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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第2章 不和と重奏
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大可人

 夕刻前の王都。

 王国の騎士を務める軍人たちが、多く住まう区画。

 その一つの邸宅に、ステファン・ハウスドルフが帰宅した。

 彼の自宅は、小さいながら庭もある、軍人らしい簡素な住宅だ。

 先祖代々、この地で軍人を務め、騎士として功績を重ね、王国から賜った邸宅である。 


 ステファンは歴史ある屋敷に帰宅すると、疲れたと両親に一言残し自室へと入った。


 ステファンの部屋は異質という他ない。

 暗い。

 暗闇の中に、部屋を作ったのではないか? 

 そんな印象の不気味な部屋だった。

 

 窓を塞いだ真っ暗な部屋の中央。

 うっすらと見えるベッドに、身動き一つしない人影があった。

 ステファンは部屋の戸を閉じ、小さな明かりを灯す。

 

 中央のベッドには、エンディアンネス魔法学園の制服を着せられた、可愛らしい子供がいた。

 銀色のアンシンメトリーな髪、いたずらっこのような無邪気な瞳、何もかも許してしまいたくなる微笑。


 だが、その子供は動かない。

 その子供に向かって、ステファンは野獣のごとく襲いかかった。


「あああっ! うあああぁあああぁっ! アァザナきゅぅぅぅううん! クンカクンカ、怖かったよぉぉぉっ! 会いたかったよぉっ! ごめんね、一人にさせてぇっ! でも僕も寂しかったよぉおっ! ハァハァ……、ああ、アザナきゅんの制服に残る香りぃぃぃっ! クンカクンカ、クンカクンカ!」


 ステファンは変態だった。


 アザナの生き写しのような人形に抱き付き、ベッドの上を転がって床に落ち、そのまま転がって部屋の隅までいってしまう。


「聞いてよ! アザナきゅぅん! 今日は酷い目にあったよー! 剣を受け取りに行ったら道に迷うし、変な人たちに絡まれるし! しかも、しかもだよ! あの怪物まで僕の前に出た時は、死んじゃうかと思ったよぉ~」

 ステファンは、ガチで道に迷っていた。

 チンピラに囲まれたときは、何もできないでいた。

 背後から襲いかかられようとしたとき、彼は土下座しようとしてた。

 ザルガラに挑発されたときは、腰が抜けそうになっていた。

 ペランドーが声をかけなければ、気を失っていた。

 ステファンはダメな子だった。


 あと、アザナ人形に着せている制服は、彼が決死の覚悟で盗み出した脱ぎたての制服(パンツ無し)である。

 大多数の人には要らない情報かもしれないが、この人形には新品の女性物パンツが履かされている。

 しかし彼の変態性を強調するために、提示が必要な情報だ。

 なお、ステファンの気分で男性物パンツが履かされる場合がある。

 しかし彼の変態性を強調するために、まことに遺憾ながら提示が必要な情報だ。

 なおパンツはいずれも新品未使用が利用されているので、一応は安心して欲しい。

 今、この程度で「よかった」と安心した人は、ちょっと感覚がマヒしていると自覚して欲しい。


「でも大丈夫。僕は君の前以外じゃ死なないよ。僕は君を抱いたまま、バラの中で眠るように死ぬんだぁ。ああ、もちろん君を残して死なないから、僕は不死身なんだよ、クンカクンカ!」

 もうダメだった。

 ご両親はすでに諦めていた。


 ごろごろと転がり、ベッドの端まで戻ってくると、ステファンは人形を抱きかかえてベッドの上に戻る。


「ああ、運命って素晴らしい。なんで魔法の才能がない僕が、魔法学園なんかに……と、思ってたけど、それは君と僕が出会うための試練だったんだね! うん、僕は性別も乗り越えられる! クンカクンカ」

 それは基本的に、乗り越えてはいけない。乗り越えていいのは、正しい愛を持つ者だけである。


 再び彼は回転を始め、ベッドから落ちて逆側の壁まで転がっていった。

 なんのためにベッドの上に戻ったのか?

 誰か人がいたならば問いたかっただろうが、結局は誰も問わないだろう。ただ冷たく汚物を見る目で、彼を見下すに違いない。


「僕は素体ゾムを投影するのが精いっぱいだけど、パズルだけは得意なんだ。あれがなかったら、僕は本当の落第生だったなぁ。そうなったら、僕は君と出会えなかったんだ。パズルが得意で良かったよ。パズルが、バラバラだった僕と君の愛を、1つにしてくれたんだね!」

 本当は、パズルなんてものじゃない凄いことをやらかしているのだが、彼は分かっていない。

 人を越えた領域の能力が、彼の中に潜んでいた。

 だが仮にステファンがそれを理解しても、通常の古式や新式魔法には全く役立たない。

 やっぱりステファンはダメだった。


「ああっ! アザナきゅんの服に汚れがぁあああっ!」

 盗んだ服は洗濯できない。洗濯すれば、その香りが失われてしまう。

 だったら床を転がるな、と誰かが見ていればツッコむだろうが、結局は誰もがツッコめないであろう。

 あのザルガラですら、ツッコミに躊躇ちゅうちょするに違いない。

 いやザルガラはツッコミを友情と勘違いしてるので、あえてツッコまないだろう。


「そうだ! 図書室の新書コーナーに、失敗魔法として、匂いが残ってしまう洗浄魔法があったはずだ! 新式だから、僕でも使えるぞ!」

 ステファンは翌日の朝、さっそく図書室の新書書庫へと向かう。

 

 本来ならば、彼はそこで古来種カルテジアンの再現魔胞体陣を手に入れるはずだった。

 だが、なんの運命の掛け違いか、ステファンはもうそれを手に入れる事はない。

 

 新しい運命は、すでにユールテルという少年を餌食にしていた――。



 

朝に変態を投入するスタイル。

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