表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第9章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

265/373

アンの才能 密偵の能力 もう一つの影

一回、短く刻みます。


「ザルガ……サード卿は出かけられた?」

 空中遺跡の区画解放を任せられている冒険者チーム。白銀同盟のメンバーたちは、雇い主であるザルガラの急な出立に驚いた。

 大回廊からパーティ会場を覗けば、使用人たちの慰労会も主人が急用で出かけたとあって、お開き気味となっている。


「はい。畏れ多くも陛下より賜りし御領において、煩慮ありとの報告を聞き、取り急ぎお出かけになられました」

 このごろ侍女の振る舞いも板についてきたアンが、白銀同盟に応対していた。

 新参の上に、地位も後ろ盾ないのに優遇されているアンだが、今回ばかりは事件ということもあり置いていかれた。


「それで飛んでいった(・・・・・・)と?」

「はい。情報、御報告、御要求などわたくしがお聞きして差し支えない事柄であれば、代わって承ります」

 アンはなかなか堂に入った態度で、白銀同盟の強面たちに答える。

 

「いや、大丈夫だ。定期報告だからあとで書面にまとめるよ」

 兜で蒸れた頭を掻きながら、強面の冒険者は引き下がる。

 本当は書類仕事などしたくない白銀同盟の面々であったが、なにかと忙しいであろう留守居役である侍女の手を煩わせては悪いと気を使った。


「じゃあ、アンさんはお仕事に戻ってください。自分たちは居住区に戻りますので」

 制御魔具が設置された中央区画が解放され、自在に動かせるようになっている空中遺跡だが、まだまだ未解放区画も多い。【白銀同盟】と冒険者チームの【西方の風】はここに泊まり込み、文字通り遺跡解放に明け暮れていた。

 休養も遺跡内部で済ませているほどだ。


「かしこまりました。区画の居住性を高めておきます」

 アンは遺跡の留守居役。つまりザルガラいない時の管理を任されている。

 大抜擢だ。

 魔法の才能が乏しいアンであったが、父であるターラインと同様に、とある特化型の才能があった。

 その才能とは魔具の取り扱いである。

 

 未知の魔具は苦手だが、使用方法が周知されている魔具であれば、すぐに扱い方を覚えることができた。さらに遠隔から最善かつ有効的に、魔具を使用できる。加えて手足のようにこの空中遺跡を、内部にさえいればどこでも自在に操縦できた。


 居住区のゴーレムとリモートコントロールの端末魔具を利用して、部屋の室温をそれぞれ最適にし、掃除とベッドメイクまで念じるだけで行えるほどだ。


 大湖と近海を回遊するこの遺跡を、王都近くまで運んだのも彼女だ。

 ダイアレンズを持つティエや、そこそこの魔法が使える家令のマーレイでも出来ないことである。

 抜擢も当然であった。


 ザルガラを除けば、ただ一人のこの空中遺跡を使用できる人物だ。


 なお、許可を得ず端末魔具無しでアザナもこの遺跡を操作できるが、正式な持ち主ではないためやったら違法である。

 ちなみに一回やった。

 

 アンは突如として制御を奪われ、責任を感じて泣いたし、珍しいことにザルガラがわりと本気めに怒ったので一回だけではあるがやった。

 困ったもんである。


 白銀同盟のメンバーたちが、昇降機で居住区画へ向かっていく。


「ふぇーん、つかれたー!」

 メンバーたちを見送り、アンは居住まいを崩してドッと溢れた冷や汗を拭う。

 彼女の侍女としての振る舞い、言葉使い、対応などは、全て空中遺跡の補助あってのことだ。所作は指先まで矯正され、発言と対応は最適と思われる文章が視界に浮かぶ。

 つまりカンニングである。


 読み取りの手間と、矯正には多少のラグがあるため、緩慢な挙動となってしまうが、それはそれで熟練者の重みにも見えた。


「遺跡の補助は助かるけど、これに慣れたらで困るよねぇ」

 

 遺跡から離れると、さすがにこれら補助の特典は得られにくくなる。場合によっては、まったく恩恵を受けられないだろう。

 参考程度にしようと、アンは自戒を決めて本来の仕事に戻った。

 

   *   *   *


 遺跡の制御区画に繋がる昇降機に乗り込むアン。

 この様子を伺う二人の男女がいた。

 共和国から送り込まれている密偵のジュールとナインだ。


 セキュリティ用の魔具こそあるが、二人は臨時とはいえ正式に雇われた給仕である。

 ある程度、自由に遺跡の中を移動でき、重要施設でもないかぎり立ち入りも許可制ながら可能だ。しかも、正式な仕事であれば、その重要施設にも出入りできる程度のパスを持っていた。


 密偵として優秀な彼らは、共和国のバックアップ無しで正式な潜入を成功させた。

 人というシステム……つまりソーシャルな問題を利用されて内部に潜り込まれると、遺跡の警備システムは意外と弱かった。

 人手不足で人間の警備が少なかったのも、彼らの活動を助けることとなった。


 もっとも警備にこうした穴があるのは、臨時雇いをしなければならない「今」だけだ。今日のような特別で忙しいイベントでもない限り、空中に浮いているだけで普段は潜入が難しくなる。


「……あの穴堀りの娘。うまく陽動をしてくれたようだな」

 没落したとて共和国の貴族。わずかに他種族ドワーフを見下す発言が漏れた。

 それとも密偵としての心構えか、名を出さずに情報漏洩を最小限に抑える会話術なのか。


「ザルガラがいては警備が厳しくなるけど、あのアンって子だけなら、こうして盗み見も悟られないようね」

 ナインは自分たちに警戒の目が及んでいないことを確認し安堵した。


 ザルガラが遺跡を管理していた時、倉庫にこもっていたのにあっさりと発見された。

 アンだけでは、許可のないものの侵入等や、施設への破壊活動及びに遺跡の魔具の改ざん、盗難などしか感知できないだろう。

 ゲストの狼藉や被害なども、管理者アンだけでは見逃してしまう。


「じゃあ、いくぞ!」

 ジュールはそう言って、無意識に頭へウサギ耳を取りつけた。

 

「それや、やめて、兄さん、ウサギ耳はつけないで!」

 ナインは笑って腹が捩れそうな歩き方で、兄を追いかける。

 

 優秀だが気持ちの逸る二人は、背後から見送る小さな影に気が付かなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ウサギは攻撃能力がない代わりに感知器官が優れている、といいますね。(麻雀漫画「兎」より、名作です!) だから密偵がウサ耳付けるのはおかしくないかと。
[気になる点] 使用方法が周知されてい「る」魔具であれば かな? [一言] アンの口調はティエによるスパルタと思ったら スマホで見ながら喋ってる感じか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ