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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第8章 楽園の破壊者

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破産する者


 未来を見通す首無し騎士との戦い。

 

 純然たる魔法使いが彼女を援護していたら、オレは苦戦必至であっただろう。


 近距離になってしまえば、魔剣の一撃が確実にオレの防御胞体陣を削り取っていく。

 もしオレが普通の魔法使いであったならば、3、4撃目で投影した魔法陣をすべて剥がされ、次の一撃で身に着けた衣服の防御陣とともに切り伏せられただろう。

 だが、オレは違う。

 この程度の連撃を受けようとも、次々繰り出す投影速度を上回ることはない。魔力の供給が尽きることもない。


 それにデュラハンは達人ではなかった。


 近接戦闘などろくに修めていないオレが短槍で防御しようなどと、なんとか反応できるほどだ。

 できなかったけど。

 しかし達人相手ならば、反応すらできなかっただろう。


 勝つことは容易い。

 その安易な勝利を選ばない。もしくは未来を見て知っている。

 だからオレを倒せるとわかっているか、もしくはそういう未来が見えているのか。


 考えうるヤツの勝ち筋はなんだ?


 魔力弾の飽和攻撃で牽制し、相手の足元を揺さぶるなどして時間を稼ぎ、トゥリフォイルの狙いを考える。


 ありえそうな敵の行動は――学園の生徒たちを制圧する、もしくは人質にする?

 いやこれは不可能に近い。

 何しろ能力が高いだけでなく、魔物を狩ることに特化したアザナがあちらにはいる。

 それに最初から別動隊による襲撃を想定して、アザナにも状況を伝えてあるのだ。

 アイツが下手をうたない限り、危険が及ぶとは考えにくい。

 それに学園の生徒たちも、それぞれ能力が高い。特にアザナの取り巻きとペランドーの伸びがすごい。

 慢心かもしれないが、相手が狙うならば優先度は低いだろう。


 次にありえそうなのは――などと考えていたら、森の藪から巨大なニワトリが踊りかかってきた。

 立派なトサカと尾を持ち、気炎にも見える瘴気を放つニワトリ――。

 コカトリスだ。

 石化を与えるクチバシで、オレの防御胞体陣を突きまくる。


「やめろ、このトリ野郎が! 魔力が減る!」


 クチバシの攻撃は、トゥリフォイルの持つ魔剣ほどの破壊力はない。せいぜい防御陣が一枚吹き飛ぶくらいだ。

 しかし石化という強力な状態異常を自動防御するため、魔力が多めに消費させられる。

 コイツは厄介だ。


 ひとまず、【除け者は床に座れ】で吹き飛ばし、コカトリスを場外送りにしてやった。

 感謝しろよ、コカトリス。飛べないオマエを、空の旅にご招待してやったんだからな。


 さて、ところで今、吹っ飛ばしたコカトリス。もしかしてサロンにいたヤツか?

 可愛かったのに、育ってまあ……凶悪な姿になっていたなぁ……。

 

 というわけで、この伏兵の存在で閃いた。

 あちらの優位性と、こちらのどうあっても払拭できない問題点を考えるに――。


 こっちのスタミナ、魔力切れ狙い。


 トゥリフォイルは不死であり、スタミナ切れとは無縁。

 魔法使いではなく、魔力が籠った武具で戦う戦士である。いや騎士か。通常の使い方をしていれば基本、魔剣の攻撃力は永続である。

 そして不死者であるトゥリフォイルは、朝から昼まで戦おうとも、疲れることも攻撃の手段が無くなることもない。


 予知者が時間まで味方につける。これほど厄介なことはない。


「貴方たちは……いえ、貴方がこの村に関わる未来は見えなかった。どういうことなのですか?」


 案の定というか、トゥリフォイルは時間稼ぎの会話を投げかけてきた。

 いやらしいことに、攻撃の手は緩んでいない。攻撃の合間に、防御胞体陣を削り取りながら、言葉で余裕まで奪うつもりか。


「それをオレに聞かれても……」


 時間稼ぎをさせないし、思考の邪魔もされたくない。

 それに実はおおよそ推測が付いている。


 未来から戻って来たオレはイレギュラーなのかもしれない。トゥリフォイルは前の未来をなぞって見ているか、オレという要素を見ることができないという可能性がある。


「もしかしたら予知能力じゃないのかもしれないぞ」


 外れた未来を理由に、少し揺さぶりをかけてみる。

 だが、トゥリフォイルは揺るがない。


「私が見える未来は、もう『死』だけではなくてよ」


 その言葉を裏付けるかの如く、大きくカーブして死角から迫る【闇に潜む暗黒の鎌】を見もせず剣で打ち払ってみせた。

 ある程度は予想はしていたが、あまりに完璧な先読みである。


「デュラハンを超えた私は……。すでに中位種に留まらない私は、そう貴方と同じです」


 どこか自惚れた様子のトゥリフォイルは、オレを同じ存在と認めた。

 

「そうか。オマエもまた天才か」


 オレもまた納得し、彼女がデュラハンを超えた存在であると認める。

 ところが相手の反応は非常に意外なものであった。


「え? いえ、自分で自分を天才と評するとか、ちょっと……」


 それは引きますという態度で、トゥリフォイルは身を竦めた。


「オマエがっ! そういう話を振ったんだろうが!」


 自惚れていると思ったら、そうでもないのかよ!

 超越者とか自称しながら、天才自称は気後れするのかよ!

 やめろよ、オレがオレを天才って言ったのが浮くじゃんッ! 恥ずかしいじゃん! カッコワルいじゃん!


 そ、それはともかく――。


 中位種に収まらないところが同じか。オレと同じだなんて嬉しい。

 だが……能力をひた隠しにしている分、化け物呼ばわりされたオレより賢いな、コイツ。

 なんであの頃のオレは、才能をひけらかしたのか。


 しかし予知能力か。

 飽和攻撃すれば倒せるだろうが、それじゃあ面白くない。

 それにそんな単純な対抗手段への対策はしっかりしていることだろう。

 むしろ逆手に取ってくる可能性がある。


 そして何より、こうしてオレとやり合ってるということは、ヤツは負ける未来を見ていないはずだ。

 負けるなり、不利益を受けるような未来が見えていたら、こうしてオレに対峙しているわけがない。


 お互い決定打がなく、激しく魔法と剣のせめぎ合いを続ける途中、里山の中に広場を見つけた。

 整備されている里山とはいえ、木々に囲まれ【王者の行進】など高機動魔法を行えるほど開けてはいない。

 トゥリフォイルもそれを見越して接近してくるため、こっちは亀のように防御を固めるしかなかった。


 広場はおそらく切った木の加工場なのだろう。

 良い場所を見つけたオレは、ひとまず転移魔法でそこへんだ。


「っ! まさか……そんな……」


 間合いが離れ、オレが優位な場所を取った。それだけなのに、小脇に抱えられているトゥリフォイルの顔は愕然とした表情を見せた。


 何を驚いてやがる?

 

 すぐにオレを追ってこないとは、どういうことだ?

 何か思案している……いや、どこか遠くを見るような眼をしていた。


 もしかして空間を転移するたびに、未来予知がリセットされているのか?


 とはいえ、すぐ未来を見直しているようなので、またオレの攻撃は読まれてしまうだろう。


 前もって分かっていれば、転移直後に無力化させる魔法を叩きこんだんだが……、いまさら悔いてもしかたない。

 

「穴があったら、そこから崩せばいいだけだ」


 オレはこの隙を見逃さず、腰のポーチに手を突っ込んで、中身を取り出した。

 同時に魔法を発動し、取り出したそれらを宙にバラまいた。

 そして胞体陣を右手に張り、それらを纏めて殴り飛ばす。


「【除け者は床に座れ】」


 未来を見ていたトゥリフォイルは、オレが攻撃を行うとわかっていたのか、完全防御態勢に入っていた。

 さすがだ。

 だが、殴って吹き飛ばしたソレらは、5次元を通り抜けて空間を転移し、トゥリフォイルめがけて降りかかる!


「な、どこから!」


 首無し騎士が、はじめて慌てた様子で防御を行う。

 左手に首を持つデュラハンは、盾など有益な防具を持たない。

 剣で打ち払うにも限度があり、いくつか吹き飛ばしたソレらが命中し、【見当違いの聖者の苦行】が発動した。

 強化された魔法の鎖が、トゥリフォイルを捕らえて地面へと引き倒す。


 左手から転がり落ちた首が、ごろごろ転がってオレを睨みつけた。


「こ、これは……何を使ったの?」


「高価な砲弾だよ」


 オレのそっけない返答をして、外れて地面にめり込むソレらを指差した。トゥリフォイルは驚愕して叫ぶ。


「これは胞体石! しかも高品質なルビーやサファイヤではないですか!」


 ポーチから取り出し、ぶん殴って吹っ飛ばし、魔法を発動させた胞体石……つまりは宝石の弾丸だ。


 アザナの使ったレピュニット弾。

 それをコピーして、胞体石に利用した。


 資金でアップアップしているようなアザナには、到底できない攻撃方法である。

 ちょっと前のオレもできなかった。


「胞体弾とでも名付けようか。主な効果はオレの財布にダメージ」


「だ、大丈夫なのですか? その経済的に?」


「大丈夫じゃねーよ」

 敵に財布を心配されたが、使わせてるのはオマエだ。


「くっ、ここまでさせたのはオマエが初めてだぜ……」


「止めればいいのに……すごい怒られている未来が見えています」

 

「勝手にオレの未来を見るなよ……って、え? 誰に? オレ、怒られちゃうの?」

 すげー気になるし、すげーなんか怖いんだけど。

 ちゃんと拾っておこう……と、身を屈めた時、草むらからウサギたちが顔を出した。


「あ」


 あ、ってウサギはこんな鳴き声だったか?


「なんだ? このウサギ」


「て、撤収っ!」

 

 オレと目があった先頭のウサギが、手をあげて後ろのウサギたちに号令をかけた。

 草を食みながら、まばらに退いていくウサギたち……。

 喋ってるし、あれは首狩りウサギか。

 ここで不意打ちをするつもりだったのか。トゥリフォイルが負けているので、すぐさま見捨てたようだ。


 後ろにいたウサギたちは普通のウサギっぽい。

 ペランドーの提案した作戦を使おうとしたのか?

 

 恐怖の作戦に失敗したウサギを見送り、胞体石を拾い集め終える。


「さ、さーて、だいたい勝負もついたことだし、外した胞体石も拾い終わったし、自慢話を始めるぞ?」


「……は? なんと?」


 地面に転がる首が、間抜けな声を上げた。


「このオレの自慢話だよ」



いつもたくさんの誤字報告と感想、ありがとうございます。

助かっております。

しばらく安定したネット接続ができないため、せっかくの誤字報告を適応できず、また感想返しも滞ってしまし、申し訳ありません。


後日、まとめて対応させていただきます。

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