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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第9章

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完売御礼!鳩の集合住宅


「あのぉ~、サード卿? 一応、アレらは領の資産なので、破壊というのはお控え願えませんか?」


 ジュン・ドーケイ代官から、暴走ゴーレムの排除をやんわり止められた。

 破壊して解決するとは思ってないが、面倒だからご破算するとサード領が破産してしまうことに、オレは恥ずかしながら気がついていなかった。

 不得意ながら雑用や労役用のゴーレムならいくらでも造り出だせ、ゴーレム生産速度が高いオレとはいえ、大量生産したら原材料の分でが出る。

 

 それに原因がわからないと、せっかく作ったオレのゴーレムも暴走する可能性もある。これもまた無駄な出費だ。

 ひとまず一体確保してマナーハウスへとたどり着いた。


 本来、マナーハウスは住民たちが集うため町の近くにあるはずだが、この領では郊外にあり、鉱山町も農村もやや遠い。わずかに視界に入るだけだ。

 ただ中間地点にあり、行政と互いの利便性を取った立地のようだ。


 マナーハウスの敷地内に入ると、すぐに馬車を止めさせて降りる。


 ガタガタぷるぷるひゅーひゅーカチャカチャと不気味な動きをするゴーレムを、縛り上げたままオレが作ったモノゴーレムで運ぶ。

 

「コイツはどこに運んだらいい?」

「え、ええっとどこがいいかしら。ああ、鍛冶の作業小屋が今、空っぽなの。でも…………そこでいいかしら」

「空っぽ? ……ああ、町にも鉱山にも鍛冶屋がいるから、専属の鍛冶はここにはいないのか。なら、むしろそこがいいだろう」

 代官は領主であるオレを、応接室や執務室ではなく作業小屋へ最初に案内するのは気が引けたのだろう。申しわけなさそうな顔で、粗末な小屋を指している。


 だが、オレは最適だと判断した。

 マナーハウスからちょっと離れた野鍛冶の作業小屋は、便利であり、何かのとき被害が少なくなるだろう。

 作業小屋の粗末で薄っぺらい大きな扉を開けてもらい、モノゴーレムで暴走ゴーレムを放り込む。

 途中でオレのモノゴーレムも暴走するかと心配したが、そんなことはなかった。期待外れな気持ちもあるが、とりあえず安堵してモノゴーレムは解体する。


「あのぉ、先輩。次は荷馬車を用意してから、暴走ゴーレムを運びません?」

 不気味にも女の姿を模した暴走ゴーレムを、火のついていない炉に縛り付けるのはなんだかなぁ~などと考えていたら、アザナが辛そうに申し出てきた。


 アザナとティエが馬車に乗らず、先にマナーハウスへ向かったのは、馬車嫌いのオレを理解してのことではない。

 確保したゴーレムと同乗したくなかっただけらしい。屋根の荷台に括り付けてるから見えないのに。


「なんだよ、これくらい。タルピーなんてゴーレムと一緒に踊ってたぞ」

『え? 上にいたのは、みはっておいて、って言われたからなのに』

「え? 踊ってなかったの?」

 一瞬で否定されてしまった。

 タルピーならどうせいつものように踊っていると思っていたが、あまりいい顔をしてない。


「オマエも不気味に見えるのか、コレ」

『うごきが変。あわせられない、ノれない』

「ああ、そういうことね」

 暴走ゴーレムの動きそのものがお気に召さなかったようだ。

 なるほど、たしかにリズムや法則はあるようだが、あまりいいものではない。さしものタルピーも、踊りの調子を崩されたようだ。


「じゃあタルピーはもう見張りはいいから、そこで踊っていてくれ」

『てきざいできしょ!』

「おう、適材適所だなっ! よし、楽しい解体の時間だ。で、アザナ。どこから取り掛かる? 選ばせるぞ」

「ぃ、嫌です」

 アザナが怯えるように肩を竦めながら遠慮した。

 なんだ?

 せっかくだから、今回は好きなところを選ばせようと思ったのに。


「なんだよ、いつもなら呼ばなくても追い払ってもボクの物っていって、奪い去る勢いなのに」

「ええぇ……? 本気で言ってるんですか……」

「そうか、本気で嫌なのか」

 小さくなって可愛らしく、だが露骨に嫌な顔を見せるアザナを見て、やっと身に染みて理解した。

 表面上だけ大げさにキモチ悪がっていると思ったのだが、これは本気のようだ。

 ……そういえば。

 去年の騒動――。ステファンが造ったよくできたアザナの人形を思い出す。香りすら再現されたさらさらの栗色の髪。張りがあるのに柔らかそうなまつ毛に、魂でも込められているのではないかと勘違いさせられる瞳……って、なんでそこまで思い出す! というかなぜそこまで細かく思いだせるんだ、オレ!


 ――あー、まあとにかく。 

 自分の姿写しである人形のせいで、あの手の造形物が苦手になっているのかもしれない。


「わかったよ。オレがやるから、オマエは休んでな」

「そ、そうさせてもらいます。な、なに笑ってるんですか、ザルガラ先輩!」

 アザナが怖がりながら、作業小屋の扉に隠れてこちらを伺う。その姿にアザナの弱さを見つけたと、嬉しくなって笑ってしまった。

 なんとなくわかったことだが、アザナは学究的ではない。嫌悪があっても調べる学ぶ実践するという心掛けがない。それを苦としない性格を持っているわけでもない。

 興味のあることには貪欲だが、知識欲や向上心が何事にも優先されるわけではないようだ。


 せっかく2人で一緒に調べものが出来ると思ったのに……。

 弱みを見つけたが、それも嬉しさ半分だ。

 

「さて、と。じゃあアザナはそこで見てな」

 おっかなびっくりでこちらを伺うアザナに背を向け、暴走ゴーレムに仕込まれた胞体石を解析する。

 かさかさカチャカチャと、人に似た顔でありながら人とは思えない動きを見せる暴走ゴーレムの胸に、高次元化しているオレの右手を突き入れる。


「これはっ! ゴー○ドクラッシュッ!?」

「え、絵面がヤバいわねぇ」

 アザナがわけのわからないことを叫び、ドーケイ代官は顔を顰めた。


   *   *   *


「何かわかりましたか? 先輩」

「オマエがなんでお茶飲んでるのかがわかんねぇよ」


 暴走ゴーレムを調べ終えてマナーハウスの団欒室へ入ると、そこでは侍女姿をやめて普段着になっているアザナがいた。

 マナーハウスの侍女からお茶を受け、茶菓子にまで手を出している。


「着替えたってことは、もう本格的に寛いでるだろ、オマエっ」

「てへ。毒見は済ませてありますよ」

「お、おう……」

 ソファに座ろうとしたら、アザナがカップを差し出した。

 あれ?

 それはオレ用なのか?

 カップは一つしかないが、それをオレが飲んで……いいのか?


「ザルガラ様のカップはこちらです」

 ずいっとティエが割って入り、熱いお茶の入ったカップとソーサーを差し出す。


「お、おう。あぶない、間違うところだった」

「それはどっちの意味で間違うなんでしょう?」

 惑わされるところだった。額を拭いながら席に着き、正しくオレのカップを手に取ると、ドーケイ代官が心底不思議そうに言った。

 

「それで何かわかりましたか、先輩」

 オレに渡さなかったカップに口を付け、一息ついてからアザナが問いかける。ドーケイ代官は台詞取られたという顔をしていた。


「ああ、だいたいわかった。かなり大容量の魔法陣が代入されていて、動作命令の制御にまで障害が及んでいるようだ」


「どういうことなのでしょうか?」

 ドーケイ代官は内務官向きだ。騎士という武官だが剣が得意というわけではなく、魔法が得意というわけではない。文官だが肩書が騎士となる王国面倒くさい。

 アザナとティエは理解しているようだが、確認を兼ねて代官に説明する。


「雑用とはいえ、ここのメイドゴーレムはかなり容量のある胞体石を使っているようだが、あとから組み込まれた術式があまりに膨大で、暗号化して圧縮しているようだが衝突・・を起こしている」


「あのぉアタシあんまり胞体石を使ったものに詳しくないんだけど。圧縮して入らないようなら、入らないんじゃないかしらぁ」


「総容量の少ない魔具に同量程度でぎりぎり入らない情報ならそうなるな。だが大容量だと圧縮された術式がいくつか入るので、それらが衝突・・する……。まあ技術的なことなので省いてもいいし、鳩の巣原理で説明してもいいが……」

『なにそれ? おもしろそう』


 踊りをやめていたらしいタルピーがたまたま耳にし、鳩の巣原理に興味を示した。


「n+1羽の鳩たちにn個の巣箱を与えると、最低一つは二羽いる巣箱が存在……。あー、すまんすまん。タルピーにもわかりやすく言えば、巣箱が10箱しかないのに、鳩が11匹いたらどれか一つには2匹入れない限り収まらないだろ?」

『それならわかる』

 発熱していたタルピーの顔が、ぱっと明るくなった。熱が概念的な明るさに変わったかのようだ。


「で、そんな集合住宅状態の巣箱が一個の術式だとしたら、術式が増えるたびにそんな状態の集合巣箱が増えてくる。数個の術式なら同じ住み方をした集合巣箱はまずないだろうが、そういう状態の集合巣箱が多くなれば多くなるほど、まったく同じ振り分けがされた集合巣箱が出てくる可能性が増えてくる」

『ふ、ふんふん、なるほどー』

 ぎりぎりわかっているかわかってないか、そんな顔のタルピー。


「集合巣箱がAからZZZ棟まであるとして、A棟の集合巣箱の住鳩と、ABC棟とXBC棟の集合巣箱の住鳩の構成がそっくりだ。住鳩構成で集合巣箱を識別なんてことをしていた場合、訪れる人が集合巣箱を間違えるかもしれない」

『なんとなくわかった。でもなんでそれでぼーそーするの?』

 

「容量を少なくするため膨大な目次ページの項目や見出しも暗号化しちゃったら、それが上の理由で同じ見出しになる可能性もでてくるってことだ」

『…………あー、むずかしくてながーい名前の貴族さまがいっぱいいて、それぞれちがっていても、パーティで呼ぶ人たちがおおければ同じあだ名の子がでてきて、あだ名で呼んだら何人もふりかえっちゃうてわけだね?』

「すげぇな、タルピー。わかってるじゃねぇか」

『とうぜーん』

 独自の理解をしたタルピーを素直に褒めると、タルピーが鼻高々とばかりに胸を張る。張ったところに高いモノは何も存在しないが。

 

「それで……それが暴走の原因ですか」

 タルピーが理解し満足したところで、アザナが訊いてきた。


「ゴーレムの暴走っという意味ではそれが直接の原因だが、大元の原因ってわけじゃない。」

「ただの事故とは思えないし、暗号化という作業が挟まれている以上……誰かが仕込んだわけね」

 責任があるため、ドーケイ代官が難しい顔をして腕をこまねき考え込む。


「見たところ、別のゴーレムは暴走してないようだし、このメイドゴーレムをねらっているのか。犯人に心当たり……なんて、そうあるわけもないだろうし、なんであんな形に造ったか。その理由を訊いておくか」


 人間のようで人間ではない。

 かなり人間には近いが、どうあっても人間に満たない姿形をしたここのメイドゴーレムは特徴的だ。

 それが理由、それをねらって、ということも考えられる。


 拱いていた腕を解き、代官は呆れたように手を頬に当てて答える。


「ここって男所帯でしょぉ? どうしても女っ気が欲しい方々ばかりで。ほんとぉ男ってしょうがないわよねぇ」

「そんな理由で造ったのかよ。ていうかオマエも男だろ?」

「そんな、アタシを一緒にしてくれるなんて……」

「喜ぶな! 擦り寄るなっ! 手を握るな! あ、いてっ! なんでつねるんだよ、アザナ!」


 左の代官は明確に避けたいし、右のアザナはなんか悪戯以上暴力未満で怖い。

 椅子から立ち上がり、なんとか二人を振り払う。

  

「まったく愚かな領民たちだぜ。女が日照りだからって、作り物に頼るとか」

「ほんと、愚かよねぇ。せっかくアタシがいるっていうのに、ここの男どもは」

「賢明な領民たちだな」

 手のひらを返すオレ。

 この代官に逃げるくらいなら、ゴーレムのほうが健全でマトモ……でもないかな。

 ええい、どっちでもいい。


「ああ、そういえば……」

 代官解任してやろうかと考えていたら、擦り寄ってきていたドーケイが離れて何か思いつく。


「犯人には心当たりはないけどぉ、実はあれらゴーレムに、新しく買った魔具が共通して組み込まれているはずよ、たしか」

「どんな魔具だ?」

「ええっと詳しくは造り手や整備の人を呼んでみないとわからないけど……たしかゴーレムを少しでも人間らしい動きにする魔具? そんな売り文句だったかしら?」


 モノゴーレムよりは精細な動きのできるメイドゴーレムだが、それでも動きは人間と少し違う。

 洗練されたプロの動きとも違う、正確過ぎる動きとでも言おうか。


「あれ? もしかして」


 どこから買ったのか、尋ねようと思ったらアザナが何かに気が付く。


「ドーケイさんって、もしかして……。去年販売始めたんだけど、今までぜんぜん売れてなかったボクの魔具を買ってくれたの? お買い上げありがとうございます! これでおやつが食べられます!」

 

「どんだけ売れてないんだよ。それはともかくよし、そうか。オマエが犯人か。逮捕だ」

 領主となったオレは、自領に限り逮捕権がある。まあ、アザナは子爵子息なので適用できないが、それでもアザナの手を掴む……あれ?

 意外と簡単に捕まってしまった……。

 どうせかわすだろうと油断? していたらあっさり…………なんかすげー熱い手だな。


「待って、冤罪」

 降参という意味か、アザナは両手を上げた。

 あれ?

 じゃあ、この手はダレ?


『あたいの』

 タルピーのか。そりゃ熱いわけだ。

 

「すりかえておいたのさ」

「魔法も使わず器用なことをしやがって」

 してやったり。という顔で、アザナは無意味にどこからかカードを何枚も取り出し、馬車の床にバラバラと落とす。


『しぇいくはん、しぇいくは~んっ♪』

 手を握られたのが嬉しかったのか、タルピーが踊りながら積極的にオレの手を握ろうとするが……やめろ、今、めっちゃ熱くなってるだろ、オマエ!

 万能に見える防御胞体陣も、光とか熱とか音とかフレンドリーファイヤとか背後からとか死角からとか胞体の内側からの接触に弱いんだよ。まあ熱は分かっていれば防ぎやすいほうだが……って、あれ? 弱点、結構あるな。万能じゃねぇや。


「で、アザナからじゃないって、その魔具は誰から買ったんだ?」

 熱耐性を上げ、タルピーのシェイクハンドからの頬に全身ハグを受けながら、代官に購入先を尋ねる。


「ごめんなさいね、アザナ様。買ったのは共和国の職人からなのよ」

 さっき急に高次元化したタルピーが見えない代官は、オレがなんで顔を引きつらせて汗をかいている理由がわからない。少し怪訝に思ったようだが、すぐに自然な女の仕草に戻って答えてくれた。


「ほら、冤罪」

「それはそれでオマエの商品、売れてないってことだけど、いいのか?」

 この報告は金欠なアザナにとってショックだった。

 冤罪で喜んでいいのか、複雑な表情で「むぅ……」と唸ると黙ってしまった。


「で、アザナの商売はともかく、共和国の魔具を買ったのか?」

 たしかに交流のあるアポロニアギャスケット共和国だが、関係が良いとは言い難い。取引も慎重を喫するべきだ。結果論だが、領内に被害を出したのは代官として失態だろう。 


「信用できる商人を介してよ。それに中央の許可は得ているわ」

「それが事実ならあまり追及はできないが……」

 むしろまたルジャンドル中央官の責任で寿命を縮めそうだ。そういう意味でも、追求の手を緩めたくなる。


 だが早くも犯人が絞られたかもしれない。


 まだ断言しては早いが、少しづつでも進展するのはいいことだ。

す、少しづつでも進展するのはいいことだ……(リアル事と物語的な意味で)

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― 新着の感想 ―
[一言] 領民「もうドーケイ代官でいいや」ってなったら末期ですねw 領民「もうドーケイ代官がいいや」ってなるまえにザルガラが終わらせてあげて下さい。
[良い点] 推理とすり替え手品と、 アザナの嫉妬と なによりザル様がカップのやり取りで間接キスの可能性で間違えそうになったやり取り。 (ほらザルアザやん!! アザナの誘い受けテクニックや! そしてそ…
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