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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第8章 楽園の破壊者

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楽園の住人たち

新章開始!


 

 よく晴れた昼下がり。山がちな果樹園とふもとに農園を背景にして、ペランドーと武装した男が戦っていた。


 けん制の撃ち合いが続いており、武装した大柄な男の接近を嫌うペランドーは、終始消極的な動きを見せている。


 オレはワナナチョコを食べながら、平面陣を日傘にして友人の雄姿を観戦する。

 右隣では上位精霊であるイフリータのタルピーがひらひらと応援の踊りを披露し、左ではアザナがワナナチョコを3本ほど持って観戦している。さらにその隣には、やはりワナナチョコを食べるフモセがいる。


 オレたち、好きだなぁ、ワナナチョコ。

 目の前で戦いが繰り広げられているが、いたって平和だ。


 ディータはいない。

 置いてきた。

 今頃、親子水入らずだろう。

 安全のため、オレがいないときは城から出られないが、まあたまにはそれも悪くないはずだ。

 

 アザナがワナナチョコを一本食べ終えたとき、状況が動いた。

 

 戦いの最中にペランドーが仕込んでおいた魔法が発動する。

 兵士にとっては前触れもなく霧が立ち込めたように思えただろう。

 素早く広がり、深く濃い霧だ。

 すぐさまオレとアザナは、見透しの魔法を使って観戦を続けるが、武装した男はそのような術を持っていない。


「こざかしい真似をっ!」

 

 霧に包まれた大柄な男は、慌てず新式手帳を手早く開いた。

 

 雨や霧の中に胞体陣どころか平面陣すら貼ることは難しいが、手帳や魔具などに前もって刻まれているならばその限りではない。彼の選択は正解だ。


 新式手帳に魔力を注ぎ込み魔法を発動させる。気温を調整し、さらに風を作りだす。

 

「あーあ……。一手どころか、二手もつかっちまったか」

「これはペランドー先輩の勝ちですね」

 勝負あった、と意見がアザナと一致した。

 

 大柄な男が手帳を使ったことは間違いではない。

 ただ対策は最善ではなかった。


「霧の発生方法がわからなかったから、確実性を選んだってことか」

「魔法的な霧なら風くらいじゃ、ビクともしないんですけどねぇ……」

「かと言って、魔法解除は高度だし間違いとも指摘できないな」

「ザルガラ先輩ってこういう時は、好意的に解釈しますよね」

「相手を見くびらないといってほしい」

「相手には見境がないのに」


「……褒め言葉だと思っておくよ」

「もちろん皮肉ですよ」


「褒め言葉だよな」

「皮肉ですよ」

「褒」「皮肉ですよ」


 アザナめ。言葉をかぶせてきやがった。

 

 不毛な会話をするオレたちをわき目に、ペランドーたちの戦いは続いていた。


 二手を使わされた大柄の男は右前方に、ペランドーのモノゴーレムが現れる。視界を奪われている男からすれば、急にペランドーが近づいたように思えただろう。

 

 急造のモノゴーレムは、剣の一撃であっさりと崩れ去った。もともとおとり用ということで、構造を簡素にしていたせいもあって脆いのだろう。

 2手も無駄な魔法を使った上に、攻撃を繰り出した男は今、非常に防御が手薄になっていた。

 その隙を突き、ペランドーが魔力弾を撃ちだした。

 しかも男の背後を狙って。


 意識外から攻撃を受けて、男は膝から崩れ落ちた。


 常に防御胞体陣を張っているオレでも、意識を向けている側の防御が厚くなり、意識を向けていない側の防御が薄くなる。

 これは人間である以上、仕方ないことだ。


 ペランドーや対戦相手あたりの実力だと、そのわずかな差が決定的な勝敗の差となってしまった。

 

「やったー、勝ったよっ!」


 倒れた男をそのままに、ペランドーが駆け寄ってきた。 


「よくやった、ペランドー」

「ザルガラ先輩は負けるほうに賭けましたけどね」


 素直に称賛したら、アザナが事実無根なことを言いだした。


「ちょ……、アザナッ! なに言ってるんだよ! オマエがいきなり賭けましょうと言ってきて、承諾するまえにペランドーが勝つほうに賭けただけじゃねぇか! 賭けてないから無効だ、無効!」


 実際、オレはペランドーが負ける方とも相手が勝つとも言ってない。そもそも賭けを承諾していない。

 

「わかってるよ、ザルガラくん」

「おう、さすが心の友よ!」


 両手を広げてオレが喜ぶと、ペランドーはふいっとそっぽを向いて、アザナの後ろに控えるフモセに問いかける。


「で、フモセさん。実のところどうなんですか?」

「賭けはアザナ様が一方的に申し出ただけなので、成立していません」


 振り返って微笑むペランドー。 


「信じてたよ、ザルガラくん」

「ほらなっ! でも一回は確認するんかっ!」


 どこかで疑っていたのか、念のためなのか、この野郎……確認しやがった。

 ペランドーの態度に不満を持っているオレの後ろでは、アザナがフモセを問い詰める。 


「なんで本当のこといっちゃうのさ?」

「不正はいけませんよ、アザナ様」

「せっかく、ワナナチョコをおごってもらうつもりだったのに。フモセの分も」

「…………ぐ」

 たかがワナナチョコで言葉に詰まるな、フモセ。

 オマエたちワナナチョコ好きすぎるだろ。


「ワナナチョコでしたら、当方がおごりますよ」


 ぴょこん、とウサギの耳を立て、小柄な女性がオレたちの前に現れた。

 彼女の後ろには先ほどまでペランドーと戦っていた大柄な男が、兜を脱いで不満げな表情をみせている。 


「本日は我が校の生徒の要望に付き合っていただき、ありがとうございました」

「こちらこそ、場所を提供してもらってありがとうございます」


 外向きの対応でウサギ耳の女性に礼を返す。

 ウサギ耳の女性は、ワナナバニ園の責任者である。名はパルキアといい、幼い容姿という見た目に反してまあまあ大人の女性だ。


 施設の長ながら、その恰好は作業着姿と質素だ。

 自らワナナの手入れや収穫、ウサギの飼育などをする現場主義のためだろう。


「……でなおしてまいります」

 大柄な男は悔しそうに頭を下げたが、出直すということは諦めていないということだ。

 オレの従者になるということを。


 実は彼、ワナナバニ園に併設された私学の生徒である。

 ワナナバニ園は貴族たちが融資して創られたレオナルド学園の附属施設で、管理の一部は生徒たちにゆだねられている。

 エンディアンネス魔法学園が魔法全般を教えているのに対し、レオナルド学園は農業に関係した魔法に力を入れている。


 農業とは実に強い力だ。

 自然を捻じ曲げ、環境を変える魔法を教えていると言い換えれば度合いがわかるだろう。


 その分、エンディアンネス魔法学園より応用性も低いのだが、そこの生徒である彼がオレの従士に志願してきた。

 半分旅行気分とはいえ、学園の研修できているのにいい迷惑だ。


 さて、なんでオレごときに従士志願がやってくるかというと、陛下より拝命した役職のせいである。

 有名無実の影門を守る役職とはいえ、立派な城勤めである。

 永代役職は約束されており、貴族として独立したも同然で、あとは手続きを踏んで挨拶周りをし家を興せば、簡単に新興貴族を名乗れる立場だ。

 そうなると従士や侍女に雇ってくれと、売り込み攻勢が激しくなる。


 ……と、いっても以前の悪名が響いて穏やかだが、それでもたまに売り込みがきていた。

 父のもとにそれとなく通達や挨拶があるくらいならいいが、直接オレに申し込んでくる者もいた。

 今回の男は、かなり失礼な直接売り込みだった。


「それでは失礼します!」

 見くびっていたペランドーに、武装していたのに負けてしまい、プライドが傷つけられたのか。

 男は涙目で背を向け、足早に広場から去っていった。

 

「あ、あの、もうしわけありません。またご連絡いたしますね」

 そう言い残し、ウサミミを揺らしてパルキアは生徒を追いかけていった。


 居たたまれない2人を見送り、ペランドーがポツリとつぶやく。


「悪いことしちゃったかなぁ……。ねえ、ザルガラくん。試用で雇っても良かったんじゃない?」

「ほとんどオマエのせいだろうがっ!」

 泣かした犯人であるペランドーの頭を脇に抱えて振り回す。


「理不尽だよっ! わー、放して放してっ!」

「この決闘モドキは、従士にしてくれって迫ってきたアイツに『ザルガラくんの従士になるなら、ぼくより強くないといけないですよね』とか、オマエが余計なこと言ったからだろ! オマエなどこうして…………って、なんでオレが振り回されてるの?」


 振り回す予定が、途中から抵抗するペランドーの背に乗るかたちで、オレの方が浮足になっている。


 なるほど、体重差か。加えて親の手伝いと小物造りくらいとはいえ、鍛冶をやってるし筋力もある。

 対してオレはせいぜい体つくりの運動くらいだ。

 くるくると2人で回っていると、アザナが急に飛びついてきた。 



「…………ボクも混ざる! たーーーっ!」

「あっ、アザ、やめ」

「わーっ……ぐえ!」


 バランスを崩れ、オレとアザナがペランドーを押しつぶす。

 下敷きになって潰れたペランドーの声がヤバそうなので、首に抱き着く背のアザナをそのままにして身を起こす。 

 軽い。


「急に危ないだろうが、アザナ!」

 どんなに軽くても、回っている最中に勢いよく飛び込まれたら潰れて当然だ。


「えへへ、ごめーん」

 謝っているが、背中のアザナはまだ退く様子はない。


「さ、最初に手を出してきたのはザルガラくんだけどね」

 減らず口を叩きながら、ペランドーが立ち上がる。体勢を立て直すためつく手は、減らず口を叩くヤツの頭にした。


「むぎゅ」

 立つ勢いで肩だけ上がり、亀みたいにペランドーの首が沈む。実際に首が引っ込んだわけじゃない。

 無駄な肉があるからそう見えるだけだ。


 などとじゃれていたら、広場に小柄な少女アリアンマリが騒がしくやってきた。


「アザナ様ーっ! 終わったならウサギを見に行きましょう……げっ、なにやってんのーっ!」

 うわ、なんか小さいのがまた来た。

 広場に姿を現した小さいアリアンマリが、アザナに抱き着きオレから引き離す。

 

「やあ、リアンマ。ねえ、みんなはどうしたの?」

 ユスティティアとヴァリエの姿が見えないので、アザナが2人について尋ねる。


「あ、そうそう。2人は引率のモルティ教頭先生を植物園で探しているの。アザナくんは見なかった?」

 どうやらアリアンマリたちは、モルティ教頭とはぐれてしまったらしい。


「なんだ、迷子かアリアンマリ。あの教頭のことだ。大方、そこらのウサギか猫に懸想でもしてるんだろうよ」

「引率のモルティ教頭先生見なかった?」

 アリアンマリは一字一句違わぬ言葉を、アザナに向けて繰り返す。

 オレには聞いてないよアピールか。

 いいだろう……さっきのは独り言だ。

 オマエに答えたわけじゃない。


『つよがり?』

 タルピーが一言グサりと言ってくれたが、 


 ワナナバニ園はワナナを育てる植物園エリアと、ウサギを育てる飼育園エリアに分かれている。

 公爵姫ユスティティアとヴァリエは、教頭先生を植物園の方へ探しにいったとアリアンマリは説明した。


「というわけで、あたしはアザナ様に連絡するついでに、先生を探しながらこっちへきたの。アザナくん。モルティ教頭先生を探しにいこう」

「オマエ、さっきアザナにウサギを見にいこうって言ってたじゃん」

「アザナくん。モルティ教頭先生を探しにいこう」

「オマエ、さっきアザナにウサギを見にいこうって言ってたじゃん」

「モルティ教頭先生を探しにいこう」

「ウサギを見にいこうって言った」

「先生を探」

「ウサギ見」

「探」

「見」


 突っ込むオレと無視するアリアンマリを、静かに探見たんけんするアザナとペランドー。

 そろそろ止めてほしい、とオレは傍観する二人をチラ見する。


「じゃあボクたちは、飼育園エリアを探しに行こう。いいですよね、ザルガラ先輩」

 アザナがやっと割って入ってくれた。


「ああ、そうだな。引率の先生がいないんじゃ困……」

「さあいこう、アザナくん!」

 さもオレなどいないという態度で、アリアンマリはアザナの手を引っ張る。


 コイツ、流れとはいえ古来種の支配から助けてやったというのに、なんていう態度だ。

 ま、どうせ素直になれないから、突っ張ってるだけだろう。子供だから仕方ない。


 アリアンマリを先頭にし、オレたちは引率のモルティ教頭を探しに飼育園へ向かった。


 大型の建物内に作られている植物園に対し、飼育園はいくつか建物が点在する広い屋外だ。


 放牧されたポニーや羊の姿が遠くに見える。のびのび草を食べ、気ままに走り回っていた。

 しかし目立つのはバニ園……バニー園というだけあってウサギだ。

 とにかくウサギが多い。


 飼育園エリアにはウサギたちが、あちこちにあふれていた。

 世話をしている職員にも、兎人がいる。

 各所、ウサギ耳だらけだ。 


「わー、かわいいー」

「こっちの子、ふわふわ長毛のウサギさんだ」

 ウサギの魅力に負けたアリアンマリとアザナが、早くも教頭探しという目的を見失った。

 足元にやってきたウサギを抱えあげ、もぐもぐ草を食べる顔を間近で観察している。


 ……まあ、たしかに可愛い。


 オレもそれとなく近くのウサギに手を伸ばしたら――立った。


 ウサギが立った。

 そして片手をあげて……


「やあ、クラテスさんだよ」


 と、人の言葉をしゃべった。


「うわ、びっくりした! しれっと混じるな、首狩り!」

 このウサギ、よく観察すれば見おぼえがあった。

 柔らかいようで硬い毛並み、円らなようで茫漠とした瞳。コイツは【黒と霧の城】のモンスターズサロンにいたウサギだ。

 よく見なければ、普通のウサギと見分けがつかないから怖いぞ!


「贈り物としてウサギを送り付けて、一匹だけ首狩りウサギを混ぜるとか、暗殺手段が使えそうだね」

「オマエの発想も怖いぞ、ペランドー」

「ひ……」


 笑顔でいうな、本気で怖い!

 フモセがガチで引いてるぞ。 

 オレとフモセが首狩りウサギとペランドーにビビっていたら、アリアンマリが飼育園を区切る金網の向こうに何かを見つけた。


「ねえあれ、モルティ教頭先生じゃない?」

 金網の向こうに立つ人影を指差して、未だウサギと戯れるアザナの袖を引っ張った。


「え、なに? リアンマ? ど、どれ?」

「ほら、あのウサギを二匹、肩に乗せた人」

「ほんとだ……でもあんなぼーっとした顔してたか?」


 アザナとアリアンマリが、モルティ教頭を呼ぼうとするが、いまいち自信がないのか声をあげられないでいた。

 後ろ姿はモルティ教頭に似ているが、その服装は飼育員の作業着だ。

 

「も、モルティ……先生?」

 遠慮がちにアザナが呼ぶと、作業着の男性はゆっくりと振り返った。

 その手には竪琴がある。

 

「モルティ…………教頭だよな?」

 たぶんモルティだ。

 顔を見てもまだ確信できない。

 作業着の男は穏やかだが、気が抜けきった様子で、自信に溢れた精悍なモルティ教頭の姿と重ならない。


 だが顔は確かにモルティ教頭だ。


「せ、せんせーい、一緒に帰ろうーっ!」

 アリアンマリが確信を抱けないまま声をかけると、彼は無言で竪琴を掻き鳴らし始めた。

 まるでオレたちを見送る意味で、奏でているかのようだった。


「お、おい、これ校歌じゃねぇか?」

「校歌ってあったんだ、うちの学園」

 覚えておけよ、ペランドー。

 卒業して10年経って、過去に戻ったオレでも覚えてるぞ。

 なんでそんなの覚えてんだ、オレ。

 どんだけ学園好きなのオレ?


「せ、先生! 一緒に学園に帰ろうっ!」

 なぜかアザナが嬉しそうに、モルティ教頭へ向かって叫んだ。

 このままじゃ帰れないぞ、オレたち。


「ど、どうしよう、ザルガラくん!」

 ペランドーがオレを頼る。

 引率責任者がアレでは困るが、オレに振られても困るなぁ~。


「とりあえず歌ってみようか?」

「歌詞、ボク、知りませんよ」

「あったの?」

「出だしだけでしたら……」


 衝撃の事実――。

 校歌を歌えるヤツ、オレ1人だった。



今回、勘違いネタがあったはずなのですが、全部忘れた……。


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