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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第8章 楽園の破壊者

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もしもの未来



 険路求道村は理念を広めるために、見学者を率先して受け入れている。

 そのためか80戸規模の村という小さい規模ながら、理念と相反する魔法施設のあるちゃんとした宿もあった。

 暖かいお湯が出る浴室もあるし、トイレの設備などもしっかりしている。


 そこへ宿泊した夜。小腹が空いたので、護衛の予備兵が持ち合わせていた食料を分けてもらい、宿から出て星を見ながら齧っていたら、チャールポールが笑顔でやってきた。


「いやー、みんなでつくったランチはともかく、まさか出されるディナーもマズいなんて、思いもしなかったな! がはははっ!」


 夜だというのに、無遠慮な笑い声だこと……。

 オレの隣りで踊っていたタルピーも、この笑い声でやっと彼に気がついたようだ。クラスメイトで友人とはいえ、警戒しろとは言わないが、もう少し早く気がついてもらいたいものだ。


「まったくだよな。……ほらよ、腹減ってるんだろ」


「悪いなぁ。催促したみたいでな! わはははっ!」


 さほど美味くもない食料を渡すと、それでも彼は嬉しそうにかぶりつく。


「あんまり美味くないけど、変な癖はないな、これ」


 ぼそぼそと食べつつ、素直な感想を述べる。

 このチャールポールってヤツは、よく分からない経緯で友人となっているが、別に嫌いとか苦手とかそういった悪感情はない。戸惑うことはあるが……まあ悪いヤツでもないし、問題を起こすようなヤツでもない。

 

 このままコイツとは、友達としてやっていくのもいいだろう。


「……アレが本来の野菜の味、か」

 月明りに照らされる畑を眺め、料理ディッシュではなく食料フードを齧り、夕食に出されたいまいち食欲が湧かないおもてなしの御馳走を思い起こす。

 色合いがくすんでいるとか、形が悪いというのは気にならなかったが、アクの強い野菜や臭みの強い肉というのは初めての経験だった。


 オレたちが調理した料理は、素材の強烈な味の主張のせいで……いや技術が足りなかったのもあるだろうが、あまり美味しく出来上がらなかった。

 村民やアザナが手を加えた料理は、それほど気にならない味だったので、素材に適した加工法があっただろう。


「素材を見極めて、風味が強いなら抑えて、弱いなら補って……か。本来ならそれが正しい料理なんだろうが、オレたちの食べてた料理……いや、素材が食べやすく調理しやすかったわけか」

 

「なぁに神妙なこと言ってるんだよ、だははは! ようするに、ちゃんと古来種様の加護下で作れば、そんな素材もぐもぐもぐもぐもぐもぐ……………………」


「最後までしゃべれっ!」

 おいおい、会話が食い気に食われたぞ。


「ほばいもらんとうまうまうま」


「静かに食え!」

 頬張ったまましゃべり始めたチャールポールを黙らせる。


「……むぐもぐ。しゃべれと言ったり黙れと言ったり、どっちなんだよ。なはははっ!」

「オマエは分かっていってるのか、分かってないのかどっちなんだよ」

 しかし、何を言いたかったは分かった。


 要するに、古来種様の恩恵から離れて、オレたちは生きていけないし、そうしたいとも思わない。

 そしてこの村の人々は、恩恵から離れて生きようとしている。

 ……まあ、髪型など一部魔法を使っているなど、覚悟が完了していない節が見て取れるが。


「ごちそうさま。じゃあ、さきに寝させてもらうぞ!」

「本当にタカリに来ただけだったのかよ」

「わははははっ!」


 食うだけ食って、チャールポールは寝室へと帰っていった。


 ペランドーはたぶん今頃、苦しい腹を抱えて部屋で寝ているだろう。

 アイツはアザナの取り巻き女子たちから、「太ってるんだから、いっぱい食べるんでしょ」と言われて、険路な料理を押し付けられ、普段より多めに食わされた。さらっとアザナも皿に、おかずを一品紛れ込ませいた。


『あっ! 古来種さまがきたよ!』

 近くのテーブルで踊っていたタルピーが、近づく古来種……おそらくルドヴィコを察知した。


 ちょうど夜食を終えたオレは、指を舐めながらタルピーが指した森の暗がりを睨んだ。

 果たしてそこには、やっぱり予想通りにぴったりドンピシャ思った通り、ルドヴィコ村長がいた。


「夜分遅くに失礼します。せっかくエンディアンネス魔法学園の生徒さんがいらっしゃってるのに、どうしても外せない用事が、この後にありましてね。明日には戻りますが、時間があるうちにちょっと貴方とはお話がしたかったのですよ」


「はぁ~~ん? 青少年の大切な成長期の睡眠時間を、わざわざ引き換えにしてか?」 


「それはもうしわけありません。ご融通を願います」


 露骨に嫌な顔して、面倒くさそうに言ったのに、ルドヴィコは微笑み返して頭を下げた。

 コイツの中身が古来種であるならば、タルピーの存在も見えているはずだ。

 そしてちょっと前にオレが、仲間で古来種たちを高次元へ送り返したことだって知っているかもしれない。


 探りか、敵対表明か、それともまさかの和解案の提示か?

 実を言えば、このオレの方が睡眠時間を引き換えにしても、確認しておきたい。


 そういった気持ちで待ちかまえていると、「やるかー」と拳を振り回して近寄って来たタルピーに、ルドヴィコは軽く微笑んでから空を見上げた。


「もしも、もしもですが、古来種の恩恵……いえ魔法が失われたら、どうなさいますか?」 

 などと、古来種そのものが言った。


「つまりは魔法も魔法文明も失われたら、か…………。ありえそうに無い仮定だと思うが、絶対ではないか」


 否定するのは簡単だが、世の中はそう都合よくはない。

 都合は良かったが、オレみたいに過去に戻るような出来事があるくらいだ。

 都合悪く、世界が大きく変わることだってあるだろう。

 魔法の可能性を把握できるオレは、魔法が魔法を滅ぼす可能性があると思っている。やり方など思いつかないが。


 オレたち人間や亜人は生来、脳内に描いた図形を魔力を使って外部に光として描く器官を持っている。

 種によってその才能や出力や程度の差、退化して機能が失われているなどはあるが、その器官はほぼすべての生物、魔物がもっている。


 もしもこの器官を損なう病気が蔓延したり、破壊する魔法が世界を覆う規模で暴走するなど、災害が起きることも考えられる。

 単純に、だが大規模に、魔力そのものが、この世から綺麗さっぱりなくなるってこともあるかもしれない。


「……って、いう世界がくるかもしれないから、こんな村をつくっているのか?」


「おおよそ、そんなところです」

 オレなりの考えを伝えると、正解ではない、と言外にルドヴィコは答えた。


「でもまあ……。もしそうなら、このオレが一つアドバイスしてやろう」

 笑って見せ、古来種相手に上から目線で言ってやる。

 さすがのルドヴィコも、眉をひそめた。


「アドバイス……ですか?」

「ああそうだ」

「必要ないかと思いますが……伺いましょう」

「言って聞かせてやろう。この村は、人々はもっと力をつけるべきだ。いっそ魔法に頼らない武器をつくったほうがいい」


 そう言ってやると、ルドヴィコは心底理由がわからないという表情を見せた。


「どういうわけでしょう?」


「考えてもみろ。オレたち魔法に頼り切った者たちが、魔法を失い貧して鈍すれば、相対的に富める者たちは魔法に頼らないオマエたちになる。良かったな、大逆転だ。そしてそうなったら、大挙を成してオマエたちの富をむさぼりにいくだろうな。良かったな、大人気だ」


 魔法に頼らない生活をしているので、世界の異変など緊急時に対応できるだろう。

 しかし魔法を使って生活するものが大多数だ。

 数を減らす前に数を頼り、魔法に頼らない力をこの村を押しつぶし、その技術を奪う可能性だってある。


「まさか……」

 ルドヴィコの反応は、想定外という表情だった。


「まさか……貴方はそのようなことをされるのですか?」

「意外だな、ルドヴィコ村長さん」


 見事に優位性を取れたので、思わず本気で笑ってしまった。


「アザナやユスティティアに聞いた話じゃ、アンタこそがまずそういう人の悪意ってモノに、誰より先に気が付き、その口に出すのを憚られるような悪事をワザと言ってみせる人って話なんだが?」


 聞き伝えのルドヴィコ像では、露悪趣味の彼がまず思いつく未来である。

 それを思いつかないとは、ルドヴィコではないし、乗っ取っている古来種としても残念だ。

 軽い探りと、オレが情報を持っていることをそれとなく紛れ込ませた当てこすりの言葉に、ルドヴィコはあからさまに不愉快という態度を見せている。


「……そうでしたね」

 やっと一言、そういった。それがオレには、「参りました」という言葉に聞こえた。


『シュミわるーい』

 タルピーが茶化すが、オレの性根はこんなものである。


「有意義な話だったよ。嘘偽りなく、オレは【険路求道】の生き方を肯定する。魔法を使わないこの楽園を、おはようからおやすみまで、気が向いたら応援だけしておくよ」


 魔法の才能が、オレを孤立させた経験がある。

 だからそれを捨てるという生き方もいいだろう。

 昔のオレなら、この村に逃げ込んだかもしれない。

 だが、今は魔法を使う世界に友人たちがいる。

 それらまで捨てる気は、さらさらない。


「こちらも有意義でした。貴方の考えが聞けて一安心です」

 オレの個人的に敵対するつもりはないという言葉の裏を、正確に理解したルドヴィコは、思うところはあるが受け入れたようだ。


「では、私は用事がありますので、ここで」

 そういって立ち去ろうとするが、さすがに気になったので声をかける。


「差し支えがなければ訊ねたいのだが……」

「なんでしょうか?」

「こんな夜更けにドコへなにをしに行くんだい?」


 本当にオレは気になっていた。

 外せない用事とはなんだろう。これは心配というより、興味だ。

 そんなオレに、一言だけ彼は答えた。


「うさぎを狩りに」

 

 何かの隠語か、それとも言い逃れか。そう言い残し、ルドヴィコは立ち上がった髪を揺らしつつ、静かな森の中へと去っていった。

 あの髪型がなければ、エルフが帰るべきところへ帰った姿にみるのだが……。


 そんな思いで彼を見送り、星を眺めるのも飽きて、そろそろ寝ようかと思った頃――。


「かかったぞーっ!」

 という声を挙げながら、たいまつを持った村人たちが村のはずれへと走っていった。

 その方向は、ルドヴィコが入っていった森とは逆方向だ。たぶん、関係はないだろう。


「なんだぁ? なんの騒ぎだ?」

「どうしたんですか?」

 オレも気になって、村人を追いかけようとしたとき、2階の窓からアザナが顔を出した。


「もしもに備えて、オマエはここでみんなを守ってくれ。オレが様子を見にいく!」

「そうですか、お願いします。じゃあ、ボクは寝ますね。おやすみなさい」

「寝るんじゃねぇよっ! 守れって言ってんだよ! 話を聞いてんのかっ!」


 生あくびをしながら引っ込んだアザナに怒鳴るが、もう部屋の中だ。

 アザナに共生する上位種たちに期待するほかない。

 絶望の精霊がこっちを見ていたので、意図は理解してくれているだろう……って絶望に期待ってなんだ? …………哲学?


 絶望の象徴に、不安と期待と願いを込め、村人を追いかけていったオレが見たモノは――。


「やっとかかかったか!」

「このケダモノめっ!」


 罠の網に釣り上げられ、村人たちに罵倒され、たいまつに照らされたトラのマスクをかぶった半裸の筋肉男であった。


 村人たちから棒でつつかれながら、トラのマスクの男は一声鳴いた。


「にゃーん」


「え? 猫なの?」



新設定……のようですが、光の投影器官は以前からあった設定です

ただ織り込む短編飛ばしてしまったり、上手く説明混ぜることができなかったり、未熟なり、俺

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