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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第8章 楽園の破壊者

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働かず食う者たち

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。


「ボクは勇者として強化チューンドされているせいか、蛍遊魔ディスクワイティングかどうかをよく見れば判別できます」


「へえ……、そうか。確かに勇者なら見分けがつかないと、間違って古来種の命令をきくこっち(・・・)側の魔物を駆逐してしまう、なんてことあるもんな」

 アザナの告白に、なるほどと頷く。


 勇者は古来種にとって都合のよい駆逐者だ。

 古来種の奴隷である存在を、間違って損壊させては本末転倒である。


「ちょっと調べてみますね」

 アザナはそういって、ハープを弾き続けるモルティー教頭を調べ始めた。

 胞体陣を投影し、独式の魔法を発動させるので、意識してオレは目を逸らした。

 殺し合いや決闘でもないのに、じっくりと独式魔法を覗きみては失礼だ…………。


「チラ見……やめてください」

「し、してねぇよ!」

 ま、まずい。無意識に目線が行ってしまったか……。

 改めて背を向け、アザナの魔法が効果を発揮するまで待った。 


 さて本当にモルティー教頭は、蛍遊魔と同じ状況になっているのだろうか?


 オレたち……、つまりは古来種の元奴隷の子孫である人間や亜人や魔物たちと、支配下にない蛍遊魔を外見で区別することは難しい。

 魔法の力があるかどうかは、判別基準にはならない。古竜のように、独自に胞体陣や立方体陣を描く技術を持つものもいる。

 生来の本能なのか、感覚で魔法を使うユニコーンなどもいる。

 エト・インも蛍遊魔だ。しかし魔法は使えるし、ああやって人間社会になじむこともできる。


 蛍遊魔は古来種のつくった社会システムの外で生きる者。つまりアウトサイダーだ。 


 古来種の命令に従うか否か、これが一番確実な判別理由なのだが…………あれ?

 ちょっと、待て?

 

 オレはなにか重大なオレに関して、重要なことを……。

 もしかして、オレは――。


 少し前、オレは確かあの時――。


「ザルガラ先輩!」

「ど、どうした!」

 深く潜る不快な思考が、アザナの呼び声によって中断させられた。


「な、なにかわかったのか?」

「どうしても、よくわかんないです!」

「この欠陥勇者がっ!」


 びっくりさせた上に、期待した3秒を俺に返せ。


「しかし、それじゃあモルティー教頭は結局なんなんだ?」

「実は日頃のストレスで、ウサギさんに癒しを求めたとか?」

「それが事実なら人騒がせだな」

 ユールテルの警告は無意味になるが、それはそれで喜ばしい。

 そうこうしていると、食事当番だったペランドーが、コテージのドアを開けてオレたちを呼んだ。


「教頭先生ー。ザルガラくーん。アザナくーん。夕食の時間だよー!」


「おお、そうか」

 モルティー教頭はそういって、片時も手放さなかったハープを置いて立ち上がる。


「引率の仕事をしないで食う食事は旨いか?」

 アポロニアギャスケット共和国の軍楽隊じゃあるまいし、校歌をひたすら演奏するのは、どう考えても引率ではない。

 

「でもお腹空いたら、どんな精神状況でも食べるよね」

「そりゃそうだが」

 ペランドーの説得力ある擁護に一応は納得し、オレたちは野外の食堂へと向かった。

 食堂といっても壁がなく、屋根があるだけで簡素な一枚板のテーブルと、野卑あふれる丸太イスが並ぶだけである。

 野外の炊事場も併設されており、今日の食事当番が夕食を配膳し終えて待っていた。

 

 貴族の子息子女に簡単とはいえ、調理や配膳をさせるなどと……という意見もある。

 しかし学園には四恵すうえの理念がある。

 聞いて覚えて修めた知識、考えて深めて修めた知識、実践して会得した知識、そして誰かに教えて学ばせるまで高めた知識の四つだ。

 この一つである実践を行っているという言い分で、学園は研修旅行に自活を取り入れている。


 ま、世間一般からすれば、メニューが決まっていて可不可なく食材はそろってるし、出来ない子は手伝いだけというままごとみたいなものだが。


 ほかの班の生徒たちも集まり終え、配膳を終えたチャールポールがやってきた。

 彼が席につき、引率教諭たちの確認の後、食前の祈りする。


 そして簡単な煮込み料理と、オレや他の班が釣った魚や山の幸など、慣れない一部貴族が戸惑う夕食の時間が始まった。


「教頭先生、まだもとに戻らないのか?」

 左隣のチャールポールが、棒焼きパンを片手に教頭の現状を尋ねてくる。笑顔ながらさすがに笑っていない。彼なりに心配なのだろう。


「ああ。残念ながらまだだ。こうなると、暑苦しい筋肉アピールが恋しくなるな」


「……やはりそうでしたか」

「そうなんだ」

「もしやと思ってましたよ」

「逆にアザナ様はそう(・・)ではないので安心ですね」

「ね、言った通りでしょう? ところで。おいしいですね。このシチュー。おかわり」

 

 チャールポールの心配に応えたら、隣りのテーブルの取り巻きとアイマスク女が、にわかに騒ぎ始める。


「なんだ、いたのかイマリー」


 取り巻き4人に交じって、イマリーが夕飯のご相伴にあずかっていた。

 ペランドーに負けない勢いで、ガツガツとシチューを腹に収めている。 


「何しにきたんだ、この監視者イマリー

 サイクルオプスの力を失おうとも、これならどこでも強く生きていけるなアイツ。

 呆れていたら、対面のアザナがポツリと感想を漏らす。


「ぬらりひょんみたいな女の子ですね、彼女」


「ぬ? ぬらりひょん……? なんだがわからないが、語感がいいのでこれからイマリーのことは『いまりひょん』と呼ぶことにしよう。ところでイマリひょん。オマエ、【険路求道ベスティゴエレファント】って団体についてなにか知ってないか?」


 勝手に夕食のご相伴してるんだ。

 オレの用意した食事というわけではないが、ずうずうしいヤツにはずうずうしく情報を貰ってやる。


「ああ、あの古来種様の恩恵を。自ら拒否してる人。監視するまでもない。どうせなにもできない。魔法もなく生きていく。まさに険路」

「監視とかしなくていいのか?」

「仕事でもないのに。好きでもない相手。監視したくない」

「そりゃ正直なことで」


 世間話感覚で情報開示してくれた、この監視者。

 情報を集める者として、情報を軽んじている気がする。


「じゃあちょっと監視とは言わないまでも、得意の潜入で様子を見てきてもらえないか。報酬は払うぞ」

「報酬? お金とかいらないし」

「どうやって生活してるんだよ」

「こうやって」

 

 イマリひょんはそう言って、生徒たちが用意した食事をかッ喰らう。

 上位種って生活力が斜め上位。

 南方の上位種たちも、お供え物で生活してそう。


「でも。頼まれればやります」

 命令されて監視するのが楽しい、という輝く目を見せた。

 喜びの感覚も斜め上位種。


「そりゃいい。じゃあ頼んでいいか?」

「お任せ。いますぐ行って。ちょちょいと。情報集めてきます!」

 イマリひょんは食事を終えると、片付けなど知ったことかという勢いでこの場を後にした。


   *   *   *


「ダメでしたー」


「早ぇよ! まだオレたち食事の片づけも終わってねぇよ!」

 生徒全員で片付けや皿洗いをしている中、茂みの中からイマリーが情けない顔を突き出した。


「よく考えたら。わたしの力は古来種様の影響下にない相手にはききにくい」

「ああ、そういう力なのか」

 言い訳など聞き流すつもりだったが、それはそれで重要な情報である。


 上位種が中位種に対して優位な理由の一つに、イマリーの言うような要素が含まれているのだろう。

 王族の魅力強化カリスマチェーンなども、同じ理由で古来種の影響下にあるのみ発揮されているわけだ。


「心の傷が深い。致命傷。帰って寝て治す」

「致命傷なのに寝て治るって不死身だな」

 あまり役に立たないまま、イマリーは勝手にどっかの女子班のコテージへと入っていった。

 

「働かずに食う寝る遊ぶは楽しいのか……」

 そんな感想を吐き出しつつ役立たずの背を見送るオレに、警備にあたっていた護衛の兵が声をかけてくる。 

「ザルガラ様、少しよろしいでしょうか?」


「ん、なんだ?」


「不審者を見かけましたので、ご報告に上がりました」


 今回の旅行についてきた護衛は、一部オレの領地の予備役兵である。彼はその1人だ。

 旅行の護衛を学園が雇うわけではない。


 もっとも護衛の数と質が高いところは、ユスティティアの護衛たちだ。さすが公女。

 公爵家の騎士と従士が護衛にきている。装備も格式も練度も作法も抜きんでている。 

 アリアンマリのところは、私兵ながら練度が高い。私兵ゆえに装備は個人の持ち出しだが、それでもそこそこの質だ。


 ヴァリエの家は王国騎士団の団長だが、そこの騎士を家族の私用で護衛に使うのは無理だ。いや、例外はあるだろうが、基本無理。


 男爵家の騎士は少ないようで、オレの家と同じように予備役兵と従士を護衛として当てていた。


 学園の行事に際し、雇用も満たす。

 どこの予備役兵も、臨時収入を得られる仕事に満足そうだ。


 貴族でないものたちは、よほどの商家か郷士や金持ちでもないかぎり護衛はいない。

 こういった負担は、持つ者の義務である。


「不審者か。捕まえたのか?」


「いえ……もうしわけありません。声をかけようとしたら、立ち去ってしまいまして」


「別に謝らなくてもいいけどね」

 

 結果的に追い払ったわけだし、もしかしたらまったく関係ない通りすがりかもしれない。

 不逞の輩の偵察という可能性もあるが、だからといってなんでもとっ捕まえさせるのはまずい。

 護衛とはいえ官憲の権限を持っているわけでもないし、地元のポリヘドラ領でもないので強権を発動するなど無理だ。

 不審者がいたという情報を各家の護衛たち共有し、警戒しておくだけでよいだろう。


「で、どんなヤツだったんだ?」


 情報共有のため、不審者の外見を尋ねる。

 すると護衛の兵は、よくべるあたわずという様子で、たどたどしく答えた。


「そ、それがなんといいましょうか、奇妙な者でして……。その、こう髪の毛が真ん中だけ逆立って、側頭部は剃り上げ、服装はトゲといいましょうかなんというか……。手に持った棍棒のようなものはまあわかるのですが……とにかく恰好がみたこともなく……、いくらなんでも野盗としても……、なんといいましょうか妙で……」


「なんだそりゃ!」


「もうしわけありません……」


 説明下手に思わず声を荒らげると、護衛兵は萎縮してしまった。


「なにどうしたの?」

「どうかなさいましたか?」


 オレの声に驚き、皿の片づけを終えたユスティティアとアリアンマリがやってきた。

 ちょうど護衛の要となる精鋭兵の主たちだ。

 彼女たちとも情報を共有しておいたほうがいいだろう。


「ああ、それがな。うちの護衛が不審者を見かけて……」

 かいつまんで説明し、不審者を取り逃がしてしまったことを報告した時、アリアンマリが不機嫌そうに叫んだ。


「なにそれ。そんなのも捕まえられないの? これだから平民は!」

「あん? なんだと? それはうちの兵、ひいてはポリヘドラ家に向けた言葉か?」

 予備役兵といえども、うちの立派な領兵である。

 それを侮辱されて黙っていては、伯爵子息として立場がなくなる。


 オレのふてぶてしい即応に、「しまった」とアリアンマリは子供っぽい仕草で口を押えた。

 だが、もっとも驚いている人物は、なんとユスティティアであった。


「アリアンマリ。あなた、なんて貴人にあるまじきことを」

 取り巻き仲間であり、友人であるアリアンマリの発言に驚き、もっとも怒っているのはオレではなく公女ユスティティアである。

 オレの態度は形だけであり、怒りは演技だった。

 だがユスティティアの言葉は、友人を案じつつ怒気を含んだ諫めである。


「ご、ごめんなさい」


「謝罪する相手が違いましてよ」


「はい! ごめ……じゃない、も、もうしわけありませんでした。ポリヘドラ様。並びにそちらの兵士の方を不愉快にさせた、不適切な発言を取り消し、改め謝罪いたします。誠に……もうしわけありません」


 少しぎこちないが、アリアンマリは素直に膝を少し曲げて姿勢を下げて謝罪した。


「謝罪を受け入れよう。オマエもいいよな?」


「はい。無論にございます」

 オレが受け入れれば、護衛も従うほかない。もっとも彼は仕事のできない平民と、蔑まれたことをそれほど気にしているようすはないようだが。


 しかし驚いたな。

 アリアンマリがちょっと子供っぽいとはいえ、あんな発言をするとは。

 そういうヤツじゃないと思ってたんだが――。


 別に怒ってはいないが、アリアンマリに対し驚きと違和感を抱いたまま片付け終え、その日は早めに就寝した。


プロットのメモを見つけていろいろ思い出し、過去話を弄らないで軌道修正していきます。

そのため今回と次回がちょっと長くなり分割しました。


作中の「四恵」は仏教用語の「三恵」をパクr……参考にしました。

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