいつが小走りになるなんて、初めてみましたよ」

「マジかよ、あのカッコつけが?」

「ハウスドルフの小走りかぁ。やべぇ見てぇ~。ジャンニーも、珍しいもんみたなー」

 確かに想像できないな。あのクールでございってツラが、大荷物抱えて小走りとか。


 それから少し探りをいれて見たが、特に目新しい情報は手に入らなかった。

 付き合ってそうな女子生徒の話もでたが、どれも噂だけらしい。


「助かりましたよ、先輩」

 時間もあるので、オレは話を切り上げた。


「ああ、我々も『極彩色の織姫』のお陰で、研究が捗るよ。ありがとう」

「なんか、マジで研究してんだな」

「うむ、マジで全裸を研究している」

「そ、そうか。じゃ、じゃあこれ以上、研究の邪魔しちゃ悪ぃから」

 オレはさっそく全裸になろうとしているヤツらから、逃げ出すように部屋から出た。


 午後の授業まで少し時間があるが、ステファンの事をもう少し調べてみようか?

 しかし、直接調べるにも、アイツが古来種カルテジアンの使う魔法で探知妨害をしていたら困る。

 

「うーん」

 オレは熟考しながら、魔胞体陣を投影した。

 簡素の正5胞体陣だ。胞体陣の中では異質で、まあまあ単純な胞体だ。


「とりあえず、やるだけやってみるか」

 探知妨害されているなら、それがどういうモノか調べる価値がある。オレがやっていると分からないように、学園にあるそこらの魔法陣を書き替え、これを使ってステファンを調べることにした。

 学園が用意した警備魔法陣をいくつか乗っ取り、それをステファン監視用に書き換えた。


 これで少しは調べが進むだろう。


 などと学園の各所で仕掛けをしていると――。


「ちょっと、いいかしら? ザルガラ・ポリヘドラさん」

 小生意気そう腕を組むユスティティアが、オレを呼び止めた。 


 バッ!

 オレは咄嗟にアザナの姿を探した。


「アザナ様はいらっしゃいませんわ。教頭会に呼ばれています」

「なーんだ」

 残念。

 ユスティティアだけか。


「はぁ、本当にあなたはアザナ様の事を……」

 ユスティティアは額を抑え、なにか呟いている。


「で、なんかオレに用か?」

「ええ。私の弟――ユールテルを知らないかしら?」

「おまえの弟か? いや、ここ数日会ってもいないぜ。ん? ……あ~、そういや練兵場で見かけてもいねぇな」

「……そうですか」

 明らかに肩を落とすユスティティア。

 オレはユスティティアの訊ね方に疑問を感じた。ちょっとそこで見失ったとか、そういうカンジではない。

 なので、面倒だが確認を取ってみる。


「ユールテルがどうした?」

「それが――。いえ、知らないのでしたらいいのです。呼び止めてすみませんでした」

 ユスティティアはそう言い残し、きびすを返して去ってしまった。


「姉弟喧嘩でもしたのかねぇ~」

 立ち去るユスティティアの後ろ姿を見送り、すぐにこの事を忘れてしまった。




 そう。オレはまだ、事の重大さに気が付いていなかった――。



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[一言] あの、すいません。もしかして東方知ってます?
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