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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第1章 天才と怪物

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これを敬い、これを愛しますか?

「この時を待っていたぞ、アァザァナァアアッ!」

 大敵者アーチエネミーを殲滅した今、もうオレたちを邪魔するものはない。

 いい具合に周囲も開けている。廃鉱山も磨り潰して、見通しのいい戦場だ。派手なケンカをするに、ちょうどいい。


「さあ、やるぞ!」

「ザルガラ先輩。どうしてもボクとやるんですね?」

「あったりまえだ。いっしょに極大に増幅した魔法を使ったからって、仲良しになったわけじゃねーぞ、こら!」

 オレの挑発に、アザナは神妙に頷く。


「……わかりました」

 脱ぎ……。

 突如、アザナが服を脱ぎ始めた。


「あ、お、おいちょっと、待て……」

 止めようとするが、声が詰まる。そうこうしているうちに、アザナはズボンを脱いでしまった。

 決定的な場所を見ないためにも、振り返って元凶であろうイシャンに向かって叫んだ。

 

「てめぇっ! イシャン! オマエの変態が、オレのアザナにうつったぞ!」 

 イシャンはオレの後ろで、しっかりとした服をなぜか着て立っていた。

 古臭い宮廷用の儀礼服だ。

 

「え? なんでそんなの着てるの?」

「そりゃ、キミの結婚式に出るのに、いくら私でも全裸はないよ」

「オレの結婚式?」

 イシャンから結婚式という言葉に聞いて、オレは首をひねる


「ボクとザルガラ先輩の結婚式ですよ」

「はぁっ!」(グキッ!)

 背後からアザナの声でいわれ、ひねりながら無理に振り返ったせいで、首を捻って痛めてしまった。

 痛いが、そんなことより驚くべきものを見て、苦痛を忘れる。

 

 そこには純白のウエディングドレスを着た美し――、じゃなかった、綺麗――じゃない、とにかくそういうアザナがいた。

 満面の笑みで青い花のブーケを両手で持ち、小さな身体を嬉しそうに大きく見せる胸を貼ったポーズで。


「ななな、なんで、そんなもの着てんだよ! 脱げよ!」

 首を押さえながら、近寄るアザナの手を払った。


「そんな……せっかく着たのに、もう脱げだなんて……。わかりました。夜まで待てないんですねっ!」

「あ、ごめん。やっぱ着てていいから! 脱ぐなっ! 着てていいから、そのドレス!」

 肩口を抜こうとしたアザナの手首を掴んで止める。

 思わず胸元を覗きこんで、息が止まった。

 まて、こいつは男……のはずだ。

 なぜそこを見ようとする、オレ!


 ちょっと不機嫌に唇を尖らせたアザナが、硬直するオレを見上げた。


「ボクのドレス……似合ってる?」

「ににに、似合ってるわけねーだろ!!」

「そんな……。わかりました、赤いドレスにします」

「あ、ごめん。すげー似合ってるから、それでいいから! うん、すげぇ可愛いからっ! 着替えなくていいから! って、おい! なんでパンツから脱ぐっ!」

 オレは必死に脱ごうとするアザナの腕を掴んで止める。

 なんでドレスなのにパンツから脱ぐんだよ!

 意味わかんねーよっ!

 そしてなんで純白の女物パンツなんだよ!

 ドキッとさせんな!


「えへへー、やっと褒めてくれた。ザルガラ先輩って素直じゃないんだから」

 着替えを止めたアザナは、スカートの裾をちらちらとさせながらパンツを履き直……な、なんでオレの目を見ながら履く!

 オレは目線を逸らす。

 ふわりといい香りが舞い上がった。なんで?

 スカートの裾で、仰がれた香り?

 オレの視線は、アザナの股間へ――。


 はっ!!


 ここっこここここれは、決してスケベ心からではない!

 ツいているのか、確認のためだ!

 ツいてたら大変だからん!


 ――え? 

 ツいてなかったら、どうするつもりなんだ、オレ?


「ありがとう! ザルガラ先輩」

 不意打ちで、アザナがオレに胸に飛び込んできた。

 ふわりといい匂いが、オレの鼻孔をくすぐる。


「おおおおっ?」

 オレの両手が、アザナの両肩付近で彷徨った。

 突き放せ!

 

 脳がそう命令するのに、腕がいう事を聞かず震えている。


「ザルガラせん、ぱい……」

 アザナの顔が近づいてくる。

 アザナの潤んだ目と、柔らかそうな唇が――。


「う、うわぁああっ!!」

 オレは目を閉じて、飛び退いた。





 ゴス……。




 オレの視界に、逆さの世界が広がった。

 

「ここは?」

 ベッドから落ちた状態で、誰へとなく訊ねる。

 ふと視界が暗くなり、オレの顔を上から覗きこむイシャンがあられた。


「うむ、起きたか。ずいぶんとうなされていたね」

「こ、ここは?」

 もう一度、訊ねた。


「ここはカタラン卿のランズマ屋敷だ。キミは大敵者アーチエネミーとの戦いのあと、倒れたんでここに運んできたんだ。もう、あれから丸一日たっている」

「そ、そうだったのか……」

 良かった、夢で――。

 安堵で胸を撫で下ろし、オレは逆さの世界を元に戻した。

 床に座り、ぶつけた頭を擦っていると――。


「ざりゅぎゃらせんぷぁあい……」

 オレの名を変なイントネーションで発音する声が降りかかった。


 な、なんだそのあざとい寝言は?

 立ち上がり振り返る。

 いた。

 あざといアザナが、オレがいままで寝ていたベッドで寝ていた。


「ななな、なんでこいつとオレが一緒に寝てんだよ!」

 アザナを指差す。手が震えてる。


「廃鉱山を壊したあと、なんか、キミが魔法陣を描きだして、抱き付いたアザナくんがそれを次々と解除していくうちに、二人仲良く気絶してしまったんだ。大魔法の後に、あれだけ複雑な胞体陣を描いたり消したりしてたら、そりゃ倒れるな」

「ななな、仲良しじゃねーよ! だ、だいたい一緒のベッドに寝させるってどう」

「ん? 男同士だから別にいいんじゃないか?」

「よくないわーっ! 引き離して、寝かせればいいだろうが!」

 ベッド脇から飛び跳ねて退き、オレはイシャンに食ってかかった。


「うーん、むにゃむにゃ……。おはようございます。ザルガラ先輩」

 ヤバい、危なかった。

 ベッドから飛びでてなかったら、一緒に寝ていたと勘違いされるところだった。


 あ、いや、一緒に寝てたんだが――。


 アザナはきょろきょろと周囲を見回し、唇に指を当てて不思議そうに首をかしげた。


「あれ? ボク、いつの間に寝ちゃったんだろう?」

「お、おう。いつの間にか気を失ったらしいぞ、俺ら。それから、決して一緒に寝てはいない」

「そうなんですか。そういえば転移門ゲート作ったから、疲れちゃってたんだなぁ」

「……よし、上手く誤魔化せた」

「正気か? ザルガラくん」

 誤魔化せてるだろ?

 と、いう目をイシャンに向けると、いまので? と、彼は首をひねった。

 いや、誤魔化せてるだろ?


 ほら、アザナは納得顔だ。


「そうかぁ、ボクと先輩が一緒に寝てたから、ザルガラ先輩とボクが結婚する夢みちゃったんですねぇ」

 アザナが嬉しそうに言った。

 その顔、見ていられない!


「う、うわぁああああーーーっ!!!!」

 オレは堪えきれず、アザナを残して部屋を飛び出した。

 なんで一緒の夢をみるんだよ!



 帰ろう。

 一人で、家に帰ろう……。

 帰る、もう帰る……。



   *   *   *





 ユールテルはエンディアンネス魔法学園の図書室で、蔵書を相手に悪戦苦闘していた。

 相手は魔法書ではない。


「参ったなぁ。司書の手伝いすれば、魔法書読み放題と思ったけど、結構忙しいぞ、これ」

 若いのに肩を叩きながら、ユールテルは蔵書を本棚に戻し、時には間違った位置にある本を取り出してブックワゴンに載せる。

 梯子の上り下りも多い。

 なにしろ二階建てくらいある本棚だ。

 本棚は高さだけでなく、数も幅も多い。


 これを整理するのは一仕事だ。


 ユールテルはキリのいいところで、書庫から出て読書室へ戻った。

 

 読書室には人はあまりいない。もう時間が遅すぎるからだ。

 日は沈みかけている。


 読書室の窓から裏庭をみると、そこには魔胞体陣が浮いていた。小屋ほどの大きさの魔胞体陣。

 それは転移門だ。

 

 鳴り物入りで入学したアザナが、「先輩が心配です!」という理由で作ったカタラン領ランズマまでの片道転移門。

 転移門など、王都に数えるほどしかない。そのほとんどが、太古の支配者たちがつくった遺跡の流用である。

 アザナは一人で、片道とはいえ同等のモノを作ってしまった。


 

 辺境への片道転移門。その恩恵は大きい。

 増援や物資の補給を、短時間で行える。カイラル・カタランは中央が近くなり過ぎ嫌がるかもしれないが、王国側は大きな資産を手に入れた。


「あそこまで……とは言わないけど、僕も早くエッジファセット家に相応しい力を得ないと」

 それには勉強だ。


 早く本を整理して、魔法書を見せてもらう。と、ユールテルは作業に戻った。


「さあ、次はこの新書棚だ」

 新しいインクの匂いが立ち込める書庫に入り、ユールテルは真面目に作業を開始した。


「ん? なんだろ、この古い本」

 目録通りに本を並べていると、一つの不審な本を見つけた。

 この辺りは、最近書かれた本が並んでいるはずだ。誰かが適当に置いて行ったらしい。


「まったく。こういうので時間がとられちゃうんだよ」

 この古い本のタイトルと目録を照らし合わせ、振り分けてある番号と合っていれば本棚に戻す。間違っていれば、目録と番号の合う本を探し出す。そしてこの本の正体を探って、また目録を整理しなくてはいけない。

 目録の整理は手伝い係のユールテルには無理なので、その辺は司書に任せる。しかし、照合はユールテルの仕事だ。


「まあ、こういうので変わった本の発見とか、蔵書の位置とかわかるから、役得もあるんだけどね」

 古い本に手を伸ばす。すると勝手に本が本棚から飛び出した。


「うわ! 大変だ!」

 傷でもついたら大事だ。古い本なので、それどころかページがバラバラになって元に戻すのに一苦労になる。

 バラっと本が開いて、あるページが晒された。

 

 そこには――。


『古来種の魔胞体陣再現法』


 と、いう文字。そのには見たこともない魔胞体陣が描かれていた。


古来種(カルテジアン……」

 それは魔法を人類に与えた古い支配者たち。伝説にある存在だ。

 存在を確認されてない伝説上の人々ではあるが、およそ人が作れぬ魔胞体陣で、さまざまな恩恵を未だに人類へ与えている。そのことから、古来種は太古の支配者であり優れた魔胞体陣を描ける、なんらかの種族と学会では位置付けられていた。

 

「偽物? でも……」

 仮に本が偽物であっても、魔胞体陣は本物だろう。

 なにしろ、その魔胞体陣は――

 

 本の上に投影され、輝きながらクルクルと回っているのだから。


 あとは魔力を注ぐだけで発動する。素体ゾムの魔胞体陣。


「まさか、そんな……。で、でも、これが……これがあれば……」

 ザルガラの強引な魔胞体陣。アザナの美しい魔胞体陣。そのどちらとも違う、誰も知らない魔胞体陣。

 目が離せない。

 ユールテルの心が奪われる。


 知識を独り占めできる――。


 ユールテルはこれを運命だと思いこみ、魔胞体陣を投影する本に手を伸ばした。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] イシャンが 「廃鉱山を壊したあと、なんか、キミが魔法陣を描きだして、抱き付いたアザナくんがそれを次々と解除していくうちに、…」 って言ってますけど前話の終わりから考えるとアザナが合体魔…
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