表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第9章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

255/373

探さないでください


「探さないでください……だとっ!」


 休み時間。招待状を携えて2回生の教室へ乗り込んだら、目的のアザナはいなかった。

 付き人のフモセに事情を訊こうとしたが、どうやら彼女も休みらしい。

 素知らぬふりで逃げようとする……いや、見かけたヴァリエを捕まえて、アザナはどうしたと訊いてみたら、「探さないでください」の手紙を残し、昨日から姿を消したという話だった。

 フモセは主人の連絡を待つため、自宅待機をしているらしい。


「まさか、またマダンが……」

「それはないかとぉ」


 かつて、アザナの主導権を奪ったマダンという存在が、また集合体となって力を取り戻したのではと心配したが、ヴァリエはそれをあっさり否定した。


「ないのか?」

「マダンはちゃんと管理されていますので」

「そうか。まあ、そっちは信用するが……」

 ヴァリエの説明に、一応納得は見せておく。

 

 アザナたちが蛍遊魔たちを集め生活させている場所の状況を、オレはまだ知らない。マダンのことはともかく、後で案内してもらいたいところだ。

 それはともかく――。


「じゃあ、いったいアザナはどこへ」

「それは私たちも……」

 ヴァリエは困ったと顔を伏せたので、続けて残りの取り巻きについて尋ねる。


「アリアンマリと公女の姫さんはどうしてる?」

「家人や伝手を当たって、探してはいるそうですが、なにぶん昨日の今日なので……」

 ヴァリエの父の所属する王都騎士団も探してはいるそうだが、さすがに成果がないようだ。

 それに、どうやら遠話にも反応しないらしい。

 アザナが拒絶しているのか、妨害があるのか、もしかして意識がないのか……。


「く……。探さないでください、だと? まさか何か面倒なことに巻き込まれているんじゃ……」


 まさかと思うが、古来種の侵攻が早くも始まったか?

 近いうちにルドヴィコに乗り移っていた古来種から、上の次元について連絡がくるはずだったが、それより早く不逞古来種がこの次元に降り立ってきたのでは?

 アザナはまた、その事態に一人で立ち向かっているのでは?


「くそっ!」

 苛立ちまぎれに、何もない空間へ向かって魔力弾を盛大に放つ。

 教室内がざわめくが、知ったことではない。


 アザナのヤツ、どうしてたった一人を選ぶ?

 実力的な問題で、ユスティティアたちを巻き込まないのは分かる。

 だが、どうしてオレを数に入れない?

 オレは確実に、オマエの横に立てるはずだ。


「……せっかくザル様が用意していた、アザナの決戦時に仲間大集合で駆けつけ、みんなで共闘する作戦が無駄になりますね」

「ああ、そうだ。その時のために、軍資金をプールさせたり、巡回兵やら引退した騎士に協力したり、服飾ギルドに、防御陣を織り込んだ外套やら用意させて、ペランドーの親父さんの伝手でベテランの鍛冶屋に渡りをつけて、いざって時はオレの大切なアザナのために、と無理を頼むはずが……って、なにを言ってる、どうしている、なんで知ってるディータ!」


 オレの背後にいつの間にか、ゴーレム=ディータがいた。

 王女らしからぬことに制服の裾を乱し、慌てて走って来たような姿だ。

 そしてオレの秘密の計画を暴露していた。


「……濃厚な波動を感じたので」

 ディータが鼻息……あるのか、ゴーレムに鼻息?

 走ったせいで、肉体があったころの感覚に引っ張られた反応が出ているのだろうか?

 とにかく鼻息荒くわけのわからないことを言った。


「いや、オレが言ってるのはなんで学園に来てるんだ、ってことだよ」

 ディータは居住地を城に戻したので、最近は学園に来ていなかった。

 いや正確には、登校する必要がなくなった。

 以前は安全のためオレと登校したが、今は城にいればそっちのほうが安全だ。


 もしかして朝、馬車入り口が混んでいたのは、ディータが登校してきていたからか?


「教室には顔を見せなかったが、今までどこにいた?」

「……保健室」

「体調が……いや、ゴーレムの素体が調子悪いなら、そんなところじゃなくオレが調べるぞ」

 不調があっては大変だ、とディータに手を伸ばしたら制服の短套を脱いで逃げた。

 おい、脱ぐな。

 オレが剥いだみたいだろ! 


「……違う。特別に保健室登校を許された」

「そういう特別扱い?」

 どうしても学園に通いたいのか?

 短套を着せてやりながら、ディータの心中を測る。


 確かに高次元化で肉体消失という事態が無ければ、可能性はあまり高くないものの学園に通っていたかもしれない。

 そこまでして、学園に通いたい理由はなんだ?

 オマエもまたオレと同じように、やり直したいのか?

 ディータとオレを重ね合わせる……。


「……不登校から復帰して保健室登校してた子。私を見ると帰ります」

「そりゃ姫さんいたら、緊張して吐くだろうしな」

 もう一人、保健室登校の生徒がいたようだが、姫様のせいで居場所がなくなったらしい。


「……でも最近、見ません」

「不登校に逆戻りしてんじゃねぇか。かわいそうだろ」


 その子のために、登校を控えられてはどうでしょうか、姫様?

 さっきまで話していたヴァリエも、隣りで話をきいて眉をひそめていた。


「ほら、ヴァリエも引いてるぞ」


「いえ、私はそんなことよりアザナ君のピンチに、仲間と一緒に駆けつけるという貴方のキモ……変……いえ面倒な計画に驚いているのですが?」

「オ、オマエ、結構辛辣だよな?」

 アザナの取り巻き4人の中で、一番オレにダメージ与えてるのはヴァリエかもしれない。

 さすが武闘派だ。

 肉体武闘派なのに、精神攻撃も強いとか無敵だろ。


   *   *   *


 ディータはひとまず保健室へ戻り、オレは自分の教室に戻ってペランドーを探す。


「お、いたいた。いつも通りだな」

 ペランドーは自分の席で、いつものようにお菓子を食べていた。


「おーい、ペランドー。悪いが早退するって先生に言付けを頼む」

「もぐもぐ……え? どうしたの? お腹痛いの?」

 クッキー片手に首を傾げ……、そういえば最近、オマエの首見えないな。


「いや、アザナのヤツが探さないでとか、書置きして行方不明らしい。ユスティティアたちも探しているようだが、オレもちょっとアプローチしてみる」

 行方に思い当たる節がないため、オレが一人で動いても意味はない。だが、伝手に当たってみる。その程度でも、何もしないよりマシだ。


「そうなんだ……。わかったよ。じゃあ先生に伝えておくね」

 ペランドーは言付けを快諾してくれた。学校をサボるなんてとか、そういう余計なことは言わない。

 いい友人だと思う。

 それに比べて……。


「まったくアザナのヤツ……。何も言わないで消えやがって」

「イライラするからって、何もないところに魔力弾を撃つのはやめようよ! 危ないよ!」

 頭を抑えつつ、ペランドーがオレの行動を咎める。


「あ、悪い。最近、ちょっと癖になっててな」


 流石にこれは注意されてしまった。

 こうして注意してくれる存在は貴重……って、いろんなヤツらから注意されているような気がするが、友人からの忠告は大切にすべきだ。

 呆れられて、注意しても無駄と思われないようにしよう。


「あ、そうだ。帰る前に気がついてよかった。ペランドー、ほら、これ」

 オレは用事の一つを思いだし、封書をペランドーに手渡した。


「これは……なーに? ……あ、招待状?」

 封を切り、中身をちらりと見て驚くペランドー。


「なんて言ったらいいか。……悪いが、さすがに貴族なんぞが集まる綬爵発表には呼べないからさ。マルチの……ベルンハルトの店が広げただろ? そこで改めてパーティをやろうと思うんだ。『白銀同盟』やら『西方の風』たちも呼ぶからさ、適当に楽しく緩くいいかげんな感じで大騒ぎしようぜ」

 チャールポールの家も財務方の官吏とはいえ、貴族なので呼べる。

 庶民とはいえ、友人の中でペランドーだけを除け者にしたくない。

 とはいえ、綬爵の発表と新家立ち上げのパーティに呼ぶなんて、どうあがいても出来ない。

 型破りを自負するオレだが、呼んでもペランドーは喜びもしないし、彼自身が困るだろう。

 綬爵発表には呼べないが、だったら別枠で感謝の集まりくらいしてもいい。


 もっと盛大に、大がかりに人を集めてもいい。両方に呼ぶことになるチャールポールは……まあ、例外だ。


「あ、ありがとう、ザルガラくん!」

 好物のクッキーを差し置いて、招待状を受け取るペランドー。

 そうか、そんなに嬉しいか。

 喜ぶ友人の様子を眺めていたら――

 

「おい、ちょっといいか、サード卿!」

 爵位名でオレを呼ぶ声がした。

 この突き放した真面目さは、アンドレか。

 振り返るとやはりそうだった。

 教室の戸を開け放ち、その場で不機嫌そうに腕を組んだアンドレがオレを睨んでいる。


「オレ、お腹痛いから帰るところなんだけど」

「綬爵発表の前に時間を用意できるか?」

 嘘を見抜かれた。

 問答無用で要件を切り出してくる。


「時節の挨拶もなく、本題かよ……あ、いやいい。言わなくていい。オレとオマエの仲じゃないか」

 皮肉を言ったら、アンドレが真面目に挨拶を言いだそうとしたので慌てて止める。

 話が長くなるから、本題に入ってもらっていい。


「うちの父がサード卿、お前と会いたいそうだ。……まったく先ぶれを邸宅に出せばいいのに、私とお前が仲がいいからと、何を父上は勘違いをしているのか……」

 要件を述べた後、ぐちぐちと文句をいうアンドレ。その様子は心外極まりないという顔だ。


「オマエの父……てことは、ゴールドスケールジット侯爵が会いたいだって? それは……綬爵の発表の場じゃダメなのか?」

 侯爵が新男爵になんの用なのか。

 アザナがいなくなったことも気になるし、できれば余計な面倒を抱えたくないのだが……。


「綬爵の発表前でないといけないって話だ」

 アンドレは、それがどういうことか解っていない様子だった。

 彼の父、ゴールドスケールジット侯爵は、おそらく慌てている。

 

 陛下の賜りごととして、そして書類上や名目上でオレはサード卿だ。男爵位となったことを自ら公言して周知させる前のこのオレに、貴族連盟の盟主という大物が会いたいというのか。

 微妙な立場の子供に、なにか重要な話を持ちかける気か――。


「わかった。時間を空けておく」

「そうか、じゃあこれで……」

「だから、オマエもちょっと手伝え」

「ええっ!?」


 オレより一回り小さいアンドレの肩に手を回し、逃がさないように肉体強化で抑え込む。


 なんだかんだ、コイツは王都の外側。特に王国の東側の土地に影響力を持つ、貴族連盟の長の子だ。

 アザナ探しに有益だろう。


「やめろ、放せ!」

「はっはっはっ! オレの都合で学校をサボれるんだ。このオレを悪者にしていいぞ!」


 抵抗するアンドレを、あの手この手で封じ込み、オレたちはひとまず学園を後にした。


更新遅くなりまして申し訳ありません。

まさかの実家と自分のダブル引っ越し(厳密にはトリプル)で、更新が遅れるかもしれません。

引っ越し先が決まっていないため、ネット環境もどうなるかわかりません。


更新に不都合があるなどよほどのことがある場合は、活動報告なので告知いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ