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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
間章

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224/373

素数の殺人 後編


 ペランドーはソフィとともに、師匠シャーラダの店へ向かった。

 昼は閑散としていて、夜は繁華街となる区画にシャーラダの店はある。

 本来であれば子供2人で訪れるような区画ではないが、ペランドーはすでにここの住民たちに受け入れられていた。


 日がまだ高いこともあり、あいさつを交わし微笑ましく見守られながら、2人はシャーラダ宅にたどり着いた。

 3階建ての石造りの店舗兼住宅である。しかし、すべてがシャーラダの家というわけではない。

 3階のフロアをすべて借り、街士の店舗と自宅としている。

 

 1階は街士とは全く関係のない、きらきらと派手な女性服を売る専門店だ。


 ソフィは眉をひそめて一階の店舗を横目に、店舗脇の入り口から入って、狭い折り返し階段を上る。


 2階は住宅で、3世帯ほど入っているようだ。

 静かに3階まで登り、街士の看板を掲げるドアの前に立つ。


「こんにちはーっ!」

 元気よくペランドーがドアをノックすると、けたたましく何かを落としたり倒したりするような音が部屋の中から鳴り響いた。


「うわぁっ! がっ…………、あいたたたっ! ……な、なんだ。ペランドーか」

 声からペランドーとわかったのだろう。当初は慌てていた様子だったが、落ち着いてドアを開けてきた。


 中から姿を現した街士は、なぜか鍋を被っていた。

 どこか神経質そうな癖毛の男だ。

 鍋のせいもあり、ソフィの抱いた第一印象はあまりよくない。


「初めまして、シャーラダさん。わたくしはソフィ・カルフリガウと申します。ご多忙のところ、ご連絡もなく訪れてもうしわけありません」


「え? ああ、カルフリガウさんのところの……」

 思わぬ同行者に、シャーラダは2回びっくりしてみせた。

 ペランドーが女の子を連れていると、名士の娘が来たという2つだ。


「ところで師匠、なんですか、その恰好?」

 師匠が鍋を被っているのが気になるのだろう。失礼なことに、弟子は師匠の頭を指差して尋ねる。


「あ、ああ。これ? うちには兜とかないからさぁ……」

 兜代わりに被っていたようだ。

 しかし理由が分からない。

 首を捻るソフィに代わり、ペランドーが尋ねる。


「なんで兜なんです?」


「実はグワリオルのヤツが襲われて、大けがをしたんだよ」

「え!?」

 遺産相続者の一人が襲われたと聞いて、ソフィは予感が当たってしまったと目を見開いた。


「俺もブラーフに……、いや彼と決まったわけではないが襲われるかもしれん…………。今日は休業だ。ここなら安全だからね」

 できる限り防御結界を張っているのだろう。

 彼は実力が近いもの同士なら、拠点のある側が有利と判断している。

 間違いではないが、万全とはいいがたい。金銭的に、社会的に、生活的に、商売的に、いつまで閉じこもれるか、という問題もある。

 

「とにかく、ここにいたら君たちも巻き込まれるかもしれない。さ、ささ、お嬢さんも帰ったほうがいい」

 シャーラダは本心から心配してくれているようだ。

 名士の娘を巻き込んだら面倒だ、という気持ちもあるだろうが、主に弟子とその友人が巻き込まれるのを嫌がっている。

 

「そ、そうですか。じゃあ師匠。あとで差し入れ持ってきますね」

「そうか。ありがとう。だが、気を使わなくても平気だ。さあ、いきなさい」


 鍋とテーブルの足で武装するシャーラダを置いて、ペランドーたちはグワリオルが手当てを受けている治療院へと向かった。


   *   *   *


 昼を過ぎたころ、2人は隣りの区画の治療院にたどりついた。

 中層でも比較的暮らしが豊かな住宅街の一角で、落ち着いた雰囲気の治療院である。


「ブラーフのヤツがやりやがったんだ! あの野郎! 生前分与でクリスタルを1個しか貰えなかったからって…………あいててて」

 ソフィが挨拶をする前に、治療用の胞体と包帯で素顔が見えなくなっているグワリオルが叫んだ。直後、苦痛で顔と骨折している胸を押さえる。


「いてててて……」

「治療中に騒ぐから、まったく」

 立ち去りかけた治療士に怒られ、グワリオルは少しだけ大人しくなった。

 いや怒られたからではなく、痛みから大人しくなったのかもしれない。

 この治療院は閑静な住宅街の緑多い場所であり、グワリオルの騒ぎ声は目立つ。


「落ち着かれましたか? 初めまして」

 静かになってくれて良かった、とソフィは顔には出さず、落ち着きを取り戻したグワリオルに挨拶をした。


「ああ、君が……カルフリガウさんの……」

 まだ痛みが引いていないのか、ソフィの挨拶への反応が鈍い。


「あの、グワリオルさん。襲われたって話ですが、本当にブラーフさんなんですか?」

 苦痛が収まったところを見計らい、ペランドーが先ほどの発言について尋ねた。


「そうだ。あの野郎! 強面こわおもての癖に小心なやつだ。他人に頼んで襲わせるなんて……」

「他人? 襲ってきたのは別人なんですか?」

「ああ。だが頼んだのはヤツに違いないっ!」

 決めつけて叫んだせいで激痛が走り、またグワリオルはベッドの上で丸まる。


「ちくしょう……。担当区画はこんなところになるし、俺の男前な顔をこんなにしやがって……」

 グワリオル氏はいまでこそ怪我でこんな姿だが、なかなかの好男子である。

 ペランドーはそのことを知っているので、同情する反応を見せた。

 ソフィにとって顔やスタイルなどどうでもいいので、「なにを自惚れて」という感想を抱いた。


「とにかく、これは遺産を独り占めにしようとするついでに、俺を亡きものにしようとするブラーフの仕業だ」

 彼の中では、犯人はブラーフになっているらしい。


「本当にブラーフさんなのですか?」

 ソフィの疑問に、グワリオルは当然と笑った。そして痛がった。


「ああ! あいたたた……。シャーラダの可能性はないな。あいつは俺には逆らえないからな!」


 ペランドーの師匠を侮るような言い方だ。

 醜い言葉を聞いたと、ソフィは顔をしかめた。


「安静にしなさい!」

 苦痛でのたうちまわるグワリオルに、たまりかねて戻ってきた治療士が鎮静の魔法をかけた。

 あっという間に寝息を立てる包帯男。


「とりあえず本当にブラーフさんが犯人なのか、確かめよう」

 静かになった病室で、ペランドーが襲撃者の家に行ってみようと言いだした。


 その顔は、ブラーフが犯人と思っていないようだった。


   *   *   *


「私が犯人だと言っているのかっ! あの女誑おんなたらしは!」


 ブラーフという人物は、街士という街の顔ともいえる仕事をする職のわりに、乱暴そうな男だった。


 彼の担当する区画は川港付近である。

 たくましい男たちの区画には、彼のような人物は似合っていた。


「ちくしょう! 巡回兵が聴取にくるし、私はこんな水臭い場所を任されることになるし! こんなところは陰気なシャーラダの方がお似合いだっていうのに!」

 シャーラダの弟子がいるのもお構いなしに、ブラーフは悪口を叫んだ。


「とにかく私はなにもやってない! ペランドー! 君からもそう伝えてくれ! グワリオルのヤツに! あとシャーラダにもな!」

「ええ……」

 さすがのペランドーもうんざりといった様子だ。


 しかしソフィの目から見て、彼が襲撃の犯人とは思えなかった。

 なにより荒事が得意そうで、自ら襲いかかりそうな人物だったからだ。


 それからブラーフは喚くだけで、聞き取りも相談もできなかった。


 彼の仕事時間もあるので、ペランドーたちは言われるがままに引き下がるほかなかった。


   *   *   *


「参ったわね。ねえ、ペランドー。もしかして師匠さんたちって、仲が悪いの?」

「うん、実はそうなんだ」


 鉄音通りの孤児院に併設された小さなカフェレストランで、2人の子供は師匠たちから事情を聴き終え肩を大きく落としていた。

 孤児院にカフェレストランとは妙な話だが、元傭兵であるベルンハルトの料理が近所で評判なため、仮営業ながら開業した経緯がある。

 門に近い外壁際のわずかなスペースで、客席の大部分は露天だが、昼時には満席になるほど人気だ。


 料理修行をする孤児たちや、給仕で小遣いを稼ぐ孤児もおり、図らずも孤児院の多角経営の一つを占めていた。

 なおベルンハルトのミニスカートは、当然ながら評判が悪いため、彼は表に出てこない。


「あの街士の3人方の話かい?」

 2人の話が耳に入ったのか、厨房からのっそりと大男が顔を出した。

 その表に出てこないベルンハルトだ。当然、評判の悪いミニスカート姿である。

 

 幸いアイドルタイムということもあり、客はペランドーたち2人しかいない。


 身を強張らせたソフィだったが、多少は慣れているのでなんとか悲鳴は抑えた。


「ベルンハルトさんも知ってるの?」

 慣れたもので、ペランドーはごく普通にベルンハルトに尋ねた。


「うむ。街士といえば仕事を頼むことも多いからな。傭兵としても、料理人としてもだ。昔話ならペランドーより詳しいぞ」

「ちょっと詳しく聞かせて頂いてもよろしいですか?」

 

 相続解決のため、どんな情報でも欲しいとソフィは勇気を振り出して訊いてみた。 


「うーん、程度こそあれ悪い話ばかりを言うとなぁ……」


「できればわかる限り正確に教えて頂けますか?」

「む~……。そうはいうがな」

「父に話をして判断を仰ぎたいことなので」

「まあ、お嬢さんがそこまでいうなら」

 ソフィの懇願に、元傭兵の英雄も折れた。


「あの3人は何かと仲が悪く、金銭トラブルや女性問題とかあったな。ブラーフは余計な仕事に手を出して失敗し、今回亡くなった師匠……ツーツクワンクさんに補填してもらったことがあったはずだ。ツーツクワンクさんは怒ってたなぁ。それにペランドーの師匠であるシャーラダも……まあ、弟子の前で言うのもなんだが、反対を押し切ってツーツクワンクさんの娘さんを嫁に貰って……あれ? 彼女、そういえばどうなったんだ?」


「別居してますね」

「…………そうか」

 色恋沙汰に興味なし、というペランドーの乾いた返事に、ベルハルトも口ごもる。


「そ、そういえばその娘さんをグワリオルと取り合ったって話もあったな。そのグワリオルに至っては、ツーツクワンクの奥さんに手を出して……おっと、子供の前で言うのもなんだな」

 子供の前でミニスカのおっさんが何を言う。と子供たちは思ったが、何も言わなかった。


「よく遺産を残す気になりましたね、そのツーツクワンクというお師匠さん……。ああ、だからこんなイジワルな遺言を残したのですね」

 納得がいった、とソフィの顔が明るくなる。

 他人ごととはいえ、イジワルに気が付いて笑顔になる女の子はいかがなものかと、ベルンハルトは思ったが何も言わなかった。


「そうなると、仲良く相談して遺産の分配を調整するとかできそうにもありませんね。うまくわける方法がないものか…………」


「ん? ソフィ、ちょっと待って。条件通り分ける方法ならあるけど」


 こともなさげに言いのけるペランドー。


「え? じゃ、じゃあなんで相談を? それが分からないから相談を持ち込んだのでは?」

 

 解決法に困って相談を持ち込んだと思っていたソフィは、明るくなった顔を再び曇らせた。

 

「それはその……。ぼくは解決策が分かったけど、解決させるための物を持ってないし……なにより弟子がでしゃばったら悪いかなぁって……」


 言い訳に続き、ペランドーは解決策を説明した。

 無理のある遺言の条件で、いかにソーアジェナ・クリスタルの分配するかを聞いて、ソフィは肩の荷を下ろしたように背中を椅子に預けた。


「はあ、そういうことですの。確かにペランドーが弟子の立場でその解決策を申し出るのは、ちょっと考えるべきところがありますね」

 相談とは、ソフィの父ヨハンの手と名を借りる意味だった。


 そういうことならば仕方ないと、丸一日振り回されたソフィは軽い溜息をついた。

 

「つまり知恵は出すから、当初の予定どおりわたしの父の権威を借りたいわけですね?」

「うん。あとそれと…………」


   *   *   *


「タカトーリキッ!」

 

 ペランドーがソフィに相談した日から3日後のカルフリガウ邸の応接間。

 

 遺産相続で揉める3人の街士が集まる中、郷士ヨハン・カルフリガウが謎の掛け声とともに腕を振った。

 

 ヨハンのその奇行は、足を広げて腰を落とし低く構え、そこから一気に高く遠い位置を狙って平手打ちを繰り出すようなものであった。

 

 これには娘のソフィも露骨に険しい顔である。

 一方、ペランドーは奇行の平手打ちを喰らわないように部屋の隅へと移動した。


「ふむ。この方法で粘土を張り付けると、像が膝から崩れ落ちるかのような様相に………………。いや、すまない。いま新しい制作方法を閃いてね。素振りをしたくなってしまった」


 素振りが必要な彫像制作法とは?

 この場にいた誰もが思ったが、それを問いかけると面倒になりそうなので誰も口に出さなかった。


「さて、ここに皆さま方に集まった頂いたのはほかでもない。故ツーツクワンク街士殿の遺産相続についてですが…………、ここに来ていただけたということは、私の協力の申し出を訊いていただけるということですか?」


「ええ……」

「カルフリガウさんの協力なら……」

「解決するなら……」


 地域一帯の名士であるカルフリガウの呼び出しに、地域密着の街士が応じないわけにはいかない。

 消極的同意というものである。


「でも、この犯罪者がなんでいる?」

 すっかり怪我も治ったグワリオルだが、容疑者がいては納得できないとブラーフを指差して立ち上がった。


「グワリオルくん。君を襲撃したものは巡回兵に捕まった。尋問と調査の結果、ブラーフくんにまったく疑うべきところなかった。これ以上、それを追及するならば、私の協力がないだけでなく、今後のことも考えることになるだろう」

 事実と脅しが混じった名士の言葉に、グワリオルもブラーフを睨みながら仕方ないと席についた。


 ヨハンは咳払いをして見計らい、改めて遺産相続の話に戻った。


「では、私の提案する解決法ですが…………。ええっと、なんだったかな? ペランドーくん」


「ぼ、ぼくにふらないでください」

 ペランドーは慌てふためいて、短外套の影から師匠たちに見えないようハンドサインを送る。


「おー、あー、そうそう。そうだった。実は私、みなさんが持っていて、今回相続されるソーアジェナ・クリスタルとまったく同じものを、1個だけですが持ち合わせてましてね」

 

 そういって懐からソーアジェナ・クリスタルを取り出して見せた。

 手の平収まる大きさで、キラキラと光る直立したクリスタルだ。時間で変わる色の変化具合も、テーブルの上に並ぶ11個の遺産と全く同じものであった。


「これは以前、鉄音通りにいた街士の持ち物でした。彼はツーツクワンク街士殿の弟弟子でして、内容まで同じクリスタルを持っていたわけです」

 手にしたクリスタルに目を落とし、何かを払う仕草を見せるヨハン。


「亡くなったときの遺品整理で私が引き取り、彼の家族の負債を手助けした際の物なのですが……。いずれ、ペランドーくんが鉄音通りの街士になったとき、お祝いに渡そうと思っていたものです」

 埃をかぶって、倉庫のどこにあるかわからなくなっていたけど。と、ソフィは口に出さない。


「さて。それでは解決法ですが」

 ヨハンはそう言って3人の座る椅子の傍までいき、横のテーブルに並ぶクリスタルの横に、手持ちのクリスタルを置いた。


「故ツーツクワンク氏に、私のクリスタルを1個、貸す」

 この宣言を聞いて、3人の弟子たちは顔色を変えた。

 それはなんで気が付かなかったんだ、という顔だった。


 3人は仲が悪いばかりに、解決策を見出そうとせず、互いに敵視だけしていた。

 猜疑心ゆえに、思考が鈍っていたのだ。


「これで12個。グワリオル氏が12個の2分の1なので6個。シャーラダ氏が4分の1なので3個。ブラ―フ氏が6分の1なので2。合計11個。余りが1個。そしてオレが貸した1個は、分け終わった時点で返してもらう」

 説明を織り交ぜ、ヨハンが手ずからクリスタルを3人に渡し、最後の一つを手に取って懐にしまった。


「はい、キレイの分けられた。これの方法でご不満はありませんかな?」


「まあ、わけられるなら……」

「なんで気が付かなかったんだ……」

「なんか俺の埃ついてんだけど……」

 3人は各々の理由で、釈然としない様子で遺産を受け取って、互いの顔を見合った。

 

   *   *   *


「そんな面白いことがあったのかぁ」


 オレは学園でランチを取りながら、ペランドーの話を聞いて残念だと声を上げた。


「ごめんね、ザルガラくん。相談したかったけど、忙しそうだったし」

 

「まあ、オレは確かに忙しかったし、ソーアジェナ・クリスタルを持ってないから、その(・・)解決法で協力するわけにいかなかったがな」

 溜息を吐きだした代わりに、食後の甘い物を味わう。

 アザナがアイデアを出したというミルフィーユケーキだが、これはスプーンで食べるのか、それともフォークなのかわからない逸品だ。

 うまい。


「………………? その(・・)解決方法? もしかして、別の方法もあるの?」

 スプーンを咥えるオレの顔を凝視して、ペランドーが発言の中に疑問を見つけて言った。


「計算方法は同じだけどな。協力者なんていらない方法さ」

 食後のお茶に手を伸ばし、スプーンで顔の横の中空をかき混ぜて説明する。


「街士についてそんなに詳しくないが、街士って開業するとき、ソーアジェナ・クリスタルを生前贈与されるんだろ? つまり同じ物を3人はすでに何個か持っているはずだ。どうなんだ? ペランドー」


「うん、持ってるよ。生前贈与分はブラーフさんは1個、ぼくの師匠は2個。グワリオルさんは知らないけど、いくつか持ってるはず」

「じゃあ、誰か1人がそのうちの1個を出して、同じように貸して返してもらえば同じことじゃねぇか?」


「あっ! ああっ!」

 その手があったか、とペランドーは膝を打った。


「でも、みんな仲が悪くて、そんなことしそうにないよ」

「だろうな」

 困り顔なペランドーの発言に、お茶を飲みつつ同意する。


「ツーツクワンクっていう死んだ師匠さんも、それをわかってこんな遺言を残したのかもな」

「それって……」


「ああ。その遺言は殺人教唆でもあり、ただの嫌がらせでもあり、そして仲直りしろよ、って意味まで複雑に込められた、なんとも割り切れない素数みたいな遺言さ」


「……殺人教唆?」

 不穏な単語にペランドーが眉をひそめた。

 

「殺せとは書いてはないがね。ツーツクワンクって師匠とも仲が悪かったり、トラブルがあったりしたんだろ。下手すりゃソフィが心配した通り、殺人事件も起きかねない遺言だ。でも……まあ人間、そう簡単には割り切れないもんさ」

 そう、素数みたいに。


 オレは目を閉じて思いを馳せる。

 ツーツクワンクという人物は、いったいどういう気持ちで遺言を書いたのだろうか?

 きっと割り切れない気持ちであふれていだのだろう。


 だがオレの推測する通りならば面白いヤツだ。

 殺させたかったが、割り切れない。イジワルしたいが割り切れない。仲直りさせたいが割り切れない。

 まるで素数だ。


 だが、誰もが持つ割り切れない人間の心を逆手にとり、殺しなど起きないと信じて遺言を用意したようにも思える。

 しかし、気にくわない弟子たちに、仕返しのようなイジワルのスパイスは入れたかった。

 でも、可愛い弟子たちが、仲直りする要素も組み込んだ。


 もしかしたら、弟子たちが3人ともクリスタルを持ち合って、解決させるような遺言も書きたかったのかもしれない。

 2分の1、3分の1、6分の1という足して「1」となる配分ならば、協力者無しで持ち合う解となる。

 だがこの場合、遺産のクリスタルも弟子のクリスタルも、相応に多くないとできない。

 世知辛い。


 それに協力者無しで解決する答えの場合、3人の頭を押さえる存在がなくなる。

 今回の件で協力者ヨハンは3人の街士に恩を売り、ただでさえ名士という立場がある上で、さらに彼らの活動に掣肘できる立場となった。

 こういった社会的重石を、彼らにつける意味も遺言にはあったのだろう。


 いや、でも協力者無しなら無しで、仲直りの手しかないわけだから……いや、それだと遺産相続の時だけ、形だけ協力をする関係になるか。


 はあ、なんとも割り切れないなぁ…………。


 そうか。

 ツーツクワンクは仕方なく1人の弟子が1個のクリスタルを貸し出し、解決できる妥協案のような問題を書いたか。

 

 これも割り切れないなぁ。


 とにかく、まったくもってわからないツーツクワンクという人物像。

 生きているうちに、会ってみたかったものだ。

 しかし亡くなってしまった。

 だからもう分からない。


 それこそ素数のように。

たくさんの解答ありがとうございました。

正解に賞品などありませんでしたが、参加していただけてうれしい限りです。


解説をいれると更新が1万文字越えするのでカット。感想でみなさんがわかりやすい解答をされているので、ご覧になってください。(怠慢)

ヒントは「通分すれば」と書くと、ほとんど答えなのでヒントの出し方に困りました……。


ザルガラの提案した解決法は、たった一行のヒントしかないというア○サ級ヒント。いえ彼女の作品は丸々一冊分の中の一行なのでさらに難解ですが。


ヨハンのタカトーリキ!挿絵入れたかった…………。

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