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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第1章 天才と怪物
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はじめての共同作業

「いやぁ、久々に良い汗をかいたわい。がははははっ!」

 げんなりするオレの背に、暑苦しい笑い声が降りかかった。

 今振り返ると、たぶん出しっぱなしのカイラルご自身が見えるので見ない。


「カタラン卿。お元気になられたようで」

 イシャンが毛布に包まったまま、元気のない挨拶で元気ですねとか言った。

 カイラルは嬉しそうに、その挨拶を受ける。


「いやぁ、イシャンくん。キミの健康法、素晴らしいな!」

「健康法かいっ!」

 見るつもりはなかったが、思わず裏拳ツッコミをいれてしまった。


「あれ? パンツ履いてるんだ」

 さっきまで履いてなかった。出しっぱなしだった。

 どうやら羞恥を憶えたらしい。よかった。

 たとえブーメランパンツ一丁でも、人類の尊厳を取り戻してる。


「うむ。考えたら、ここには筋肉がないからな。見せる必要がない」

「訊くんじゃなかった……」

 遅すぎた、筋肉になってやがる。


「しかし、なんだ。彼奴らの目的がこの卵と考えると、惨いことしたと思う。彼奴らは子を取り戻しにきただけだ。黙って引き渡しても、良かったのかもしれぬ」

 あれだけ全裸で暴れても、やはりどこか老いてるのか?

 そんなカイラルに、オレは言い訳の余裕ができる情報を与える。


「アイツらは雑食性だ。食い物がなくなれば、人間だって食う。それどころか貯めこむ。もしかしたら、この街でも何人かすでに、捕獲されてるだろうな。行方不明とか増えてなかったか?」

「なるほど。そういえばそうだったな。そうか……そうだったのか」

 カイラルは深いため息をついた。


「彼奴らは生きるためと子孫を残すため、こうして行動しているのか」

 全裸の兵隊に蹴散らされる、子供思いの虫の軍団。

 ひどい光景だ。

 人間ってのは、ひどいな。

 特に全裸。


「戦争はいい。敵ならば倒せばいいからな。降伏してくれば戦争を止めればいい。殺し合いなのにルールがある。命を賭けた酷いゲームだ。自分がゲームの駒となって、自分が自分でなくなる。だが、生存競争は見ていても気分が悪くなる」

「……? よくわからん」

「どちらかの腹が満ちるか、最終的に生き残る側が安心するまで、殺し合わねばならん。自然の前だと、ワシは一人の人間になってしまう。ゲームのコマであり、コマのまま死にたいワシにとって……、自然とは憎ましいものだ」

 ありきたりな人間ならば、自然を神聖化したり、尊重をするものだ。傲慢な者は矮小化してみる。

 カイラルは傲慢な部類だろう。しかし少し歪んでいる。


「めちゃくちゃな理論が好きなんだな。意外だぜ」

「なに。好きな戦争を正当化しようとするうちに、歪んでしまっただけだろう」

 オレは屈んでクククッと笑う。そんな非礼をカイタルは諌めない。


「報告します!」

 全裸の伝令がカイラルに駆け寄った。

 そろそろ服着てくんねーかな。


「廃坑内部への侵入隊から連絡。敵の母体と思われる大型個体と、大量の卵と兵を発見! 一時、現場の判断で撤退をしました!」

「うむ、よい判断だ」

 カイラルがマントを纏う。よかった。

 かっこつけだろうが、少し裸分が減った。


「そうか。彼奴らは廃坑を巣にしていたのか」

「カタラン卿。見回りとかしてなかったの? 管理は?」

「無茶をいうな。危険すぎるから放棄したのだ。調べてこいと誰が言える」

「まあ、そりゃそうだわな」

 無駄な質問だった。


「報告! 報告!」

 新たな全裸伝令がやってきた。

 そろそろ裸で人の区別がつきそうだ。


「敵、母体が地上付近まで進撃しているのを確認!!」

「なんだと!」

 カイラルの目が、歓喜と困惑に染まる。


 敵の強さが分からない。新たな増援。如何に全裸で強く? なっているとしても、魔力は無限ではない。

 そろそろ兵の疲労も貯まり、魔力も枯渇しているだろう。


 そんな状況の中、母体と思われる、巨大な虫の主。その姿が廃坑入り口付近に現れた。


 赤く、巨大なその姿。


 それを見てカイラルの筋肉が震えた。

 来る敵に呼応しようと、カイラルが拳を握りしめる。

 しかし、それは無駄となった。


『t5. m4t5.』

 母体の発した雑音で、大敵者アーチエネミーの動きが変わる。

 女王アリのような個体の指示で、大敵者アーチエネミーたちが一斉に攻撃を止め、被害を受けるのも構わず退却を始めた。


「……敵が、退く?」

 武官の誰かが呟く。


「退くか。やっと……そうか、退くか」

 良かった。カイラルはそんな顔で、騒乱の収まりつつ戦場を眺めた。


「カタラン卿。オレって結構頑張ったよな。褒美を一つ、願い出ていいかい?」

 高揚とも安堵ともつかぬと雰囲気の中、空気の読めないオレはシタッと手を上げて、褒美をねだってみた。


「む? この場でか? う、……むぅ、言ってみるがいい」

「そこの廃坑。一つ、潰してもいいか?」

「なっ!」

 カイラルだけではない。周囲にいる全員が困惑していた。


「へっくしょい」

 イシャンだけはくしゃみをしていた。


 カイラルが震える声で、オレに問う。 


「彼奴らを殲滅する気か?」

「世の中には二種類の人間がいる。怖い怖いと言いながら眠るヤツと、怖い怖いと言いながら眠れないヤツだ。オレは後者でね」

「そうか――」

 カイラルの目はオレを理解してくれている。

 ヤツらを殲滅せねば、オレが安心できない理由があると想像してくれている。

 近い未来、アザナが傷つけるアイツらが怖い。

 殲滅しなくては、安心して寝れない。

 確かにアザナには情報を与えてある。といって、必ずアザナが無事とは限らない。何かの間違いだってある。

 オレはヤツの実力を信じているが、だからその力を利用して自滅させる魔法の存在を許せない。

 怖い。


 だから、雑音魔法を根絶やしにする。


「あんなヤツらが地面の下をうろついてるなんて、想像したら眠れないんだよ」

「そうか……。よほどの理由が……。いや、聞くまい。よかろう。廃坑一つ、貴様にくれてやる。まったく、業突く張りだな! おぬしは!」

「なぁに。オレも好きなケンカを正当化しようとしてるうちに、歪んだだけだ」

「ふははは。お互い業の深いモノを好きになると苦労するのう」

「そうだな……」

 パンツ一丁の筋肉が、数少ない理解者とは。


 オレは自嘲しながら、廃坑へと一人向かった。


   *   *   *


 闇に紛れ、廃坑入口前に立つ。

 大敵者アーチエネミーたちは、逃げるとなると整然としている。オレの存在に気が付いても、上位者の命令は絶対で撤退を優先していた。

 オレを素通りして、廃坑内へと退却していく。


 ざむざ、ざむざと、むざむざした撤退だ。

 

「統制が取れすぎる上に、自我と自己判断ができないってのは悲しいな」

 すべての大敵者たちが廃坑に入ったのを確認してから、オレは最高の魔胞体陣を宙に投影する。


 正120胞体陣。

 今のオレが、寿命を削らず作れる最大の魔胞体陣だ。

 複雑なホイールのような胞体が組み合わさった魔胞体陣。


 人間の目で見える範囲で、目に付くものを選んで言えば――。

 外部に上向きの5角形と下向きの5角形と、それを囲む10角形が10個。それらを結ぶ辺で、3つの変形した5角形。内部には正12面体があり、さきほどの外部と辺でつながって中央に位置している。


 まあ、なんだかわからんだろうが、網籠の中に網で縛られてつられている12面体の箱が入っていると思えばいい。


 正120胞体陣の中に、正24胞体陣を描く。この正24胞体陣は無効化魔法に使用する。


 無効化魔法ならば、雑音魔法の暴走効果を打ち消せる。


 正5胞体くらいなら早く描けるが、それくらいじゃ、雑音魔法を防げない。せめて正24胞体陣で無効化魔法を用意しなくてはいけない。


「く、間に合わないか?」

 廃坑内部に設置した魔法陣が、大敵者の退却が進むことを知らせてきた。


 このままでは間に合わない。

 焦る。

 逸る。

 そして崩れる。

 内部に投影した魔胞体陣が、魔力を帯びすぎて膨らんだ。

 

「やべっ! オレとしたことが!」

 焦り、投影を失敗したとき――。


 ありえない速度で、オレの胞体陣の中に正24胞体陣が描かれていく。それだけではない。正16胞体陣も、正8胞体陣も描かれてる。

 まるで光の球だ。すべての魔法陣が干渉し合い、一つの光球だ。


 オレこの光球に見覚えがあった。

 月だ。

 2つある空の月。

 互いにつり合い、1か月間のダンスを踊る月。その一つ。


 その赤い月の光とそっくりだ。


「ザルガラ先輩!」

 茫然と光球を見ていると、アイツの声が後ろからかかった。

 胞体陣を保持したまま振り返ると、魔力を放出するアザナが駆けってくる。

 そうか。

 やっぱりこの胞体陣に内包投影したのは、アザナか!


「アザナ! どうやってここに!」

「え? 転移門ゲートを作って――」

「簡単にいうな! ていうか、簡単にそんなモンを作るな! つか、なんできた!」

「だ、だってザルガラ先輩が、一人で凄い敵と戦ってるって聞いて……。ほら、ボクがいなかったら暴走してましたよ! 今のっ! 危なかったっ!」

 暴走しかけたのは事実だ。言い返せない。

 しかし、もう一つは違う。

 

「一人じゃねーよ。カイラルの兵もいたよ! 全裸だったけど!」

「え? ザ、ザルガラ先輩も? ぬ、脱いでた……の?」 

「脱いでねーよ! なんで顔を赤らめる!」

 ヤバい、オレも赤くなってるかも。

 目を背ける。

 アザナが覗きこんでくる。

 目を背ける。

 しつこくアザナが覗きこんでくる。

 なんで、手を後ろで組んで腰を突きだし、顔だけ視界に入ってくる仕草をする!

 あざといな! アザナ、アザトイ!


「しゅ、集中しろ! 胞体陣がく、崩れる!」

 顔を覗かれると困る。オレは複雑な胞体陣に保持しろと命令した。

 アザナは素直に頷き、嬉しそうに5つの胞体陣に魔力を送る。


「あ、そうそう、すごい! すごいです! ザルガラ先輩! ボク一人じゃ、正120胞体に3つしか内部投影できないけど、ザルガラ先輩の作った胞体なら、するすると投影できる!」

「だ、だからなんだ!」

「ボクたち、相性がいいかもしれません!」

「っ!」


 そこでなぜ、小さく両拳をギュッと握りしめ、胸元に引き寄せる?

 エア逆上がりでもすんのか? そのポーズ。

 あれ? こ、こいつこんなに肩幅狭かったか?

 手、小さくないか?

 マツゲ長くね? 多くね?

 なんか、いい香り――。


「さあ、敵がなにかわかりませんが! 一発、ドカンとやりましょう! ザルガラ先輩!」

「敵を知らんのかい! うわぁ……大敵者アーチエネミー可哀想……」

 アザナの残酷な一言で、現実へと引き戻された。


 赤い月に似た光を放つ胞体陣に、魔力を全力で注ぎこむ。さすが、オレとアザナの作った魔胞体陣だ。

 するすると大魔力を受け入れていく。


「いくぞ、合わせろ! アザナ!」

「はい、先輩!」

 オレとアザナが、一緒に力を合わせたのって初めてだ。

 ああ、こんなのも悪くない――か?


 あれ?

 いつのまにオレ、アザナと手をつないだ?



 ――ま、いっか。

 今は魔法の発動に集中だ。

 悪い気もしないしな。


 そう思うオレの前で、鉱山が崩れていく。

 だが、それだけじゃ済まさない。

 崩れるだけじゃ、芸がない。

 アザナと力を合わせて、それだけじゃ面白くない。


 オレとアザナは、単純だが最大限強化した魔法を鉱山に向けて放った。


「「『裏切れ大地!』」」

 

 轟音!

 崩れる轟音と、大地が裏切って空に昇る轟音!

 音が合わさるだけではない。

 土が、砂が、石が、大敵者たちが、鉱山が――。


 凶悪な魔力によって、上下から磨り潰された。


 こうしてこの日、二人の魔法使いによって、カタラン領ランズマから一つの廃鉱山が消え去った。




   *   *   *




「やめろ、手を離せ! くっつくなっ!」

「今度、一緒にもっと凄い合体魔法をやってみましょう! ザルガラ先輩となら、ボクできます!」

「嫌だ!」

「合体魔法! すごいと思います!」

「嫌だ!」

「合体しましょう!」

「略すなっ!」

「合体っ! 合体っ! がったーーいっ!」

「繰り返すなぁああああーーーーーっ!!!!」




リアル女王アリは子供産むだけで指示とか支配とかしてませんけどね

中心とはなってますが。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 14話でザルガラの 『残念ながら今のオレでも、死ぬ気で振り絞ってやっと同等の正600胞体ヘクサコシコロンを立体投影するのが限界だ。』 っていうとこから正120胞体陣は使えないように考え…
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