身に覚えのない親友
昨夜(8/27)、11時にも更新しています。
読み飛ばしにご注意ください。ご迷惑をお掛けします。
「それで【影門】の守り手を任されたんですね」
王城が閉路回路に包まれ、謎の巨人が現れ、ディータ姫の帰還が公にされてから3日後。
いろいろ手続きやら終わって、やっと学園に登校できたオレは、放課後にアザナやペランドーたちへ事情を説明した。
「そうそう。そんなわけで王城の仕事を任されたってわけ」
隠れて見えない門ということで、影の門。
いざというとき、王族が逃げるための隠された裏門である。
そこを守るということは、王からもっとも信頼された守り手ということなのだが……。
「でも、そこってもう動いてないんだよね?」
ペランドーが不思議そうに聞いてきた。
「ああ。古来種が造った【門】であるわけだが、壊れて動かない。だから、守り手は有名無実の役職ってわけ。空いてた役職をオレに与えて、城内にオレとディータを住まわせたかっただけさ、あの王様はよ」
「これはもう『ザルガラ門』ですね! 将来は地下鉄にザルガラ線とか名前がついちゃいますね! ザルガラ線パイ!」
閉路回路で王城を封じて逃げた犯人――ではなくなってしまい、まったく事情を知らない上に無関係となったアザナが意味不明なことを言う。
チカテツってなんだろう。
「だーはっはっはっはっ! すげーな、ザル! お前、その歳で城勤めか!」
「は、はははー、そうだな。すげーだろ?」
同級生の3回生とは思えない巨体のチャールポール・コブ・ダグラスが、りりしく整った顔を崩して笑いオレの背中を叩く。
困ったオレは、笑って話を合わせたが、落ち着かないので話をペランドーに振る。
「あ、そうだ。おい、ペランドー」
「え、な、なーに」
「オマエ、アンドレの奴にいろいろアドバイスしてたりしたんだって?」
「あ…………」
バレてた、と驚くペランドー。
いや知ったのは、アンドレの父ゴールドスケールジット侯爵から聞いたからなんだが。
ペランドーのヤツ、あのアンドレに魔法を使った効率的な立ち回りを教えていたのだ。
アンドレが才能あふれていようと、オレ相手では力が足りない。圧倒的に足りない。
ペランドーの実力がアンドレより下であっても、オレの癖や得意な戦い方を知っている。彼はそれを教えてやったのだ。
さらにオレの行動を先に教えて準備をさせておいたり、居場所を教えてやったりしていたという。
たまーに逃げられたりするのは、ペランドーが原因だった。
友達の裏切りといえば裏切り。
だが、それはペランドーなりの執り成しであり、善意の指導だったのだろう。
オレの仲間が協力していたという事実で、アンドレを友達の遊びに取り込んだと、侯爵には解釈されたわけだ。
まあ実際、オレも遊んでいるようなもんだし、間違いでもない。
「はん、まあいいや。オマエのアドバイスがなかったら、アンドレなんてチョロいもチョロい雑魚だからな。ちっとは歯ごたえができて、よかったぜ」
「うん、ザルガラくんならそういうと思ったよ!」
「か、勘違いすんなよ! オマエが裏切ったくらいじゃ動じないってだけだかんな!」
「うん、そうだね」
「う、裏切ったんだぞ、オマエ!」
「うん、ごめんね!」
この……本当にわかってんのか、ペランドー。
「がーっはっはっ! これが女の裏切りだったら、それもそれで興奮するところなんだがなー」
「は、はははっ! な、なーにいってんだよオマエー」
またダグラスがなれなれしくオレの肩を叩く。
またまた困ったオレが、話を振る相手をどうしようかと悩んでいたら、ちょっと離れたところで話を聞いていたヨーヨーがやって来た。
「なぜですか! ザルガラ様!」
歳に不釣り合いなほど育った女性的肉体で、ヨーヨーがオレに詰め寄ってくる。
「そんな、ザルガラ様! どうしてそんなご用命を受けたのですか! そんな役職を受けたら、婚約がご破算してしまうかも!」
「オレとしてはご破算したほうがいいんだが、まあ確かにこの横やりはカタラン伯にとっても業腹だよな」
ヨーヨーにとっては婚約が確定らしい。話が上がってるだけで婚約もなにもないぞ、オレたち。
ただし王のやったことは、辺境伯であるカタランへのひどい横槍であることは確かだ。
カタランがオレの家へ、婚約の話を持ち込んでいるのは有名な話だ。知らないはずがない。
そのオレに王城内の役職を与えるということは、婚約の話も王家を通せというも同然だ。
明確な邪魔ではないが、掣肘と取られても仕方ない行為である。
解釈の次第で、独立国家も同然の辺境伯。その相手への王家による横やりだ。
両者に確執が生まれ、政治的混乱さえ起きかねないことなんだが――――。
しかし、さすがヨーヨーの懸念は違った。
「せっかく、夜の妄想の中で、ザルガラ様との間に2人の子をもうけたのに!」
妄想の邪魔をされたとお怒りだった、この変態は。
「上の子はもう婚約も決まって、手取り足取り教えてあげてる最中だったの!」
何十年先を妄想してんだ、この変態は。
「進んでるな、妄想が……」
オレのツッコミがさえない。
妄想の先走りが、時代を先取りしすぎてる、この変態は。
「わたしたちが結ばれなかったら、その2人はどうなってしまうんですか! 生まれてこないことになるんですよ!」
「そんな予定も運命もねーよ!」
「ああっ! アンジュー! ズシーオ! 2人はいずこ!」
「名前つけてんのかよ……」
ヨーヨーはこの世に無い子を探し、教室からフラフラと出ていってしまった。
「山椒太夫……だっけ?」
呆然と見送るアザナが、ぽつりとまた不可解なことを言った。
サンショーダユー?
…………そういえばそんな演目が、古来種由来の劇にあったような気がする。見たことないけど。
ヨーヨーが立ち去ると、コブ・ダグラスがまた巨体でオレの肩を叩いて笑う。
「なーんだ、ザルっち。もう子供を仕込んでやがったのか? さすが手が早いなー、がーはっはっははっ!」
「いや、そうじゃねぇって、アイツの妄想だっての」
「がーっはっは、そうか妄想かー。オレもエロい妄想大好きだぜー」
「そ、そうかー。ははははー」
「そうだ、あったりまえぞ、俺たち男の子だぞ」
「ははは……そ、そうだなぁ……。あはははー……」
まったくなんだよ、コイツ!
誰なんだよ、チャールポール・コブ・ダグラス!
いや、覚えてるよ。珍しいほどデカい身体の学生で、クラスにいたことは覚えてる。
だが前回の人生では、コイツとの接点が全くなかった。
会話したことあるかもしれないが、記憶にないくらいどうでもいい学校の連絡事項とかそんなのだ。
それなのに、なんで友人ヅラしてるんだよ!
閉路回路の弊害か!
「そうだよな、同じ秘密を持つ友達だもんな。がーっはっはっ」
「そ、そうだな。はははー」
チャールポールがオレの肩を抱いてきて、オレの知らない秘密を仄めかす。なんのことかわらかない。
閉路回路はいったい何をした!
あとなんかアザナの目が怖い!
「ザルガラ先輩……秘密って……」
「おーっと、アザナちゃんも秘密を知りたいか? ん~? 気になるかぁ、だーっはっはっはっ!」
「笑わないでください!」
「おっと、すまんな、だーっはっはーっ!」
「おいおい、笑うなってアザナは言って……」
「おう、そうだったな! がーっはっははっー!! でも秘密のことを思い出すとどうしても笑ってしまうだろ?」
「え? ああ、そ、そうだな。は……はははははー」
そろそろ笑って話を合わせるのも限界だ!
誰か、こいつとオレがどういう関係なのか、教えてくれーーーーっ!!
少しうやむやですが、7章終了です。
次回! 文化祭! の短編です。
この世界の文化って、我ながら不安…………。
そろそろ8章では世界の確信と革新をテーマに迫りたいと思ってます。
解説回を没ったり、解説シーンを没ったりしてるうちにこの作品での時間と次元が、説明不足となってしまいました。反省。
とはいえ次の章までの短編に織り込む予定なので、少々お待ちください。
更新遅れたお詫びに、スナック感覚で読める短編を投稿いたしました。下のタイトルのリンクよりお読みください!




