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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第8章 楽園の破壊者

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毛の荒物を愛でる者

構成ミスって短くなりました。



「にゃーん……と言ったら、『なんだ猫か』と、油断して捕り逃すのが定番だろう? おい、こらやめろ、つつくな! わたしを誰だと思っている?」


 松明という不効率な光源に照らされ、木々の合間に網で吊られた虎のマスク男が、半裸で文句と不満を並べた。

 太い枝に吊られた網が揺れて、くるくる回る。

 凶悪な村人たちは、マスク男を突いて疲労させようとしている。 

 そんな光景の中に入り込み、部外者だがオレは堪らず口を挟んだ。


「目の前マッチョ見え見えなのに、猫の鳴き真似一つでそうはならんだろう。せめて隠れているときにやれ。あと語尾ににゃんとか言うな。キモいから」


「にゃん」

 オレの文句に、マスク男が一言返す。

 なかなかに反逆してくるヤツだ。


「汚物は消毒だーっ!」

 マスク男の態度に腹を立てたのか、村人たちが火あぶりにしようと……アザナが示した発火作業を開始した。


「今から火を起こすのかよ。その手に持ってる松明はなんなんだ?」

 どうやらアザナから教わった火起こし法が、楽しくて仕方ないらしい。

 村人たちが必死に弓を前後させる隣りで、タルピーが「頑張れーっ!」と応援している。

 オマエがつけてやっちゃえ、火。


 火起こしに必死な年配の村人の作業を、興味深そうに覗く若い村人がいる。

 年配者はその視線に気が付くと、火起こしの作業を止めた。 


「なんだ? やってみたいのか?」

「……え、ええ。あ、はい!」

「そうか……。よし、じゃあお前がやってみろ」

「いいんスか、兄貴!」

「ああ、やってみろ。慌てずに……」

「ヒャッハー!」

「ヒャッハー! じゃない! 真剣にやれ!」

「す、すいません!」

 村人たちが子弟関係みたいな光景だが、昼間に教わったばかりだよねキミたち。

 さて、村人たちの一部が火起こしにかかり切りとなったので、不本意ながらオレがマスク男を警戒することにした。

 部外者である立場だが、怪しいヤツを警戒することにこしたことはない。

 オレの後ろには、友人たちがいる。

 ユールテルの警告と誘導を無駄にしてはいけないからな。


「で、オマエ……どこからきた?」

 誰何の前に、とりあえず答えやすそうな質問をしてみる。


「対岸の村からきた!」

「ふーん。ただの猫じゃねぇのか」

 思いのほか、素直に白状したので感心してしまった。

 網に吊られ、疲労困憊した結果だろうか?

 鍛え上げられた肉体の癖に、精神は意外とひ弱なヤツだ。


「猫ではないとバレてしまったからには、仕方にゃいなぁ」

「オマエがバラしたんだろ。いや、その前ていうか最初からバレてたが」

 頭がひ弱なヤツだった。


「我らの村民を返してもらうにゃっ!」

 虎のマスクは魔具なのか仕掛けがあるのか、グワッと牙の目立つ口が大きく開いた。


「偉そうに言ってるが、ぶら下がる網の中で右手が左に左手が右に、足に至っては後ろから上に、って状態で言われてもな。あととってつけたにゃあとかヤメロ」


「……できればもう少しマトモな体勢で捕まえてほしかった」

「罠相手に贅沢言うなぁ」

 網の中の捕らわれ虎マスクは、複雑な体勢でしょんぼりうなだれた。


「おい、アンタら。あの虎マスクのヤツが村民を返せって言ってるが、なんかあったのか?」

 どこでも村同士のいさかいなど日常だ。

 利権や境界、森の資源などで揉めて、村同士が殺し合い寸前という話はよくある。うちの領内でもよくあるもんだ。

 そのさい裁可を下すのは領主や貴族の勤めであり、義務であり権利である。……たまーにその裁判権を停止させられている領主とかいるが、これは例外だ。

 どっちが悪い、どっちも悪い、どっちも正しいなど色々事情があるにせよ、人をとっ捕まえて監禁くらいの事件があっても驚かない。


 しかし奇妙な恰好の村民たちは、互いに顔を見合わせた。

 オレが部外者だがら、とぼけているという雰囲気ではない。

 虎マスクの言い分に対して、呆れたヤツだ、という態度に見えた。


「いやぁ、そのケダモノが言ってるのは、家畜の話でして」

「わたしのことをケダモノというのは許すが、村民たちを家畜というなど許さん」

「どういうことだ?」

 言い分が食い違っている。

 家畜泥棒の話だろうか?

 ちなみにこれもよくあることで、放牧していた家畜が盗られるなど珍しくない。しかも取った取られたの繰り返しで、どっちがどっち? なんてことすらある。


 だが、そういったありきたりな話とは違うように思えた。

 虎マスクは、村民といっている。人扱いだ。

 つまり変態に変態をかけ合わせれば、おのずと答えが導かれる。

 

「……あー、大方、ケモノが好きなヤツなんだろ、このマスク男」

 いつものパターンだろと、事態を矮小化して推測してみた。


「理解が早いですね!」

「さすが都会の貴族様だで、変態に詳しいべ」

「なんか不本意ッ!」

 急に田舎者口調になる村人ムカつく!

 あと、実家は十分田舎だから! 

 田舎は自慢にならないけど!


 と、とりあえず村人の反応から見て、おそらく正解だろう。


「ち、ちがう! 彼らはケモノなんかじゃない!」

「変態はみんなそういうんだ」

 理解あるオレは、虎マスクの話を聞かない。


「おのれっ! 私には重臣がついている! すぐに助けに来てくれるはずだ……あいててて!」

 険路求道の村人たちは、消毒を諦めたのか虎マスクを下ろして護送するようだ。虎マスクは抵抗するが、網の中で1人関節技でこんがらがっているので、勝手に痛がっている。


「重臣ねぇ」

 貴族でもないのに、重臣とか生意気だな。 


「我が村の重臣は、ただの重臣ではないぞ! 重臣らイガーだ!」

「イガーさん、何人いるん?」

 なぜ複数形接尾辞?

 

 運ばれていく虎マスクを見送っていると、突然、オレの脳裏で日中に見た村の風景が、勝手に高速で巻き戻されていく。

 無意識に何かに気がつき、オレの脳が自然と活性化する。

 魔具のある現代的な宿、舗装のない村道、粗末ながら居住性の良さそうな土壁の家々、完璧ではないが手間をかけ整備された耕作地、そこで生活する奇抜な恰好の村人たちと、農作業を補助する家畜たち――。


 オレたちは村を案内させてもらった。

 家畜はいた。

 村人の住居を、いくつか見学させてもらった。

 人だけが住む住居だった。


 この村でオレは……オレたちは、家畜小屋を見かけただろうか?



構成をミスして、一話分量のバランスが崩れてしまいました。

次話はほとんど書きあがってますので、近日中に更新します。本当です。


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