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【完結】悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
間章

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セクシープライム

大変遅くなりました。

申し訳ありませんでした。


 ザルガラたちが【険路求道村】を訪れていた頃。


 一昨年発見されたばかりの、王都にほど近い遺跡。ザルガラとペランドーも訪れた【霧と黒の城】。その中心区画。

 螺旋を描く地下迷宮の奥底で、恐るべき存在が目を覚ました。


「ああ……、ああ。やっとこの街も、あの時の活気を取り戻すのね」


 薄暗い部屋の中で、煽情的な女性のシルエットが起き上がる。


「地上が人で溢れて街になるまでに、いったいどれほどの男たちがここを訪れるかしら」


 蠱惑の笑みを浮かべ、部屋の中に明かりを灯す。螺旋状に次々順番と、燭台に明かりが灯っていく。明かりが灯る燭台は素数番目だけであり、これらを上からみると不可思議な斜めの線が描かれていく。


 白く艶めかしい全裸の女性が、その螺旋の中心にいた。

 

 女の名はウラム。

 

 熟成した大人としての魅力を持ちながら、従順な子犬のような愛おしさ、そして時として子猫のような愛嬌と我が儘を持ち合わせるその正体は、夢魔サキュバス。

 世界の半分を――すべての男を魅了して引きつける危険な存在だ。


「我(われ)の魅力……衰えてはおらぬ。いったいどれほどの男たちを篭絡できるかしらぁ……。ふふふ……楽しみなことぉ~……」


 老いなど無関係な玉のような肌を撫で、自らの魅力に陶酔する。

 その時、この静かで魅惑的な空気が支配する部屋のドアを、荒々しく開け放つ集団がいた。


 ――さっそく獲物が来たか!

 と思ったがウラムだったが、彼女の前に現れたのは鍛え上げられた女性の騎士ばかりであった。


「え? なにこの我(われ)対策? あいや、なんでもうパーフェクト我(われ)対策ぅ?」


 世界の半分を堕落させるサキュバスであろうとも、残りの半分である女たちにその魅力は通じない……一部通じるかもしれないが、稀である。その場合は古来種によってチューンドされた力は意味をなさず、本来の魅力だけで篭絡しなくてはならなかった。


 しかも数が多い。


 騎士団の大隊の戦闘要員全員が、ここに乗り込んできたかのような人数だった。


「ま、待って! そんなにいっぱいダメ……ていうか、どうみてもそなたたち冒険者じゃないでしょぉ? やだ、やめ……」


「目標確認っ!」

「行動開始!」

「回れっ回れっ!」


 やけに動きのいい女騎士たち。どこか憂さ晴らしにも似た気炎が見える。


 世界の半分を床(とこ)に引きずり込める夢魔は、残りの半分を構成する存在たちによって床(ゆか)に押し倒された。


「や、やめ……我はその趣味ないのよぉ!」


「確保ーっ!」


 素数の中心で助けを求める性のけもの――。



   *   *   * 


「……これより、第6回。ザル様は女の子に興味があるのかないのか会議を始めます」


 王城の裏手に当たる場所に建てられた小さな館。

 その薄暗い一室で、長テーブルの上座につくディータの抑揚の少ない声が響いた。


 集まった女性は総勢3名――少ない。

 部屋は広く20席と数こそあるが、会議と謳っているわりに集まっている者は少なかった。


「ええっと、なぜ私が呼ばれたのでしょうか?」


 末席に座る1人のメイド姿の騎士、ティエが挙手した。

 騎士爵ではあるがポリヘドラ家の陪臣であるため、通常であれば登城は許されない立場だ。しかし今日は、ディータ姫直々に招かれていた。


 エンディ屋敷で過ごしていた時期に、親しくなっているとはいえそれはそれ。

 ディータは公式に王城……ザルガラの詰める予定となっている影門守侍の邸宅への出入りを許可した。

 以降、ティエはザルガラの許可ではなく、ディータの指示の元、官許で影門守侍の邸宅へ出入りを許される。


「……大人の意見も訊きたい」

 

 飲めない茶のカップを両手に包み、ぬくもりを楽しみながらディータは答えた。

 聞いて見回せば、部屋の中にいる人物はカタラン伯の三女ヨーファイネとディータ殿下。ティエを除いて――いろいろわだかまりはあるがあえて除いて――二人は少女である。

 

 年齢では飛びぬけて上である上位種イマリーの姿はない。

 もちろんタルピーもザルガラとともに研修旅行に行っているためいない。

 この中で一番、年齢が高い人物はティエである。


「……今回、裏切り者…………いえ、イマリーさんはその能力を駆使して、ザル様についていかれましたので、腹立たしいことに……いえ、残念ながら不参加」


 不機嫌を露わにするディータ。その理由はザルガラから高次元物質を得られないせいか、それともイマリーの裏切りに対してなのか。

 窺い返答に詰まったティエを横目で見て、ディータはふっと肩の力を抜いた。


「……2人だけの会議は寂しいので」


「それがご本意でしたか」


 ティエは安堵した。


「それで、会議とは? どのような内容なのでしょうか、殿下?」


「……最初に言っ」「そうですよ、メイドさん! ザルガラ様が本当に女性に興味があるのか? それともまさかソッチなのか! ドッチもイケるのか! それを考察する重要な会議です!」


 冷静なディータの返事に、興奮して逸るヨーファイネの言葉がやや被った。


「ザルガラ様が……ちゃんと女性へ興味を持たれているのか? ということですね? というか第6回?」


 こんなことが過去5回も繰り返されていたのかと、ティエは呆れて眉をひそめた。


「……そう第6回。いままで答」「イマリーさんと特別ゲストの某絶望の女王を交えて議論を重ねましたが、まだ答えが出ていません! そこで幼少期よりすべてをまるっとアソコまで見ていたティエさんのご意見が欲しいのです!」


 またもヨーファイネの言葉が被った。だいだいのことに温厚なディータでも、カップを包む手に力が入る。


「ザルガラ様が幼少のころは、先代のお傍に仕えしていたので、あまり詳しくはないのですが……」


 ティエは続く言葉を呑んだ。

 5年前、先代が亡くなると、メイド仲間からも同僚の騎士から疎まれ、邸宅内の仕事は任されなくなった。

 当然、ザルガラの様子などわからない。

 怪物と呼ばれるようになってから、エンディ屋敷に配されるまでその状態が続いた。

 

 身の回りの世話を任されていたが、彼がアザナと出会い、その明朗さに怪物の影が消えるまで、ティエも距離を測りかねていた。

 あまり助言できることはないが……、断ろうとするティエの脳裏に、蠱惑的なアザナの笑顔と翻弄されるザルガラの姿がよぎる。


「微力ですが、このティエの知識をお使いください。代わりに……今後もこの会議に加えていただけますか?」


 ティエもまたザルガラの性的趣向に興味……いや、心配があった。

 姦しい女官同志の噂話では下劣と切って捨てるが、姫殿下の権威の元でならば、それを考察するのは吝(やぶさ)かではない。


「……喜ん」「待ってましたわ! ささ、ザルガラ様のサイズとか趣味とかそのへんを、ささっ! 早速……」

「【跪け!】」


 ゴーレム体に仕込まれた胞体陣が変化し輝き、ディータの魔法が発動した。

 王族の力……従属するものに思考誘導させる魔法は、臣下の子女であるヨーファイネの厚い防御魔胞体陣をも無効化する。

 興奮してティエに食いつくように椅子から立ち上がっていた彼女は、魔法を受けて顎をテーブルの端にぶつけながら床にセイザした。


「も、申しわけありません、殿下」


挿絵(By みてみん)


 顎をぶつけた痛みなのか、最高権威者の娘に対する不敬に畏れを抱いたのか、涙を浮かべながらヨーファイネは必死に許しを請う。


「……あなたはしばらくそうしていなさい」


「床、冷たい……」


 ディータは反省を促すため、ヨーファイネにかけた魔法を解除しなかった。


「え、ええっと。微力と申しましたとおり、あまりお伝えできることはないのですが……」


 権威を捨てたかのような姫の実力行使に慄きながら、ティエは出来る限りの協力を申し出る。

 ディータの魔法は、図らずも脅迫の様相を呈(てい)していた。


 こうして、やや怯えたティエの話は、ザルガラの幼少期から始まった。

 出会った当時は普通の子供であり、捻くれた発言も態度もなかったことや、自身へ剣を賜わしてくれた無邪気な過去などを話した。

 剣をプレゼント! と、ヨーファイネが反応したが、反省して正座している手前、すぐに押し黙った。 


 しかし彼女が興奮するのも宜(むべ)なるかな。

 剣を賜わすというのは、主従の間では非常に深い意味がある。

 王国においては、一生ついてこいという意味だ。ずっと傍にいろと解釈できる。


 しかし、それは無邪気だった子供の行為と、ティエはあまり深く考えてはいない。……当時の剣は大切に枕元の箱に収め、このところ毎晩取り出して手入れをし、就寝の挨拶をしているが……深い意味はない。賜下品を劣化させてはならない。ただそれだけである。それだけだ。


「しかし、アザナ様と出会われてからの急変は、間近でみていた私でも驚きです」


 ディータが知らない怪物時代と急変後の違いを詳しく話す。

 おおよそを知っているディータでも、その様子を目の前で見た者の話は貴重であった。


「……なるほど、わかりました。やはりアザナがキーポイント」


 再確認できた、とディータは小さくうなずく。


「畏れながら殿下も、全ては彼が中心であると?」


「……過去へ戻ったのも……いえ、なんでもない。そう。アザナが重要」


 一瞬、ディータの口が滑ったが、すぐに誤魔化したのでティエは聞かなかったことにした。記憶からも除外し、以降の推論でもこの発言は意図して除外する。権威とはそういうものだ。


「……少なくても、私……じゃなかった、女性に興味があるかはアレで分かる」


「アレ?」


 王族が不確かな指示語を使うことは珍しくない。言質を取られないためや、理解できる相手のみ伝えるためなどその事情はいろいろあるが、今回はアレと呼ばなくてはならない理由が別にあった。


「……そう、アレ。そこで前もって用意していたこれ。あの者をここへ!」


 ディータが珍しく大きな声で、部屋の外へ向かって命令を発した。


「この中位種! 早く入れ!」


 にわかに、部屋の外が騒がしくなった。


「あいや、この我をどうするつもりじゃ! この豊満な身体が目当てか! 貧相な胸をしおって……」


「うるさい! いいから入れ」


 女性だけで構成された騎士団が、豊かな胸部と臀部を僅かな布で隠したような半裸の女性を伴って入室してきた。

 半裸の女性は抵抗しているが、それはどことなく演技に見える。艶めかしく男にアピールするような仕草が、ディータたちにそういった印象を抱かせてしまう。


「あら? ここも女だけなのぉ? ……ふん」


 演技が無駄とわかった半裸の女性は、諦めた様子で乱れた髪を縛られた両手で払って、不満げに鼻で笑った。


「あの、この破廉恥な格好をされた方は?」


「……サキュバス。淫魔」


 ティエはもちろん、床に座り反省しているヨーファイネも腰を浮かせた。

 なぜ女の敵であり、そしてある意味で男の天敵であるサキュバスが、今回の作戦に必要なのか?

 姫の意図を読み取れず、ティエは眉をひそめる。


「ふっふっふっ……。そういうことですか、姫殿下」


 いっぽう、ヨーファイネは不敵に笑った。


「殿下のお考えはわかりました。サキュバスを持ってザルガラ様を篭絡し、私のお婿さんにする作戦ですね」


「………………え?」


 ヨーファイネしか得をしない作戦に、ディータは閉口してしまった。

 彼女のいう作戦は行程がいくつも飛んでいて、どうすればそこに至るか全くロードマップが見えてこない。

 あまりに飛躍しているうえに、身勝手なので、さしものディータも意味が掴めずにいた。


「……ああ、彼女の妄言はいつものそれとして」


 不可解なモノは、あえて無視。聞かなかった、見なかった。変態はいなかった。


「……サキュバスのこのだらしない身体に欲情を抱かない者も虜にする術(すべ)がある」


「今、我をだらしないと?」


「……その術を使う」


 大きな胸を抱え不満の声を上げるウラム。それを無視するディータ。

 どことなく女の戦いが、そこにあった。


   *   *   *


 ザルガラが研修旅行から戻るその日。


 すでに連絡を受けていたディータは、王城内の影門邸宅前でザルガラの帰りを待ちわびていた。

 その後ろでは従者らしく目を伏せ、静かに控えるティエがいる。対照的に、サキュバスのウラムは手持ち無沙汰に髪の毛を弄っていた。


「……もうすぐザル様が帰ってくる」


 広い王城の敷地ということもあり、正門から影門守邸前までは到着に時間がかかる。


「ザルガラ様を試すようで、気がひけるのですが」

 

 ティエは悩ましげに嘆息をついた。この期に及んで姫の計画に不満を言うなどあり得ないのだが、ディータは忠義の一つの形と受け取って聞かなかったことにした。

 

「……彼女(サキュバス)の能力なら、この議題だけは判明する」


「まあ~、やれっていうならぁ~やるけどぉ……」

 

 サキュバスの能力の一つに、擬態がある。

 男性の望む理想の姿や、もっとも強く思っている存在に変化できる能力だ。

 つまりウラムの姿が、誰であれ女性の姿になればよし。

 その姿がディータなら、ディータ的によし。ヨーファイネであれば、要相談だが一応女性に興味があるということでよし。


「もしもぉ~、男の姿になんかになっちゃったら困らないのぉ?」


「……それはそれでヨシ」


 ディータの趣味的にそれでも良いそうである。

 その光景を想像して、何やら興奮気味だ。

 ウラムはゴーレムなのに鼻息荒いディータを見て困惑した。


「な……なら、いいけどさぁ」


 そうはいうが、ウラムにも能力行使に蟠(わだかま)りがあった。


 この能力は容易く対象を篭絡できるので、手段としてはウラムはあまり好みではない。魅力に自信のある彼女にとっては、できれば使いたくない能力である。

 だが、自らの欲望で落とす手段でなく、ディータ姫への協力で使うのあれば、その程度の信条は曲げてよいと考えていた。


 中位種以下を支配する能力があるディータ姫は、種こそ違えど解放されたウラムにも影響を与える。

 古来種の植え付けた支配体制には、サキュバスとて逆らえない。


 なおヨーファイネは置いてきた。

 彼女はこの調査についていけない。というか先走りして破綻する。

 あとなぜかウラムが彼女を恐れた。


 性の権化が恐れる相手とは、ヨーファイネに潜む変態性はいかなるものなのか。誰も暴きたくない。


「……きた」


 ザルガラと高次元物質を共有しているディータ姫は、彼の接近を誰よりも早くそして正確に悟った。

 姫が視線を投げる先。影門邸宅の門が開き、馬車嫌いのザルガラが徒歩で姿を現した。


「……今です!」


 ウラムの精神走査を攻撃と勘違いされ、ザルガラに対策されては効果がない。

 どこからともなく取り出した羽根扇を揮(ふる)い、絶妙なタイミングでディータがウラムに能力発動を指示する。


 気怠そうにしていたウラムが立ち上がり、肌の多い豊満な胸を揺らして能力を発揮した。


「【|愛の重圧で肉叢よ、煌めけ《ラブバディアンビル》!】」


 大部分が肉色をしていたウラムの身体が、パッと赤く輝く。

 

「……能力が発動した」


「よかった……」


 ウラムの力が発揮したということは、ザルガラが強く思っている人がいるという証拠だ。

 ディータは両のこぶしを握り締め、ティエは胸を撫で下ろす。


 だが、ティエはまだ安心できない。

 ウラムの姿が女性でない可能性がある。


 そ、こ、に、は――。


 手のひらサイズの赤い少女がいた……。


 爆ぜる赤い髪はまとめ上げられ、顔のパーツでは愛らしいアーモンドアイが目立っている。元のウラムとさほど変わらない露出度に、透明感の強いサテン地のボトム。

 ぺたんこ胸。ぽて、とわずかに膨らむ腹。短い手足。


 まさにその姿はタルピーである。


「これは如何なることぉ? 我ぇ、これでは誘惑もできな……いやそのような趣味であるのぉ? というか、我、質量変えられたのぉ?」

 

 ミニサイズに変化したウラムも困惑していた。自分の能力が、大幅な質量変化に対応していたと知らなかったようだ。


「そ、そんなまさか……」


 仕える相手の趣味を見せつけられ、ティエはがっくりと膝をつく。


「……これは予想外」


 ディータは腕を拱(こまね)き、小さく唸る。

 想定はしていなかったが、ウラムが何者にも変化しなかった場合の次に悪い結果であった。


   *   *   *


「ただいまー、っておい。なんだアイツら……どうした?」


 研修旅行から帰宅したオレは、門をくぐった先にある光景に困惑した。

 新しい住居となった邸宅前で、膝をつくティエと難しい顔で悩んでいるディータがいる。

 2人がいるのは、出迎えだから分かる。

 だが、あの様子はなんだ?


 邸宅の門をくぐり庭を横切って、ひとまず玄関先へ向かう。


「どうしたの? ザルガラさま?」


 実験のため、離れて後ろからついてきたがタルピーが、トトトッと走って来てオレの肩に飛び乗った。


「いや……なんだろうな?」


「あ、そうそう、ザルガラさま。やっぱり念話無理だったみたいだね」


 タルピーを肩に乗せたまま、邸宅前へ歩く最中に、タルピーが実験の結果報告をしてきた。


「そうだな。オレには何も聞こえない……いや、なにも感じ取れなかった。残念だよ。出来ると思ったのになぁ~」


「うまくできないねぇ。なんで念話できないのかな?」


 研修旅行から帰ってから、オレはタルピーと長距離念話を通じ合わせようと懸命に試した。

 古来種=ルドヴィコと戦った際、あれほどオレを慕ってくれたタルピーとなら、長距離念話に成功してもいいだろうに……。

 なぜできないのだろうか?


 道中、懸命にタルピーのことだけを考えるなどしてみたが、どうやら不発に終わったようだ。


「これは推測だが……オレが古来種の支配から逃れているからかもな。王族のカリスマチューンも効かないし、そういった精神的リンクが途切れているのかもしれん」


「そうなんだー……」


 わかっているのか、わかってないのか。

 タルピーはいつも通り踊りだす。


 さて、ディータたちは一体なにをしているのか。

 訊ねようと歩み寄ると、彼女たちの足元にタルピーがいた。


 驚いたオレは真横を見た。


「……? なぁに、ザルガラさま?」


 肩の上にちゃんとタルピーがいた。

 だがあっちにもいる。どういうことだ?

 もう一人のタルピー?


 自然現象の精霊は群体だ。分裂と融合を繰り返し、変化を続ける存在だ。

 もしかしたら、一〇〇〇〇年前に分裂したもう一人のタルピーか?

 見たところ、上位種タルピーより総魔力が低く、改造(チューン)がやや粗い。中位種といったところだ。


 アレと融合すれば、本来のタルピーに戻る可能性があるとか?


 なんだこれ?

 パワーアップイベントか?


「おい、タルピー。ちょっとあっちのタルピーと合体してみろ!」


「がったい? おおーっ! かっくいー!」


 タルピーはノリノリで、もう一人のタルピーに跳びかかっていった。


「いやじゃ! 我にその趣味は!」

 

 もう一人のタルピーは、慌てて逃げ出していった。

 融合すると自我でも消えるのだろうか?

 いや、分離も出来るはずだから、問題ないと思うんだが……。


「おーい、逃げるなよ。減るもんじゃないし」


「ザルガラ様! 何をおっしゃられるのですか!」


「え? ど、どうしたんだよ、ティエ。気分でも悪かったのか? 無理するなよ」 


 膝をついて落ち込んでいたティエが、急に立ち上がって怒鳴り出した。

 体調が悪いのかと心配したが、見たところ元気そうだけど……。 


「……まさかザル様。そのような行為を女の子同士にさせる趣味が!」


 ゴーレム体になっているディータが、内部の胞体陣を震わせている。よほど精神的ショックを受けているようだ。


「オマエら、絶対なんか勘違いしてるだろ? そして多分、コレはオレも勘違いしてるな」


 だんだん、こういう状況に慣れてきたぞ、オレ。

 タルピーに捕まったタルピーは、何やら本気で抵抗しているが……アレ、火の精霊関係じゃないな。

 軽く見(・)たところ、高度な変化魔法といったところか。 

 

「がったいだーっ!」


「あはっひゃひゃっ! そこは……ダメ……って熱っ! あつつつっ! 熱痛っ! こやつ! 直接脳内にっ!?」


 結局、何があったのかわからなかったが――。

 この日、何故かタルピーの部下にサキュバスが加わった。



数話前にタルピーと念話してましたが、あれは近距離のみです。


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